お知らせ(事件報告・提言)
美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現 及び安全性確保のための要望書
品川美容外科糸リフト被害対策弁護団が,美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現及び安全性確保のため,厚生労働省と消費者庁に要望書を提出しました。
要 望 書
平成26年10月30日
厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿
品川美容外科糸リフト被害対策弁護団
団 長 弁護士 三 枝 恵 真
(連絡先)
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階
東京共同法律事務所
電話 03-3341-3133 FAX 03-3355-0445事務局長弁護士 花 垣 存 彦
美容医療に関するインフォームド・コンセント※1の実現及び安全性確保のために下記事項の実現を要望いたします。※1 インフォームド・コンセントとは、患者が医療行為を受けるにあたって、医師より当該医療行為を受けるか否かの判断をするために適切かつ十分な説明を受けた上で、患者が、医師と当該医療行為を受けることの合意をなすべきことを言う。
第1 要望の趣旨1 美容医療に関するインフォームド・コンセント実現にむけた整備
厚労省は、「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日付け医政局発0927第1号。以下、「通達」という)の内容に加え、以下の内容等を盛り込んだ指針等を整備し、周知を図っていただきたい。
(1)インフォームド・コンセントのための説明義務の徹底(通達3項関連)
美容医療における施術内容の有効性および安全性に係る説明においては、「実施予定の施術の内容、施術に付随する危険性や合併症、他に選択可能な施術方法があればその内容と利害得失、予後等について記載した説明書面を事前に交付し、同書面に基づいて丁寧に説明するべきである。」とするべきである。
(2)熟考の機会の確保(即日施術の原則禁止)(通達4項関連)
美容医療は、生命身体に対する緊急性・必要性の高い場合が考えにくく、ほとんどが即日施術の必要性のないものであるから、「原則として即日施術はせず、患者に対して十分な熟考期間を与えるべきである。」とするべきである。2 健康被害等に対する対策
厚労省は、健康被害等に関する情報を把握した場合の対応について、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に周知していただきたい。
第2 要望の理由1 前回面談後の状況について
平成26年4月23日、「品川美容外科糸リフト被害対策弁護団」と御庁との間で面談を実施した。面談に先立ち、13名の原告が、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことについては、前回面談時に報告したとおりである。
同月26日、当弁護団が再度「糸によるフェイスリフト電話相談」を実施したところ、77件の相談が寄せられ、うち70件が品川美容外科・品川スキンクリニック(以下「本件クリニック」という。)による糸によるフェイスリフトの相談であった。その後も当弁護団には断続的に相談の電話があり、平成26年10月末日現在で、本件クリニックによる糸によるフェイスリフトの相談は、面談相談の件数だけでも50名を超えている。これにより、被害者は1次提訴原告13名にとどまるものではなく、同種被害が多数発生していることが確認された。
そのため、平成26年10月30日、本件クリニックにおいて糸によるフェイスリフト術を受けて健康被害を生じた患者ら40名は、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償等請求訴訟(第二次集団訴訟)を提起した(添付資料1)。
なお、平成26年10月25日には、朝日新聞及び読売新聞において、本件クリニックにつき、記事が掲載されている(添付資料2)。
今般、美容医療サービスの安全性向上と被害の再発防止を目的として、厚生労働大臣に宛てて、再び、本要望書を提出する次第である。2(1)要望の趣旨1(1)について
ア 患者が自己決定権を行使し、インフォームド・コンセントが出来るために、医師は、患者が医療行為を受けるか否かを決定するために必要な情報を与える説明義務を負う。医療法第1条の4第2項においても、インフォームド・コンセントの努力義務が規定されており、厚生労働省はその実現のために、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」(平成15年9月12日付け医政発0912001号厚生労働省医政局長通知)を定め、さらに、「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平成25年9月27日付け医政発0927第1号厚生労働省医政局長通知)を定めている。
