団員リレーエッセイ弁護士の声
銀座眼科事件刑事裁判に被害者参加して
弁護士 東 晃一
銀座眼科被害対策弁護団は、銀座眼科事件の刑事裁判において、被害者参加制度を利用して活動を行いました。当弁護団は、被害救済、再発防止(特に被告の医師免許取消し)等を目指して、民事、刑事、行政の3つの観点から、いくつかの班を設けて活動しています。
私は、当弁護団内では、行政班に所属し、民事訴訟に関しては第1グループ長に任じられていて、本来は刑事裁判に積極的に関与する立場にはありませんでした。
私が行ったのは専ら「被害者参加をしたらどうですか。」と提案したことだけです。
石川団長ほか当弁護団の先生方が提案を受け入れてくださらなかったら、この活動は実現しませんでした。
また、実務的・実戦的な事柄は、富澤先生をはじめとした被害者参加班の先生方や、班が違うにもかかわらず、この活動に熱意をもって多忙な身を投じてくださった先生方、そして何よりも、忘れてしまいたい過去を思い出す辛さに耐えながら、時間を割いて参加をしてくださった被害者ご本人たちがいらっしゃらなかったら、とても進みませんでした。
銀座眼科事件の刑事手続きは、平成21年7月30日の告訴から始まりました。
立証上の問題等のためか、なかなか進展がありませんでしたが、各方面のご尽力により、ようやく翌22年12月7日、被告人の逮捕に至りました。
そして、同月27日に、50名の告訴被害者のうち5名の方について感染の原因菌の同定ができたとのことで起訴がなされ、平成23年6月23日には、さらに2名の被害者について追起訴がなされました。
初公判は、平成23年2月25日でしたが、その後、係属部がかわったり、前述の追起訴があったりという展開で、5月31日、7月19日と回を重ねました。
被告人質問が行われたのは9月1日、判決は9月28日でした。結果は、禁錮2年の実刑でした。
昨年末から今年初め頃の状況としては、民事訴訟は相当長期に及び、書面の応酬や細かい事務作業に日々追われており、かつ、被告本人と法廷において対決する機会もないままでしたし、告訴班は起訴が実現したことで活動が終了したかのように見られており、また、行政班は厚労省のあまりの手応えのなさに打つ手が見いだせないでいました。
こうした状況下で、原告(被害者)らの訴訟進行への関心が次第に薄れ、弁護団内にも疲労感が漂っているようでした。
そうした日々の中で、丸ノ内線に乗っているとき、ふと「業務上過失傷害被告事件の場合には被害者参加ができる」ということが頭に浮かびました。
被害者の方々には、被告の応訴態度などを含む裁判の進行や厚労省の対応に対して不満が鬱積している様子が垣間見えていましたから、まさにこうした思いを刑事裁判にぶつけるための制度が被害者参加であり、結果的に被告人の実刑を勝ち取ることができれば、医師免許取消しという目標にも繋がりやすいのではないかと考えました。
しかも、被害者参加をすれば、裁判に先立って刑事記録の閲覧等が可能であり、期日においては、直接、被害者自身や被害者参加弁護士から被告人などに質問をすることができますから、民事訴訟では到底出てこない多くの事実を明らかにできる可能性があります。
このことは、真相究明・再発防止にとって非常に役立つのではないかと考えました。
とはいえ、私には、単に被害者参加制度の趣旨・手続きについてわずかな知識があっただけで、実際の参加の経験はありませんでしたし、本件のように多くの被害者がいて弁護団が組まれているケースで、どのように制度を運用していくのかについては、何の資料も持ち合わせていませんでした。
また、医療刑事事件自体が珍しいものですし、それに被害者参加がなされたケースは過去に例がないのではないかとも思いました。
そこで、多少の迷いはありましたが、弁護団会議において、これを提案したところ採用され、弁護団員全員が被害者参加弁護士に就任することとなり、従前の告訴班を中心として被害者参加班が構成されると、その後は色々なことが沢山の先生方の手により目まぐるしく進んでいきました。
ここでは活動の詳細については触れることができませんが、刑事記録には、想像していた以上に悪質な事実が詳細に明記されていて、衝撃を受けました。また、特筆すべきは、被害者の方々自身が率先して、当弁護団と委任関係にある全被害者の意見調査を行い、その結果を基に当弁護団と一緒になって被告人質問や意見陳述を組み立てたことです。
刑事裁判にかける被害者の方々の熱意は大変なもので、ある被害者の方は「これで初めて私たちの裁判だという気持ちになったんです。」とおっしゃっていました。こうした熱意があればこそ、公判廷で被告人の不誠実さを白日の下に曝すことに成功し、被害者らの思いが裁判所を動かし、同種事件では数少ない実刑という結果を獲得できたのだと思います。
本稿を執筆している時点では、まだ控訴期間が経過していないので、今後刑事裁判がどのような帰趨を辿ることになるかは分かりませんが、これまでに得た結果は、当然、民事訴訟にも利用しますし、厚労省への働きかけにも大きな力となることを期待しております。
銀座眼科事件は、私が医弁に入団して初めての医療集団訴訟であり、その刑事裁判は、私が初めて被害者参加弁護士として活動した裁判でした。
様々な点で一般的な医療事件・被害者参加事件のイメージとは異なっていて、特に集団訴訟・弁護団事件において被害者参加をすること特有の問題点も痛感させられつつ、多くの方々に助けていただき、得難い経験をすることができました。以上