団員リレーエッセイ弁護士の声

カルテ開示方法について(工藤 杏平)

 医療事件において、カルテ(診療記録)の検討はとても重要です。
 カルテ開示の費用については、本リレーエッセイの「カルテ開示費用について(田畑俊治)」をご覧頂ければと思います。
 今回は、カルテ開示の方法について、ご紹介をしたいと思います。

1 カルテ開示は患者本人の法的権利です

 まず、自己のカルテ(診療記録)に関する情報は個人情報であるため、個人情報保護法において開示を請求する権利が認められており、請求を受けた事業者(医療機関)には、開示義務が発生します。
「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日・厚生労働省医政局長通知)においても、「医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない」と記載されています。
 また、日本医師会作成の「診療情報の提供に関する指針(第2版)」においても、「医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応ずるものとする」と明記しています。
 さらに、診療契約(患者と医療機関の契約)上も顛末報告義務(民法645条)の一環としてカルテ開示は義務付けられている(カルテ開示を求める法的権利がある)と考えられます。
 なお、カルテ開示を拒絶することは、それ自体違法と評価されうる行為です。現に裁判例上もカルテ開示の拒絶は不法行為法上の違法と評価され、慰謝料請求が認められた裁判例があります(東京地判平成23年1月27日等)。

2 カルテの法的な保存義務期間(5年間)に注意が必要です

 カルテには法的な保存義務期間として、診療完結から5年という期間があります(医師法24条で医療記録の保存期間は5年間とされています。)。
 それを過ぎると、カルテ開示請求をしてもすでに破棄等されている場合があるので注意が必要です。
 なお、看護記録は最後に記録した日から3年間の保存義務があるなど、各種の書類ごとに保存期間が異なる場合があります。
 カルテに関して言えば、現実には5年間を過ぎても保管されている場合もありますが、上述のとおり、医療機関によっては期間経過後にはカルテを破棄等してしまう可能性もありますので、できる限り早い段階で開示請求をすることをお勧めします。

3 ご自身でカルテ開示をする方法

 カルテ開示請求ができるのは、原則として本人又は本人の代理人です。
 カルテ開示の具体的な方法は、医療機関ごとに異なりますが、大きな病院であれば所定の用紙があることも多いので、その場合は、必要事項を記載のうえ病院の窓口で申請をすることになります。
 所定の用紙がない場合には、「カルテ開示申請書」などという表題のもと、患者情報(氏名・生年月日など)を記載のうえ、「患者(私)の診療に関連して作成された一切の文書及び物」というような包括的な記載でも開示を受けられることが多いと思います。
 ただし、そのような包括的な記載をした場合、一部の記録や資料が開示から漏れてしまう場合もありますので、例えば以下のような具体的な記載をする方法もありますのでご参考にして頂ければと思います。
 例:① 診療録、医師指示簿(表)
   ② 手術承諾書、手術同意書、確認書
   ③ 手術記録、手術ビデオ、麻酔記録、手術台帳
   ④ 手術前後での写真
   ⑤ 諸検査結果記録、画像検査記録
   ⑥ レントゲン画像、CT画像、MRI画像
   ⑦ 看護記録、温度板
   ⑧ 診断書、診療情報提供書(紹介状)
   ⑨ 医療事故報告書、損害賠償事故報告書
   ⑩ 診療報酬請求書
   ⑪ その他患者の診療に関連して作成された一切の文書及び物
 なお、診療期間が長い場合は、期間を限定して開示を求めることも可能です。
 また、開示に当たっては目的や理由などを記載する必要はないとされています(上記の厚労省や日本医師会の指針においても、「患者等の自由な申立てを阻害しないため、申立ての理由の記載を要求することは不適切である」と記載されています。)。
 医療機関の中には、「開示の目的を言ってもらわないと開示できない」と言ってくる場合もありますが、応じる義務はありません。

4 「証拠保全」という方法

 現在でも、カルテ開示を求めても拒否する医療機関があります。
 また、電子カルテシステムをとっている医療機関でも、カルテの記載が改ざんされたという事例がいまだにあります。
 そこで、カルテ開示の方法として、「証拠保全」という方法があります。
詳細な説明はここでは割愛しますが、「証拠保全」は、裁判所に申し立てをすることにより、裁判所が申立人とともに開示を求める医療機関に赴き、医療機関内にあるカルテ等の検証を行う手続です。
「証拠保全」の場合、医療機関には知られない形で裁判所の決定が出され、裁判所の主導のもと行われる手続ですので、カルテの開示漏れのリスクが低いことや、カルテの改ざんの危険性が低いことなどのメリットがあると言われています。
 他方、「証拠保全」をご自身で行うには、書類の作成等の点からも難しい面がありますので、多くの場合は弁護士に依頼をすることになると思います。そのため、弁護士費用や医療記録を入手する場合のカメラマンの費用等の費用負担が生じます。
 ご自身でカルテ開示を行うか、「証拠保全」という方法を選択するかは、個別の事案ごとによって様々ですので、弁護士に医療事件について相談する場合は、カルテ開示の方法についても協議をすることをお勧めします。

以 上 

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