2025年8月28日、大森夏織団員が、第51回日本診療情報管理学会学術大会 特別セッションⅠ「カルテ開示の現在と未来 ~患者の権利と医療現場の最前線~」に参加しました。
月別: 2025年8月
飛蚊症に対するレーザー治療
相手方施設 | 私立の診療所 |
診療科 | 眼科 |
患者属性 | 50歳代・男性 |
原疾患 | 飛蚊症 |
過誤の内容 | 患者が、相手方を初診した当日に、医師の勧めにより、発症後1~2週間の飛蚊症(両眼)に対するレーザー治療(レーザー・ビトレオライシス、自由診療)を受けたところ、右眼の水晶体後嚢に近い飛蚊症にレーザーが照射され、後嚢破損及び外傷性白内障が生じたという事案。 |
主たる争点 | ①飛蚊症の症状発現から1~2週間での施術が適切であったか(数ヶ月の経過観察期間をおくべきではなかったか、という治療の適応に関する義務違反の有無)。 ②水晶体後部あるいは後嚢にレーザーを誤照射したか(手技ミスの有無)。 |
進行の概略 | 話し合いによる解決ができなかったため、提訴し、争点整理手続が終了した段階で、裁判所から、争点②の過失が認められる可能性が高いことを前提に和解勧試がなされ、和解成立に至った(審理期間1年数ヶ月)。 |
苦労・工夫した点 | 飛蚊症レーザー治療に関する日本語論文が少なかったため、海外文献の証拠提出が必要となり、文献収集と裁判所提出用の翻訳に多大な労力を要した。 |
結果 | 訴訟上の和解(尋問前) |
弁護士の事案の評価・感想 | 裁判所は、原告側に対し、手技ミスについて多大な立証を求めるものであると改めて感じた。 |
その他、今後に向けて | 調査の過程で、飛蚊症レーザー治療を行っている診療所のウエブサイトを複数確認したが、治療のリスクが記載されているものは少なく、「安全」「簡単」といった文言が目立つものが多かった。医師は、患者に対し、効果だけでなく、治療に伴うリスクや他の選択肢について、治療前に十分に説明し、緊急に治療をする必要がないのであれば、熟慮期間を与えるべきである。 |
帰室後のモニタリング
相手方施設 | 総合病院 |
診療科 | 泌尿器科 |
原疾患 | 腎腫瘍 |
過誤の内容 | 体重の誤登録により麻酔用筋弛緩剤や麻薬が多く投与され、さらに呼吸抑制に対して帰室後のモニタリングがなされず患者が低酸素脳症となった事案 |
主たる争点 | 麻酔用筋弛緩剤や麻薬の過剰投与、筋弛緩モニタリングの義務、帰室後のモニタリング義務など |
進行の概略 | 外部委員を入れた院内事故調査が実施され、報告書を基にした質問回答の後、説明会が開催された。話し合いによって合意に至り示談した。 |
苦労・工夫した点 | 説明会が開催でき、双方にとって建設的な進行とできた点。患者に後見人を付したうえで示談した点。 |
結果 | 示談 |
弁護士の事案の評価・感想 | 病院側が外部委員を入れた院内事故調査を実施し医療安全の実現に主体的だったこともあり、説明会が開催され、患者家族の思いを伝えたり、糾弾的とならない状況で当事者となる医療従事者からの謝罪がなされたりできた。その後の示談交渉では将来医療費や介護費を含めた解決ができた。 |
その他、今後に向けて | 院内事故調査により原因分析と再発防止に向けた検討がなされたことが、被害の重大性や患者家族の辛い心情の中でも糾弾的にならずに話し合える土壌を作ったように思う。 |
安原幸彦代表が日本臨床医学リスクマネージメント学会医療安全セミナーで講演をしました
2025年8月8日、安原幸彦代表が日本臨床医学リスクマネージメント学会医療安全セミナーで「患者側弁護士から見た「医事紛争」」と題した講演をしました。
経験のない胸痛への対応
相手方施設 | 東京以外の病院(循環器科無し) |
診療科 | 泌尿器科 |
患者属性 | 70歳代男性 |
原疾患 | がん |
過誤の内容 | 入院中、患者がこれまで経験したことのない胸痛を訴えたのに対し、画像診断や専門的な医療機関への転送がなされないまま、不安定狭心症疑いにて経過観察され、数時間後に他の致死性の高い循環器疾患に起因する心タンポナーデで死亡した事案 |
主たる争点 | いずれの時点で致死的な心疾患を疑って対応すべきであったか。 |
進行の概略 | 相手方施設が、医療法上の医療事故報告を行わず、裁判前の当方からの損害賠償請求に対し全くの無責回答であったので、訴訟提起をした。 |
苦労・工夫した点 | 十分な検査・診断を尽くされていない事案で、どの時点のどのような所見で適切な診断をすべきであったか・できたかに関して、裁判所に適切な心証をもってもらうこと。 |
結果 | 訴訟上の和解 |
弁護士の事案の評価・感想 | 十分な検査・診断が尽くされていない事案の難しさを改めて実感した。 |
その他、今後に向けて | 本件は、本来であれば、相手方施設が、医療事故報告の上調査すべき事案だった。医療事故調査を行わない医療機関には適切な対応を求めていくことが重要である。 |
子宮筋腫
相手方施設 | 総合病院 |
診療科 | 産婦人科 |
原疾患 | 子宮筋腫 |
過誤の内容 | 出産に関する手術の際に体内に異物を残した事案 |
主たる争点 | 異物を残したことに起因した損害額 |
進行の概略 | 異物を残したことは争いがなかったため、損害額が主たる争点となった。 |
苦労・工夫した点 | 因果関係のある損害の範囲の検討に苦労した。 |
結果 | 裁判外の和解 |
弁護士の事案の評価・感想 | 過去にも術中に体内に遺物を残す例は複数例あるものの、損害算定にあたっては慰謝料等をどのように理解するかは慎重に検討した。異物を残したことそのものの慰謝料及びそれに起因した身体の不具合に対する精神的苦痛を本件でも請求したが、今後も実態に即した慰謝料の検討は必要と思われる。 |
左肩関節症等
相手方施設 | 総合病院 |
診療科 | 整形外科 |
原疾患 | 左肩の関節症等 |
過誤の内容 | 手術やリハビリに起因して、疾病部位ではない左肘の神経障害等の被害を受けた事案 |
主たる争点 | 手技上の過失の有無及び損害額 |
苦労・工夫した点 | 医師の意見書を出すことが難しく、後医面談時の診療録を提出するなどした。 |
結果 | 判決(一部認容) |
弁護士の事案の評価・感想 | 手技上の過失については、文献による立証にも限界があるため、臨床現場の医師の意見等が重要になると感じた。後医の診療録による意見の補充等の工夫は今後も模索していきたい。 |
8月3日(日)16:00~17:00 署名活動を池袋駅西口ロータリー前で行いました。
公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を次の日時・場所で行いました。
<第159弾>2025年8月3日(日)16:00~17:00
場所 JR山手線池袋駅 西口ロータリー前