団員リレーエッセイ弁護士の声

手術見学研修に参加して(小林 茂美)

 医療問題弁護団では、定期的に大学病院・総合病院において手術を見学し、研鑽を積んでおります。
 私は、弁護士20年目、医療問題弁護団入団5年目ですが、手術見学は希望者多数のため選に漏れておりましたところ、初めて手術見学の機会を得ましたので、ご報告いたします。

 

1 カンファレンス(患者の最新情報等の認識共有協議)について

 まず、手術前に、
①前日の手術の振り返り、
②手術後からカンファレンスまでの間に問題が生じていないか、
③集中治療室の患者に問題が生じていないか、
④当日の手術の術式、患者の年齢等に基づく予測可能な緊急事態対策
について確認がなされます。

 手術見学者の集合時刻は午前7時30分だったのですが、我々が手術着に着替える頃には既に前日の手術患者や集中治療室の患者の様子の確認がなされていました。

 午前8時からのカンファレンスでは、①~③について、早朝に患者の様子を確認した上で振り返りが行われていること、④については血圧急降下時の対応・心構えについて教育的配慮もなされていて、手術の前と後にこのように丁寧な対応がなされていることに驚きました。

 

2 導入の時間について

 カンファレンス後、午前8時30分からは、手術室に患者が入室し、手術前の準備・麻酔等の導入の時間となります。

 この時間を利用し、医師から、各手術室のモニターに表示される心拍数、血圧、酸素濃度等々の数字をどのように解釈するか、丁寧に教わったのも、勉強になりました。

 と言いますのも、各項目については、一般的・標準的な数値がありますが、それにこだわるのではなく、各患者ごとにモニターに表示される数字が何を意味するのか、個別に瞬時に解釈し、判断されているからです。
 これら数値の見方、解釈の仕方を前提として手術を拝見したので、大変分かりやすかったです。

 

3 手術見学について

 その後、実際に手術室に入って手術を見学させていただきました。
・レントゲン・CTを撮影しながら手術のできるハイブリッド手術室、
・ロボット(ダ・ヴィンチ)手術、
・腹腔鏡手術、
・緊急手術
 と、多様な手術を見学させていただき、大変勉強になりました。

 丁度、私が担当している事件で、術中モニタリングのMEP(運動誘発電位。術中、神経にダメージが加わると波形が小さくなったり出なくなります)について気になっていることを質問したところ、モニタリングの問題点だけでなく、モニタリングに関連する医療スタッフや病院の体制についてもお教えいただき、視野が広がったように思います。

 モニタリングの表示の意味するものは、患者によっても状況によっても一律ではないので、当該状況下における数字の意味するところを、全体状況を把握しながら個別に理解、解釈することが重要だと思いました。

 このことを敷衍すると、カルテを検討するに際しても、病院のシステム・人員配置を含め、どういった状況や環境でなされた記載なのか、広い視点で考えなければ実相を見誤る、ということです。

 

4 予定されていた座談会その他について

 当日は、救急搬送が4件、内1件は生命にかかわる案件だったため、予定されていた座談会は中止になりましたが、午前中いっぱい、みっちり見学させていただけました。

 手術中2件は、心臓が止まるかもしれないと言われていたので、私は、
 「自分の目の前で心臓が止まったらどうしよう。」
と、モニターのアラーム音に動揺しながら見学していたのですが、手術室の方々は、冷静に対応され、無事に手術を終えられたので、安堵しました。

 

5 今回の手術見学を通じて

 今回の手術見学を通じて、医療スタッフの方々の実際の動きや、状況全体から当該患者への対応を個別に判断する、という現場の判断過程を学んだことで、診療録の背景を想像でき、これまでよりも診療録を含め手術を立体的に理解することができるようになりました。

 もちろん、診療録の読み込みも大事ですが、その表面的な理解に止まらず、診療録がそのような記載に至った過程や背景を、医療スタッフの方々の動きも想像しながら解釈することで、事案の実態把握に役立てることができ、このような背景理解は、これからご相談やご依頼を受ける際にも、ご相談者のお役に立てることと思います。

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