カルテ開示法制化などに関する意見書

【要 約】
個人情報保護法とは別に、患者の権利の尊重を基本としたカルテ開示に関する法律を定めるべきこと、カルテの正確性・充実性を確保する諸施策を講じることを求めた。


2003年4月24日
診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会 御 中
厚生労働省医政局  御 中

医療問題弁護団
代表 弁護士 鈴木 利廣
(連絡先)
〒124-0025 東京都葛飾区西小岩1-7-9
西小岩ハイツ506
電 話 03-5698-8544
FAX 03-5698-7512

意見書

当弁護団は、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動を行い、これらの活動を通じて患者の権利を確立し、安全で良質な医療を実現することを目的とする弁護士の団体である。
診療に関する情報提供の在り方について、以下のとおり、意見を述べる。

〔用語の定義〕
診療情報とは、
「診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医療従事者が知りえた主観的・客観的情報のすべて」

診療記録等とは、
「診療録、手術記録、麻酔記録、各種検査記録、検査成績表、エックス線写真、助産録、看護記録、その他、診療情報に関して作成、記録された書面、画像等の一切(要約書、処方録及び処置録を含む)」

診療記録等の開示とは、
「患者やその遺族など特定の者に対して、診療記録等の閲覧、謄写の求めに応ずること」

意見の趣旨

1 診療記録等の開示を法制化すべきである。
法制化にあたっては、個人情報保護法とは別に、患者の権利の尊重を基本とした立法(既存の法律の改正を含む)によるべきである。

2 診療記録等が正確で充実した内容を伴ったものとなるよう諸策を講じるべきである。

意見の理由

1 診療記録等の開示の法制化

(1) 開示の必要性

ア 開示の意義

 診療記録等の開示は、しばしば、医療従事者と患者との信頼関係を構築するための、あるいは医療の質と安全性を高めるための、重要な方法論として論じられる。もとより、このような指摘それ自体の正当性については、既に大方の異論がない。
 しかし、診療記録等の開示の意義ないし重要性は、このような実際上の観点にのみとどまるものではない。
 すなわち、医療は、その本質において、患者が、専門家たる医療従事者から、診断に基づく必要な情報の提供を受け、医学的根拠に基づく治療の選択肢を適切な説明とともに提示されたうえで、これを主体的に選び取っていくことにより成立し、正当化され、適法化されるものである。それゆえ、このような営みを成立させる前提として、患者が診断ないしは治療方法選択に関連する事実や、医学的判断の根拠の詳細を知りたいと求める場合、それを保障するルールがなければならない。正にそれが診療記録等の開示の保障である。
 したがって、診療記録等の開示は、本来、医療の適法化要件と密接不可分な重要性を有するものである。
この点、貴検討会の論点整理において、開示の必要性は「信頼関係の構築」にあるとされているが、医の説明責任や患者の権利の視点を欠いている。

イ 特に医療事故発生時の開示の意義について

 また、診療記録等の開示は、医療事故発生時において一層重要である。
 医療事故が発生した場合、事故の被害者は、診療経過に関し、正確な事実関係に基づく詳細な説明を受け、事故の真相を把握することなくして、自らの、あるいは自己の最愛の肉親の受けた被害を、受け止め、受容し、これを克服していく途を見いだすことができない。
 このような意味で、事故発生時の診療記録等の開示は、事故被害者・家族にとって、被害回復のための本質的要素を構成するものである。

(2) 開示の現状

 ところで、このような重要性を有する診療記録等の開示であるにもか かわらず、現状は、全面開示には程遠いものといわざるを得ない。
 医療審議会の「医療提供体制の改革について(中間報告)」(1999年7月1日)が発表されて以来、主として医療従事者側の努力により、「国立大学附属病院における診療情報の提供に関する指針」、日本医師会「診療情報提供指針」等、各種のガイドラインの作成等の取り組みがなされてきた。
 しかし、例えば前記日本医師会指針(2002年10月22日改訂)においても、「裁判問題を前提とする場合はこの指針の範囲外」とされているなど、ガイドラインの内容そのものが全面開示とは言い難い状況が残存している。「裁判問題」とは医療事故事例を念頭においたものと思料されるが、前述のとおり、事故被害者にとっては、被害回復のためにもとりわけ開示の重要性は高いものと考えられ、このようなガイドラインは殊更に被害者に背を向けようとするものであるといわざるを得ない。
 医療現場の現実に目を転ずれば、状況は一層深刻である。
社団法人日本看護協会「診療情報の提供の在り方に関する意見」(2003年2月6日)によれば、診療情報の開示状況について、「患者の請求に基づく診療記録の開示」に関する規定(指針・手順)がある病院は、2000年の36.4%から2002年には49.2%に増えたが「まだ半数に満たない」とされている。
   開示ルールをもつ医療機関においても、ルール自体に不開示事由が多いうえ、その解釈が医療機関側の恣意的な裁量に委ねられている。そのため、例えば日本赤十字社では、診療記録等に基づいて診療内容の説明をするとしながら、診療記録等のコピーについては拒絶する対応をとっている。また、開示ルールが定められている大学病院の附属病院において、「カルテ開示は権利ではないから。」との理由で開示を拒絶された事例も、つい最近発生している。
 他方、日本医師会所属の開業医において、ガイドラインに従わない不開示事例も枚挙に暇がない。
 このような現状は、ガイドライン制定による開示への誘導という対応手法そのものの限界を示している。