イ 本件クリニックにおける糸によるフェイスリフト(以下「本件リフト術」という。)は、①特殊加工された糸を直接顔面に刺入する術式であり、②その効果は限定的であって、効果持続期間は糸が吸収されるまでの3か月程度と考えられ、③痛み、脱毛等種々の合併症が生じる危険性があるものであった。
これらの事実は、患者らが本件リフト術を受けるか否かを決定しインフォームド・コンセントを形成するに際しての重要な事実であり、本件クリニックは、術前に、患者らに対して上記の事実を十分に説明するべきであった。
しかしながら、本件クリニックは、患者らに対し、上記事実を説明していないことがほとんどである。
ウ 美容医療においては、医学的見地からの必要性及び緊急性が乏しく、患 者の審美面の主観的希望を充足させることを主目的としていることから、医師は患者に対し、「実施予定の施術の内容、施術に付随する危険性や合併症、他に選択可能な施術方法があればその内容と利害得失、予後等」について具体的に説明する必要がある。
その方法については、口頭で説明するだけではなく、説明書面を事前に交付し、同書面に基づいて丁寧に説明するべきである。
エ なお、患者が手術についてのインフォームド・コンセントを形成するため の説明は、医療行為である手術の不可欠の前提であるから、当然に医業(業として医療行為を行うこと)に含まれるもので医師以外はなしてはならないことである(医師法17条)。また、通達において、美容医療サービス等の自由診療においても、医師の資格を持たない者が病状等の診断、治療方法の決定等の医行為を行うことはできないとされている。
しかるに、本件クリニックにおいては、医師資格を持たない職員が患者対応の多くを担っており、上記の趣旨が全うされているのか甚だ疑問である。
オ 以上のとおり、本件クリニックにおけるインフォームド・コンセントに 向けた説明の内容及び態様には多大な不備があるといわざるを得ない。
そして、十分な説明を受けることが出来ずに本件リフト術を受けた結果、効果がほとんど生じなかったばかりか、患者らには慢性疼痛、脱毛等の、本件リフト術に起因する合併症が発生しているのである。(2)要望の趣旨1(2)について
(1)で述べたように、美容医療においては、患者の審美面の主観的希望を充足させることを主目的としており、医学的見地からみて施術の必要性及び緊急性がないことから、即日施術を行う医学的必要性は基本的に存在しない。そのため、通常の手術・施術の場合よりも「熟考の機会」を尊重し、時間をかけてインフォームド・コンセントを形成することが可能かつ必要である。
しかるに、本件クリニックにおいては、通達が発出されたにもかかわらず、職員や医師が長時間にわたって強く勧誘し、さらに、当日中に施術を受ければ大幅な割引をするという勧誘まで行い、患者らに対し即日施術を行っていることがほとんどである。
患者が施術を受けるか否かについては、時間をかけてインフォームド・コンセントすることが可能かつ必要であることから、通常の手術・施術の場合よりも「熟考の機会」が尊重される必要があり、即日施術は原則禁止とすべきである。3 要望の趣旨2について
当弁護団がホットラインや原告らからの聴き取りで判明したところでは、患者らはいわゆる「糸によるフェイスリフト」術を受ける際に、効果の程度や合併症の適切な説明を受けなかったのみならず、施術により健康被害を生じており、早急に医療機関に対する調査、指導が必要であるところ、前回の面談において、御庁に対して、健康被害等に関する情報を把握した場合の対応について、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に示していただきたい旨お願いした。
その後、当弁護団は、患者らとともに港区保健所、新宿区保健所及び池袋保健所を訪問し、担当者と面談した。各保健所においては、書面による調査等、一定程度の調査、指導はしていただいているようであるが、立ち入り検査等のもう一歩踏み込んだ調査、指導まではされていないようである。
御庁におかれては、保健所による立ち入り検査を含めた具体的対応策を各都道府県、保健所設置市及び特別区に、より一層、周知していただきたい。以上
【添付資料】
資料1 訴状骨子(第二次訴訟)
資料2 新聞記事
(平成26年10月25日付読売新聞夕刊、同日付朝日新聞夕刊)
要 望 書
平成26年11月4日
消費者庁 内閣府特命担当大臣 有村 治子 殿
品川美容外科糸リフト被害対策弁護団
団 長 弁護士 三 枝 恵 真
(連絡先)
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階
東京共同法律事務所
電話 03-3341-3133 FAX 03-3355-0445事務局長弁護士 花 垣 存 彦
美容医療に関するインフォームド・コンセントの実現、安全性確保及び不当表示の防止のために下記事項の実現を要望いたします。
第1 要望の趣旨1 不当表示に関する告示・ガイドラインの整備
消費者庁は、美容医療機関を対象として「不当景品類及び不当表示防止法」(以下「景表法」という)上の不当表示に関する告示・ガイドラインの整備を速やかに実行すべきである。2 景表法上の不当表示に対する迅速かつ適切な対応
