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お知らせ(事件報告・提言)

医療事故調査制度に関する通知に対する意見書

平成27年5月8日,医療事故調査制度に関して,医政発0508第1号「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」との通知が発せられました。 公正で社会に信頼される医療事故調査制度の構築のため,厚労省において,必要かつ適切な通知を発出されることを改めて求めて,上記通知に対する意見書を厚生労働大臣等に提出しました。


平成27年5月8日医政発0508第1号「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」に対する意見書

平成27(2015)年8月4日

厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿
厚生労働省医政局長 二川 一男 殿医 療 問 題 弁 護 団 
代 表  弁 護 士   鈴  木  利  廣
(事務局)東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506 福地・野田法律事務所内
電話 03-5698-8544 FAX 03-5698-7512
HP http://www.iryo-bengo.com/

当弁護団は,東京を中心とする約250名の弁護士を団員に擁し,医療事故被害者の救済,医療事故の再発防止のための諸活動を行うことを通じて,患者の権利を確立し,かつ安全で良質な医療を実現することを目的とする団体である。

医療事故調査制度については,平成25年5月29日「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」が公表され,これに基づき平成26年6月18日に医療法が改正され制度が創設されることとなった。その後,医療事故調査制度の施行に係る検討会が開催され,同検討会のとりまとめとして,平成27年3月20日「医療事故調査制度の施行に係る検討について」が公表された。このとりまとめを踏まえた医療法施行規則改正案が厚労省より示され,パブリックコメントの募集が行われた。医療法施行規則は,一部の字句修正の後,同年5月8日に制定された。

同日,医政発0508第1号「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」との通知が発せられた。同通知は上記検討会のとりまとめに基づくものである。

当弁護団は,上記医療法施行規則改正案に対し,平成27年4月21日,「医療法施行規則の一部を改正する省令案に関する意見書」を提出した。同意見書において,医療事故調査制度の施行に係る検討会では,一部の委員が医療者の責任追及がなされないようにすることばかり求めて,院内調査並びにセンターでの調査及び業務に対し制限を加えることを求め続けた結果,真摯に院内調査に取り組もうとする医療機関にとって指針となるガイドラインは何ら策定されず,できあがった医療法施行規則も通知も本制度の施行のために適切なものというには程遠いものとなったことを指摘した。

本意見書は,平成27年4月21日の意見書の趣旨を踏まえて,上記通知に対し当弁護団の意見を述べ,検討会で行われた誤った議論の結果を正し,公正で社会に信頼される医療事故調査制度の構築のため,厚労省において,必要かつ適切な通知を発出されることを改めて求めるものである。

本意見書で使用する略称

略称略称が指すもの
本制度平成27年10月より施行される医療事故調査制度
本制度を定めた改正医療法
規則本制度を定めた改正医療法施行規則
通知平成27年5月8日医政発0508第1号「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」
(別添)通知の別添資料
「基本的なあり方」平成25年5月29日 医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方
検討会医療事故調査制度の施行に係る検討会
検討会とりまとめ平成27年3月20日「医療事故調査制度の施行に係る検討について」
センター医療事故調査・支援センター
モデル事業診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業

● (別添)2頁 「医療に起因する(疑いを含む)」死亡又は死産の考え方「医療」(下記に示したもの)に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産(①)
①に含まれない死亡又は死産(②)
※2 ①、②への該当性は、疾患や医療機関における医療提供体制の特性・専門性によって異なる。〈意見の趣旨〉

※2の文中の「や医療機関における医療提供体制の特性・専門性」を削除する。〈意見の理由〉

本制度は,医療事故の原因を究明し再発防止を図る制度である。かかる目的からすると,広く医療事故が報告・調査の対象とされ再発防止に活かされなければならない。「医療事故」の報告範囲を狭くする解釈は,適切なものに限られなければならない。

かかる観点から※2の注意書きを見ると,医療機関における医療提供体制の特性・専門性は,当該医療機関においてどのような内容のどの程度の医療を提供できたかを判断する一要素であり,原因究明,当該医療の医学的評価及び再発防止策の策定にあたって検討されるべき事項である。医療提供体制の特性・専門性の違いによって「医療に起因する」か否かがゆらぐものではないし,医療事故調査において検討すべき事項が,調査開始段階である報告時点でスクリーニング機能を果たすようでは,本来調査の対象とされるべき医療事故が調査を経ないまま対象から外れることになり,不適切である。

