お知らせ(事件報告・提言)
医療事故の第三者調査制度の構築及び院内事故調査制度の 法制化を求める意見書
患者の視点で医療安全を考える連絡協議会、医療問題弁護団、患者の権利法をつくる会の連名で、内閣総理大臣及び厚生労働大臣に対して、「医療事故の第三者調査制度の構築及び院内事故調査制度の法制化を求める意見書」を提出しました。
2011(平成23)年7月26日
患者の視点で医療安全を考える連絡協議会(略称:患医連)
代 表 永 井 裕 之
参加団体:医療過誤原告の会
医療事故市民オンブズマン・メディオ
医療情報の公開・開示を求める市民の会
医療の良心を守る市民の会
陣痛促進剤による被害を考える会
(連 絡 先)
〒279‐0012 浦安市入船3-59-101
携帯:090(1795)9452 FAX 047(380)9086
e-mail:kan-iren-info@yahoogroups.jp
医療問題弁護団
代表 弁護士 鈴 木 利 廣
(事務局)
〒124-0025 東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506 福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544 FAX 03(5698)7512
患者の権利法をつくる会
事務局長 小 林 洋 二
(連 絡 先)
〒812-0054 福岡市東区馬出1-10-2
メディカルセンタービル九大病院前6階
電 話 092(641)2150 FAX 092(641)5707
e-mail:kenri-ho@gb3.so-net.jp
意見の趣旨
医療事故調査制度の確立のため、以下の制度を法制化することを求める。
- 第三者調査制度を速やかに構築すること
- 重大な医療事故(合併症と考える余地がある事例を含む。)が発生した場合に、医療機関が院内で事故調査を行う制度を法制化すること
意見の理由
第1 はじめに
わが国では、後述第2の2(1)のとおり、現在医療事故死亡例が多発しており、医療事故の再発防止・医療安全の推進を図る必要がある。そのためには、医療事故調査制度の確立が不可欠である。
医療事故が発生した場合、後述第3の1のとおり、医療機関自らが院内事故調査で、原因究明を行い、医療事故の再発防止・発生予防、及び医療事故に遭った患者・家族の被害救済を図り社会的説明責任を尽くすことが必要である。
しかし、後述第2の2(3)のとおり、いまだ医療機関での院内事故調査が十分になされている状況にはない。第三者調査制度が確立され、適切な事故調査・再発防止策の策定を行うことによって、医療事故調査の範とならなければならない。
また、全国のあらゆる医療機関で発生する医療事故の原因を究明し再発防止図り、全国レベルで医療安全を推進していくためには、やはり第三者調査制度が確立されなければならない。
したがって、医療事故調査制度の確立には、第三者調査制度及び医療機関内での事故調査制度の両方が制度として確立することが不可欠である。
第2 第三者調査制度の構築(意見の趣旨1)について
- 第三者調査制度構築に向けたこれまでの動向及び現状
(1) 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業の実施平成16年4月、日本内科学会、日本外科学会、日本法医学会、日本病理医学会の共同声明、同年9月の日本医学会主要19学会による共同声明、及び平成17年6月の日本学術会議の提言によって、医師法21条の届出制度に替わる新たな届出制度及び中立的・専門的な調査機関を創設する必要があるとの提起がなされた。このような機関を創設する「モデル」となることを企図して、平成17年9月、日本内科学会が実施主体となって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が開始された。同事業は、診療行為に関連した死亡について原因を究明し、適切な再発防止策を立て、それを医療関係者に周知することによって、医療の質と安全性を高めていくことと、評価結果を遺族及び医療機関に提供することによって医療の透明性の確保を図り、医療への信頼性の確保につなげることを調査の目的としている。モデル事業の過去5年間の成果を踏まえ、平成22年3月、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業・これまでの総括と今後に向けての提言」がまとめられた。同提言は、医師法21条の異状死届出事案について調査が困難であること等、同事業実施にあたっての現行制度上の限界が示され、モデル事業の実施によって、医療事故調査を行う中立的第三者機関が、法制度として必要であることが更に明らかになったと述べている。