消費者庁は、美容医療に関する景表法上の不当表示に対し、消費者被害を多発させている問題事例を速やかに調査・把握し、迅速かつ適切な措置命令の執行を積極的に推進すべきである。3 消費者に対する注意喚起
消費者庁は、消費者たる国民に対し、消費者被害を多発させている問題事例があること、及び美容医療の特性に鑑み、美容医療に関する施術を受けるか否かは慎重に判断すべきこと、等について適宜の方法で広く周知すべきである。
第2 要望の理由1 前回面談後の状況について
平成26年4月23日、「品川美容外科糸リフト被害対策弁護団」と御庁との間で面談を実施した。面談に先立ち、13名の原告が、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことについては、前回面談時に報告したとおりである。
同月26日、当弁護団が再度「糸によるフェイスリフト電話相談」を実施したところ、77件の相談が寄せられ、うち70件が品川美容外科・品川スキンクリニック(以下「本件クリニック」という。)による糸によるフェイスリフトの相談であった。その後も当弁護団には断続的に相談の電話があり、平成26年10月末日現在で、本件クリニックによる糸によるフェイスリフトの相談は、面談相談の件数だけでも50名を超えている。これにより、被害者は1次提訴原告13名にとどまるものではなく、同種被害が多数発生していることが確認された。
そのため、平成26年10月30日、本件クリニックにおいて糸によるフェイスリフト術を受けて健康被害を生じた患者ら40名は、医療法人社団翔友会を被告として、東京地方裁判所に損害賠償等請求訴訟(第二次集団訴訟)を提起した(添付資料1)。
なお、平成26年10月25日には、朝日新聞及び読売新聞において、本件クリニックにつき、記事が掲載されている(添付資料3)。
今般、美容医療サービスの安全性向上と被害の再発防止、不当表示の防止を目的として、内閣府特命担当大臣に宛てて、再び、本要望書を提出する次第である。2 要望の趣旨第1項について
要望の趣旨第1項は、美容医療機関を対象とする景表法上の不当表示に関する告示・ガイドラインの整備を求めるものである。
消費者庁としては、各自治体に対して積極的な景表法規制の発動を促すために、美容医療を対象とした不当表示の内容を特定する告示・ガイドラインを速やかに策定して明確な判断基準を提供すべきである。
なお、特定非営利活動法人消費者機構日本が、医療法人社団翔友会に対し、平成26年10月8日付にて、①フェイスリフトについて、つり上げ、たるみ解消等の効果が強調されていることの差止、②BMC(BeautyMembersClub)会員は料金が非会員価格に比して20%OFFになるとする表示の差止、等を求めており、本件クリニックは優良誤認表示を行っているおそれがあることも付言しておく(添付資料2)。3 要望の趣旨第2項について
要望の趣旨第2項は、美容医療に関する被害事例を速やかに調査・把握し、迅速かつ適切な措置命令の執行を求めるものである。
原告らが糸によるフェイスリフト術を受けた結果、健康被害を生じた事実経過については、平成26年4月23日付要望書及び本要望書の添付資料(訴状骨子)で記載している通りである。
これらの被害を防止するためには、消費者の判断を誤らせるような勧誘がなされていないかを監視し、そのような勧誘がなされている場合には、一定の規制をすることが、景表法の趣旨目的(1条)に鑑み、必要不可欠である。
よって、診療機関においてなされている勧誘態様(いわゆるセールストーク※2)について実態を調査・把握した上で、迅速かつ適切な措置命令の執行を求める。※2 「口頭による広告」が景表法2条4項の「広告」に含まれることについては、昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号(平成10年、同21年改正)2条2号において明示されている。4 要望の趣旨第3項について
要望の趣旨第3項は、美容医療に関する被害事例が多く存在すること、及び美容医療施術を受けるに際しては、慎重な判断が重要であることを、消費者たる国民に広く周知させることを求めるものである。
前回の面談時においても、御庁担当者から、被害事例が多く存在することは把握されているとのコメントがあったところである。また、美容医療は、通常の医療と比較して、緊急性・必要性が乏しいため、即日施術を行なう理由はない。それにも関わらず、問題事例の多くで、即日施術がなされている。
これは、美容医療機関において、即日施術をすることに強く誘引していることが原因であり、これに対する規制が重要であることは、上記第2項及び第3項で指摘したとおりである。
他方、消費者の側としても、自己防衛として、美容医療に対する正しい認識を備えておくことは重要である。
同種の被害を生みださぬよう、御庁において、正しい知識を国民に周知徹底して頂くことを求める。以上
【添付資料】
資料1 訴状骨子(第二次訴訟)
資料2 申入れ及び問合せ
(消費者機構日本作成。HPにて公開されているもの)
資料3 新聞記事
(平成26年10月25日付読売新聞夕刊、同日付朝日新聞夕刊)