お知らせ(事件報告・提言)

包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告 2

包茎手術被害対策弁護団 事務局長 団員 弁護士 晴柀 雄太
同弁護団    賛助会員 弁護士 渡邊 隼人

第1 事件の概要

 本件は、男性器治療を行うクリニックにおいて、平成27年3月、同クリニックを開設・経営する医師が施術に関する保険適用の可否や効果について説明義務を尽くさなかったため、原告が誤解して契約を締結し(契約金額237万6,126円)、包茎手術のほか、ヒアルロン酸注入等の施術を受け、現在に至るまで139万5,126円を支払ったという事件です。
 本来、必要のないヒアルロン酸注入などの施術がトッピングされており、しかもこれらの施術について術前に十分な説明がなされることなく、むしろ誤った説明がなされるなど、過度な勧誘行為がなされた点において、非常に問題が大きい事案と考えられます。
 特に本件については、下記第2・1でも述べます通り、国民生活センターが問題であるとして指摘した典型的な事案(緊急性がないにもかかわらず即日契約・即日施術をしており、しかも医学的に必要性が認められず意味もない施術を十分な説明なく追加し、契約金額が極めて高額になったという事案)であって、社会的にも問題の大きい事案と考えられます。

第2 損害賠償請求訴訟について

1 本件の経緯
平成28年 6月23日  国民生活センターによる発表
          「美容医療サービスにみる包茎手術の問題点!」
平成28年 6月26日  当弁護団によるホットライン実施
平成30年 2月 7日  法人を提訴(請求額263万4,638円)
平成30年 8月10日  医師個人を提訴(請求額263万4,638円)
平成30年12月25日  法人のみ訴え取り下げ
令和 2年12月 8日   医師個人との間で和解成立
          (和解条項の詳細は下記3参照)。

2 訴訟の争点
原告は、男性器治療を行うクリニックにおいて、包茎手術、ヒアルロン酸注入術、フォアダイス焼灼術を受けたところ、同クリニックを開設・経営する被告医師は、原告に対し、術前に適切な説明をしませんでした。
(1) 包茎手術について
ア 原告が施術を受けたクリニックにおいて包茎手術・美容形成術と称される施術は、保険適用される環状切除術と同内容の施術と考えられますので、原告は保険医療機関であれば保険適用して環状切除術を受けることができました。そして、同じ環状切除術である以上、自由診療で行う場合と保険診療で行う場合で結果に差異が出ることは考えられません。また、合併症についても環状切除術と同様の合併症(出血、創部浮腫、疼痛など)が生じ得ます。そのため、クリニックの医師は、自院における包茎手術・美容形成術は保険適用の対象となる環状切除術と同様であること、環状切除術を保険適用の上受けても結果に差異がないこと、保険適用で受けた方が費用負担が軽くなること、術後の合併症として出血、創部浮腫、疼痛などが生じる可能性があることを説明すべき注意義務がありました。しかし、当クリニックは、自院で行っている包茎手術・美容形成術であれば、保険適用される環状切除術では得られない効果があるかのような説明をしており、また健康保険を適用して同じ施術を受けられることや包茎手術の合併症を説明しておらず、この点で説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、当クリニックにおいて包茎手術・美容形成術と称される施術は環状切除術と異なること、また原告には健康保険を適用して包茎手術をすることはできないと反論しました。

(2)ヒアルロン酸注入術について
ア ヒアルロン酸を注入することで得られる効果は、一時的に組織を増量・増大する程度のもので、それ以上の効果は認められておらず、通常はフェイシャル皮膚用注入剤として使用されています。他方で、ヒアルロン酸を陰茎に注入すると、陰茎の壊死を引き起こす危険があります。そのため、ヒアルロン酸の陰茎への注入や、被告が主張するような刺激低減・早期治癒・止血効果を目的とした使用は医学的に一般に承認されていないこと、ヒアルロン酸の陰茎への注入は陰茎の壊死を引き起こす危険性を有することを説明すべき注意義務がありました。
 しかし、被告医師は、これらの説明をしていないどころか、ヒアルロン酸を注入することで刺激低減・早期治療・止血効果が見込まれるなどと説明しており、この点で説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、刺激低減・早期治癒・止血効果についてはエビデンスに裏付けられたものであると反論しました。