したがって,※2の「や医療機関における医療提供体制の特性・専門性」との文言は,削除すべきである。● (別添)3頁 1.医療事故の定義について ○当該死亡または死産を予期しなかったもの規則1条の10の2第1項法第六条の十第一項に規定する厚生労働省令で定める死亡又は死産は、次の各号のいずれにも該当しないと管理者が認めたものとする。
一 (略)
二 (略)
三 病院等の管理者が、当該医療を提供した医療従事者等からの事情の聴取及び第一条の十一第一項第二号の委員会からの意見の聴取(当該委員会を開催している場合に限る。)を行つた上で、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産を予期していたと認めたもの〈意見の趣旨〉

規則1条の10の2第1項3号に該当する具体例を通知に例示する。〈意見の理由〉

規則1条の10の2第1項3号について,いかなる場合が同号に該当するか明確でない。本制度が医療事故の原因を究明し再発防止を図る制度であることからすると,広く医療事故が報告され調査の対象とされなければならず,本号に該当するものとして報告がされない事態は好ましくない。したがって,本号に該当する具体例を通知に例示すべきである。本号に該当する具体例としては,緊急手術などの必要があり,事前に説明することができなかった場合,同じ療法を繰り返す場合に最初に説明はされたが,繰り返して行う際に説明が省略された場合などに限られる。● (別添)5頁 1.医療事故の定義について ○医療事故の判断プロセス○ 管理者が判断する上での支援として、医療事故調査・支援センター(以下「センター」という。)及び支援団体は医療機関からの相談に応じられる体制を設ける。

(参考)法6条の16医療事故調査・支援センターは、次に掲げる業務を行うものとする。
(中略)
五 医療事故調査の実施に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び支援を行うこと。
(中略)
七 前各号に掲げるもののほか、医療の安全の確保を図るために必要な業務を行うこと。〈意見の趣旨〉

上記通知の他に,センターが,遺族や医療従事者から医療事故か否かの相談を受け,医療事故と判断される場合には当該医療機関に医療事故の報告を促すことができることを,通知に明記する。〈意見の理由〉

検討会とりまとめによれば,管理者が医療事故か否か判断する上での支援として,センター等が医療機関からの相談に応じられる体制を設けるとされている。しかし,遺族や当該医療機関の医療従事者からの相談に応じる体制を設けることについては言及がない。

本制度が医療事故の原因を究明し再発防止を図る制度であることからすると,医療事故が広く適切に報告され調査の対象とされなければならない。とすれば,管理者からの相談だけでなく,広く遺族や当該医療機関の医療従事者も,医療事故か否かセンターに相談できる体制が必要である。そして,医療事故と判断される場合にはセンターが当該医療機関に医療事故の報告を促すことができるようにすべきである。センターがこれらをすることは,法6条の16第5号及び7号により法律上認められる。

検討会とりまとめによれば,遺族や当該医療機関の医療従事者からの相談に応じる体制を設けることが法律上できないように誤って理解されるおそれがあるので,これを正すべく,センターがこのような機能を行えることを通知に明記すべきである。● (別添)6頁 2.医療機関からセンターへの事故の報告について ○センターへの報告期限○ 個別の事案や事情等により、医療事故の判断に要する時間が異なることから具体的な期限は設けず、「遅滞なく」報告とする。
※ なお、「遅滞なく」とは、正当な理由無く漫然と遅延することは認められないという趣旨であり、当該事例ごとにできる限りすみやかに報告することが求められるもの。

(参考)法6条の10第1項病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。〈意見の趣旨〉

法6条の10第1項の「遅滞なく」が48時間以内を目処とすることを通知に明記する。〈意見の理由〉

医療事故が発生した場合「遅滞なく」センターに報告しなければならないとされているが,「遅滞なく」がどの程度の期間内を指すかについて,法,規則は定めておらず,通知も言及していない。

