品川美容外科糸リフト被害対策弁護団が医療法人社団翔友会 品川美容外科を提訴しました(第二次訴訟)

医療問題弁護団の有志で立ち上げた品川美容外科糸リフト被害対策弁護団が、平成26年4月23日の第一次提訴に引き続き、患者40名の代理人として、溶ける糸を使用したフェイスリフト術を受けたことによる被害の救済を行うことを目的として医療法人社団翔友会 品川美容外科を第二次提訴しました。

美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現 及び安全性確保のための要望書

品川美容外科糸リフト被害対策弁護団が,美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現及び安全性確保のため,厚生労働省と消費者庁に要望書を提出しました。


要望書(厚労省)(PDF版)

要 望 書

平成26年10月30日

厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿

品川美容外科糸リフト被害対策弁護団
団 長 弁護士  三  枝  恵  真
(連絡先)
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階 
東京共同法律事務所
電話 03-3341-3133 FAX 03-3355-0445事務局長弁護士  花  垣  存  彦

美容医療に関するインフォームド・コンセント※1の実現及び安全性確保のために下記事項の実現を要望いたします。※1 インフォームド・コンセントとは、患者が医療行為を受けるにあたって、医師より当該医療行為を受けるか否かの判断をするために適切かつ十分な説明を受けた上で、患者が、医師と当該医療行為を受けることの合意をなすべきことを言う。

第1 要望の趣旨1 美容医療に関するインフォームド・コンセント実現にむけた整備

厚労省は、「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日付け医政局発0927第1号。以下、「通達」という)の内容に加え、以下の内容等を盛り込んだ指針等を整備し、周知を図っていただきたい。

(1)インフォームド・コンセントのための説明義務の徹底(通達3項関連)
美容医療における施術内容の有効性および安全性に係る説明においては、「実施予定の施術の内容、施術に付随する危険性や合併症、他に選択可能な施術方法があればその内容と利害得失、予後等について記載した説明書面を事前に交付し、同書面に基づいて丁寧に説明するべきである。」とするべきである。

(2)熟考の機会の確保(即日施術の原則禁止)(通達4項関連)
美容医療は、生命身体に対する緊急性・必要性の高い場合が考えにくく、ほとんどが即日施術の必要性のないものであるから、「原則として即日施術はせず、患者に対して十分な熟考期間を与えるべきである。」とするべきである。2 健康被害等に対する対策

厚労省は、健康被害等に関する情報を把握した場合の対応について、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に周知していただきたい。

第2 要望の理由1 前回面談後の状況について

平成26年4月23日、「品川美容外科糸リフト被害対策弁護団」と御庁との間で面談を実施した。面談に先立ち、13名の原告が、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことについては、前回面談時に報告したとおりである。

同月26日、当弁護団が再度「糸によるフェイスリフト電話相談」を実施したところ、77件の相談が寄せられ、うち70件が品川美容外科・品川スキンクリニック(以下「本件クリニック」という。)による糸によるフェイスリフトの相談であった。その後も当弁護団には断続的に相談の電話があり、平成26年10月末日現在で、本件クリニックによる糸によるフェイスリフトの相談は、面談相談の件数だけでも50名を超えている。これにより、被害者は1次提訴原告13名にとどまるものではなく、同種被害が多数発生していることが確認された。

そのため、平成26年10月30日、本件クリニックにおいて糸によるフェイスリフト術を受けて健康被害を生じた患者ら40名は、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償等請求訴訟(第二次集団訴訟)を提起した(添付資料1)。

なお、平成26年10月25日には、朝日新聞及び読売新聞において、本件クリニックにつき、記事が掲載されている(添付資料2)。

今般、美容医療サービスの安全性向上と被害の再発防止を目的として、厚生労働大臣に宛てて、再び、本要望書を提出する次第である。(1)要望の趣旨1(1)について

ア 患者が自己決定権を行使し、インフォームド・コンセントが出来るために、医師は、患者が医療行為を受けるか否かを決定するために必要な情報を与える説明義務を負う。医療法第1条の4第2項においても、インフォームド・コンセントの努力義務が規定されており、厚生労働省はその実現のために、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」(平成15年9月12日付け医政発0912001号厚生労働省医政局長通知)を定め、さらに、「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日付け医政発0927第1号厚生労働省医政局長通知)を定めている。

