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感染症法改正に反対する意見書を提出しました

医療問題弁護団は、2021年1月20日、感染症法の改正により、新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否したり、虚偽の内容を答えたりした場合の処罰規定を設けることに強く反対する意見書を、内閣総理大臣、厚生労働大臣、各政党に対して提出をしました。

2021年1月20日

内閣総理大臣 菅   義 偉 殿

厚生労働大臣 田 村 憲 久 殿

医 療 問 題 弁 護 団

代表 弁護士  安 原 幸 彦

(事務局)東京都板橋区徳丸3-2-18

まつどビル202 きのした法律事務所内

電話 03-6909-7680 FAX 03-6909-7683

HP http://www.iryo-bengo.com/

感染症法改正に関する意見書

医療問題弁護団は、医療被害の救済、医療事故再発防止、患者の権利確立、安全で良質な医療の確立等を目的とする東京を中心とした患者側弁護士約230名の団体です。

現在、新型コロナウイルス問題への対応のために、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」と表記します)の改正が検討されていると伝えられています。この問題について、以下のとおり、意見を述べます。

意見の趣旨

感染症法の改正により、新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否したり、虚偽の内容を答えたりした場合の処罰規定を設けることに強く反対します。

意見の理由

人は、病気になったときでも、ある治療を受けるかどうかを自分で決定する権利を持っています。この患者の自己決定権は、日本国憲法13条の保障する個人の尊厳に由来するものであり、重要な基本的人権のひとつです。

感染症法は、一定の要件を充たす感染症の患者に対して、都道府県知事が入院を勧告することができること(法19条1項)、勧告に従わない場合に入院措置を採ることができること(同条3項)としていますが、これは上記の患者の自己決定権の制限であり、この都道府県知事の権限は、極めて厳格な要件の許に、抑制的に行使されるべきものです。

今回の改正により、上記の入院措置が罰則を持って強制されることになるとすれば、その自己決定権の侵害がより強いものとなります。しかし、実際に新型コロナウイルス感染症蔓延の原因とされているのは、主として自らの感染の事実を知らない無症状感染者の行動であると考えられており、入院勧告に従わない患者・感染者の存在が新型コロナウイルス感染症蔓延の原因だという指摘はありません。すなわち、罰則による入院の強制という強力な人権制約を正当化する根拠となるような事実は存在しません。

むしろ、感染しているというだけで罰則を伴う入院勧告・措置の対象とすることは、それを忌避するために検査を受けない、あるいは、検査結果を隠すという行動を誘発する可能性もあり、それは、結果的には新型コロナウイルス感染症蔓延防止を困難にしてしまうことになり、処罰規定を設けることによる感染抑止の有効性にも疑問があります。

また、人は自分に関する情報をコントロールする権利を持っています。このプライバシー権もまた、憲法13条の保障する個人の尊厳に由来する重要な基本的人権です。積極的疫学調査・検査や情報提供への協力を罰則で強制することは、このプライバシーの制限にあたるものです。そして、その人権の制限を正当化するような事実が存在しないことは、入院措置に反した場合の罰則に関して述べたところと同じです。

感染症法の前文には、「……我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」と謳われています。また、同法2条(基本理念)には、「……感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする」と定められています。ところが、昨年1月に新型コロナウイルス問題が発生して以来、全国各地から、患者・感染者はもちろんとして、実際に感染していなくても感染機会が多いと考えられる職種の人やその家族に対する差別・偏見事例が数多く報告されています。患者・感染者に対する処罰規定を設けることは、国民に恐怖を抱かせるものであって、患者・感染者に対する差別・偏見を、いっそう助長することに繋がり、公衆衛生政策において必要不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を妨げることになりかねません。

いまこそ、感染症法制定の原点に立ち返り、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応すること」を最重要の課題として位置付けるべきときです。そもそも、感染症対策は、平時からの危機管理体制づくりが必須です。感染症対策に当たっては、患者・感染者に対する人権保障と社会への感染拡大防止を両立させることが必要ですが、その調整には困難な課題が少なくなく、だからこそ平時からの危機管理体制づくりが重要です。現に新しい感染症が発生拡大して、緊急事態になり始めてからその対策を検討するのでは、結局感染拡大防止に重点が置かれ、患者・感染者の人権保障が軽視されがちになります。それ故に、第三波といわれる感染者増大傾向のまっただなかではありますが、患者・感染者の自己決定権・プライバシー権を軽視した処罰規定を設けるような場当たり的な法改正ではなく、新たな感染症に適確に対応し国民の医療に関する基本的人権を守れるような医療供給体制の構築に向けて、大局を見据えた冷静な議論を望む次第です。

以上

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