(2) 厚労省における第三者調査制度創設に向けた動向と現状ア 新たな医療事故の届出制度及び中立的・専門的な調査機関の創設を求める医療界の声を受けて、モデル事業が開始された後、平成18年2月に福島県で産科医師が逮捕される事態が発生した(福島県立大野病院事件)。
これに対し医療界から、警察・検察の捜査方法などに批判の声があがった。
このような事態と批判の声を受けて、平成18年6月、衆参両院の各厚生労働委員会が、第三者による調査、紛争解決の仕組み等の検討が必要であるとの決議をした。イ そのため、厚労省では第三者調査制度の創設に向け具体的検討に入ることとなった。
平成19年3月、「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(いわゆる第一次試案)を公表し、4月には、診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会を設置した。
同年10月には、「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案」―第二次試案―を公表した。第二次試案を公表したころから、厚労省の考える第三者調査制度は医師の刑事責任追及を目的とするものに他ならず認めることはできない等という意見が一部の医師らから強行に主張され始めた。平成20年4月、「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」―第三次試案―が公表された。
第三次試案に対しては、一部の医師、学会が第二次試案に引き続き反対の意思を表明した。
これに対して、医療事故被害者の団体などは、第三次試案は第二次試案と比べて後退しているところがあるものの、原因究明、再発防止を目的とした第三者機関(「医療版事故調」とも言う。)を創設すべきとして、第三次試案に賛同する意思を表明した。同年6月には、第三者調査制度創設のための法律案の概要を示した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が公表された。
大綱案と第三次試案をベースとしたものが、第三者調査制度の厚労省案である。同案は、標準的な医療から著しく逸脱していると判断される事案につき警察へ通知することを設計していた。これに対し、医療者より強い反発があり、厚労省案は成案に至らず、平成21年の政権交代後、第三者調査制度創設の動きは進んでいない。ウ 医療事故被害者の団体で構成される「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」(患医連)は、平成22年5月12日、内閣総理大臣、両議員、各党に対し、計23,846筆の「医療事故調査機関の早期設立を求める要請署名」を提出した。そして、(1)平成22年の国会期間内の早い時期から、両院厚労委員会での真剣な討議を開始すること、(2)同年度中には「医療版事故調」に関する法案を提出し、成立させること、(3)各党のマニフェストに「医療版事故調設置」に関する政策を盛り込むことを要請した。さらに、同年11月24日、患医連は、両議員及び厚生労働省に対し、平成22年度中には「医療版事故調」に関する法案を提出し、成立させるよう要請し、岡本充功厚生労働大臣政務官と面談をした。それでもなお、第三者調査制度の構築に向けた動きは進展していない。 - 第三者調査制度の構築の必要性
(1) 多数の医療事故死亡者の存在-日本における医療事故死亡者の推計-我が国の医療機関で医療事故がどの程度起きているか、その実態は把握されていない。このような状況の下、過去に事故の発生頻度を調べることで日本の医療事故の全体像を推計するという考え方に基づき、「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」が行われ、平成18年3月に報告書がまとめられた。同研究結果に基づくと、入院患者の314人に1人が有害事象で死亡し、627人に1人が医療過誤で死亡していると推計される。この割合から、医療事故死亡数を推計することができる。厚生労働省平成20年患者調査の概要によると、平成20年9月の一般病床における退院患者数は106万3700人であるので、全国の年間退院患者数を約1276万4400人と考えることができる。これを入院患者数と同視して上記推計を基に計算すると、314分の1にあたる年間約4万0651人が有害事象で死亡し、627分の1にあたる年間約2万0358人が医療過誤で死亡している計算になる。過誤の有無を問わず、医療事故での死亡者数は、2万を大きく上回ることが予想される。日々多数の医療事故死亡が発生していると考えられる現状からすれば、医療事故の再発防止・医療安全の推進のため、医療事故調査制度を早急に法的に整備し確立していかなければならない。
