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適切な医療情報開示について(櫻田 晋太郎)


 医療事件に携わるようになって、医療訴訟や紛争は単に医療ミスがあったから起こされるわけでは必ずしもないということを学びました。
 医療ミスは、例えそれが重大なミスであったとしても訴えられることは決して多くありません。
 医療訴訟や紛争の主要因は、医療ミスが起きた後に「十分な対応をしてくれなかった」「医療従事者が適切にかつ共感的に対話してくれなかった。」「十分な説明と情報開示をしてくれなかった。」「将来の医療ミスを防ぐための教訓を学び、反省をしてくれなかった。」といった、患者又は家族の思いや認識にあります。
 医療相談にくる相談者の方の多くの方が、「いったい医療の現場でなにが起きたのか」、そして「それが何故起きてしまったのか」を知らず、それを知りたいと願っていると感じます。そして、さらには、将来の再発防止の対策がとられるのかを知りたいと願っています。


 そうであるにもかかわらず、なぜ、患者又は家族に「適切な」医療情報が開示されることは少ないのでしょうか。
 ここであえて「適切な」医療情報の開示と述べたのは、何らかの医療ミスがあり、患者又は家族が医療機関に説明を求めた場合、医療情報の開示自体はなされますが、「適切な」医療情報が開示されていると必ずしもいえないからです。
 患者又は家族が求めている、「いったい医療の現場でなにが起きたのか」、そして「それが何故起きてしまったのか」について、正面から答える説明がなされるのは希であるように思います。例えば、起きた事実のみを羅列的に説明し、医療ミスと被害とを結びつけるような説明をあえて避けるような説明、発生結果は患者の状態や合併症によるものという印象を残す誤導的な説明、既に分かっている医療ミスと生じた結果との繋がりを避け、他に考えられる可能性を殊更強調するような説明、事実を曖昧にし、先延ばしにすることを目的とするような説明等をよく目にします。


 多くの医師が医療情報の開示に対する控えめな態度をとる理由として、訴訟への恐れとその負担を回避することにあるといったアンケート結果があるようです。また、医療ミスを起こした医師は、心情的には、遺憾の意を表するのに吝かではなく、謝罪さえ厭わないにもかかわらず、そのような気持ちを表名すると法的責任の表明ととられかねないとの恐怖から、医療情報の開示を躊躇することになるというアメリカの研究結果もあるようです。
 しかしながら、多くの患者と家族は、医療ミスなどの有害事象の後に続く医療従事者とのコミュニケーションが全面的に正直なものであることを強く望んでおり、医療ミスを起こした医師は、心情的には、遺憾の意を表するのに吝かではない方が多いにもかかわらず、医療訴訟への恐怖があるから医療情報の適切な開示を躊躇せざるを得ないのです。これはある意味、とてももったいないことだと感じております。
 医療情報を隠す(あるいは「適切に」開示しない)ことで、医療従事者と患者又は家族との間にミスコミュニケーションが生じ、それが不信や疑いに繋がります。その結果、患者又は家族は、より強く真実の解明を求め、医療情報の開示を強く求めるようになり、医療従事者側もより頑なになっていくという構造があるように思います。この構造は、患者側にとっても医師側にとっても不幸であると考えるようになりました。


 そんな思いもあり、医療情報開示に関する文献を探していたら「ソーリー・ワークス!」という本を見つけ、医療紛争をなくすために医師による患者に対する積極的な共感表明を推奨する取り組みがアメリカでなされていることを知りました。
 そこでは、共感を示す 「sorry」 という言葉と、責任表明を含む 「apology」 という言葉の使い分けを意識的に行い、まずは、起きた事象に対し、医療機関側が「sorry」 という共感を表明することで、共に有害事例に立ち向かう土俵を作ることを目指しているといいます。
 さらには、アメリカでは各州法で謝罪免責法を制定し、医師の共感表明や謝罪が訴訟で不利な証拠として使われないようにし、立法面からも医師の共感表明や謝罪を下支えするという手当がなされているようです。
 このことを知り、自分自身も医療機関側に「apology」を求める余り、医師が「sorry」という意味で、共感を表明しているに過ぎないのに、有責前提の先入観で調査に入ってしまっているケースがあったと反省しました。
 漠然としたイメージではありますが、患者側の代理人として、患者側と医療機関側でお互いが、まずは「sorry」の姿勢で一つのインシデントに向き合い、よりよい医療を目指していければと考えたりしています。

 とりとめもない文章となってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

以 上


参考文献
・ロバート・D・トゥオルグほか著(和田仁孝ほか訳)
  『医療事故後の情報開示』(双文社印刷)
・ダグ・ヴォイチェサックほか著(前田正一ほか訳)
  『ソーリー・ワークス!』(医学書院)
・医療記録の開示をすすめる医師の会
  『医師のための医療情報開示入門』(金原出版)

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