医療事故調査には速やかに着手しなければならない。特に本制度は死亡事例を対象とし,解剖をすることが必要な場合もありうることから,より一層速やかな着手が求められる。そして,法律ではセンターへの報告によって院内での調査がスタートすることを予定していると解される。とすれば,できる限り速やかに報告することが必要であり,管理者が報告すべき医療事故か否かを判断するのに必要な時間内で報告されなければならない。このような判断に要する時間としては48時間程度が適当であり,「遅滞なく」が48時間以内を目処とすることを通知に明記すべきである。● (別添)7頁 3.医療事故の遺族への説明事項等について ○遺族の範囲○ 遺族側で遺族の代表者を定めてもらい、遺族への説明等の手続はその代表者に対して行う。

(参考)法6条の10第2項2 病院等の管理者は、前項の規定による報告をするに当たつては、あらかじめ、医療事故に係る死亡した者の遺族又は医療事故に係る死産した胎児の父母その他厚生労働省令で定める者(以下この章において単に「遺族」という。)に対し、厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。(以下,省略)法6条の11第5項5 病院等の管理者は、前項の規定による報告をするに当たつては、あらかじめ、遺族に対し、厚生労働省令で定める事項を説明しなければならない。(以下,省略)〈意見の趣旨〉

法6条の10第2項及び法6条の11第5項により遺族に説明する場合において,遺族代表者と定められていない者にも説明を行うことが適当と判断される場合には,個別に遺族に説明することも必要であり,遺族代表者でないからとの理由で,一律に説明しないという扱いをしないことを通知に明記する。〈意見の理由〉

死亡した者の親族間で事故調査に対する考え方が異なるため,遺族代表者を決められない場合はあり得る。また,出産事故における産婦死亡の場合,産婦の死亡につき原因を知りたいと強く思う者には産婦の両親も含まれ,遺族という場合に必ずしも民法の定める相続の範囲・順位が参考となるものではない。したがって,原則として,遺族側で遺族の代表者を定めてもらい,遺族への説明(法6条の10第2項及び法6条の11第5項)をその代表者に対して行うことは良いとしても,前記のような代表者と定められていない者にも説明を行うことが適当と判断される場合には,個別に遺族に説明することも必要である。遺族代表者でないからとの理由で,一律に説明しないという扱いはあってはならない。以上の趣旨を通知で明らかにすることが必要である。● (別添)9頁 4.医療機関が行う医療事故調査について ○医療機関が行う医療事故調査の方法等○ 調査項目については、以下の中から必要な範囲内で選択し、それらの事項に関し、情報の収集、整理を行うものとする。
(中略)
・その他の関係者からのヒアリング
※遺族からのヒアリングが必要な場合があることも考慮する。〈意見の趣旨〉

遺族からのヒアリングが必須であることを通知に明記する。〈意見の理由〉

患者に対し行われていた医療の経過,患者の症状の推移を,医療従事者とは別の立場で注意してよく見てきた遺族から事情を聴き取ることは,再現性の低い診療経過事実を明らかにする上で重要である。また,事故調査によって遺族の疑問に応えることが,遺族との信頼関係を回復することにつながる。

したがって,事故調査において遺族から,事実関係のみならず疑問に感じる点などを,早期に聴き取ることは必須である。

上より,上記通知の記述は不適切であり,遺族からのヒアリングが必須であることを通知に明記すべきである。● (別添)9頁 4.医療機関が行う医療事故調査について ○医療機関が行う医療事故調査の方法等○ 調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに留意すること。
○ 再発防止は可能な限り調査の中で検討することが望ましいが、必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに留意すること。〈意見の趣旨〉

上記通知を,次のとおり,修正する。

○ 調査を尽くしても原因を明らかにすることができなかった場合は,その旨,明らかにできなかった理由,及び明らかにすることができた事項を報告書に記載する。

○ 再発防止は可能な限り調査の中で検討する。検討してもなお再発防止策が得られなかったときは,その旨及び理由を報告書に記載する。〈意見の理由〉

本制度は,医療事故の原因を究明し再発防止を図る制度であるところ,原因究明と再発防止策策定の努力を尽くすことが原則である。そして,努力を尽くしてもなお原因が明らかにならない場合や再発防止策が得られない場合がある。上記通知では,原則の記載がないままに,原因が明らかにならない場合や再発防止策が得られない場合があることに「留意すること」とまで書かれており,原則とそうでない場合の関係が正しく理解されないおそれがあり,原則を理解できる内容にしなければならない。