(2) これまでの動きを促進・発展させる必要性前述の過去5年間のモデル事業の成果を踏まえてまとめられた提言では、医師法21条の異状死届出事案について調査が困難であること等、同事業実施にあたっての現行制度上の限界が示され、モデル事業の実施によって、医療事故調査を行う中立的第三者機関が、法制度として必要であることが更に明らかになったことに言及している。
同提言が述べるとおり、中立的な第三者機関の構築に向けた法整備を行い、法制度の下で、医療事故調査・再発防止が行われなければならない時期に来ている。また、第三者調査制度について、1年以上に渡って医療者と医療事故に遭った患者の家族等が議論して厚労省案が設計された。
これを棚晒しにして、第三者調査制度を創設しないということがあってはならない。厚労省案に不備があるというのであれば、その不備を補う議論を、医療者・医療事故に遭った患者・家族を入れた公開の検討会で行い、一日も早い第三者機関の創設を実現すべきである。
(3) 院内事故調査委員会による調査の不十分さア 院内事故調査委員会とは、診療の過程で生じた死亡事故、重度の後遺障害を残す医療事故など重大な医療事故が発生したときに、事故原因を究明し再発防止を図るために当該医療機関内に設置される、医療事故を調査する委員会をいう。医療者自身による事故調査と再発防止の取り組みとして院内事故調査は極めて重要である。イ しかし、平成22年12月7日のモデル事業の運営委員会において、委員から、大学病院や国立病院でもひどい院内事故調査報告書を作成する事例があることが指摘されている。
かかる指摘は、現在の院内事故調査委員会による調査の実情を示している。
(一般社団法人日本医療安全調査機構「第3回運営委員会議事録」 http://www.medsafe.jp/gijiroku/gijiroku_talk03.pdf)ウ また、平成21年3月1日、医療問題弁護団は、医療事故調シンポジウム「医療版事故調を検証する ~ 広尾病院事件から10年」を開催した(http://www.iryo-bengo.com/general/press/pressrelease_detail_30.php)。
同シンポジウムにおいて、平成11年に起こった東京都立広尾病院での医療事故を契機として「医療安全」の取り組みが行われてきたものの、医療事故調査における原因究明と再発防止の取り組みは、まだまだ不十分であるという実態が明らかになった。例えば、患者側が院内事故調査委員会による調査の実施を求めたにもかかわらず、○内部の事例検討会で検討済み、○異常な経過ではない、過誤はない、○過失があったことを認めているので調査は不要といった理由で、拒否されたものがあった。また、医療安全の取り組み・院内事故調査はすでに多くの病院で十分に行われていると訴えている医師が院長であった医療機関(当時)において、医療事故の報告がなされていない事例が存在した(後の調査では「隠蔽」と断定され、関係した医療従事者を糾弾する内容となっている。)。
同事例において作成された院内事故調査報告書では、病状の悪化を早期に診断できなかったのか、治療は医学的にどのようになされるべきであったのかという点への回答や具体的改善策の提示が不十分であった。エ さらに、医療機関の規模などから院内事故調査委員会を設置することができない医療機関は多数存在する。オ したがって、第三者調査制度が確立され、適切な事故調査・再発防止策の策定を行うことによって、医療事故調査の範とならなければならない。なお、医療事故の再発防止・医療安全の推進のために求められる第三者機関は、次の性格を備えたものである。(1)公正中立性:中立の立場で、手続と調査内容が公正であること
(2)透明性:公正中立に調査が行われていることが外部からみて明らかなこと
(3)専門性:事故分析の専門家によって、原因究明・再発防止を図ること
(4)独立性:医療行政や行政処分・刑事処分などを行う部署から独立していること
(5)実効性:医療安全体制づくりに、国が充分な予算措置を講じること
