団員リレーエッセイ弁護士の声

患者側弁護士の日々の活動

弁護士 三 枝 恵 真

1 今回は、医療過誤事案に取り組む弁護士の日常の活動について書こうと思います。私は、弁護士登録5年目、医療過誤事件が増えるようになって2年程度です。

2 患者側弁護士の活動

医療過誤事件を受任した場合、カルテを入手して分析し、医学的知見を取得、協力医の意見を聴取する中で、患者が死亡ないしは後遺症残存するに至った機序、医師の注意義務違反の有無を推測していきます。

カルテを分析する作業は、まずカルテ上の記載を判読、翻訳することが必要ですが、これがなかなか大変です。専門用語、外国語(多くは英語、たまにドイツ語)の壁に加えて、記載者のくせ字や悪筆によって判読困難な場合もよくあるのです。カルテ翻訳を請け負ってくれる機関(医療事故情報センター)もありますが、最近はなるべく自分で翻訳するようにしています。苦労しますが、翻訳するうちに診療の経過が身に染みこんできますし、医師がどこに注目して日々記載していたか、医師の思考過程を読み取ることが出来るように思います。カルテは、患者側弁護士にとって「カルテ100回」と言われるように、事件進行の最後に至るまで重要な情報の宝庫であると思っています。もっとも、そもそもカルテにきちんと書かれていない場合もあり、そのような場合は病院に説明を求めますが、説明を拒絶される場合や、こちらの知りたい内容については具体的回答がなされないこともあります。また、訴訟に至って、病院側が訴訟前とは異なる主張をすることもあります。

専門的知見の入手については、医学部図書館やネット上での文献検索サイトを利用しています。最近は、医学論文がネット上で検索出来るサイトもあり、知見の入手にとても役だっています。専門的知見とともに、類似裁判例の検索も行います。
類似事例における裁判において、どのような行為、または不作為を注意義務違反行為として構成し、それが認められたか否か、また注意義務違反を基礎づける根拠事実(患者の状態、数値など)は何であったかを調べ、自分の例に引き直して考えるという作業を行います。

その上で、協力医に専門的意見を聴取します。協力医については、まず協力してくれる医師を探すことが大変です。共同受任者からの紹介、当弁護団の団員からの紹介で医師に依頼することが多いですが、当該分野の専門医にいきなり手紙を書いて、協力を依頼することも試み始めています。

このような流れによって、当該事案の機序、医師の注意義務違反を推測していきます。
患者が得られる事実経過の情報に限りがあることや、専門性の高い分野であることから、判明しない点や推測しきれない点もありますが、共同受任者(私の場合は、先輩弁護士と組んでいることがほとんど)と話し合い、教えてもらいながら考えます。
どの事件も悩みはつきませんが、労を惜しまず調査して、真実を究明していきたいと思っています。

3 医療過誤被害者の気持ちに寄り添う努力

相談者や依頼者の話を聞いて思うのは、医師がきちんと説明することがいかに大切か、ということです。加藤良夫弁護士は、①原状回復、②真相究明、③反省謝罪、④再発防止、⑤損害賠償を「被害者の5つの願い」として指摘していますが、実際に、医療過誤被害者は、死亡や後遺症残存という不幸な結果が生じたことのみならず、医師が会ってくれない、向き合ってきちんと説明してくれない、といったことから不信感を募らせていることが多いと感じます。
これは私達弁護士にも当てはまることであり、依頼者にきちんと説明し、依頼者の気持ちをくみ取って誠実な対応をすることがとても大切だと思っています。

平成18年夏、私がはじめて提起した医療過誤訴訟が終了しました。
裁判所(東京地方裁判所)で証拠調べ後に和解案を提示されましたが、患者の素因相殺(患者の原疾患など素因について、損害の公平な分担の見地から損害額を減殺する考え)として損害額から2割弱減額された内容であったことから、原告(遺族)の意向で拒絶しました。
もっとも被告側に和解の意向が強く、最終的に原告側の提示した金額で和解することとなりました。相手は公立病院でしたが、和解条項に謝罪文言を入れることもでき(国や地方公共団体が被告の場合、謝罪文言を入れることに難色を示すと言われています)、私は依頼者にも納得してもらえると思っていました。
しかし、和解当日、依頼者には満足の表情はありませんでした。彼らは、被告側で代理人弁護士と事務担当者のみが出席していたこと、和解席上で彼らから何らの謝罪もなかったことに憤慨していました。
依頼者は、病院長や担当医が出席して面前で謝罪して欲しいと願っており、被告が文言上謝罪しただけでは納得出来ませんでした。

依頼者は、地方在住の方でしたが、裁判所の外で別れるときに「やっと息子の墓前に報告出来ます。もう私が東京に来ることはないと思います。」と言いました。
私は、医療過誤の被害にあった遺族の沈痛な気持ちについて、改めて痛感しました。

また、現在、訴訟係属中である産科事故の事案では、お母さんが、出産時に低酸素脳症となり重度の脳性麻痺となった子の成長を祈ってホームページを作成しています。
ときどきホームページをみて子どもの様子を確認し、依頼者と会った折には子どもの成長やリハビリの効果をともに喜んでいます。

患者側弁護士の活動としては、訴訟を遂行し、責任を明らかにすることが重要な役割ですが、それを通じて、依頼者がこの苦難を乗り越えていく手助けを少しでもしたいと思っています。

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