イ 本件クリニックにおける糸によるフェイスリフト(以下「本件リフト術」という。)は、①特殊加工された糸を直接顔面に刺入する術式であり、②その効果は限定的であって、効果持続期間は糸が吸収されるまでの3か月程度と考えられ、③痛み、脱毛等種々の合併症が生じる危険性があるものであった。
これらの事実は、患者らが本件リフト術を受けるか否かを決定しインフォームド・コンセントを形成するに際しての重要な事実であり、本件クリニックは、術前に、患者らに対して上記の事実を十分に説明するべきであった。
しかしながら、本件クリニックは、患者らに対し、上記事実を説明していないことがほとんどである。

ウ 美容医療においては、医学的見地からの必要性及び緊急性が乏しく、患 者の審美面の主観的希望を充足させることを主目的としていることから、医師は患者に対し、「実施予定の施術の内容、施術に付随する危険性や合併症、他に選択可能な施術方法があればその内容と利害得失、予後等」について具体的に説明する必要がある。
その方法については、口頭で説明するだけではなく、説明書面を事前に交付し、同書面に基づいて丁寧に説明するべきである。

エ なお、患者が手術についてのインフォームド・コンセントを形成するため の説明は、医療行為である手術の不可欠の前提であるから、当然に医業(業として医療行為を行うこと)に含まれるもので医師以外はなしてはならないことである(医師法17条)。また、通達において、美容医療サービス等の自由診療においても、医師の資格を持たない者が病状等の診断、治療方法の決定等の医行為を行うことはできないとされている。
しかるに、本件クリニックにおいては、医師資格を持たない職員が患者対応の多くを担っており、上記の趣旨が全うされているのか甚だ疑問である。

オ 以上のとおり、本件クリニックにおけるインフォームド・コンセントに 向けた説明の内容及び態様には多大な不備があるといわざるを得ない。
そして、十分な説明を受けることが出来ずに本件リフト術を受けた結果、効果がほとんど生じなかったばかりか、患者らには慢性疼痛、脱毛等の、本件リフト術に起因する合併症が発生しているのである。(2)要望の趣旨1(2)について

(1)で述べたように、美容医療においては、患者の審美面の主観的希望を充足させることを主目的としており、医学的見地からみて施術の必要性及び緊急性がないことから、即日施術を行う医学的必要性は基本的に存在しない。そのため、通常の手術・施術の場合よりも「熟考の機会」を尊重し、時間をかけてインフォームド・コンセントを形成することが可能かつ必要である。
しかるに、本件クリニックにおいては、通達が発出されたにもかかわらず、職員や医師が長時間にわたって強く勧誘し、さらに、当日中に施術を受ければ大幅な割引をするという勧誘まで行い、患者らに対し即日施術を行っていることがほとんどである。
患者が施術を受けるか否かについては、時間をかけてインフォームド・コンセントすることが可能かつ必要であることから、通常の手術・施術の場合よりも「熟考の機会」が尊重される必要があり、即日施術は原則禁止とすべきである。3 要望の趣旨2について

当弁護団がホットラインや原告らからの聴き取りで判明したところでは、患者らはいわゆる「糸によるフェイスリフト」術を受ける際に、効果の程度や合併症の適切な説明を受けなかったのみならず、施術により健康被害を生じており、早急に医療機関に対する調査、指導が必要であるところ、前回の面談において、御庁に対して、健康被害等に関する情報を把握した場合の対応について、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に示していただきたい旨お願いした。

その後、当弁護団は、患者らとともに港区保健所、新宿区保健所及び池袋保健所を訪問し、担当者と面談した。各保健所においては、書面による調査等、一定程度の調査、指導はしていただいているようであるが、立ち入り検査等のもう一歩踏み込んだ調査、指導まではされていないようである。

御庁におかれては、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に、より一層、周知していただきたい。以上

【添付資料】

資料1 訴状骨子(第二次訴訟)
資料2 新聞記事
     (平成26年10月25日付読売新聞夕刊、同日付朝日新聞夕刊)


要望書(消費者庁)(PDF版)

要 望 書

平成26年11月4日

消費者庁 内閣府特命担当大臣 有村 治子 殿

品川美容外科糸リフト被害対策弁護団
団 長 弁護士  三  枝  恵  真
(連絡先)
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階 
東京共同法律事務所
電話 03-3341-3133 FAX 03-3355-0445事務局長弁護士  花  垣  存  彦

美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現、安全性確保及び不当表示の防止のために下記事項の実現を要望いたします。