(3) 法制化の必要性

 以上のような現状に照らす限り、診療記録等の開示は、法制化によって推進することがどうしても必要である。
 法制化すなわち法律による義務付けは、開示に背を向け続ける一部医療機関に対する唯一の対応策である。このような医療機関が現に存在する以上、法制化が必要であることは明らかである。
 他方、良心的な医療機関によるこの間の積極的な取り組みについては評価するが、そのような良心的医療機関が法制化により不利益を蒙ることは全くないことにも留意されるべきである。
 当弁護団は、診療記録等の開示請求権については、準委任契約に基づく報告義務(民法645条)により基礎づけられる権利であり、現行民法の解釈論としても権利性が認められると解するものであるが、これを争う医療現場が現に存する限り、端的な立法による解決が必要であると考える。(なお、診療録開示請求権が否定された裁判例としてしばしば東京高裁昭和61年8月28日判決(判例時報1208号85頁)が引用されるが、同判決は、いわゆる本人訴訟であることもあってか問題点が掘り下げられていないと評価されている事案であるうえ(前掲判例時報解説)、判決文中においても、医療事故の発生が前提とされた場合等においては異なる立論が可能である旨の留保が付されているのであって、判例が診療録開示の法的権利性を一律に否定しているとみることは適切ではない。)

(4) 「個人情報保護法」に基づく開示の問題点

 ところで、診療記録等の開示については、いわゆる個人情報保護法の法制化により、患者が要請すれば診療情報を入手できる法的環境は整うのであるから、それとは別異の立法は重ねて必要がない、とする議論も散見される。
 しかし、このような見解は失当である。
 本来、個人情報保護法は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大している現状に鑑み、個人情報の有用性に配慮しつつ、プライバシー権ないしは情報に関する自己決定権の観点から、個人情報の保護を図る趣旨に出た立法である。
 もとより、診療記録等にも個人情報保護法による法規整が妥当する側面があり、その限りにおいて同法が適用されるのは当然である。
 しかし、診療記録等の意義はそれにとどまるものではなく、前述のとおり、診断・治療の根拠を患者と医療機関が共有しあい意思決定を成立させるための本質的要素という一面がある。したがって、開示の要請は、必然的に診療記録等そのものの在り方を問う側面を孕むものでもあるが(後述)、それは、単に診療記録等に記載された個人情報を保護するという個人情報保護法の趣旨を明らかに超えるものである。
 また、個人情報保護法の内容自体、実施のための細目的な事項も含めて不確定的であり、たとえば権利主体、行使できる権利の内容、権利行使手続その他の事項について、診療記録等の開示に真に適した法制であるかどうかの判断も、現時点では不可能である。
 この意味においても、診療記録等の開示を個人情報保護法の規整に全面的に委ねることは適切ではない。

2 診療記録等の充実

(1) 診療記録等の役割

ア 適正な医療の実現

 今日の医療環境のもとで適正な医療を実現するためには、診療記録等の役割は極めて重大である。
 まず、今日では、医療従事者は1人で多くの患者を担当せざるをえず、正確で充実した診療記録等の助けなしには適正な医療を行えない。
 また、医療が高度に専門化・分化する一方で、複数の疾病に罹患した患者が増え、複数の医療従事者が1人の患者を担当する場面も増えている(いわゆる「チーム医療」)。ここにおいては正確で充実した診療情報の共有が必要不可欠である。
 さらに、患者の権利意識が高まり、医療知識へのアクセスが容易になったことから、患者が自らの選択で複数の医師・医療機関の診察を受けることも想定されるようになってきた(「セカンド・オピニオン」の権利)。正確で充実した診療記録等があって始めて意義あるセカンド・オピニオンを受けることができる。
最後に、医療従事者が正確で充実した診療記録等の作成に努めれば、自らの判断プロセスを再検証することになり、医療事故の防止につながる。

