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医療情報を利活用するということ

弁護士 晴柀 雄太

 2020年6月9日、鳥取県立中央病院が、新型コロナウイルスの感染が確認された入院患者2人(鳥取県内での初めての感染者と、同県内の3例目の感染者。)の電子カルテを職員28名が正当な理由なく閲覧していたことを公表しました。
 一部報道によりますと、職員の一部は興味本位で閲覧していた可能性があるとのことのようです。
(出典:時事ドットコムニュース: https://www.jiji.com/jc/article?k=2020060900545&g=soc)。
 このような事態を踏まえ、鳥取県立中央病院は、個人情報に関する研修の実施、電子カルテシステムの改修等、全6項目にわたる個人情報取扱の対策強化を実施しています。
(出典:鳥取県立中央病院ウェブサイト: https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1213773.htm#ContentPane
 患者の電子カルテは、たとえ同じ病院の職員であっても、正当な理由なく閲覧することは許されないということですね。
 詳しい解説は専門書に譲りますが、日本では、個人情報の保護のための法律・条例があり、個人情報の保護・管理・利用等について、厳しい監視の目が向けられている社会であると感じます。そのことだけをみると、個人のプライバシーが十分に守られている、という評価もできそうです。

 ただ、ひとくちに「情報」といっても、社会内に、いろいろな形態で、存在しています。目に見える形で存在する情報もあれば、みなさんの頭の中にあるような、目に見えない形で存在する情報もあります。
 また、情報の内容にもいろいろ種類があって、僕が生物学上の分類としてのヒトである、ということや、僕が医療問題弁護団に所属する弁護士である、ということも情報の一種といえます。これら「ヒトであること」「医療問題弁護団に所属する弁護士であること」は、情報ではあるけど、第三者に漏出しても、さほど、生活に影響はないでしょう。
 他方で、自分がどのような疾患を抱えているか、どこの病院に通院しているか、ということも情報ですし、これらはいわゆる「要配慮個人情報」(個人情報の保護に関する法律2条3項等。)に含まれます。これらの情報は、第三者に漏出すれば、生活に影響する可能性があります。昨今の新型コロナウイルス感染症患者に対する不当な差別・偏見に関する報道に接するたびに、その認識を深くします。

 と言いつつ、個人情報の利用を制限しすぎると、医療の進歩が妨げられるという“副作用”もあります。
 松井菜採弁護士のエッセイ でも言及がありましたが、新型コロナウイルス感染症の治療・研究・予防のために収集される医療情報は、日々、その価値を高めています。
 たとえば、コロナウイルス感染症の患者のあらゆる情報を、当該病院限りでしか扱えず、情報を集めて研究することができないとなると、どういう事態が起きるか、想像してみてください。
 そのような制約の中で、コロナウイルス感染症に罹ったらいったいどうなるのか、どういう治療が効果的なのか、後遺症があるのか、あるとしてどういうものなのか、等といった国民の多くが関心を持つであろう事項について、必要十分な研究ができるのでしょうか。
 つまり、一定の場面では、個人情報であろうと、利活用されるべきだし、そのことによって、医療が進歩し、個々人の生命・健康が守られてきたのだと思います。もちろん、氏名や住所などの個人情報は医学研究にとっても不要ですから、それらは利活用の対象から外れることになりますが。

 そして、情報を利活用すべき場面は、医学研究のみならず、医療「事故」の場面についても同様に考えられます。
 失敗をしない人間はいないですし、人間は失敗から多くのことを学びます。僕も、大切な物を無くすたびに、「次からはココに必ず置こう」等とあれこれ考えます。それでもまた無くすので、「これは持ち運ばないようにしよう」等と、無くさないようにするための方法をまた考えます。
これは「個人の失敗」を個人のために活用(?)している場面ですが、もう少し視点を広くすると、どうでしょうか。
 分娩時・心臓手術時に、C型肝炎ウイルスを含む血液製剤が使用され、患者がC型肝炎に罹患した薬害肝炎事件では、国(厚生労働省)が「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」を設置し、薬害再発防止のための提言をまとめ、公表しました。
 経済の場面でも、企業トップの不祥事があった時、第三者委員会を設置・調査し、調査結果を公表するということを報道で目にすることが多くなった気がします。
 このように、ある失敗が起きた時に、失敗の原因を分析し、失敗しないようにするための方策を検討することは、その関係者のみならず、社会全体の利益になると考えられます。ただし、社会全体の利益になるためには、そのような分析・検討の内容が社会に還元されることが必要不可欠です。こちらも、氏名・住所等の個人情報は不要ですが。
 医療事故が起きた時の原因分析結果や再発防止策の検討の内容といった医療「事故」情報も、広く社会に公表されることで、「こういうことがあるんだ」と認識し、「じゃあウチでも気を付けよう」という行動変容のきっかけになっているのではないでしょうか。良い結果は目に見えないことが多いものの、そのような行動変容によって、医療事故を未然に防いでいることが多くあるものと思います。
 そのような情報の価値・重要性を踏まえると、これら医療事故情報と、ある疾患の治療・研究・予防のために必要な情報とで、その取扱いが区別される理由はなく、いわば車の両輪のように、医学の進歩のために利活用されるべきであると考えています。

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