お知らせ(事件報告・提言)
「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案-第二次試案-」に関する意見書
診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案について」に関して、 下記のとおり、意見を提出いたします。
なお、下記の内容については、全て公表としてください。
医療問題弁護団
代表 弁護士 鈴 木 利 廣
(事務局)
東京都葛飾区西新小岩1-7-9西新小岩ハイツ506
福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544
FAX 03(5698)7512
ホームページ:http://www.iryo-bengo.com/
※ 本意見書に関する連絡は下記へお願いいたします。
東京都練馬区北町2-29-13 森ビル2階
きのした法律事務所 弁護士 木下正一郎
電 話 03(5921)2766
FAX 03(5921)2765
Ⅰ 背景
団体の名称 医療問題弁護団当弁護団は、東京を中心とする200名余の弁護士を団員に擁し、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動等を行い、それを通じて、患者の権利を確立し、かつ、安全で良質な医療を実現することを目的とする団体です。
Ⅱ 試案に関する意見について
○ 意見を提出する項目番号(論点別に記載)
- 組織の在り方について・・・・・・・・・・・・・2(1)①
- 診療関連死の解剖制度について・・・・・・・・・2(1)③、4(3)
- 警察に通報された事例の取り扱いについて・・・・3(4)、7(3)①
- 遺族対応について・・・・・・・・・・・・・・・4(3)
○ 意見の内容
1 組織の在り方について【意見の趣旨】
診療関連死の死因の調査や臨床経過の評価・分析を担当する組織として設置される医療事故調査委員会(仮称)(以下「委員会」という。)は、しかるべき行政機関に設置するべきである。【意見の理由】
委員会が取り扱う調査対象事件は、人間の生命という重大な法益が関わる事件である。委員会は、対象事件の調査を尽くし、その結果を医療現場に反映していくという非常に重要かつ大きな役割と責任を負うものである。
したがって、その活動は、国の予算の裏付けをもって責任の所在を明確にして為されるべきである。
この点につき、我が国における調査組織のほとんどが行政機関内に設置されている(航空・鉄道事故、労働災害事故、消費生活品製品事故、海難事故など)。
なお、かかる現状の中で、医薬品副作用被害報告については、唯一、第三者機関である独立行政法人医薬品医療機器総合機構に委託されている。医薬品等の評価について、第三者機関に調査等を委託することにより、結果として責任の所在があいまいとなり、十分な調査等が尽くされないとの批判があることを重視すべきである。
よって、当該委員会の活動は、責任の所在を明確にして行われるため、しかるべき行政機関に設置するべきである。
2 診療関連死の解剖制度について【意見の趣旨】
(1) 死因究明のため、解剖については、将来的には調査対象全例を解剖することも検討すべきである。
(2) (1)の目的達成に向けて、全国的な解剖制度の整備が必要である。
(3) 解剖に対する遺族の同意は、医療機関ではなく委員会が得るべきである。なお、前記のごとく、将来的には遺族の承諾がなくとも解剖を実施しうる制度の整備が必要である。【意見の理由】
(1)について診療関連死の死因究明において解剖所見は重要な役割を果たす。したがって、真相を明らかにし再発防止を図るためには(試案「1 はじめに」参照)、本来的には調査対象全例を解剖することが必要である。
(2)について試案2(1)③(2頁)は「監察医制度との十分な連携を図る。」としているが、現行の監察医制度はごく一部の地域において、人員設備予算とも不十分な中で運用されているにすぎない。したがって,多数の解剖事例を扱うには全国的な解剖制度の整備が必要である。
(3)について試案4(3)(4頁)は、調査対象を遺族の同意を得て解剖が行える事例としているが、死因究明における解剖所見の重要性に鑑み、当面は承諾解剖によるとしても、将来的には遺族の承諾がなくとも解剖を実施しうる行政解剖制度の整備が必要である。
なお、医療機関による事故隠蔽の危険性、遺族と医療機関との信頼関係の問題などに鑑み、解剖に対する遺族の承諾は委員会が得るべきである。
3 警察に通報された事例の取り扱いについて【意見の趣旨】
(1) 警察に通報された事例も委員会による調査対象とすべきである。
(2) 警察の捜査と委員会の調査を調整するにあたっては、委員会の調査を優先させるべきである。【意見の理由】
(1)について試案3(4)(3頁)において警察への通報がなされた事例も、以下の理由により、捜査と並行して委員会による調査を行うべきである。
① 刑事責任を追及すべき事例も、診療行為という専門性の高い分野を対象とすることに変わりなく、専門機関による原因究明が必要とされることは当然である。
② 刑事責任を追及すべき事例にも、再発防止の観点から学ぶべきことがある。むしろ多いと考えられる。ところが、捜査に始まる刑事手続上の真相究明は、個人の責任追及を主目的としており、必ずしも再発防止につながるものではない。特に、システムや組織が関与した事故の場合は、直近行為者についてだけでなく、背景事情についても調査・検討して対策を講ずる必要があり、行為者のみを処罰しても事故はなくならない。
③ 捜査中の情報開示は限定的にしか行われていないうえ、警察への届出から立件送致まで数年を要している現状がある。かかる現状の下、刑事事件の判決確定を待って、委員会による調査・検討を開始していたのでは、類似の後続事故を防ぐことができず、被害救済も大幅に遅れる。
(2)について試案7(3)①(6頁)では、警察の捜査と委員会の調査との調整を図るとされているが、その仕組みを設けるにあたっては、医療事故の特殊性・専門性から、委員会による調査を優先したものにすべきである。
すなわち、医療事故における主要な証拠は、診療記録や関係者の供述等である。これらの評価という極めて専門的な作業が調査ないし捜査の中心となる。一般の事件のように、現場での証拠収集に大勢の捜査官が必要となることは、ほとんどない。
したがって、医療事故においては、一部の悪質な事案を除き、警察の捜査を優先させる必要はない。むしろその専門性から委員会による調査が優先されるべきである。
4 遺族対応について【意見の趣旨】調査の開始から終了まで、委員会から遺族に対する十分な情報提供と精神的ケアが必要である。具体的には、以下の配慮が必要である。
① 解剖の承諾は、事故発生直後の遺族の心情に配慮し、遺族の精神的ケアを十分行いつつ取得する。
② 遺族に対する聞き取りは、遺族が把握する事実関係と遺族の疑問点を詳細に聴取する。
③ 調査の進行状況と議論の内容を、定期的にわかりやすく遺族に報告する。
④ 調査結果は遺族にわかりやすい言葉や図解をもって説明し、遺族の疑問点にできる限り丁寧に答える。【意見の趣旨】
試案4(3)(4頁)に調査の手順が掲げられているが、委員会における調査は、突然の医療事故で家族を喪った遺族の心情に配慮しつつ、十分な情報提供を行って進める必要がある。平成19年9月19日付の読売新聞記事(石原昭洋記者「事故調・海難審判庁統合」)によると、米国家運輸安全委員会(NTSB)は事故の遺族、被害者支援を業務の一つとし、精神的ケアを行う専門家を紹介したり、遺族等への情報提供を積極的に行ったりしているが、日本の既存の事故調査委員会等はこれを行ってこなかったとされる。委員会においては、NTSBの遺族・被害者支援等の仕組を参考にしつつ、【意見の趣旨】記載のとおり、調査の開始から終了まで遺族に対する十分な情報提供と遺族の精神的ケアを行う体制を構築する必要がある。以上