イ 説明責任と診療情報の共有

 患者のインフォームド・コンセントの権利を保障するためには、診療記録等の開示が有効な手段である。その診療記録等は正確で充実したものであると同時に「わかりやすい」ものでなければならない。このような内容を備えた診療記録等を開示することによって、医療側は説明責任を果たすことができる。
 また、このように医師と患者が診療情報を共有して患者が主体的に医療に参加することは医療の安全性の向上につながる(医療安全対策検討会議平成14年4月17日「医療安全推進総合対策」)。

ウ 透明性の確保
 正確で充実した診療記録等が適切に管理・保存されていることは、医療の透明性確保にも役立つ。「どのような医療行為がどのような根拠に基づいて行われたかが資料として残されており、それに患者がいつでもアクセスできる」という環境こそが、医療に透明性をもたらす。そして、医療の透明性が確保されて始めて医者と患者の信頼関係が構築されうる。

エ 医療事故時

 特に医療事故時には、診療記録等の開示が不可欠である。 
 なぜなら、医療事故時には、医療側が積極的に診療記録等を開示して患者との間の信頼関係を再構築すべく努力すべきであり、医療側の説明責任と医療の透明性が強く求められるからである。
また、第三者による検証を経ることによって将来の事故防止にもつながる。

(2) 診療記録等の現状

 しかしながら、診療記録等の現状は未だ不十分である。
 例えば、現実の診療録は、医師ごとに病名、手術術式名、診療行為の表現などがまちまちで、意味不明な略語が使われていることもある。敢えて英語やドイツ語で記載されていたり、判読できない文字で記載されていたりする例もある。
診療記録等の記載方法としては、問題指向型診療記録(problem oriented medical record、「POMR」)が提唱されて久しいが、必ずしもすべての医療従事者に採用されているわけではない。しかしながら、「問題指向型」で記載されていない診療記録等から「医療従事者がどのような判断プロセスで当該医療行為に至ったのか」を読み取ることはかなり困難である。
 私たち弁護士が日々受ける相談事例においても、極めて簡略な記載しかされていない診療記録等に出会うことがしばしばある。また、「診療録記載が客観的事実と合致しない」、「麻酔記録が残されていない(作成されていない)」、「分娩監視記録が保存されていない」、「エックス線写真が足りない」などの例も報告されている。
さらに、医療過誤訴訟判決の中で「改ざん」「改ざんの疑い」が認定・指摘されている(判例タイムズ第987号「カルテ等記載と事実認定についての判例研究」森豊)。

(3) 望まれる診療記録等の在り方

 では、どのような診療記録等の在り方が望まれているのであろうか。
 そもそも第三者に認識できない記載では、適正な医療の実現にもインフォームド・コンセントにも医療の透明性確保にも役立たない。また、その内容がその時々の患者の病状を正確に記録したものでなければ、資料としての価値に乏しい。同時に、医療行為が行われた判断プロセスを事後的に検証できるものでなければならない。
したがって、診療記録等には、少なくとも以下の点が備わっていなければならないと考える。

① 第三者が認識できること
(例 わかりやすい日本語を用いて読み易い文字で書かれている)
② その時々の患者の病状を正確に伝えるものであること
(例 記載漏れや誤記がない)
③ 医療行為の判断プロセスが読み取れること
(例 どのような疾患の可能性を疑って検査を進めたのかが明示されている)
 念のため付言すれば、そもそも診療記録等がいつでも認識できる状態になければ活用できないのであるから、前提として、すべての診療記録等が適切に管理・保管されていなければならない。

(4) 考えられる諸策

望ましい診療記録等を達成するために、以下の諸策が考えられる。

① 記載項目、使用用語、疾病病名など、記載内容や記載方法の標準化(指針の作成など)
② 診療録、手術記録、退院時要約、看護記録などを医療行為後速やかに作成することの義務化
③ 診療記録等に関する院内監査システムの導入
④ 診療記録等の管理・保管体制の整備(診療情報管理士などの人的要因の確保など)
⑤ 医療従事者が故意に診療録等に虚偽記載をした場合の対応策(制裁を含む)

3 貴検討会に求められること

(1) カルテ等の診療情報の活用に関する検討会報告書(平成10年6月18日)

