口頭弁論の技術(彦坂 幸伸)

 民事裁判では、当事者の主張や反論は、「訴状」「答弁書」「準備書面」といった書面を裁判官に提出することで行われます。裁判官は、こうした書面を読んで心証を得ています。医療訴訟のように、専門性が高かったり、事実関係が複雑な事件では、分かりやすくて説得的な書面を作ることが、弁護士の腕の見せどころでもあります。

 ところが、最近、裁判官が、当事者の弁護士に対し、書面の提出だけでなく、口頭での弁論―プレゼンテーション―を求めるようになってきました。裁判官にとって、口頭でのプレゼンがあったほうが、書面を読むだけよりもさらに理解がしやすく、心証を得やすい、という理由です。
 特に、異動で新たな裁判官が赴任したとき、裁判官は、それまでの当事者の主張を口頭でプレゼンするよう求めることが多いようです。こうしたプレゼンは、裁判官たちの間で広く読まれている法律雑誌にも実践例が掲載されていて、一部の裁判官たちのトレンドになっているようです。

 弁護士にとって、口頭で事実関係や法律上の主張をするというのは、書面を作るのとは別の技術も必要になってきます。裁判官が、より理解しやすく、より心証を得やすいように口頭での弁論を求めているのですから、弁護士はその要求に応えるような技術をもって、弁論をすることが求められるのでしょう。
 例えば、耳で聞いて分かる言葉で伝える。ワンセンテンス・ワンミーニングにする。不要なディテールは省く。なるべく書面に頼らず、裁判官たちの目を見ながら語る。適切に抑揚をつけたり、間をとったりする。最初と最後は強いメッセージを伝える。などなど。

 民事裁判における口頭での弁論が、今後一層広まって定着するのか、一時のトレンドで終わってしまうのかは分かりませんが、書面作成の力や、尋問の技術だけでなく、口頭弁論の技術も磨いてゆこうと思っています。

以 上 

4月17日(日)16:00~17:00 署名活動を八王子駅 北口で行いました

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を 次の日時・場所で,行いました。

<第128弾>2022年4月17日(日)16:00~17:00
場所 JR中央線 八王子駅 北口

尋問研修の感想(船木 淳平)

 医療問題弁護団では、団員への研修がとても充実しています。その中でも特筆すべきものが尋問研修です。尋問研修とは、極めてリアリティのある架空の事例を題材にして、ベテラン団員の指導の下、証人役への模擬反対尋問を行うという研修です。尋問研修に参加する機会を得られることは、医療問題弁護団に所属する醍醐味の一つです。以下、私が挑戦した本年2月19日開催の尋問研修についての感想です。

 私が尋問研修に挑んだのはこれが2度目でした。1度目の尋問研修で思い出したくないほどの大失敗をしてしまい、医師尋問に恐怖を抱えることとなってしまったので、これを克服するためにいつかリベンジを果たさなければならないと思っていたところ、幸運にも、今回再び尋問研修に挑戦する機会を得ることができました。

 今回、私とS先生のチームは、M先生の指導を仰ぐことになりました。M先生は、実に厚く篤く熱い指導をして下さいました。その内容を大きく分けると次の3つでした。

  •  医師尋問に関する参考書籍を複数教えて頂きました。これらを一気に読み込むことで、医師尋問を行う際の勘所を何となく掴むことができました。
  •  一般論はできるだけ確認に留めて論争は避け、事実を聞いていくべしとのアドバイスを頂きました。これは、私が失敗を繰り返さないための対策の指針となるものでした。
  •  折角の研修なのだから普段言わないようなことでも遠慮なく言って、気負わずに証人役とのコミュニケーションを楽しむべしとのアドバイスを頂きました。私が抱えていた医師尋問への恐怖の原因は、上手くやらなければならないとのプレッシャーから医師証人とのコミュニケーションがとれなくなってしまい、そのためにパニックに陥ってしまったという経験にあった(と私は理解している)ところ、このアドバイスは特効薬でした。

 M先生の指導を踏まえ、S先生と練習を繰り返し、万全の状態で臨んだ本番は、少なくとも私にとっては大成功でした。今回、私にとっての成功とは、立証上不可欠な証言の獲得ではなく、医師尋問への恐怖の払拭、すなわち証人役とコミュニケーションをとることでした。傍聴していた先生方の中には、私は立証にもコミュニケーションにも成功していなかったぞとお考えの方もおられたかもしれませんが、私自身は恐怖のほとんどを払拭できるほどにコミュニケーションをとることができたと実感しています。勘違いかもしれませんが、M先生も私の「快復」を喜んで下さったように私には見えました。

 今回の尋問研修で、私はリベンジを果たすことができました。この経験は、必ず実戦に活かすことができるものと確信しています。また、私も今後経験を重ねた後、いずれ指導担当として御恩を返させて頂くことを誓います。その前に、もしかしたら再び挑戦させて頂くかもしれません(?)。

 チームメイトのS先生、ご体調が優れない中ご指導下さったM先生、尋問研修のセッティングをして下さった研修班の先生方、大変な貴重なご講評を下さいました裁判官の方、医療側代理人の先生、当団のベテランの先生方、証人役を担当して下さいました医師の先生、傍聴して下さった先生方その他関係者の皆様、本当にありがとうございました。

以 上