(4) 患者・医療者双方の第三者調査制度創設の要望第三者調査制度創設に向けた動きがない現状には、患者側だけでなく医療者も強い不満を持っている。平成22年4月からモデル事業の運営を行っている一般社団法人日本医療安全調査機構の平成23年4月22日の運営委員会において、助成金削減を理由に事業の中止を理事会が決定したことに対し、医師である運営委員より死因究明を行う第三者機関の創設実現に向けてモデル事業を継続すべきであるとの意見が相次ぎ、理事会決定が再考されることになった。
これも、医療者自身が第三者機関の創設を求めている端的な表れである。 - 第三者調査制度を早急に構築すべきこと以上の理由から、医療事故の再発防止・医療安全の推進のため、第三者調査制度を早急に構築しなければならない。この課題は、日々多数の医療事故死亡が発生していると考えられる現状からすれば、緊急の課題である。
第3 院内事故調査制度の法制化(意見の趣旨2について)について
- 院内事故調査の必要性(1) 医療機関自らが原因究明のための調査を行わない、あるいは、調査をすべて第三者に委ねるのでは、当該医療機関における医療安全の向上に結びつかない。医療機関が自ら事実関係の調査・整理を行い、原因究明・再発防止策の検討等を行い、再発防止に取り組むことが重要である。(2) また、院内事故調査委員会が原因究明を行い、調査結果に基づき医療機関が患者・家族に説明を尽くせば、患者・家族との信頼回復につながる。外部委員等を経験した弁護士の指摘でも、調査後説明を尽くし紛争の解決に至った事例が存在する(日本弁護士連合会第51回人権擁護大会シンポジウム第2分科会基調報告書「安全で質の高い医療を実現するために―医療事故の防止と被害の救済のあり方を考える―」(以下、「基調報告書」という。)132~134頁)。さらに、重大な医療事故が発生した場合、社会も医療機関が事故に対しいかなる対応をとり、どのように再発防止を図るかについて、関心を寄せている。そのため、適切に院内事故調査を実施しその結果を公表等することは、社会的な説明責任を果たすことになる。(3) 以上からすれば、院内事故調査は、原因究明を行った上で、①医療事故の再発防止・発生予防、②医療事故に遭った患者・家族の被害救済を図り社会的説明責任を尽くすために必要なものである。
- 院内事故調査委員会の設置に関する現在の法律上の位置づけ現行の法制度の下においても、以下に述べるとおり、医療機関に医療事故調査義務、院内事故調査委員会による調査義務があると認められる。
(1) 医療法施行規則に基づく医療事故調査義務ア 医療法施行規則11条4号は、病院又は患者を入院させるための施設を有する診療所の管理者は、「医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること」としている。
医療機関が、事故報告等の上記方策を講じるためには、まずは公正かつ適切な医療事故調査を行う必要がある。したがって、医療機関の管理者には、同規則11条4号によって、医療事故調査が義務づけられている。イ また、特定機能病院や国立高度専門医療センター等の事故等報告病院に対しては、同規則9条の23第1項2号、11条の2は、事故発生日から2週間以内に事故に関する報告書の作成を義務づけ、同規則12条は、事故発生日から原則として2週間以内に報告書を厚生労働大臣の登録を受けた分析事業機関に対して提出しなければならないとしている。
この事故等報告書には「事故等事案に関して必要な情報」を記載することとされており(同規則9条の23第2項5号)、医政局長平成16年9月21日付「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」によれば、「事故等事案に関して必要な情報」とは、発生要因、患者側の要因(心身状態)、緊急に行った処置、事故原因、事故の検証状況、改善策とされている。
かかる事項を事故等報告書に記載するためには、医療事故調査を実施することが不可欠である。したがって、医療法施行規則9条の23、11条の2、12条も医療事故調査が実施されることを当然の前提としている規定であるといえる。ウ なお、平成11年2月ないし平成13年1月の医療事故を取り扱った下記の地方裁判所の裁判例でも、医師・医療機関等の事故原因調査義務を認めた裁判例が存在する。(ア) 東京地裁平成16年1月30日判決(都立広尾病院事件判決)(判例タイムズ1194号243頁、判例時報1861号3頁)は、「(1)医療行為に関する情報は病院側が独占しており、しかも、病院側は当該情報にアクセスすることが容易であること、(2)医師は医療行為をつかさどる者として、一定の公的役割を期待されており、医師法21条の規定する届出義務もその一つの現れと見ることができること、(3)医療行為により悪い結果が生じた場合、当該患者が生存している場合は、医師には患者に対しその経過や原因について説明する必要があるところ、より重大な患者の死亡という結果が生じたにもかかわらず、医師が説明する義務を何ら負わないというのは不均衡であることからすれば、診療契約の当事者である病院開設者としては、患者が死亡した場合には、遺族からその求めがある以上、遺族(具体的事情に応じた主要な者)に対し、当該事案の具体的内容、保有する又は保有すべき情報の内容等に応じて、死亡に至る事実経過や死因を説明すべき義務を、信義則上、診療契約に付随する義務として負うというべきである。