 同報告書は、「Ⅸ法制化の提言」において「検討会としては、医療の場における診療情報の提供を積極的に推進するべきであること、また、今日、個人情報の自己コントロールの要請がますます強くなり、行政機関に限らずあらゆる分野においてその保護政策の充実が図られていること等にかんがみると、法律上開示請求権及び開示義務を定めることには大きな意義があり、今後これを実現する方向で進むべきであると考える」と明確に「診療情報開示法制化」の方向性を示した。
 そして、小林政資厚生省健康政策局長(当時)は、入澤肇議員からカルテ開示法制化への対応を問われ、「最終的には審議会のご報告をいただいて、そして法制化に向けて努力をしていきたい、このように思っております」と答弁している(平成11年4月15日参議院国民福祉委員会)。
患者の人権の尊重を基本とした同報告書は広く国民に受け入れられ、マスコミも「開示法制化」の方向性を支持した。
 しかしながら、日本医師会の強い反対にあい、平成11年7月、医療審議会は開示法制化を今後の検討課題として、その実施を見送った。
 それから「3年を目途」とされた環境整備期間が経過し、貴検討会が組織された。その貴検討会において、再び開示法制化の是非が俎上にのぼり、同報告書の意義を失わしめるかのような議論が繰り返されていることは極めて残念である。

(2) 患者の権利の尊重を基本とした議論を
 同報告書が発表されてから約5年が経過し、患者の権利意識はより高まってきている。また、この間の医療界の努力により開示法制化の環境も整いつつある。例えば、日本医学会が「医療提供者は、医療の透明性を確保するとともに、その説明責任(アカウンタビリティ)を果たさなければならない。そのためには、情報開示やEBM(evidence-based medicine)、診療ガイドラインによる医療の標準化などを積極的に進める必要がある」と宣言(平成15年4月6日福岡)したように、医療界でも「情報開示は義務である」との認識が浸透してきた。
 したがって、貴検討会が、患者の権利の尊重を基本に考え、開示法制化を提言すべきことはむしろ当然のことと言える。
貴検討会には、開示法制化を前提に、どのような診療録が望ましいのか、それを達成するためにどのような諸策が考えられるのかにつき、十分に議論を尽くすことを今後期待する。

以上

木村副大臣解任の要望書

【要 約】
司法改革で弁護士の増員が図られていることに対し,「医療をネタに稼いでやろうという非常におかしな人たちがどんどん増えてくる」と発言した木村義雄厚生労働副大臣の解任を求めた。


木村副大臣解任の要望書
内閣総理大臣 小泉純一郎 殿
厚生労働大臣 坂口  力 殿
文部科学大臣 遠山 敦子 殿
法務大臣   森山 真弓 殿

2003年(平成15年)4月24日
医 療 問 題 弁 護 団
代表 弁護士  鈴木利廣
(連絡先)
〒124-0025 東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506
電 話 03-5698-8544
FAX 03-5698-7512

要望書

第1.要望の趣旨

木村義雄厚生労働副大臣の解任を求める。

第2.要望の理由

はじめに

 当弁護団は、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動を行い、これらの活動を通じて患者の権利を確立し、安全で良質な医療を実現することを目的とする弁護士の団体で、東京を中心に約200名の団員弁護士が年間約300件の医療事故相談を受けている。

 1.木村副大臣の発言

 報道によれば、木村副大臣は、本年4月18日開催の厚生労働省・医師臨床研修制度と地域医療に関する懇談会の終わりの挨拶において、大概次のような発言を行ったという。
 「臨床研修をなぜやるかと言えば、司法改革が行われ弁護士がどんどん養成されようとし、アメリカのような医療をネタに稼いでやろうという非常におかしな人たちがどんどん増えてくることが予想され、こういう問題点に対応するには、臨床研修が大変大事で、何かあったらすぐに弁護士に訴えられるような日本の医療にしてはならない。」
 この発言の趣旨は、
  (1)臨床研修には、医療をネタに稼いでやろうという非常におかしな人たち(弁護士)に対応する目的がある
  (2)司法改革で医療をネタに稼いでやろうという非常におかしな人たち(弁護士)がどんどん増えてくることが予想されるというものである。

 2.発言の問題性

(1)医療事故被害の無理解に基づく被害者への攻撃
  1999年1月以来多くの医療過誤事案が報道され、日本の医療現場での医療過誤被害が質・量ともに深刻な事態であることが明らかにされた。
  このような事態をうけて、文部科学省・国立大学医学部病院長会議は、2001年3月「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)」(以下「提言」という)を、厚生労働省は、2002年4月17日「医療安全推進総合対策」(以下「対策」という)をとりまとめた。そして、「提言」及び「対策」において、一方で、医療安全向上策として「研修医指導体制の充実」(「提言」)「医療安全に関する教育研修の充実」(「対策」)を、他方で、医療過誤被害への対応として「基本的な考え方としての患者の尊重と医療の責任の全う」(「提言」)「患者の苦情や相談等に対応するための体制の整備」(「対策」)をあげている。
  木村副大臣の今般の発言は、臨床研修体制の不備が医療過誤の一因となっているとの認識を欠落し、医療被害者の立場で被害救済活動に従事する弁護士を敵視し、ひいては、かかる弁護士の援助を求めている医療過誤被害者の行動に対する悪質な攻撃といえる。
  また臨床研修の本来の目的をゆがめ、徒に医療被害者や弁護士に対する偏見をあおることにつながるものである。
  かかる発言は政府内において文部科学省とも協同して医療事故・過誤防止対策を推進している厚生労働省の副大臣としての資質に著しく欠けるものである。