また,「院内事故調査終了後にセンターが調査する場合は、院内調査の検証が中心となる」((別添)15頁)。そうである以上,院内調査報告書は,かかる検証ができる内容が記載されたものでなければならない。原因を明らかにすることができなかった場合や再発防止策が得られなかった場合に何も書かないだけでは,検証のしようがない。

そこで,「調査を尽くし」「再発防止は可能な限り調査の中で検討する」ことが原則であることを伝えられ,検証を可能とする事項が報告書に記載されるように,<意見の趣旨>記載の事項が報告書に記載されなければならない。● (別添)11頁 6.医療機関からセンターへの調査結果報告について ○センターへの報告事項・報告方法○ 医療機関が報告する医療事故調査の結果に院内調査の内部資料は含まない。〈意見の趣旨〉

上記通知事項を削除する。〈意見の理由〉

医療機関が,センターへの報告や遺族への説明のために,報告書に院内調査の内部資料を医療事故調査の結果に含めることが適当であると判断する場合はあり得る。その場合にはそのような医療機関の判断を尊重すれば良いのであって,尊重することによって,センターへの報告が充実され,医療機関と遺族との間の共通理解が促進され得る。

上記通知のように一律に院内調査の内部資料を含めない扱いにするのは不適切であり,医療機関が報告する医療事故調査の結果に院内調査の内部資料は含む扱いとすることを,法が禁止していると読むことは妥当でない。

したがって,上記通知事項は削除すべきである。● (別添)12頁 7.医療機関が行った調査結果の遺族への説明について ○遺族への説明方法・説明事項○ 遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う。
○ 調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない。〈意見の趣旨〉

遺族への説明の方法は,院内調査の報告書を遺族に十分説明の上,報告書を交付するものであることを,通知に明記する。〈意見の理由〉

医療事故調査報告の内容は,通常医療の素人である遺族にとって口頭説明で理解できるものではなく,書面(報告書)に基づく説明が必要である。十分な書面に基づく説明が遺族との信頼関係回復にもつながる。反対に,報告書を遺族に交付しないという扱いは,それ自体重要な事項を隠しているのではないかという不信を生み,また報告書の内容に関する誤解を生じさせ,遺族と医療機関との間の無用な紛争を引き起こしかねない。

以上のような考え方から,本制度の基本的な考え方を示した「基本的なあり方」においても,「院内調査の報告書は、遺族に十分説明の上、開示しなければならない」としている。

上記通知のように遺族が希望する方法で説明することを努力義務とするに留め,口頭または書面だけの説明でも足りるとすることは不適切である。

したがって,院内調査の報告書は,遺族に十分説明の上,報告書を交付しなければならないことを通知に明記すべきである。● (別添)14頁 9.センター業務について① ○センターが行う、院内事故調査結果の整理・分析とその結果の医療機関への報告○ 報告された事例の匿名化・一般化を行い、データベース化、類型化するなどして類似事例を集積し、共通点・類似点を調べ、傾向や優先順位を勘案する。
○ 個別事例についての報告ではなく、集積した情報に対する分析に基づき、一般化・普遍化した報告をすること。

(参考)法6条の16第1号一 第六条の十一第四項の規定による報告により収集した情報の整理及び分析を行うこと。〈意見の趣旨〉

上記通知中「個別事例についての報告ではなく、」を削除し,法6条の16第1号に基づき,個々の院内事故調査報告書の内容を確認・検証・分析することを通知に明記する。〈意見の理由〉

法6条の16第1号では,センター業務として,院内事故調査の「報告により収集した情報の整理及び分析を行うこと。」を規定する。

これにつき,検討会とりまとめでは,「報告された事例の匿名化・一般化を行い、データベース化、類型化するなどして類似事例を集積し、共通点・類似点を調べ、傾向や優先順位を勘案する。」こととされ,個々の院内調査報告書をピアレビューすることを予定していない。

しかし,上記の法が定める業務は,本制度の基本的な考え方を示した「基本的なあり方」に示された,「医療機関から報告のあった院内調査結果の報告書に係る確認・検証・分析」の業務を指すものであり,個々の院内事故調査報告書の内容を確認・検証・分析すること,すなわちピアレビューを意味するものである。

医療事故の原因究明・再発防止のためには,これを行う院内事故調査報告のピアレビューを行い,その精度を上げていく努力が欠かせない。検討会とりまとめが示す上記の業務しか行わない運用は誤りである。

