団員リレーエッセイ弁護士の声

医療は医療従事者ではなく患者を利するために ~レーシック被害対策弁護団の活動と報告集発行を終えて~(梶浦 明裕)

 医療は、医療機関やクリニック(医療従事者)を利するためではなく(もちろん経営を否定するものではありませんが)、患者を利するために行われるべきです。
 あまりにも当然のことであると思います。

 医学の父とされるヒポクラテスは、紀元前4世紀のころ、ヒポクラテスの誓いにおいて、
「自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。」
「純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、医術を行う。」
と述べたといわれています。

 レーシック被害対策弁護団の活動が始まった初期のころ、尊敬する眼科の医師の先生と講演をご一緒させていただいた際、その医師の先生が引用されたこのヒポクラテスの誓い言葉が、私の中では印象的で、弁護団活動の指針でもあり志でもありました。
 医学が始まった紀元前のころに既に、医学のあるべき精神が確立していたこと、そしてそのことをレーシックの被害と重ね合わせた時、衝撃を覚えざるを得ませんでした。

 一般的に、手術(治療)件数が増えれば増えるほど、それに比例して、医療機関やクリニックは利益を得るものと理解しています。
 レーシック被害の背景には、患者に不利益となる可能性がある手術について不利益となる可能性につき十分に配慮をせずに手術が実施されたといった事情、また、術前の説明(医療機関やクリニックのウェブサイトや説明同意書による説明)あたっては、レーシック手術のメリットばかりが強調されデメリットの説明が不十分だったといった事情があったと認識しています。

 患者に対して必要な検査を実施した上で、避けた方がよい手術は避ける、少なくとも、患者に対してデメリットの説明を十分にした上で考えさせる期間(熟慮の機会)を与える、そういった患者を利する医療行為(説明行為)がなされるべきところ、即日手術、流れ作業的な大量の手術、こうした手術により、医療機関ないしクリニックは莫大な利益を得、他方で、患者の健康が害される被害が生じました。
 レーシック手術自体が悪い訳では決してなく、また、上記のような問題は、レーシック手術や眼科の領域に限られることなく、その前からも現在も、構造的に、一定程度医療界に存在していると認識しています。
 これは、「患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。」というヒポクラテスの誓いに背くものではないでしょうか。

 レーシック被害対策弁護団は、平成25年12月の消費者庁の「レーシック手術を安易に受けることは避け、リスクの説明を十分受けましょう!-希望した視力を得られないだけでなく、重大な危害が発生したケースもあります―」との発表を受け、レーシック被害の受皿となるべく、レーシック手術の被害救済と再発防止のため、医療問題弁護団の有志の弁護士により立ち上げられました。

 弁護団の活動は8年半ほどの長期間に及びましたが、その間、20名ほどの弁護団員で、283件もの電話相談を受け、13件もの訴訟活動を行いました。
 弁護団活動の中で、私たちは、多くの困難にぶつかりました。
 そのような困難を弁護団全員で団結しながら乗り越えていく中で、まさにヒポクラテスの誓いのとおり真摯に医療行為を行っている複数の眼科医の先生方との出会いがありました。
 その眼科医の先生方からは、医学的知識をご教示いただき助けていただいたことはもちろん、このような素晴らしい医師の先生方もいらっしゃるのだ、助けていただいた医師の先生方に恩返しをするためにもレーシック手術の被害救済と再発防止に取り組まなければならない、そのような心の支えという意味でも助けていただきました。
 他方で、もし、被害を出してしまった担当の医師や医療機関ないしクリニックがヒポクラテスの誓いのとおり医療行為を行っていれば、被害を避けることができたのではないかと思わずにいられないことも多々あり、悔しくも思いました。

 弁護団が目指した、レーシック手術の被害救済と再発防止のため、共に歩ませていただいた被害者の皆様との歩みは終了することはありませんが、ただ一旦、弁護団のひととおりの活動の節目がつき、先般、弁護団の活動報告集を発行する運びとなりました。
 この報告集が、レーシック手術はもちろんのこと、医療事故により被害を受けられた現在及び将来の皆様とその被害に取り組む弁護士のため、一助となることを願います。
 弁護団の集大成としての報告集を、どうぞお読みください。


「レーシック被害対策弁護団活動集」を作成しました(事件報告・提言)

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