 (2)司法改革への無理解
  現在進行中の司法改革は、「司法制度改革審議会意見~21世紀の日本を支える司法制度」(2001年6月12日)、「司法制度改革推進法」(2001.11.16制定)に基づいて行われている。
  同法2条(基本理念)には、「司法制度改革は、国民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続きの下、より迅速・適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し、高度の専門的法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他司法制度を支える体制の充実強化を図り、……もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるものである。」と規程されている。そして、この理念に基づき司法制度を支える法曹の人的基盤の拡充を図りつつある。
  小泉首相も昨年12月9日開催の司法制度改革推進本部顧問会議において、法曹養成制度改革関連法が同月6日に成立したことをうけて、法曹の質と量の拡充への期待と関係者の努力への敬意を表明した。
  木村副大臣の今般の発言は、法曹の拡充が非常におかしな弁護士を増大させるとの認識を示したもので、弁護士の使命をないがしろにするばかりか、司法改革推進に対する悪質な揶揄である。かかる発言は、政治家、副大臣としての資質に欠けるものであり、司法改革を推進する政府内において到底看過してはならない発言である。

 3.まとめ

 よって、木村副大臣の任免について申出権者である坂口大臣及び任免権者である内閣の代表たる小泉総理に対し、木村義雄厚生労働副大臣の解任を求めるものである。
 なお、臨床研修の担い手である国立大学病院を主管する文部科学大臣及び司法改革を主管する法務大臣に対しても、内閣の一員として木村副大臣の解任を求めるよう要望する。

最高裁医事関係訴訟委員会への意見書

【要 約】
最高裁医事関係訴訟委員会に対して,医療訴訟における鑑定書の内容が適正・公平であることを確保するための制度的担保として,(1)鑑定書の内容等の公表制度,(2)鑑定人の推薦手続の透明化と,鑑定内容に対する事後評価制度の確立,(3)鑑定書の内容は,誠実性・論理性・科学性の3点の基準から評価すべきこと等を提言した。


2003年(平成15年)4月15日

最高裁判所医事関係訴訟委員会御中
東京都葛飾区西新小岩1-7-9 西新小岩ハイツ号506
03-5698-8544 03-5698-7512 電話FAX
医療問題弁護団
代表弁護士鈴木利廣

名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
052-951-1731 052-951-1732 電話FAX
医療事故情報センター
理事長弁護士柴田義朗

名古屋市中区丸の内3-2-22 名城ビル6階
052-061-3325 052-961-3326 電話FAX
医療過誤問題研究会
代表弁護士増田聖子

意見書

前略

貴委員会では、平成13年7月の発足以後、正式に取扱った案件だけでもすでに45件の鑑定人候補者推薦依頼が取り扱われています。しかも相当数の案件ではすでに鑑定人が実際に選任されて鑑定書が作成されており、一部には事件が終局的な解決に至ったものも出ています。
そこで私たちは、貴委員会に対し、下記の3点を要望致します。

(要望事項)

1 鑑定書の公表について

 貴委員会を介して選任された鑑定人が作成した鑑定書については、その内容を公表すること。
 なお、公表にあたっては、鑑定人の氏名とその事案の概要(診療経過一覧表等。ただしプライバシーに配慮するために事件関係者の氏名等は匿名化したもので足りる)を併せて公表すること。

2 学会内推薦手続の透明化及び学会内鑑定結果事後評価制度の確立促進について

 貴委員会から、鑑定人候補者の推薦を依頼した各学会に対して、学会内での候補者推薦の手続や推薦基準等について明らかにするよう促すこと。
また、各学会が推薦した候補者が鑑定人に選任された場合には、その鑑定人が作成した鑑定書の内容について学会内において事後評価を行って、その評価結果を明らかにするよう促すこと。

3 貴委員会による鑑定書の内容の評価について

 貴委員会が鑑定書が具備すべき要件である1)誠実性、2)論理性、3)科学性の3点の基準に照らすことによって、司法的見地から鑑定書の内容の評価を行うこと。

(要望の理由)