第1 要望の趣旨1 不当表示に関する告示・ガイドラインの整備

消費者庁は、美容医療機関を対象として「不当景品類及び不当表示防止法」(以下「景表法」という)上の不当表示に関する告示・ガイドラインの整備を速やかに実行すべきである。2 景表法上の不当表示に対する迅速かつ適切な対応

消費者庁は、美容医療に関する景表法上の不当表示に対し、消費者被害を多発させている問題事例を速やかに調査・把握し、迅速かつ適切な措置命令の執行を積極的に推進すべきである。3 消費者に対する注意喚起

消費者庁は、消費者たる国民に対し、消費者被害を多発させている問題事例があること、及び美容医療の特性に鑑み、美容医療に関する施術を受けるか否かは慎重に判断すべきこと、等について適宜の方法で広く周知すべきである。

第2 要望の理由1 前回面談後の状況について

平成26年4月23日、「品川美容外科糸リフト被害対策弁護団」と御庁との間で面談を実施した。面談に先立ち、13名の原告が、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことについては、前回面談時に報告したとおりである。

同月26日、当弁護団が再度「糸によるフェイスリフト電話相談」を実施したところ、77件の相談が寄せられ、うち70件が品川美容外科・品川スキンクリニック(以下「本件クリニック」という。)による糸によるフェイスリフトの相談であった。その後も当弁護団には断続的に相談の電話があり、平成26年10月末日現在で、本件クリニックによる糸によるフェイスリフトの相談は、面談相談の件数だけでも50名を超えている。これにより、被害者は1次提訴原告13名にとどまるものではなく、同種被害が多数発生していることが確認された。

そのため、平成26年10月30日、本件クリニックにおいて糸によるフェイスリフト術を受けて健康被害を生じた患者ら40名は、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償等請求訴訟(第二次集団訴訟)を提起した(添付資料1)。

なお、平成26年10月25日には、朝日新聞及び読売新聞において、本件クリニックにつき、記事が掲載されている(添付資料3)。

今般、美容医療サービスの安全性向上と被害の再発防止、不当表示の防止を目的として、内閣府特命担当大臣に宛てて、再び、本要望書を提出する次第である。2 要望の趣旨第1項について

要望の趣旨第1項は、美容医療機関を対象とする景表法上の不当表示に関する告示・ガイドラインの整備を求めるものである。

消費者庁としては、各自治体に対して積極的な景表法規制の発動を促すために、美容医療を対象とした不当表示の内容を特定する告示・ガイドラインを速やかに策定して明確な判断基準を提供すべきである。

なお、特定非営利活動法人消費者機構日本が、医療法人社団翔友会に対し、平成26年10月8日付にて、①フェイスリフトについて、つり上げ、たるみ解消等の効果が強調されていることの差止、②BMC(BeautyMembersClub)会員は料金が非会員価格に比して20%OFFになるとする表示の差止、等を求めており、本件クリニックは優良誤認表示を行っているおそれがあることも付言しておく(添付資料2)。3 要望の趣旨第2項について

要望の趣旨第2項は、美容医療に関する被害事例を速やかに調査・把握し、迅速かつ適切な措置命令の執行を求めるものである。

原告らが糸によるフェイスリフト術を受けた結果、健康被害を生じた事実経過については、平成26年4月23日付要望書及び本要望書の添付資料(訴状骨子)で記載している通りである。

これらの被害を防止するためには、消費者の判断を誤らせるような勧誘がなされていないかを監視し、そのような勧誘がなされている場合には、一定の規制をすることが、景表法の趣旨目的(1条)に鑑み、必要不可欠である。

よって、診療機関においてなされている勧誘態様(いわゆるセールストーク※2)について実態を調査・把握した上で、迅速かつ適切な措置命令の執行を求める。※2 「口頭による広告」が景表法2条4項の「広告」に含まれることについては、昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号(平成10年、同21年改正)2条2号において明示されている。4 要望の趣旨第3項について

要望の趣旨第3項は、美容医療に関する被害事例が多く存在すること、及び美容医療施術を受けるに際しては、慎重な判断が重要であることを、消費者たる国民に広く周知させることを求めるものである。

前回の面談時においても、御庁担当者から、被害事例が多く存在することは把握されているとのコメントがあったところである。また、美容医療は、通常の医療と比較して、緊急性・必要性が乏しいため、即日施術を行なう理由はない。それにも関わらず、問題事例の多くで、即日施術がなされている。

