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カルテ開示費用について

田畑俊治

 医療事件を担当する中で、カルテ(診療記録)の開示については、患者本人・家族が病院の医事課等の担当部署に依頼すれば、ほとんどの場合、事務的に開示されるため、 実務上、問題は少なくなっている(ただし、小規模、個人診療所では開示目的を聞くなどの消極的な対応が残っているケースもある)という認識でしたが、今回、あるクリニックに対するカルテ開示をめぐって、開示費用の問題について考えさせられることがありました。

1 カルテ開示の経緯

簡単に経緯を述べると、美容医療事件で、患者本人が相手方クリニックに対し、「カルテ及び画像等一式」を開示請求したところ、クリニック側からカルテの枚数、CTの画像数を示した見積書が出され、費用を支払って開示を受けたところ、開示記録の中に手術記録・麻酔記録が漏れていたため、再請求したというものです。
 クリニック側は、当初のカルテ開示において、カルテ、画像DVD枚数分のコピー代実費に加えて、書類の謄写手数料、画像の焼付け手数料(人件費)を各1万円請求しました。1万円という高額な手数料を、書類、画像毎に請求することも問題ですが、クリニック側は、手術記録等の追加開示請求に対し、コピー代実費に加えてさらに1万円の謄写手数料を請求したのです。

2 カルテ開示費用に関する定め

カルテ開示の対象となる診療記録には、①医師法で記載、保存義務が規定された狭義の「診療録」と、②手術記録、看護記録等の「診療記録等」(下記「医師会指針」参照)を含み、これらの広義の診療録ないし診療記録について、個人情報保護法、厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(以下「ガイダンス」といいます。)、平成15年9月12日医政発第0912001号厚生労働省医政局長通知「診療情報の提供等に関する指針の策定について(H22.9.17一部改正)(以下「指針」といいます。 )等は、医療従事者の開示義務を定めています。
 そして、個人情報保護法、ガイダンス、指針によれば、医療従事者が診療記録開示の手数料を徴収する場合、その額は、「実費を勘案して合理的であると認められた範囲内において」定めなければならず、閲覧、謄写などに要した代金の実費以外の人件費の加算については、記録の量が膨大な場合で、長時間、職員等を謄写業務に専念させる必要がある場合等について、「合理的な範囲であれば許される」とされています(日本医師会「診療情報の提供に関する指針[第2版]。以下「医師会指針」といいます。)。
 さらに、厚生労働省は、診療記録開示費用についての疑義が多数寄せられていることを踏まえ、平成29年、診療録の開示に係る実態調査を実施し(*) 、診療記録の開示に要する費用は、「実際の費用から積算される必要があ」り、「一律に定めることは不適切となる場合があること」を周知するよう通知しています(平成30年7月20日医政発0720第2号「診療情報の提供等に関する指針について(周知)」)。

3 カルテ開示費用に関する実情

上記事案では、相手方クリニックの書類謄写、画像焼付け手数料各1万円の請求は、記録の量、印刷等に要する時間・業務量に見合った金額と言えず、かつ一律の請求であるため、合理的な範囲内と認められるか疑問です。その上、意図的ではないとしても、診療記録一切の開示請求から除外した手術記録等について、さらに1万円の謄写手数料を請求するのは合理的な範囲を超えると考えます。
 相手方クリニックの反論は、見積書に開示の対象を明示しているというものですが、患者は「カルテ及び画像等一式」を開示請求しているのですから、見積書に記載されている内容が診療記録の全てであると考えるのが通常です。
 このため、当方は、上記法令、ガイダンス、指針等の具体的根拠を示して二重の手数料請求は不当であることを主張し、相手方クリニックと交渉しましたが、クリニック側の方針は変わりませんでした。
 そこで、解決の糸口はないか、関係する各機関に問い合わせてみましたが、医療安全支援センターでは、苦情があったことはクリニックに伝えるが、それ以上のフィードバックはしていない。消費者センターでは、弁護士がついている事案では斡旋はできない。東京都医師会では、相手方医師が会員である場合、診療記録の開示に関する苦情は受け付けているが、開示費用に関する苦情には対応していない。厚労省、保健所でも、開示費用については、医療機関・患者間で、社会通念上、合理的な範囲内で合意してほしいというスタンスで、苦情受付けや個別の医療機関への指導は行っていないとの回答でした。
 つまり、カルテの開示費用については、法令等で「合理的と認められる範囲」という限定、人件費請求に関する具体的指針があるものの、実際上は医療機関側が料金を設定するため、患者側は開示を受けたければ、医療機関の設定した料金を受け入れざるを得ないというのが実情です。

4 雑感

しかし、カルテ開示請求権は、診療契約上、医療機関に求められる説明義務の一内容(顛末報告義務)として、あるいは自己情報コントロール権に基づく「患者の基本的な権利」として位置づけられるべきものです。合理的な範囲を超える開示費用の請求は、このようなカルテ開示請求権の自由な行使を阻害するものであり、容認されるものではありません。
 上記事件では、後日の損害賠償請求の可能性を留保することを明示した上で、クリニック側の設定した謄写手数料を支払って、手術記録等の開示を受けましたが、合理性を明らかに欠くカルテ開示費用の請求に対しては、医療問題弁護団としても、各病院・診療所への改善要請、医療安全センター、医師会に対する苦情申立てに加え、監督官庁に対する指導強化の要請、損害賠償請求等の対応を行っていく必要があると考えています。

以上

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