1 鑑定を巡る2つの問題点~「量」そして「質」

 従来の医事関係訴訟の鑑定については、大きく分けて2つの問題点が指摘されてきました。1つは、鑑定人の選任から鑑定書が提出されるまでに長い時間がかかるため、裁判が遅延するという点です(鑑定の「量」の問題。)
 この点については主として鑑定の引き受け手となる医師が少ないことや、鑑定人が鑑定書を作成するまでの手続自体が長期化することが原因となっていましたが、貴委員会の積極的な取り組みにより、鑑定人となる医師の層が広がりつつあり、鑑定人選任から鑑定書が提出されるまでの期間についても短縮傾向が見られるなど、大きく改善されつつあると思われます。

 しかし鑑定に関する問題点は「量」の点だけではありません鑑定の「質」についても改善の必要性があります。

 例えば、脳神経減圧術事件(最高裁判所第三小法廷平成11年3月23日判決)では、裁判所は、原審の依拠した鑑定書が「わずか1頁に結論のみを記載したもので、その内容は極めて内容の乏しいもの」であって、手術記録やCT写真等の「客観的資料を評価検討した過程が何も記されておらず、その体裁からは、これら客観的資料を精査した上での鑑定かどうか疑いがもたれないではない」と指摘し、原判決を破棄して審理を差し戻しています。この他にも、ここ数年の最高裁の判断には、原審が立脚した鑑定の内容に疑問を呈しつつ原判決を破棄したものがいくつも見られます(最高裁判所第三小法廷平成9年2月25日判決、最高裁判所第三小法廷平成8年1月23日判決など。)

私たちは、本来、鑑定書には、次のような要件が具備されているべきであると考えます。

1)誠実性:与えられた資料を十分に検討したことが鑑定書の記載からうかがわれる等、鑑定書の内容が充実したものとなっていること

2)論理性:回答が与えられた鑑定事項に対応しており、結論と理由に論理的な整合性があること

3)科学性:自己の経験のみに立脚することなく、文献を引用する等、合理的な科学的根拠を示していること

 しかし、上記の最高裁判決のケースに代表されるように、本来鑑定が備えているべき誠実性、論理性あるいは科学性を欠く鑑定書が、残念ながら少なからず見受けられます。
 このため、私たちは、鑑定人の供給や鑑定手続の迅速性といった「量」の問題だけではなく、鑑定が備えるべき「質」の問題についても、改善に向けた努力が必要であると認識しています。

2 鑑定の「質」を阻害する構造、環境、そして封建性

 鑑定の「質」の維持・向上を阻害している要因はいくつか挙げられます。

 例えば、司法の側から医師である鑑定人に対し、鑑定の趣旨や鑑定人が果たすべき役割を十分にアナウンスしてこなかったこともその一因であったと考えられます
(この点については、貴委員会でも、鑑定人向けのパンフレットを作成する等、改善に向けた努力を尽くして来られたことと思います。)

しかし、この点以外にも、次に挙げるような鑑定の「質」の維持・向上を阻害する要因が存在します。

1) 医師が他の医師の診療内容を検討するという「構造」的要因

 医師は、専門家として鑑定人となるだけではなく、ひとたび自分も事故を起こせば被告ともなりうる立場にあります。このように、医事関係訴訟
の鑑定においては、いわば「潜在的な被告」でもある医師が、他の医事関係訴訟の内容について意見を述べることとなり、鑑定の中立性や公正性を
阻害しやすい「構造」が内在しているといえます。

2) 鑑定結果が他人の目には触れにくい「環境」的要因

 作成した鑑定書は公開の法廷に提出されますが、実際には、同僚たる医師らの目に触れることはほとんどありません。つまり、同じ専門家の前で
は恥ずかしくて言えないような不公正な意見であっても、法廷において提出しうる「環境」が存在しているといえます。