したがって,上記通知中「個別事例についての報告ではなく、」を削除し,法6条の16第1号に基づき,個々の院内事故調査報告書の内容を確認・検証・分析することを通知に明記しなければならない。● (別添)15頁 10.センター業務について② ○センターが行う調査の依頼○医療事故が発生した医療機関の管理者又は遺族は、医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案については、センターに対して調査の依頼ができる。〈意見の趣旨〉

上記通知を,次のとおり,修正する。

○医療事故が発生した医療機関の管理者又は遺族は,法6条の10第1項に定める医療事故について、センターに対して調査の依頼ができる。〈意見の理由〉

法6条の17第1項は,「医療事故調査・支援センターは、医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から、当該医療事故について調査の依頼があったときは、必要な調査を行うことができる。」と定める。すなわち,センターに調査依頼をすることができる事案は「医療事故」事案である。

医療事故とは,法6条の10第1項において,「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。」と定義される。同項では,医療機関の管理者が「医療事故」をセンターに報告することとなっており,医療機関の管理者が「医療事故」か否かの判断を正しく行えば,それが報告されることになり,報告された事案=「医療事故」事案ということになる。

しかし,医療機関の管理者が,医療事故事案を「医療事故」でないと判断する場合もあり得る。その場合,報告された事案と「医療事故」事案との間に齟齬が生じることになる。

そのような場合が想定されるにもかかわらず,通知で,センターに調査の依頼をすることができる事案を「医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案」に限定することは,「医療事故」についてセンターに調査の依頼をすることができるとしている法に違反する。

よって,「医療事故」についてセンターに調査の依頼をすることができるように通知を修正しなければならない。● (別添)15頁 10.センター業務について② ○センターが行う調査の依頼○ 院内事故調査終了前にセンターが調査する場合は院内調査の進捗状況等を確認するなど、医療機関と連携し、早期に院内事故調査の結果が得られることが見込まれる場合には、院内事故調査の結果を受けてその検証を行うこと。各医療機関においては院内事故調査を着実に行うとともに、必要に応じてセンターから連絡や調査の協力を求められることがあるので病院等の管理者は協力すること。〈意見の趣旨〉

上記通知中「早期に院内事故調査の結果が得られることが見込まれる場合」とあるのを,「医療事故の発生から1年以内に院内事故調査の結果が得られ遺族への説明・センターへの報告が行われることが見込まれる場合」と修正し,さらに,「6カ月を経て調査が行われていない場合等は1年以内での終結は見込まれないと判断する。」ことを通知に明記する。〈意見の理由〉

院内事故調査では,早期に,調査並びに遺族への説明と再発防止に向けた取り組みが行われなければならない。早期に院内事故調査の結果が得られることが期待できない場合には,院内調査にかわりセンター調査が行われるべきである。その点で,上記通知は一般論としては正しい。

しかし,「早期に」と定めるだけでは運用が区々になり,いたずらに時間が経過し原因究明,再発防止の妨げになる可能性があり,期間を明示すべきである。

この点,モデル事業では,従来型(第三者型)でも協働型でも,受付をしてから調査報告書の作成を経て遺族へ説明が行われるまでの目標期間を「約6ケ月~1年」としている(モデル事業パンフレット参照)。また,産科医療補償制度における原因分析報告書作成の流れにおいても「審査の結果,補償対象となり,原因分析を開始してから報告書の完成までに概ね1年の期間を要します。」(産科医療補償制度ホームページ参照)としている。

よって,本制度においても,医療事故の発生から1年以内に院内事故調査の結果が得られ遺族への説明・センターへの報告が行われることが見込まれる場合には,「早期」と考えて良い。ただし,6カ月を経ていまだ調査が行われていないような場合には,さらに6カ月をかけても院内事故調査の結果が得られ遺族への説明・センターへの報告が行われることは通常見込めないから,この時点で1年以内での終結は見込まれないと判断してセンターへの調査依頼が行えるようにすべきである。