これは、美容医療機関において、即日施術をすることに強く誘引していることが原因であり、これに対する規制が重要であることは、上記第2項及び第3項で指摘したとおりである。

他方、消費者の側としても、自己防衛として、美容医療に対する正しい認識を備えておくことは重要である。

同種の被害を生みださぬよう、御庁において、正しい知識を国民に周知徹底して頂くことを求める。以上

【添付資料】

資料1 訴状骨子(第二次訴訟)
資料2 申入れ及び問合せ
     (消費者機構日本作成。HPにて公開されているもの)
資料3 新聞記事
     (平成26年10月25日付読売新聞夕刊、同日付朝日新聞夕刊)

基礎研修「訴訟編」を開催しました

石井麦生団員を講師として,

基礎研修「訴訟編」 ~訴状の書き方 ポイントとコツ~

を開催しました。

東京三弁護士会医療関係事件検討協議会が開催されました

東京三弁護士会医療関係事件検討協議会が開催されました(団員が委員として参加)

医療事故の法律相談が初回無料となりました!

これまで医療事故の法律相談をお受けするにあたり,ご相談者の方から,相談料をいただいておりました。

このたび,より一層の医療事故被害者の救済を図っていくため,

初回相談を無料で行うこととしました

是非,医療問題弁護団の医療法律相談をご利用下さい。

相談申し込みの方法は,「相談から訴訟等までの流れ」をご参照下さい。

※ メールでの相談申し込みを受け付けておりますが,メールでの相談には応じておりません。ご了承下さい。

 

「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」研究班会議が開催されました

鈴木利廣代表が研究班員を務める「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」研究班会議が開催されました。

会議概要は以下をご参照下さい。

「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」が開催され,多数の団員が参加しました

「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」で三枝恵真団員が報告を行いました。

その他,多数の団員が参加しました。

銀座眼科レーシック集団感染事件

弁護士 川見 未華

朝目覚めたときに、周りの光景がはっきりと見えたなら、どんなに心地よいだろう。

コンタクトレンズをつける労も、めがねをかける手間もなく、「自分の眼」で世界を見たい。

こうした願いを叶えてくれるのが、レーシックだ。

しかしながら、銀座眼科が引き起こした集団感染は、そうした願いを叶えるどころか、医療に対する信頼を大きく揺るがした。

2008年7月から2009年1月の間に、東京都中央区にある「銀座眼科」(院長溝口朝雄元医師,以下「元院長」という。)においてレーシック手術を受けた患者の多数に、角膜感染被害が発生した。

中央区保健所は、2009年2月25日、手術を受けた637名中感染被害者は67名、うち1名は入院したと発表した。その後判明したところでは、角膜手術における感染の合併症発生率は通常0.03%のところ、銀座眼科では約10人に1人の感染率で、実に通常の333倍であった。

集団角膜感染の発症は、元院長が、経営効率や営利を重視し、手術器具の滅菌をしなかったり、角膜を切開するブレードを使い回したりと、基本的な衛生管理を怠ったままレーシック手術を実施していたことによるものであった。被害者は、元院長のあまりに杜撰な衛生管理のために、角膜感染による強烈な痛み、視力低下、視機能低下(不正乱視、コントラスト感度低下)などに苦しめられた。

2009年3月9日、銀座眼科被害対策弁護団(以下、「弁護団」という。)は、立ち上げの記者会見を行い、電話相談を通して、被害の聴き取りを行った。最終的に、97名もの被害者が、弁護団と委任契約を締結した。

弁護団は、活動目的として、被害者の方々とともに、被害回復及び再発防止を掲げ、活動の3本柱として、①民事訴訟(損害賠償請求)・示談交渉、②刑事手続(告訴・告発等)、③行政(医師免許取消の要請等)を据えて活動を進めてきた。

被害者・弁護団員が一丸となって活動を積み重ね、得られた成果は以下のとおりである。

①民事訴訟では、和解により、これまで後遺障害として賠償されることのなかった被害症状(コントラスト感度の低下)の賠償を含む金銭の支払いを受けることができた。この成果は、その分野の専門家医師の方々のご指導とご助力の賜物であった。

②刑事手続では、業務上過失傷害罪で起訴された元院長の裁判手続に、犯罪被害者として参加し(被害者参加制度)、公判廷において、被害者の方々3名から元院長に対して質問をする機会を得たほか、刑事記録により明らかになった事実は、原因究明に大きく寄与した。元院長は、禁固2年の実刑となった。