3) 医療界に相互批判を尊重する文化が根付いていない「封建性」の要因

 残念ながら、医療界には、手術時のミスを隠蔽するために組織ぐるみでカルテの改ざんを行った東京女子医大事件に代表されるように、同僚同士
が忌憚のない議論を行って事故の原因を探求し、誤りがあれば謝罪し、再発防止策を自発的に検討するというような、相互批判を尊重する安全文化
が十分に根付いてきたとは言い難く、医事関係訴訟において鑑定人が率直な意見を述べ難い「封建性」が今なお色濃く残存しています。
以上のような鑑定の質を阻害する要因については、これまで鑑定を担当してきた医師の側からも指摘されています。
 例えば長年にわたって多数の鑑定を担当してきた我妻堯医師(産婦人科、
国際厚生事業団参与)は、その著書において、次のように指摘しています。
 「多くの医師は、裁判の当事者である被告あるいはその先輩・後輩などとどこかでなんらかの人的繋がりがあるために『明日はわが身』という思いが、鑑定を引き受けることを躊躇させているのではないだろうか。現在の医局制度では、大学の教授が当該大学周辺地域のいわゆる関連病院の医長や医員の人事権を握っている。したがって、被告医師が直接の弟子でなくとも、その医療機関の各科が自分の大学と人事の交流があるという繋がりを持つことが少なくない。内科や外科は医師の数が多いから、そのあたりは人間関係が薄まってしまうのかもしれないが、産婦人科は中等度の規模であるために鑑定を依頼されるような権威のある医師の大部分は教授・助教授、国・公立病院の長であるから、当然、全国規模でなんらかの繋がりを持つことになる」。
(中略)
 「鑑定の中立性についてさらに述べると大学教授でも決して中立の立場で、教科書に書かれているような医療の原理・原則を鑑定書に書くとは限らない。むしろ反対に『大学教授は医師の味方をするのが当然だ』と某国立大学教授が広言したとの噂を聞いたことがあるし、著者の後輩の某大学教授の書いた鑑定書を読む機会があり『あの誠実な人がこんなことを書くのか?』と驚いたこともある。具体的には、ある事例の分娩監視装置記録に明らかな遅発一過性徐脈が反復しているのに鑑定書には『一過性徐脈が認められる』とのみ記載され、その一過性徐脈がいかなる性質のもので、胎児の状態がどうなっているのかに関しては一切記述を避けていた。
 また、某私大教授の書いた鑑定書は、日本語の文章は用紙数枚程度でその後に英文教科書のコピーを綴じあわせてあるだけで、鑑定書の意義をどう考えているのか判断に苦しむものも見受けられる」。
(我妻堯『鑑定からみた産科医療訴訟』日本評論社年~ 2002 p22 23)

 鑑定の「質」の維持・向上を考えるにあたっては、以上に挙げたような阻害要因の存在を認識した上で、適切な改善策をとることが不可欠です。

3 透明性の高い鑑定環境の確保と封建性の排除

 無論、私たちも、全ての鑑定人が不公正で中立性を欠いた意見を述べると考えているわけではありません。このような阻害要因が存在してもなお誠実に質の高い鑑定を行う医師がいることも十分に認識しています。
 しかし、こういった質の高い鑑定は、鑑定人個人の誠意や人格的資質に大きく依存してようやく実現しているに過ぎず、鑑定の質の高さを維持・向上させるための客観的制度は極めて脆弱であるといわざるをえません。
 鑑定人個人の資質に頼る鑑定制度では、鑑定人の属人性によって鑑定の質が左右される可能性が高いため、制度の利用者である国民から幅広い信頼を勝ち得ることは困難であり、上記に述べたような鑑定の質を阻害する要因を除去するための制度的な改善策を検討すべきです(ただし医師が医師の行為を評価検討するという「構造」的要因は、鑑定制度においては不可避といえますので、主として「環境」と「封建性」をいかに改善するかを検討することとなります。)

 そこで、私たちは、透明度の高い鑑定環境を実現し、かつ、医療界に相互の批判を尊重する非封建的文化を浸透させるために、貴委員会に対し、頭記の3点の実現を要望します。各要望事項の詳細は次項以下に述べるとおりです。

4 要望1:鑑定書の公表

1)貴委員会を介して選任された鑑定人が提出した鑑定書については、ホームページその他を通じて公表し、鑑定そのものについての基本的な透明性を確保するべきです。

2) 鑑定書の内容についてはもともと公開の法廷に提出されていますので、公表することに特段の支障はないはずです。また、透明性の観点からすれば、鑑定人の氏名については、当然公表されるべきです。鑑定人は公的機関である裁判所が選任して専門的意見を求められているのですから、鑑定人の氏名の公表について鑑定人の同意を得ることは不要です。

3) 鑑定書の公表の方法としては逐次最高裁判所のホームページに掲載し、一定数がまとまった段階で書籍として刊行するという方式が合理的と考えます。

4)鑑定書の公表にあたっては、事件関係者については匿名とする等、事件関係者のプライバシーに配慮するべきです。

5)なお、各事件の概要が分からないと、鑑定書の内容を評価することは困難ですので、事案の概要(診療経過一覧表等を活用することが考えられます)等を併せて公表することが必要です。また、鑑定書記載の意見について、法廷での証言等で変更を加えることもあり得ますので、そういった場合には尋問調書やその要約等を付するというような工夫も必要と思われます。

6)公開時期については、鑑定の結果が公開の法廷に提出されるものである以上、その都度公開されることについて問題はないと考えますが、公表
制度が定着するまでの間は、まず、その事件が和解や判決の確定に至った後に公開するということにも一定の合理性があると考えます。