なお,医療機関の管理者が,法6条の10第1項に定める「医療事故」に該当するにも関わらずセンターに報告していない事案については,上記通知が規定する「早期に」院内調査結果が得られるか否かという問題とは直接関係しない。医療機関の管理者による報告が見込めない医療事故事案では,遺族は直ちにセンターへ調査の依頼をすることができるようにすべきである。● (別添)16頁 10.センター業務について② ○センターが行った調査の医療機関と遺族への報告※再発防止策は、個人の責任追及とならないように注意し、当該医療機関の状況及び管理者の意見を踏まえた上で記載すること。〈意見の趣旨〉

上記通知中「個人の責任追及とならないように注意し、」及び「及び管理者の意見」を削除する。〈意見の理由〉

1 上記通知の「個人の責任追及とならないように注意し、」との文言は,医療事故調査制度の施行に係る検討会で一部の委員が医療者の責任追及がなされないようにすることを求め続けた結果,入れられたものである。

本制度が個人の責任追及を目的としたものではないとしても,上記文言を入れることによって,原因究明・再発防止をも達し得なくなる恐れがある。

すなわち,医療事故は,通常,事故が起こる段階ではヒューマンエラーの形をもって発生するが,その背後には複数のシステムエラーが横たわっている。根本原因であるシステムエラーをあぶり出し,これに対する再発防止策を策定するためには,まずもってヒューマンエラーを捕捉しその原因を明らかにしなければならない。

上記通知のように「個人の責任追及とならないように注意し、」と記載することは,個人の責任追及とならないようにするあまりに,ヒューマンエラーの原因を明らかにすることがおろそかとなり,根本原因であるシステムエラーの原因究明・再発防止に到達することを阻害するおそれがある。

したがって,「個人の責任追及とならないように注意し、」との文言は,本制度の目的を阻害するおそれがあるので,削除すべきである。

2 また,「管理者の意見を踏まえた上で」というのが,管理者の意見に拘束されるという意味なのか,参考にするという意味なのか,不明確である。

センターが策定する再発防止策が,当該医療機関の管理者の意見に拘束されるようであれば,センターが独立性・中立性・透明性・公正性・専門性の見地から行う再発防止の取り組みが阻害され得るので,不適切である。

他方,管理者の意見を参考にすることは,再発防止策策定において有意義な場合もあると考えられる。しかし,管理者の意見を参考にするという趣旨であれば,「管理者の意見を踏まえ」ることは「当該医療機関の状況」を踏まえる一方法論にすぎないから,「当該医療機関の状況」を踏まえることの他に,「管理者の意見を踏まえ」ることを記載する必要はない。

よって,「及び管理者の意見」という文言は削除するのが適当である。● (別添)16頁 10.センター業務について② ○センターが行った調査の医療機関と遺族への報告○ センターが報告する調査の結果に院内調査報告書等の内部資料は含まない。〈意見の趣旨〉

上記通知を,次のとおり,修正する。

○ センターが報告する調査の結果に院内調査の内部資料は含まない。〈意見の理由〉

センター調査は,「院内事故調査終了後にセンターが調査する場合は、院内調査の検証が中心となる」((別添)15頁)。かかるセンター調査の性格からすれば,センター調査報告書には,必要な範囲での院内調査報告書の引用は当然予定されている。ところが,上記通知の文言では,院内調査報告書が直ちに内部資料扱いとされ,センターの調査報告書に院内調査報告書を引用することが不適切と解されてしまい,センター調査及び同調査報告書作成に支障を来す。

他方で,センターは当該医療機関とは別組織であるので,院内調査の内部資料の扱いは慎重にしなければならないことも確かである。

したがって,上記通知は<意見の趣旨>記載の限りの文言に修正すべきである。● (別添)17頁 10.センター業務について② ○センターが行った調査の結果の取扱い○ 本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないため、センターは、個別の調査報告書及びセンター調査の内部資料については、法的義務のない開示請求に応じないこと。〈意見の趣旨〉

法6条の16第6号の業務が,匿名化をした上で,個々の事故調査の結果を公表することを含むことと,矛盾・抵触しない内容に修正する。〈意見の理由〉

法6条の16第6号では,センター業務として,「医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと。」を規定する。

他の医療機関における事故調査の結果を公表することによって,これを教訓として同様の医療事故を防止することができるから,医療事故の再発の防止のために,個々の事故調査の結果を公表することは重要かつ必要なことであり,法6条の16第6号の「普及啓発」には,匿名化した上で個々の事故調査の結果を公表することが含まれる。

