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群馬大学病院肝臓手術被害対策弁護団の 発足と活動について

弁護士 工藤 杏平

1 群馬大学病院肝臓手術被害対策弁護団の概要と発足

群馬大学病院肝臓手術被害対策弁護団(以下「当弁護団」といいます。)は、医療問題弁護団(東京)に所属する有志の弁護士により、平成27年2月初旬、群馬大学医学部附属病院(以下「病院」といいます。)第二外科における腹腔鏡下肝切除術の手術関連死亡が8例発生した件、及び開腹手術の手術関連死亡が10例発生した件、これら一連の事件(以下、総称して「本件」といいます。)につき、被害救済と再発防止を目的として結成されました。

弁護団結成以来、複数人のご遺族(患者)の方から受任をし、病院側とは独立した調査(術中ビデオを含むカルテ等診療記録の分析、医学的知見及び裁判例等の収集と分析、専門医への相談と意見聴取等)を進めており、現在も調査継続中です。

また、病院の特定機能病院の承認に関して厚労省への申入れをするなど、関連する諸活動も積極的に行っております。

2 病院側の対応について

病院は、平成27年3月、腹腔鏡下肝切除術の手術関連死亡8例につき、いずれも過失があったことを明記した最終報告書を発表しました。しかし、同年4月、病院の事故調査委員会における検討体制が不十分であったこと等を理由として、病院の組織的な問題点を総合的に検証する委員会を新たに発足させると発表しました。

また、執刀医から反論書面が提出されていたことも明らかとなりました。

病院の最終報告書には、問題点の把握や再発防止策について、賛同ないし積極評価できる部分もあるものの、弁護団としては、調査・解明が未だ不十分であり、開腹手術事案の調査も未了である段階において、腹腔鏡事案だけを切り離して「最終」報告とするのは、時期尚早であり適切ではないと考えていました。そのため、再調査を強く要望していたところでした。上記の検証委員会の立ち上げを受け、今後、病院側がどのような検証結果を発表するのか注視していきたいと考えています。

3 今後の活動方針について

弁護団としては、今後、次のような方針で活動を進めていくことを考えています。

  1. 当事者(執刀医及び診療科長)によるご遺族に対する直接の説明の実現
  2. 病院で平成17年に起きた生体肝移植の問題に遡った検証の申入れ及び検証結果の報告の実現
  3. 開腹手術事案の全容解明
  4. 刑事処分及び行政処分を関係各庁に求めることの検討

4 これまでの活動において感じたこと及び今後について

本件は、病院側の調査体制の不備や執刀医・診療科長からご遺族への直接の説明が未だなされていないことなどもあり、真実究明には遠く及ばず、さらなる調査活動が不可欠です。

また、個々の案件についての真相究明及び被害救済にとどまらず、再発防止の観点からは、体制的な問題もまったく看過できないものと考えます。調査等の活動を進めれば進めるほど、なぜお1人目の死亡症例の時点で検証が出来なかったのか、その時点で検証が出来ていればお2人目以降の方は亡くならずに済んだのではないか、なぜこのような事態が長年にわたり放置されてしまったのか、なぜ、なぜ・・・そのような思いが拭えません。ご遺族や私どもはもちろんのこと、そのように思われる方は、医療関係者のみならず多いのではないでしょうか。

特に、病院では、平成17年、第一外科が手がけた生体肝移植で臓器提供者(ドナー)に重い障害が残る深刻な事態が発生しています。何年も前にすでに診療体制等の見直しの機会がありながら、今まで本格的な再発防止策に着手できなかった理由も判然としません。このような状況からすると、単に執刀医個人や診療科だけの問題ではなく、病院全体の医療安全に対する認識や体制整備についても疑問を感じ、この観点からも調査をする必要性があると強く感じています。

弁護団の一員として調査活動をしている中で、ご遺族の思いに接すると、「何があったのか真実を知りたい」、「群馬大学医学部附属病院という地域医療を支える基幹病院であるからこそ、その信頼に応えられる病院になって欲しい」という思いは共通であると感じます。

(本件に限ったことではないと思いますが)ご遺族は、医師や病院を信頼してご家族を託したのに、このような事態となり、その無念さは、私どもが察するには余りあります。また、本件が大きく報道されたことによる困惑もあったことと思います。しかし、それでも、ご遺族は、病院に立ち直って欲しいということや、ご自分たちの件以外にも問題があるのではないかとの気遣いも見せています。それは、きっと、祈りにも似た思いであると感じます。

このようなご遺族の思いを受けとめ、当弁護団は、本当の意味での「真実究明」・「被害救済」・「再発防止」のために、今後も精力的に活動をしていきたいと思います。

また、弁護団として活動する中で、多くの医療関係者や先輩弁護士の英知、熱意、バイタリティを間近で感じるとともに、本件については、熱心に取材等される報道関係者の方々の活躍も目の当たりにします。それぞれの立場から、真相究明、被害救済、再発防止はもちろんのこと、ひいては、病院が真に安心・安全な医療を提供し続ける機関として改善されることを願っているからこそであると思います。

私も、当弁護団における活動がこれらの一助となるよう、一団員として、より一層鋭意努力して参ります。

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