5 要望2:学会内推薦手続の透明化と学会内鑑定結果事後評価制度確立の促進

1)学会内推薦手続の透明化の促進

 貴委員会では、現在、鑑定人候補者の選任に適する学会の選定を行うにとどまり、具体的な候補者の選任過程については、各学会に一任していま
すが、学会内での候補者推薦の手続がブラックボックス化することは、推薦された鑑定人候補者に対する信頼性を減殺することにつながります。
そこで、貴委員会が、各学会に対し、1)どのような手続で候補者を選出したのか2)どのような基準で候補者を選出したのか、といった点の
説明を積極的に促すことで、学会内推薦手続の透明化を図るべきです。

2)学会内鑑定結果事後評価制度の確立の促進

 各学会は、医学的当否について相互に批判的検討を行うことを尊重し、非封建的な文化の排除に努めるべきです。そのためには、推薦された医師
が実施した鑑定結果の医学的当否について、学会内において事後評価(いわゆる「ピアレビュー)を行ってその結果を対外的に明らかにし、その」
後の鑑定人候補者推薦のためにフィードバックするという制度の確立が不可欠です。
 貴委員会としても、各学会に対し、以上のような事後評価制度を確立するよう積極的に呼びかけるべきです。

3)貴委員会から学会への働きかけの方法について

 なお、すでにいくつかの学会では、学会内に貴委員会からの推薦依頼に対応するための委員会等を設置して、組織的な対応体制を構築しつつある
ようですので、貴委員会からも、そういった動きをサポートする働きかけを行うべきです。
 具体的には、まず貴委員会が、各学会内の推薦手続や事後評価制度の実情について聴き取りを行って情報を集約し、集約された情報を各学会へフ
ィードバックするといった活動を行うことによって、先進的な学会の取り組みが他の学会へと波及することを側面からサポートするような活動が考
えられます。

6 要望3:貴委員会による鑑定書の内容の評価の実施

 昨年10月の貴委員会では、鑑定書の「評価」について議論が行われたようですが、その席で、貴委員会事務局からは次のような説明がなされたようです。

「※ 事務局から,ここで言う鑑定書の評価とは,鑑定を引受けてもらいやすい環境作りの一つとして,学問的観点とは別に,鑑定の経験を積むということを何らかの形で医学者としての評価につなげていくことを意図するものであり,鑑定の内容の医学的当否を論じるものとは異なる旨説明があった」。

 私たちは、貴委員会が、鑑定人の鑑定経験自体を評価することによって、法曹界から医学界に謝意を示し、その後の鑑定のさらなる迅速化や円滑化をはかることを否定するものではありません。
 ただ、貴委員会としては、単に鑑定経験だけについて評価を与えるだけではなく、質の高い鑑定書については、その質の高さにふさわしい評価を与えることによって、その鑑定人の尽力に報いるべきと考えます。貴委員会がこういった評価を行うことは、貴委員会が望む鑑定書のあり方を幅広く示すことにも繋がり、鑑定の「質」の維持・向上にも資するはずです。

 なお、貴委員会が医学的見地に基づいて鑑定書の内容の医学的当否を検討することは現実的ではないと思われますので、貴委員会では、司法的な見地から、その鑑定書が本来備えるべき要件を具備しているかどうかについて、

1)誠実性:与えられた資料を十分に検討したことが鑑定書の記載からうかがわれる等、鑑定書の内容が充実したものとなっているかどうか

2)論理性:回答が与えられた鑑定事項に対応しているかどうか、あるいは結論と理由に論理的な整合性があるかどうか

3)科学性:自己の経験のみに立脚することなく、文献を引用する等、合理的な科学的根拠を示しているかどうか

といった基準に照らして内容の評価を行うべきです。

 なお、司法的見地からは、当該裁判体においても事案に即して鑑定書の内容の具体的・個別的な評価を行うことになりますが、上記のような個別事案との距離を置いた一般的評価基準を用いることで、貴委員会が各裁判体の独立に配慮しつつ鑑定書の内容を評価することは可能であると考えます。

7 最後に

 鑑定の「質」の維持・向上については、当事者が訴訟手続内において鑑定人に対する尋問等を通じて実現すればよいという意見もありえます。しかし、専門的知識偏在型の典型である医事関係訴訟では患者側当事者が行いうる訴訟活動には自ずと限界があります。また、訴訟内における弾劾的評価という方法以外にも鑑定の「質」向上をはかりうる策があるならば、その実施が望ましいことは言うまでもありません。貴委員会が果たすべき役割は大きいはずです。

 法曹界と医療界の接点に位置する貴委員会が上記に要望した点について積極的な活動を行い、単なる個別訴訟の審理促進だけにとどまらない幅広い役割を果たすことによって、法曹界と医療界の双方が相互に貢献しあう健全な関係性がもたらされることを願ってやみません。

以上