③行政面では、医師免許取消の要請を行った。この要請は、弁護団が実施した被害者アンケートにおいて、9割以上の被害者が望んでいたものであった。他方、医療過誤を理由として医師免許を取り消した例は把握できた限りでは1件であり、度重なる要望書提出にも行政の反応は薄いように思われたが、2013年9月18日、元院長の医師免許を取り消す旨の処分が下された。

弁護士1年目で途中から入団した私は、この弁護団活動において、諸先輩方が知恵を絞り、工夫を凝らし、時間を惜しみなく費やして数々の難題に立ち向かう姿を目の当たりにした。事件の取り組み方をはじめ、学ぶところが本当に多かった。

また、私にとって、はじめて医療被害者の方々と接した事件でもあった。

被害者の方々は、普段は優しく穏やかでも、被害の話になると一変して険しい表情になり、激しい怒りを抑えながら語り出した。

「被害者の生の声」に触れ、私はとまどった。どのように反応してよいものか、わからなかったのだ。同情ばかりするのも違う気がするし、かといって、元院長の悪口ばかり言っても事態が好転するわけでもない。

結局、ひたすら神妙な表情で、被害者の方々の声に耳を傾けるしかなかった。

実際に被害にあっていない人間に、本当の被害のつらさなどわかるはずがない。だからせめて、被害者の方々の話を何回でもじっくり聞いて、しっかりその声を受け止めようと思った。

被害者の方々の声を聞いて強く感じたことは、医療に対する信頼の崩壊だった。

角膜感染で激痛に襲われたとき、自分の目がどうなってしまうのかと、恐怖を感じたに違いない。目覚める度に、自分の目は見えているか、視力が失われていないかと、不安でいっぱいの朝を迎えていたに違いない。

鮮明な視界を求めてレーシック手術を受けたにもかかわらず、視力を奪われる恐怖を味わうことになってしまったのであるから、医療に対する絶望は、大変なものであっただろう。

このような体験をした方々は、たとえ元院長ではなかったとしても、再度レーシック手術を受けたいと思うだろうか。あるいは、レーシックではなくても、何らかの眼の疾患にかかったとき、眼科医に自分の目を委ねることに、抵抗を感じないのだろうか。

不運にも、ある一人の医師の杜撰な医療行為を受けてしまったことにより、今後、安心して医療を受けることができないことになるのであれば、こんなに残念で悔しいことはないと思った。

被害者の方々が、健康な状態を取り戻し、今後、安心して医療を受けられるようになってほしい。そう願いながら、弁護団活動に取り組んだ。

インターネットでいろいろな情報を得ることができる時代になった。銀座眼科も、インターネットにおいて大きく宣伝し、集客していた。割引クーポンに惹かれて銀座眼科に来院した患者も少なくなかった。中には、価格につられて銀座眼科を選んだ自分を責め続けた方もいた。

しかし、いくら何でも、必要な衛生管理すら怠る医師がいるなど考えられない。低価格は医師の誠実な努力によるもので、安全な医療を提供してくれるという信頼があったからこそ、銀座眼科を選んだのだ。

銀座眼科事件は、こうした患者の信頼を根底から裏切った。被害を受けた方にとっては、「ある特殊な医師による杜撰な医療行為による被害」と割り切ることなどできず、医療そのものに対する信頼を喪失するほどの出来事だったに違いない。

営利にばかり目を奪われ、患者の信頼を踏みにじるような医療行為の責任は、きわめて重大である。

失った信頼を取り戻すのは、難しい。

被害回復だけでなく、再発防止、すなわち、今後の医療の信頼確保のための活動も重要なのだと痛感する。

銀座眼科事件では、異常な医療行為を行った医師の責任を認めさせ、刑事罰を身をもって受けさしめ、医師免許取消という医師生命を断ち切る解決を得た。こうした成果は、元院長が再び同じ過ちを犯すことを防止する効果(特別予防)にとどまらず、あらゆる眼科医に対して、衛生管理の大切さを再認識させる効果(一般予防)をも有するものであっただろう。加えて、医療行為のあり方を再考させ、営利化しビジネス化した医療に対する警鐘を鳴らしたようにも感じている。

私が、この弁護団活動を通して、被害者の方々、ひいては国民の医療に対する信頼回復に少しでも貢献できたのならば、本当にうれしいことだと思う。

医療が必要でない人はいない。安全な医療が提供されることは、誰しも共通の願いのはずである。

患者が安心して医療を受けられるようになるために、どんなことができるのかを考えながら、今後も弁護士としての活動を続けていきたい。以上

11月8日(土)「患者の権利宣言30周年記念シンポジウム〜医療被害・薬害防止と医療基本法~」を開催しました

患者の権利宣言30周年記念シンポジウム

〜医療被害・薬害防止と医療基本法~

医療被害・薬害の実態は?なぜ起こるのか?どうすれば防げるのか?

