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お知らせ(事件報告・提言)

兵庫医療問題研究会の声明(加古川市民病院事件に関するインターネット・ブログの言論について)

兵庫医療問題研究会は、2009年4月24日、神戸地方裁判所2007(平成19)年4月10日判決(加古川市民病院事件)に関するインターネットブログ上の言論について、同判決及び医療の安全につき公正な議論がなされることを求める声明を発表しました。


目次: 兵庫医療問題研究会 声明(概要) / 声 明


兵庫医療問題研究会 声明(概要)

2009(平成21)年4月24日声明(概要)PDF版はこちら第1 声明の趣旨

兵庫医療問題研究会は、2007(平成19)年4月10日、神戸地方裁判所においてなされた加古川市民病院における医療過誤事件に関する判決について、複数のインターネットブログ上で、匿名の人々(医師を名乗る人々も含まれる)が、判決においては認定されていない事実、さらには訴訟において医療側が主張したこともない事実を、あたかも真実であるかのように記載して、それを前提に妥当とはいえない判決批判が繰り返されていることに鑑み、そのような手法で医療の安全について偏った議論がなされていることを明らかにすると共に、上記医療過誤事件判決及び医療の安全について、公正な議論がなされることを求めます。
第2 声明の理由(概要)

  1. 当研究会の所属弁護士担当事件
    加古川市民病院事件判決(神戸地裁平成19年4月10日判決、確定)は、当研究会に相談依頼があり、所属弁護士2名が遺族から依頼を受けて裁判を担当したものです。
  2. 事案発症後短時間で受診した急性心筋梗塞の64歳男性患者について、休日昼間の当直医の転送義務違反が争われたケースで、2003(平成15)年3月30日(日曜日)に発生した事例です。
    急性心筋梗塞に対する治療設備を持たない加古川市民病院で、当直医が患者の心電図、自覚症状から急性心筋梗塞発症を診断しながら、血管拡張剤の点滴をしたのみで、70分間放置し、70分後に転送要請を行いました。
    転送要請から25分後受け入れ先病院から、受け入れ可能の連絡をもらい、その15分後、転送の救急隊が到着した時点で、患者の容態が急変、そのまま死亡しました。
    当直医が、転送要請までに時間を要した理由は、血液検査の結果が出なければ周囲の病院が転送を受け入れてくれない慣行があるから、とのことでしたが、裁判所による調査嘱託の結果、周囲の病院はこれを否定しました。
  3. 判決神戸地裁6民は、当直医の転送義務違反をみとめ、患者の死因は心筋梗塞に起因する心室細動であり、早期に転送を行っていれば救命可能性があったとして、遺族らの請求全額を認容しました。被告は控訴せず確定しました。 本判決の詳しい内容及び経過は、声明の1頁から6頁に記載したとおりです。
  4. インターネット上での匿名言論問題はその後です。
    この判決については、直後に新聞報道がなされましたが、その直後から複数のインターネットブログ(医師と称する匿名者が作成)でこの判決に対する批判が相次ぎました。
    問題なのは、それらのブログにおいて、判決に認定されておらず、当直医も証言していない「事実」を勝手に加え、それに基づき批判をしている事です。
    ブログでは、「当直医は、70分間の間に5つの周辺病院に転送要請を行ったが次々に断られた。そこでもう一度2回目の転送要請をかけたところ、1件目に受け入れを了承してもらった。転送準備をしているところで急変した。」と、判決も認定せず、当直医も証言していない「事実」を確たる内部情報として記載し、「医師として全力を尽くしているのに、これで転送義務違反と認められるなら、救急などやっていられない。」というような批判を繰り返しています。
    また、「医師の搬送が遅れたら、患者や弁護士はおいしいと考える。なんら医学的な論争をせず、結果責任で裁判に勝てるのだから。これは、法律のすき間を縫った合法的な錬金術です。」などと、患者や患者側弁護士への不当な批判もなされています。
  5. 当研究会の考え現在、救急医療体制が大きな問題を抱えていること、それに携わる医師、とくに病院勤務医師の負担が過重になっていることは、私たちも認識しています。
    しかし、その問題は医療過誤訴訟で救急医療に携わる医師の責任が認められたから生じたわけではなく、行政の問題、医療側の問題、患者側の問題等が複雑に絡みあうなかで生じていることを冷静に見ていくべきものです。
    必要なとき、安心して受診できる救急医療、医師がやりがいをもち、かつ誠実に診療にあたることのできる環境下での救急医療の実現は、いつなんどき救急医療を必要とするようになるかもしれない市民にとっての強い願いです。
    それは医療事故被害者や、私たち代理人弁護士も例外ではありません。
    むしろ、医療事故被害者は、自らが医療事故に遭遇したからこそ、自らの経験を礎にしてでも、安全でよりよい医療が実現されることを真摯に願っています。
    医療事故被害者の声を聞き、医療事故に学び、よりよい医療を目指す方法が制度化されるべきであり、既にそれを実践してきた医療機関も決して少なくありません。
    その意味で、本当によりよい医療のためや、安全な医療を求めていくためには、過誤事案を真摯に検証することこそ、重要なことだと考えます。 医療事故被害者や、私たち代理人弁護士も、医療はそもそも危険な面を伴うものであることは理解しています。結果が悪ければ何でも責任を問うものではありません。医療記録を分析するなどして、医療側に落ち度のあった疑いが拭えない場合や、合理的な説明を受けられない場合など、ほとんどの場合最後の手段として裁判に真実究明の場を求めているのです。
    インターネット上の判決批判について、当研究会も法律家の団体としてインターネットにおける自由闊達な言論は民主主義社会の健全な発展のためにも尊重する必要があると考えています。
    しかし、それはあくまで真実に基づいたものでなければならないと考えます。判決も認定せず担当医も証言していない事実を、具体的な裏付けや情報の入手経路も明らかにしないまま、あたかも真実と主張し、それに基づいて非難中傷と言われても仕方のない表現態様で匿名の言論を不特定多数に向かって発信することは、言論の自由の範囲を逸脱して患者・家族等の名誉や人格権を侵害する可能性さえあり、大切な言論の自由の自殺になりかねません。
    成熟した言論の自由とは何か、今少し冷静に考える必要があるのではないでしょうか。 当研究会は、本件判決に対する不当な批判は、決して医療体制をよくすることにつながるものではなく、むしろ医療側と患者側の対立を激化させ、医療の安全に向けての発展的な議論を阻害するおそれがあるものと考え、あえて本声明を公にするものです。

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声 明

2009(平成21)年4月24日
兵庫医療問題研究会声明PDF版はこちら

第1 声明の趣旨

兵庫医療問題研究会は、2007(平成19)年4月10日、神戸地方裁判所においてなされた加古川市民病院における医療過誤事件に関する判決について、複数のインターネットブログ上で、匿名の人々(医師を名乗る人々も含まれる)が、判決においては認定されていない事実、さらには訴訟において医療側が主張したこともない事実を、あたかも真実であるかのように記載して、それを前提に、妥当とはいえない判決批判が繰り返されていることに鑑み、そのような手法で医療の安全について偏った議論がなされていることを明らかにすると共に、上記医療過誤事件判決及び医療の安全について、公正な議論がなされることを求めます。

第2 声明の理由

  1. はじめに
  2. 本件判決の要旨
  3. 本件判決に至る経緯
  4. 判決に対するブログ上での批判
  5. 私たちの考え方
  6. おわりに

以上

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