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医療事故と生命保険契約の関係(星野 俊之)

 直前のエッセイとは打って変わって堅苦しい内容になり恐縮ですが、今回は医療事故を主たる原因として患者が亡くなられた場合、生命保険契約ではどのように扱われるのかという点について、整理をしてみたいと思います。

1 普通死亡保険金

 単純に被保険者が死亡したことを保険事故とする普通死亡保険金(三大疾病保険等に含まれる死亡保障も同じです)は、死因が何であるかを問いません。そのため、医療事故を主たる原因として亡くなられた場合であっても、普通死亡保険金は支払対象となります。

2 災害死亡保険金

 これに対して、災害系の特約で定められる災害死亡保険金は、「不慮の事故」を直接の原因とする被保険者の死亡を保険事故としており、死因を限定しています。ここで、診療にあたって医療事によって被保険者が死亡したときに、この医療事故を「不慮の事故」とみて、災害死亡保険金の支払対象となるのか否かは時折争いとなっており、地方裁判所や高等裁判所の裁判例がいくつか存在しています。

(1) 疾病の診療に関して発生した医療事故について

 疾病の診療に関して発生した医療事故については、ほとんどの生命保険会社の約款において、疾病の診断または治療を目的とした医療行為により生じた有害作用は、災害死亡保険金の保険事故である「不慮の事故」には該当しないとする除外規定が置かれています。
 この約款の規定の趣旨は、医療行為はそもそも有害作用が生じる危険性をはらむものであるところ、疾病の治療に関して発生した医療事故による死亡は、大きく見れば疾病の一連の経過の中での出来事であるから、災害系の特約における保障対象外とすることにあると考えられています。過去の裁判例でも、概ね同様の考え方を取り、疾病の診療に関して発生した医療事故による死亡は、災害死亡保険金の支払対象とはならないと判断をするものが多いようです。
 なお、宮崎地裁平成12年1月27日判決は、「例えば、患者を取り違えて手術を実施したとか、薬品を誤って劇薬を注射したなど、客観的に医師等の過失が明白であって著しく不相当な医療事故であると認められる場合には」、疾病の診療に関して発生した医療事故が例外的に「不慮の事故」に該当しうるとも判断しています。しかしながら、ここで示されている内容は、医療訴訟において通常問題とされる医師の過失よりも、さらに重い態様の過失を念頭に置いていると考えられ、これに該当する事例はかなり限定的であろうと思われます。
 以上の考え方によると、疾病の診療に関して発生した医療事故については、普通死亡保険金のみが支払対象となり、(ごく例外的なケースはあるものの)災害死亡保険金の支払対象とはならないものと考えられます。

(2) 傷害の診療に関して発生した医療事故について

 これに対して、傷害の診療に関して発生した医療事故については、これを「不慮の事故」から除外する約款規定は置かれていません。これは、発端となった傷害が「不慮の事故」に該当する以上、その診療に関して発生した医療事故も、当初の「不慮の事故」の一連の経過の中での出来事である以上、災害死亡保険金の支払対象とすべきであるという考えによるものと思われます。
 以上の考え方によると、傷害の診療に関して発生した医療事故については、普通死亡保険金だけでなく、災害死亡保険金の支払対象にもなるものと考えられます。

3 まとめ

 ご家族が亡くなられた際には、加入されていた保険会社への保険金請求をすることが多いと思われますが、その際の参考にしていただけますと幸いです。

以 上

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