団員リレーエッセイ弁護士の声
派手なネット医療広告は被害へと続く落とし穴(宮城 朗)
1.こんなインターネット医療広告に御注意を!
最近は,スマートフォンやパソコンを通じてネット上で医療広告を見ることも多くなりました。例えば,こんな広告を御覧になったことがないでしょうか。こんな広告を御覧になって受診を検討しているならば,少し立ち止まって慎重に検討する必要があります。
- 「絶対安心安全な治療です。」,「術後の痛みも,副作用もありません。」
- 「国内最高峰の水準」,「世界が認めた治療法」
- 「国内で唯一,世界最先端の**を導入。」
- 「過去の治療実績累計**万人以上」
- 「知事の許可を取得した病院です。」
- 「患者さんの満足度96%」
- 何の説明もない術前・術後の写真の掲載。
- 「2週間で90%以上の患者さんに治療効果が認められています。」
- (※TV・雑誌等の)「**で紹介されました。」,「歌手,モデル,タレントの方が多数来院されています。」
- 「施術料金5万円~」,「お試しのプチ整形5000円~」
- 「期間限定キャンペーン実施中。今なら半額で施術可能。」
- 「**というような症状の方は御注意下さい。***(※疾患名)かもしれません。その場合,5年以上治療を受けずに放置した患者さんの◯%が亡くなっています。」
これらのような医療広告は,厚労省医療広告ガイドラインで問題があるとされています。こんな広告を見て受診した患者が,必要の無い治療,症状に合わない治療に強引に引き込まれ,不当に高額な治療費を請求される,術後合併症に悩まされる,本来受けるべき早期治療の機会を失わせる等の被害が多発していたからです。その多くが最初のきっかけとして,インターネット・雑誌・折込みチラシ等で誘引された事例であることが,最近の医療法改正による広告規制強化に繋がりました。
2.広告被害の具体例,その原因は?
このように医療広告を発端とする医療被害は,例えば美容医療,歯科診療の一部(インプラント・審美歯科),標準治療以外の癌治療等,いわゆる「自由診療」分野において多発しています。
通常の保険診療では,診療報酬の請求は厳格な基準に基づいて審査され,医療機関が得られる利幅が限定されているため,このような問題は起こりにくいのですが,自由診療では医療機関と患者さんが合意すれば天井知らずの診療費を設定することも可能なので,利幅が非常に大きくなり得ます。
同種被害相談の傾向を見ると,一部の不心得な医療機関では,利潤追求が優先され,集客効果の見込める派手な虚偽誇大広告で患者を集め,治療の必要のない患者でも説得して治療を受けさせる,初診当日に契約させて考える暇を与えない,施術内容もなるべく高額な方向に誘導する等の傾向が確かに見て取れます。そうすると,必要性が無い,症状に合わない治療の実施と,多数集めた患者をさばくために知識・経験不足の医師でも現場投入する等の傾向により,術後の健康被害を多発させるという悪循環が生ずるおそれも生じます。
健康面の実害について最も心配なのは癌治療の領域です。「手術・抗がん剤・放射線などの標準治療では助からない。」,「他の医療機関で見放された多くの患者さんが助かっています。」,「**療法では,手術も不要,吐き気・脱毛などの副作用もありません。」等々,良いことばかりを並べられれば,進行癌で悩んでいる患者さんや御親族が惹きつけられるのは当然です。ネット上,様々なものが紹介されていて,例えば温熱療法,高濃度ビタミンC投与,免疫療法,遺伝子治療,樹状細胞,NK細胞等々です。これら癌治療のほとんどは,非常に高額な料金が設定されています。他分野では,あまりの高額診療には二の足を踏むはずですが,救命を強く望む患者・家族の心理としては,「これだけ費用をかけた特別の治療なのだから大きな効果があるに違いない。」と逆に信用してしまいます。
もちろん,医療従事者でもない身で,標準治療以外の治療法が全て効かないなどと言うつもりはありません。現時点では標準治療外の治療法でも,症例・治療実績の集積,治験の過程を経て将来的に標準治療に入ることはあり得るでしょう。しかし,患者側がはっきり認識しておかなければならないのは,標準治療以外の治療法は,現時点では治療効果とリスクについて専門医学会のコンセンサスが確立していない冒険的治療であるということです。標準治療を早期に開始していれば助かったかもしれない患者が,治療開始の遅れによって助からなくなる危険性もあります。
3.被害を発生させる医療広告の問題点
冒頭に挙げたような広告文句には,何故患者さんが騙される危険があるのでしょうか?幾つかの解りやすい例について説明します。
「絶対安心安全な治療です。」は,まともな医療機関であれば,絶対に言ってはいけない広告文句です。あらゆる医療行為は,身体や健康に対するリスクを伴います。ただ,怪我や病気を放置することによるリスクよりも,治療を行うリスクの方がはるかに小さいために治療を選択するということです。
「国内最高峰の水準」, 「患者さんの満足度96%」等は,広告主である医療機関が主張しているだけで,客観的に確認する方法が無いため許されません。
「知事の許可を取得した病院です。」は,全ての医療機関に当てはまることで,特別なことではありません。
「2週間で90%以上の患者さんに治療効果が認められています。」という広告は,仮に本当に過去にそのような患者が存在したとしても,患者の身体と症状の個別性から,他の患者に対して同様の治療行為を行ったとしても,同じ効果が得られる保障はないため,このような個別の治療効果を謳うことは許されません。
「**で紹介されました。」や著名人の通院歴等は,本当に治療内容が優れているからではなく,権威付けの印象操作によって他の医療機関より優れていると誤解させる広告手法であるため信用できません。
術前・術後写真の掲載は,画像というインパクトの強い方法で治療効果を印象付ける広告手法であり,デジタル加工・撮影条件操作も容易ですから問題があります。
「施術料金5万円~」等は,最低料金だけを挙げて集客している点が問題です。実際に5万円で済むと思って受診したら,色々なオプション追加で,100万円以上になったという例も少なくありません。
「5年以上,治療を受けずに放置した患者さんの◯◯%が亡くなっています。」は,一般人の一定の疾患に対する恐怖心を煽ることによって受診を促す広告手法であり,信頼に値しません。
4.結びとして
近時は,医療に限らず,多くの人がスマホの小さな画面だけを見て限られた情報で商品・サービスにアクセスすることが多くなっていますが,「ネット広告は危険が一杯」というのが実情ですので,冒頭に挙げたような欺瞞的な広告手法を取っている医療機関は基本的に信用しない方が安全です。そして,患者さんの方も,専門医学会や大規模医療機関のサイト等で客観的な情報を豊富に集める,担当医から十分な説明を受ける等により,冷静に判断することが必要でしょう。
更に,医療広告以外でも,「口コミサイト」,「ランキングサイト」,個人のブログやSNS等でも,背景に特定医療機関との経済的な繋がりが存在し,事実上の医療広告として機能している場合が少なくないということにも注意が必要です。