したがって,上記通知は,個々の事故調査の結果を公表することと矛盾・抵触しないように修正されなければならない。● (別添)18頁 11.センター業務について③ ○センターが行う研修○ 研修を行うに当たっては、既存の団体等が行っている研修と重複することがないよう留意する。〈意見の趣旨〉

上記通知事項を削除する。〈意見の理由〉

医療機関の職員向けの研修としては「科学性・論理性・専門性を伴った事故調査を行うことができるような研修」が,また,支援団体の職員向けの研修としては「専門的な支援に必要な知識等を学ぶ研修」が予定されている((別添)18頁)。このような研修は,幅広く体系的に理念・知識・技能を学び得るものでなければならず,他の研修と重複する内容の研修がなされることも当然にあり得,そのような重複は必要なことである。また,「既存の団体等が行っている研修と重複することがないよう留意する。」こと自体,煩雑な事務作業を要し,センターにおける円滑な研修の運営を妨げる。

したがって,上記通知は削除すべきである。● (別添)19頁 12.センター業務について④ ○センターが行う普及啓発○ 集積した情報に基づき、個別事例ではなく全体として得られた知見を繰り返し情報提供する。

(参考)法6条の16第6号六 医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと。〈意見の趣旨〉

上記通知中「個別事例ではなく全体として」を削除し,法6条の16第6号の業務が,匿名化をした上で,個々の事故調査の結果を公表することを含むものであることを通知に明記する。〈意見の理由〉

法6条の16第6号では,センター業務として,「医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと。」を規定する。

これにつき,検討会とりまとめでは,「集積した情報に基づき,個別事例でなく全体として得られた知見を繰り返し情報提供する。」こととされ,個々の事故調査の結果を公表することを予定していない。

しかし,他の医療機関における事故調査の結果を公表することによって,これを教訓として同様の医療事故を防止することができるから,医療事故の再発の防止のために,個々の事故調査の結果を公表することは重要かつ必要なことである。

また,個々の事故調査の結果を公表することは,「基本的なあり方」に示された「医療機関から報告のあった院内調査結果の報告書に係る確認・検証・分析」,すなわち,個々の院内事故調査報告書の内容を確認・検証・分析すること(ピアレビュー)に対応して,センターの業務として予定されていると解すべきものである。

検討会とりまとめが示す上記の業務しか行わない運用は誤りである。

したがって,上記通知中「個別事例ではなく全体として」を削除し,法6条の16第6号が,個々の事故調査の結果を公表することを含むものであることを通知に明記しなければならない。なお,公表にあたって匿名化を図るべきことは当然である。● 調査に要する費用の負担について〈意見の趣旨〉

院内調査及びセンター調査につき公的費用補助を行う。〈意見の趣旨〉

本制度における医療事故調査は,医療事故の原因究明及び再発防止を図り,これにより医療の安全と質の向上を図るという公益目的のために行われるものである。そうであれば,その実施費用を当該医療機関やセンターへ調査依頼をする者だけに負担させることは制度の目的にそぐわない。この点,平成26年6月17日参議院厚生労働委員会においても「ウ 医療事故調査制度の運営に要する費用については、本制度が我が国の医療の質と安全性の向上に資するものであることを踏まえ、公的費用補助等も含めその確保を図るとともに、遺族からの依頼による医療事故調査・支援センターの調査費用の負担については、遺族による申請を妨げることにならないよう最大限の配慮を行うこと。」との附帯決議がなされている。

特に,法において,医療機関の管理者が「医療事故」か否かを判断し報告することとされていることからすれば,医療事故調査の煩のみならず費用まで医療機関が負担しなければならないようでは,多くの医療事故事例がセンターに報告されないおそれがある。かかる観点からすれば,医療事故死亡事例が広くセンターに報告され調査されるためには,院内調査に対しても公的費用補助がなされなければならない。

この点,日本医師会が保険会社と共同で,診療所と99床以下の病院の開設者もしくは管理者を対象として,院内事故調査にかかる費用を補償する会員向けの保険を創設することを発表した。しかし,医療事故調査にかかる費用の補助の問題は,一部の医療者の共助だけによって賄われることで良しとするのではなく,公的費用補助の議論が真剣になされるべき問題である。

したがって,院内調査やセンター調査につき,国や都道府県からの費用補助を行うものとすべきである。以上

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