(3)フォアダイス焼灼術について
ア フォアダイスについては治療しなくとも生命・健康を害することはないため通常治療の対象とならず、フォアダイスについては特に治療しないことが大半です。また、フォアダイス焼灼術を行うことで陰茎に痕が残る可能性もあります。そのため、被告医師は治療するだけではなく経過観察することも一つの選択肢であること、仮にフォアダイス焼灼術を行った場合には陰茎に痕が残る可能性があることを説明すべき義務がありました。
 しかし、被告医師は、これらの説明をしておらず、説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、生命・健康を害するものではないことを認めつつ、治療しなくてもよいということを説明したと反論しました。

3 和解条項
 主な和解条項の詳細は下記の通りです。
① 被告は、原告に対し、原告が、平成27年3月16日、被告の経営していた治療院において、包茎手術並びに同手術に伴うヒアルロン酸注入術及びフォアダイス焼灼術(以下「本件各施術」という。)を受けるに際し、十分な説明を受けることができず、本件各施術の効果及び必要性を誤解して、本件各施術を受けるに至ったことを確認する。
② 被告は、現在、院長を務めるクリニックにおいては、患者に対し、本件各施術を行うにあたり、ヒアルロン酸注入術及びフォアダイス焼灼術の効果、必要性及び危険性並びに包茎手術に係る健康保険適用の有無について施術前に十分な説明を行うとともに、費用についても適切に同法人のホームページ等に記載し、患者が本件各施術の必要性及び負担費用等につき誤解をしないよう努めており、今後も患者に対する十分な説明や情報提供を実施するように努めることを約する。
③ 被告は、当該施術を行うにあたっては、患者をして、本件各施術を受けるか否かについて十分に検討できるように配慮するよう努め、患者に対し、患者が来院時に希望していた施術以外の施術を進める場合には、当該患者が適切に同施術の必要性を吟味するための熟慮期間を設けるよう努めることを約する。
④ 被告は、包茎手術その他男性器に関する施術を実施するにあたっての施術の料金設定について、常に適切になるよう努めるとともに、施術当日ディスカウントする等の方法により施術を誘導しないことを約する。
⑤ 被告は、原告に対し、本件和解時における既払金を除くほか、本件各施術に係る治療費を請求しないことを確認する。
⑥ 被告は、原告に対し、本件解決金として金●円(※守秘条項)を支払う義務があることを認める。

第3 本件和解の意義など

 本件は、昨年3月に和解が成立した事件(2020.09.07包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告)に続き、包茎手術及びこれに付随するトッピング術による被害に関する損害賠償請求訴訟2件目の解決事案となります。
 本件和解は、被告医師の術前説明はいずれも不十分であり、それが故に原告が本件施術の効果・必要性について誤解し施術を受けるに至ったことを明確に示しています(和解条項①参照)。その上で、包茎手術及びこれに付随するトッピング術における保険適用の可否、施術の効果やその危険性の術前説明(インフォームド・コンセント)のありかたについて、今後施術を受ける患者が誤解することなく正しい理解のもと実施すること(和解条項②参照)、さらには、術前説明後、患者が施術を受けるか否か十分に検討する期間を設けること、料金設定を適正なものにすること、料金をディスカウントすることで顧客勧誘しないことを求める内容となっています(和解条項③、④参照)。
 本件和解は、保険適用の可否、施術効果や合併症等についての適切な説明なく、包茎手術やそれに付随するトッピング術へ過度に誘引する営利主義的な包茎手術及びそれに付随するトッピング術に警鐘をならし、抑止する画期的なものであると考えます。

第4 包茎手術被害相談

 他にも包茎手術などの美容医療による被害に悩んでいる方が多くいらっしゃると思いますので、包茎手術により痛みや後遺症が生じた、高額な手術・不要な手術を強く迫られたなどの被害に遭われた方は、下記の医療問題弁護団窓口までご相談ください。
 
 医療問題弁護団 電話番号:03-6909-7680
         ホームページ:https://iryo-bengo.com/

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