さらに、上記(1)及び(2)からすれば、病院開設者において上記の説明をする前提として、診療契約の当事者である病院開設者としては、具体的状況に応じて必要かつ可能な限度で死因を解明すべき義務を、信義則上、診療契約に付随する義務として負うというべきである。」と判示する。(イ) 京都地裁平成17年7月12日判決(判例時報1907号112頁)は、「受任者である医療機関ないし医師は、診療契約上の債務ないしこれに不随する債務として、患者の治療に支障が生じる場合を除き、委任者である患者に対し、診療の内容、経過及び結果を報告する義務があるといえ、このことから、委任者である患者について医療事故が起こった場合、患者に対し、医療事故の原因を調査し、報告する義務があるといえる。」と判示している。
(2) 院内事故調査委員会による調査義務医療法施行規則11条2号では、病院又は患者を入院させるための施設を有する診療所は「医療に係る安全管理のための委員会を開催すること」としている。
医療に係る安全管理のための委員会(以下、「医療安全管理委員会」という。)について、平成14年8月30日医政発第0830001号各都道府県知事宛「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」では、「第2(2) 新省令第11条第2号に掲げる『医療に係る安全管理のための委員会』(以下「安全管理委員会」という。)とは、医療機関内の安全管理の体制の確保及び推進のために設けるものであり、次に掲げる基準を満たす必要があること。」「ウ 重大な問題が発生した場合は、速やかに発生の原因を分析し、改善策の立案及び実施並びに職員への周知を図ること。」としている。
このことからすれば、医療安全管理委員会には、少なくとも重大な事故事例については、発生の原因を分析し、改善策の立案をする委員会、すなわち院内事故調査委員会が含まれることが予定されているといえる。
(3) 院内事故調査制度の確立を定めた明文規定の不存在 - 院内事故調査制度法制化の必要性
(1) 「医療事故調査の在り方に関する意見書」に基づく要望ア 医療問題弁護団は、平成17年5月、「医療事故調査の在り方に関する意見書」(以下、「意見書(1)」という)を作成し、厚生労働大臣及び文部科学大臣に対し、下記の事項を要望した。記- 医療事故が発生した場合に、医療機関が医療法施行規則11条4号に基づき医療事故調査を実施すること、及び、発生した医療事故が重大な事故事例である場合に、医療法施行規則11条2号に基づき医療事故調査委員会を設置して医療事故調査を実施することを、全国の医療機関に対し、周知徹底するよう指導されたい。
- 厚生労働省及び文部科学省は、医療事故調査の在り方につき検討し、適切なガイドラインを作成し、これを全国の医療機関に対し、周知徹底するよう指導されたい。
(2) 医療事故情報収集等事業への事故事例報告がない医療機関の存在財団法人日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業の第9回報告書(平成19年6月27日、http://www.med-safe.jp/pdf/report_9.pdf)において、報告義務を負う医療機関(平成19年末で273施設)のうち、平成16年10月から平成19年3月までの2年半に医療事故事例の報告がゼロの施設が53施設にものぼったことが明らかにされた(同報告書16頁)。これを受けて、厚労省は、平成20年9月1日付で、事案報告を促す通知を全報告対象医療機関に送付した。当時、厚労省医療安全推進室は「安全管理が完ぺきな病院がないとは言えないが、報告すべき事例が1件もないとは考えにくい」と指摘していた(平成20年9月3日毎日新聞)。その後、医療事故情報収集等事業平成21年年報(http://www.med-safe.jp/pdf/year_report_2009.pdf)において、平成21年1月から12月までの医療事故事例報告件数が報告されている。しかし、平成21年単年度で見ても、報告義務対象医療機関全273施設のうち、報告件数がゼロの施設は61施設に上る(同年報)。以上の結果は、報告義務対象医療機関の中にも、医療事故を報告することによって、医療安全等に寄与しようとする意識が希薄な医療機関が少なからず存在することを示すものである。医療事故事例の報告すら行わない医療機関が、院内事故調査委員会による事故調査を行って、医療事故の再発防止を図ることなど期待できない。
