団員リレーエッセイ弁護士の声

調査受任について(佐々木 学)

 私たち医療問題弁護団では、ご相談を受けた医療事件について、いきなり医療機関に対する損害賠償請求の受任をするのではなく、まずは、調査の受任をすることにしています。

 調査の受任をすると、受任をした弁護士側では、主に以下のような調査を行います。
 まずは、依頼者の方に、問題となった医療機関から診療記録を入手してもらいます(まれに、医療機関から診療記録の開示を拒否されることがありますが、そのような場合には、裁判所に証拠保全を申立てて、裁判所の証拠保全手続によって、診療記録等を入手することもあります。)。
 次に、入手していただいた医療記録の内容を精査して、診療行為のどの部分に問題(注意義務違反など)があるのか、被害はどのような機序で発生したのか、発生した被害と問題となる医療行為との間に因果関係が認められるのかといった点を検討していきます。
 併せて、医学文献などを収集して、問題となる医療行為に関する医学的な知識を集積して整理します。
 最後に、協力医の医師を探して、これまで収集して整理した医療記録や医療文献などの情報を前提にして、協力医に質問をしてアドバイスをいただき、医療機関側の有責の可能性の有無や程度を検討します。
 以上のような調査の結果、場合によっては、医療機関側に有責の可能性が認められないという結論となることもあります。

 ところで、「貸金請求や離婚訴訟など、他の事件を弁護士に依頼したときには、調査などしなかったのに、なぜ、医療事件に限っては、調査などするのか。」などといった疑問を持たれる方もいらっしゃるのではないかと思います。
 その理由は、医療事件については、専門的な知識が要求され、協力医などのアドバイスがないと、医療機関側の有責の可能性の有無や程度についての判断が困難だからです。
 (これは医療事件に限らないのですが)訴訟では、過失(注意義務違反)や損害との因果関係の立証責任は、原告となる患者側にあります。しかも、証拠をもって、過失や因果関係が存在することが十中八九間違いないと裁判官に確信させないと、患者側が敗訴してしまいます。
 たとえば、弁護士が、調査をせずに、医療機関に対する損害賠償請求の依頼を受けてしまうと、どのような結果になるでしょうか。
 その場合は、損害賠償請求の手続と同時並行で調査の手続も行うことになるのでしょうが、調査の手続で医療機関側が有責との結論になれば良いのですが.そうでない場合には、医療機関との損害賠償の交渉は決裂してしまうと、訴訟を提起せざるを得なくなります。ところが、過失や因果関係の立証をすることができず、その結果、裁判では患者側が敗訴(医療機関側に責任なしの結論)になってしまいます。
 つまり、依頼者の方にとっては、費用をかけて弁護士に依頼したのに、何の成果も得られないという結果になりかねないのです。
 いきなり医療機関に対する損害賠償請求の交渉をするのではなく、その前段階として、調査受任が必要なこと、さらに、調査の結果、場合によっては、医療機関側に有責の可能性なしとの結論になることについては、どうかご理解いただけたらと思います。

以 上

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