団員リレーエッセイ弁護士の声

院内事故調査委員会シンポで役者デビュー

弁護士 高 梨 滋 雄

少し前のことになりますが、昨年(2009年)の12月20日(日)に明治大学駿河台キャンパス、アカデミーホールにおいて「院内事故調査委員会・演劇とシンポジウム」(財団法人生存科学研究所主催、医療問題弁護団、明治大学医事法センター共催)というシンポジウムが開かれました。私はそのシンポジウムに「役者」として(!?)参加しましたので、そのお話をさせていただきます。

近年、医療機関において患者が死亡する等の医療事故が発生した場合に、院内に事故調査委員会が設置されて、事故調査が行われるようになってきました。

これは医療事故が発生した場合には、その事故を調査し事実解明を行うことが、同種事故の再発防止、医療の質の向上のために必要であることが認識されるようになってきたことによるものと考えられます。

しかし、他方において、院内事故調査委員会はもともと設置が任意であるうえ、委員会の構成、運営等の事故調査の在り方については、未だにコンセンサスが得られていない状況にあります。

そのため、院内事故調査委員会による事故調査の在り方について議論を深めるために院内事故調査委員会についてのシンポジウムが開催されたのです。

シンポジウムは第1部と第2部に分かれ、第1部では、東京近郊の病院で、75歳の男性が大腸内視鏡検査、ポリープ切除が行われた3日後に死亡したため、病院において緊急対応会議が開かれ、院内事故調査委員会が設置され事故調査が行われるというストーリーの演劇が、医療従事者や弁護士らによって演じられました。

そして、第2部では、第1部の演劇を踏まえて、医療安全に関わる医師、弁護士らのシンポジストによって院内事故調査委員会の在り方についてディスカッションが行われました。

このようにシンポジウムが演劇とディスカッションの2部構成になったのは、まだ、必ずしも一般的ではない院内事故調査委員会を、演劇という方法でシンポジウムに来ていただいた皆さまに理解していただこうとする意図からでした。

私は、この第1部の演劇に「役者」として出演することになってしまったのです。私の役は、組織防衛的な考えから事実解明のための院内事故調査委員会を開催に反対する病院の顧問弁護士でした。

普段の仕事とは全く正反対の役どころでしたが、なぜか役のイメージは掴みやすかったです。

ただ、演じるということは容易なことではありませんでした。シンポジウム開催まであと数週間になっても、出演者の演技は学芸会のレベルにも到達していない状況でした。

出演者は、弁護士や医療従事者といった多忙な人々でしたが、最後の1週間は忘年会もキャンセルして、ほぼ連日の猛けいこを行いました。あのときの同じ目標に向かって頑張る出演者の一体感は感動的で、私にとって忘れ難い記憶になっています。

シンポジウムの当日の演劇は一生懸命頑張ったつもりですが、緊張していたせいか、あまり記憶がありません。

後日、ある医療被害者の方と電話でお話したとき、次のようなことを言われました。

「先生、先日のシンポジウムを私、拝見しました。先生のお芝居も、とっても良かったです。でも、先生、安心してください。私、先生が本当はあんな悪い弁護士ではないことを分かってますから。」

シンポジウムでは、医療事故の再発防止、医療の質の向上のため院内事故調査が必要であることについては、医療安全に関わる者の共通の認識が得られていることが確認できました。次はその普及と事故調査の実効性の確保のために院内事故調査委員会の設置基準、構成等について共通の基準が策定されることが望まれるところです。

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