各シンポジストの報告・提言を基に,医療被害・薬害防止のために,どのような制度をつくれば良いのか,制度を整備するために医療基本法はどうあるべきかを考え,医療者や被害者の主体的な取り組みや参加を医療被害・薬害防止につなげるディスカッションを行います。

患者の権利宣言から30年の今年,みんなで考えていきましょう。

日時 11月8日(土)14時〜17時

場所 中央大学駿河台記念館3階370号室(東京都千代田区神田駿河台3-11-5)

参加費 無料

 

シンポジスト 木村壮介氏(日本医療安全調査機構事務局長)

永井裕之氏(患者の視点で医療安全を考える連絡協議会代表)

隈本邦彦氏(医療事故防止・患者安全推進学会代表理事)

花井十伍氏(全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人)

鈴木利廣氏(患者の権利法をつくる会常任世話人)

コーディネーター 久保井摂(NPO法人患者の権利オンブズマン理事長)

 

主催 患者の権利法をつくる会,医療問題弁護団

共催 医療事故防止・患者安全推進学会

患者の権利オンブズマン全国連絡委員会

患者の視点で医療安全を考える連絡協議会

全国薬害被害者団体連絡協議会

薬害オンブズパースン会議

 

お問い合わせ先:患者の権利法をつくる会

〒812-0054  福岡市東区馬出1丁目10番2号

メディカルセンタービル九大病院前6F http://kenriho.org

TEL:092-641-2150/FAX:092-641-5707/E-mail:kenri-ho@gb3.so-net.ne.jp

10月19日(日) シンポジウム「【考えよう「医療基本法」】〜日本医師会の具体的提言を受けて〜」が開催されました

当弁護団団員も参加して,下記シンポジウムが開催されました。

【考えよう「医療基本法」】

〜日本医師会の具体的提言を受けて〜

 

日時 10月19日(日)14時〜17時

場所 中央大学駿河台記念館370号室

(JRお茶ノ水駅聖橋口、東京メトロ新御茶ノ水駅徒歩3分)

参加費 無料

主催 患者の声協議会

東京大学医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チーム

患者の権利法をつくる会

 

私たち主催三団体は、医療の憲法としての「医療基本法」制定の必要について一致し、2012年4月に「医療基本法共同骨子案」を発表、その早急な制定を求めてきました。一方、日本医師会も、医療提供者の立場から検討を進め、本年4月に、医事法関係検討委員会が「『医療基本法』の制定に向けての具体的提言(最終報告)」を答申しています。

もはや、医療基本法は「必要性」でなく「具体的な内容」を議論する段階になりました。

今回、日本医師会から、「具体的提言」をまとめた委員会の長である鈴木勝彦さん、常任理事である今村定臣さんをシンポジストに迎え、主催三団体の「共同骨子案」との共通点・相違点を議論することを通して、あるべき「医療基本法」の姿を考えていきます。

この議論に、あなたも是非、参加して下さい。

 

Program

基調報告「日医案と三団体共同骨子の共通点・相違点」

前田哲兵氏(H−PAC医療基本法制定チーム:弁護士)

シンポジスト

今村定臣氏(日本医師会常任理事)

鈴木勝彦氏(日本医師会医事法関係検討委員会委員長)

伊藤雅治氏(患者の声協議会:全国訪問看護事業協会会長)

高島尚子氏(H−PAC医療基本法制定チーム:日本看護協会)

小林洋二氏(患者の権利法をつくる会:弁護士)

コーディネーター

埴岡健一氏(患者の声協議会:東京大学公共政策大学院特任教授)

 

お問い合わせ先:患者の権利法をつくる会

〒812-0054  福岡市東区馬出1丁目10番2号

メディカルセンタービル九大病院前6F http://kenriho.org

TEL:092-641-2150/FAX:092-641-5707/E-mail:kenri-ho@gb3.so-net.ne.jp