(3) 院内事故調査実施経験のある医療機関の少なさと院内事故調査の実情基調報告書では、院内事故調査に関するアンケート調査の結果が報告されている(同398頁以下)。
同アンケート調査は、特定機能病院、医療法施行規則11条による事故等報告病院及び社団法人日本病院会の会員のうち病床数300床以上の病院合計1037施設を対象に、平成20年4月に実施されたものである。うち275施設から回答があった。同調査によれば、有効回答275のうち、4分の1を超える71施設が平成20年までに院内事故調査を行った経験すらなかった(同399頁)。また、一定の事故事例が発生した場合には院内事故調査委員会を設置して、厳格に公正性等を確保しつつ事故調査を行う必要があるところ、院内事故調査委員会に外部委員が選任されている例が少ない、委員長を病院長が務める等、問題と思われる実情が見られたと報告された(同163頁)。
(4) 合併症として医療事故調査の対象とされない事例の存在前記第2の2(3)において、異常な経過ではない、過誤はないとして、医療機関が院内事故調査を拒否する事例があることを示したが、患者側の代理人として調査活動などを行う過程で、合併症であるという理由で、院内事故調査委員会による調査を拒否されることはしばしば経験するところである。しかし、合併症と言われる事例の中には医師・医療機関の努力によって防ぎうる事例が存在する可能性があり、かかる事例に該当するか否かは調査を尽くさなければ判明し得ないことである。このように合併症と考える余地がある事例であっても、調査を行うことによって、防ぎ得る合併症を見つけ、同様の被害の再発防止・発生予防につなげることができる。
(5) 死亡事例以外の重大な事故事案の調査の必要性以上の院内事故調査委員会による調査の現状とは別の理由として、厚労省案では、医療安全調査委員会が調査の対象とする事案が死亡事案とされていることを考えなければならない。死亡に至らなかった重大な事故事案についても、適切に事故調査がなされ再発防止を図る必要があり、かかる事案に対しては院内事故調査制度の下、調査が実施されなければならない。 - 院内事故調査制度を法制化すべきこと1件の医療事故からは多数の教訓が得られ、院内で事故調査をし再発防止策を策定することは、医療安全、医療事故の再発防止・発生予防に役立つ。
平成11年以来、医療事故の再発防止・医療安全の推進及び院内事故調査の必要性が叫ばれてきた。しかし、これまで院内事故調査委員会による調査を実施するか否かは、医療機関の任意の判断に委ねられてきた。
そうしたところ、上記のとおり、院内事故調査委員会による調査に基づく医療事故の再発防止・発生予防の対策が十分に行われてきたとは言えない。かかる現状においては、第三者調査機関が設立され、同機関が適切な事故調査・再発防止策の策定を行うことによって、医療事故調査の範とならなければならない。
そして、院内の事故調査制度は、現在のモデル事業でなされているように、同機関と連携を図り、院内事故調査を充実・促進させていくものであることが必要である。したがって、重大な医療事故(合併症と考える余地がある事例を含む。)が発生した場合には、物的・人的観点から院内事故調査制度を敷くことができない医療機関を除き、院内事故調査委員会を設置し事故調査を行う院内事故調査制度を法制化すべきである。なお、院内事故調査委員会の設置方法、調査の進め方などについては、意見書(1)(http://www.iryo-bengo.com/general/press/pressrelease_detail_20.php)、または、基調報告書『第2編院内事故調査ガイドライン』を参照されたい(http://w3.nichibenren.or.jp/ja/jfba_info/organization/sympo_keynote_report.html)。
第4 結論
したがって、意見の趣旨記載のとおり、第三者調査制度を早急に構築すること、及び、重大な医療事故(合併症と考える余地がある事例を含む。)が発生した場合に、医療機関が院内で事故調査を行う制度を法制化することを求める。以上