団員リレーエッセイ弁護士の声
日本ヘルスケア歯科学会の認証ミーティングに参加して ~患者のためってこういうことでしょ~
弁護士 木下 正一郎
過日、知人から、歯科医師の学会で行っている認証の評価にあたる外部委員を依頼された。
認証審査の会合を2013年7月21日に行うので、出席して欲しいとのことだった。
患者側で弁護活動をする弁護士が外部委員を務めることは意義があることだろうと考えて、迷わず引き受けることにした。
事前に送られてきた資料に目を通した。学会の名称は、日本ヘルスケア歯科学会。
私は初耳。進行を見ると、申請者が30分ほどのプレゼンテーションを行う。
ん?プレゼン?認証とかって書面審査じゃないの?改めて知人からの依頼メールを見ると、確かにプレゼンをすると書いてある。
また、予防歯科診療を進める最低限の基準を審査するという。
だけど、何だそれ?「研究会会員診療所のステップアップのためのガイド」というのが同封されていたが、この要件を満たしているかを評価するわけ?どういうふうに?さらには、認証評価を受けるにあたって診療所の患者にアンケート調査まですることになっている。
認証ってそこまでするの?この時点では、私には、どういう歯科治療を行う歯科医師、診療所を評価することになるのか、ちんぷんかんぷんであった。
そして、7月21日当日。申請者のプレゼンが始まるのに先だって、採点シートに基づき、チェック項目の説明を受けた。
申請者のプレゼンで、どのような理念で臨んでいるか、診療所がどのようになっているか、診療の手順が確立されているか、チーム医療の体制がとられているかなどについて報告があるので、その点に点数をつけるという説明を受けた。
この説明から、どれくらい患者のためを考えて、う蝕や歯周病の治療にあたっているのかを評価するのだろうと理解した。
しかし、一人目の申請者のプレゼンテーションで、理念、体制などの説明を始めた時点で、自分が大きな考え違いをしていたことが分かった。
この学会に集まっている歯科診療所の方たち(歯科衛生士や他のスタッフを含めたチーム体制が重要だから、歯科医師と言うのは不正確)は、患者さんの本当の願いは自分の歯で一生食事ができることなのだから、患者がう蝕や歯周病になるのを予防する診療を日常診療として行っている、あるいは行っていこうとしているのだった。
「人々がその生涯にわたって健康な歯列を維持し、快適な咀嚼と自由な会話と若さと尊厳に満ちた微笑みを失うことなく、それぞれの生活の質を高める」(学会定款第2条)ことを目的に、削って詰める歯科治療の枠から離れて、予防診療を行うという180度発想を転換したものだった。
そのような理念をもち実践をしている診療所が、自院の理念と実践を報告する(診療所や体制の報告、症例報告)プレゼンを行い、これを評価し認証の可否を決するのが、この日の認証ミーティングだったのだ。
上記のような発想が全く無かった私が、説明資料を理解できなかったのは当然で、改めて資料を読むと、メインテナンスや経過をきちんと把握していくための写真・レントゲン撮影の継続、その方法等を重視していることが分かった。
前述の「研究会会員診療所のステップアップのためのガイド」というのは、認証を受けるにあたっては、ここに記載されている一定の段階まで達している必要があるということを示すとともに、段階を踏むことによって少しずつ「ヘルスケア歯科医療」を行えるようになるという道しるべでもあるらしい。
「患者のための医療」という言葉はよく私も口にするが、病気や怪我を治療するのが医療の役割という発想から一歩も抜け出すことなく、その中でいかに患者のために医療が行われるかという考えに終始していた。
歯科医師や医師の立場からすれば、仕事のやりがいとして治療をして治ったという目に見える効果が欲しいだろう。
これに対し、患者のためには、そもそも病気にならないように予防に尽くすという姿勢は、地道で地味な試みだけど、画期的な試みだと思い、興奮を覚えた。
私は、普段、医療事故という切り口から医療の問題に触れ、患者や遺族に誠意ある対応が行われていないのを目にすることが多い。
そういう私にとって、上記のような患者のための予防診療の体制を整え一生懸命行っているというだけで、評価としては満点であり、他の評価者に比べて大甘の点数をつけまくってしまった。
この日、認証申請を行った診療所は5つ。合計点数に差はあったもののすべて認証を受けることができた。
それまでの44にプラスして認証診療所は49になった。まだまだ少ない49ではあるけれど、価値ある49。
患者のためという理念をもち、これを実践する歯科診療所が全国に増えていくことを期待する。以上