東京三弁護士会主催の医療講演会「医療訴訟~裁判所から双方代理人へ伝えたいこと、 双方代理人から裁判所や相手方に伝えたいこと~訴訟提起・争点整理・証拠調べ・和解 判決全般~」が開催され、団員がコーディネートを行いました

2025(令和7)年11月26日、東京三弁護士会主催の医療講演会「医療訴訟~裁判所か
ら双方代理人へ伝えたいこと、双方代理人から裁判所や相手方に伝えたいこと~訴訟提
起・争点整理・証拠調べ・和解判決全般~」が開催され、東京地裁医療集中部の部総括
裁判官と医療側代理人を招き、大森夏織団員が司会とコーディネートをつとめました。

医療過誤原告の会総会記念シンポジウムで、木下正一郎団員が、「医療事故調査制度10年目の現状と改善課題」と題する講演を行いました。

2025年11月23日(日) 医療過誤原告の会総会記念シンポジウムで、「医療事故調査制度10年目の現状と改善課題」と題する講演を行いました。 講演後のパネルディスカッションにパネリストとして参加しました。

民事裁判手続のデジタル化と医療事件(晴柀 雄太)

1 はじめに

 遅くとも令和8年5月までに施行予定の改正民事訴訟法等により、民事訴訟手続が全面的にデジタル化される予定です。僕も最近、ようやく裁判所のYouTubeチャンネルにアップロードされている解説動画(全4本)を視聴しました。
 そこで、デジタル化により変化する場面で、医療事件との関係で気になることを述べておきます。

2 書面提出

 デジタル化後は、裁判所に提出する訴状、主張書面及び証拠は、紙ではなくデータで提出します。押印も不要になるようです。デジタル化されれば、①印刷、②製本・押印、③宛名書き、④投函という各作業がなくなるわけですから、大歓迎です。
 提出書面は裁判所のシステム上で確認できるので、紙の個人情報の管理に気を遣うことは少なくなるでしょうし、コピー用紙を購入する機会も減りそうですね。
 注意しなくてはならないのが、弁護士は、パソコンの故障等の理由があっても紙で訴状等の申立書面を提出すると不適法となることです。提出期限を徒過しないよう、モニターやハードディスク等が壊れても焦ることなく作業を継続できるような体制をとっておく必要がありそうです。
 医療事件の場面でいうと診療録等は電子化されていることが多いので、裁判手続においても電子データとして取り扱うことに違和感を覚えることはないでしょう。また、診療経過が長くなれば診療録だけで分厚いファイルが並ぶことになりますが、これをデータで管理できるようになることは事務所の物理的なスペースとの関係でも嬉しい変化です。ただ、パソコンの画面よりも紙の方が読みやすいと感じることもあるので、その時は紙に出力しなくてはならなそうです。

3 郵便切手

 いまは、提訴や申立ての際、収入印紙を購入して、これを訴状等に貼付して窓口に持参していますが、デジタル化後はその必要がなくなります。郵便切手代のみ電子納付していましたが、訴え提起等の手数料に郵便費用相当額が含まれることになり、印紙代も含めて電子納付することになります。

4 尋問

 いま、証人尋問は原則として対面で実施されています(尋問以外の裁判期日はウェブ会議で進めることも多いです。)が、デジタル化後は緩やかにウェブ尋問が可能になるようです。
 しかし、証人尋問は、対面でやりとりするからこそ裁判官の心証形成に有効であり、ウェブ尋問で足りると感じることは少ないのではないでしょうか。事実認定のための弁論の聴取や証拠の取調べを受訴裁判所の裁判官自身が行う原則を直接主義といい、直接主義の要請によって、証言は法廷において裁判所の面前でなされるのが原則と考えられるからです(伊藤眞『民事訴訟法』(第7版、2020年、有斐閣)276頁、415頁)。
 特に医療事件にウェブ尋問は馴染まないと思いますが、医療事件に限らず、ウェブ尋問が浸透するのはもう少し先のことのような気がします。

5 おわりに

 正直、来年の5月にデジタル化にパッと切り替わることを想像できずにこのエッセイを執筆していますから、数年後にこのエッセイが読まれた時に「こんなつまらないことを考えていたのか」「もっと重要な問題があったのに、何もわかっていなかった」と笑われてしまうのかもしれません。
 そんな不安を感じつつ、まずは自分の能力では到底抗うことができない、パソコン関連機器(ハードディスク、キーボード、マウス、モニター類)の故障があった時用の予備の機器を購入することから準備を始める決意をして、筆を置くことにしました。

以 上 

忘れられない「一言」 (安原 幸彦)


 私にとって医療事件を弁護士活動の柱とする大きな契機となった医療事件被害者の忘れられない「一言」を、いくつか紹介させていただきます。医療問題弁護団員の方々には、「その話は何度も聞かされて耳にたこができている」と言われそうです・・・。

1 「先生こそ立派なお医者さんになってください」

 出産事故の医療裁判で、責任を認める和解が成立した期日で、出頭した被告医師が「申し訳ありませんでした。どうぞお子さんを立派に育ててください。」と頭を下げました。
 これを聞いた母親は、障害を持った我が子を抱きしめながら、「先生に言われなくてもこの子は立派に育てます。先生こそ立派なお医者さんになってください。」と言い放ったのです。
 この裁判は、障害をもった我が子とともにどう生きていくか、を追求していく裁判でもありました。この一言はそれを見いだした母親が放った一言だと思います。それが何よりの裁判の成果でした。

2 「自慢の息子を亡くしました」

 この一言も、同様に出産事故で我が子が脳性麻痺になった事件の母親の言葉です。この事件は一審敗訴しましたが高裁で巻き返し、勝利的和解をしました。それを待っていたかのように、その子は亡くなってしまいました。その葬儀に駆けつけたときに、私の顔を見るなり母親は「残念です。自慢の息子を亡くしました」と述べたのです。
 とかく障害を持った子供を抱えた親は「この子さえいなければ」という気持ちになりがちです。この母親は、医療裁判に取り組む中で、同じような医療被害者と出会い、多くのことを学び、第二子も産みました。
 葬儀では、亡くなったお子さんの顔を見せてもらいました。顔中にテープを貼った跡がありました。たくさんのチューブを入れていたことがわかりました。寝たきりで毎日病気と闘っている我が子を見てきたので、母親は「自慢の息子」と言えたのだと思います。

3 「皆さんの支援で得たこの勝利を糧にこれから頑張っていこうと思います」 

 胃全摘手術で投与された高カロリー輸液にビタミンB1が添加されていなかったためにウェルニッケ脳症となり、重度の記憶障害を遺した男性の一言です。判決で全面的に勝利した後の報告会でこのように挨拶しました。
 ごくありきたりの言葉に聞こえますが、私には感動的でした。彼は数時間経つと記憶が消えてしまいます。判決も「かけがえのない妻や子供らとの思い出を記憶として残しておくことができない無念さは察するに余りある」と述べています。これまでの彼の挨拶も「今自分がどうしてこのような場所にいるのか正直言って驚いています」というのが定番でした。「頑張っていく」などという言葉は聞いたこともありませんでした。それが多くの人たちの支えで裁判に勝ったことで、彼をして「この勝利を糧にこれから頑張っていこうと思います」と言わしめたのだと思います。これからの生きる道筋をしっかりつかんだ一言と感じました。

4 「先生個人への悪感情は不思議なほどありません」

 双子を出産した母親が弛緩出血で亡くなったケースです。原因は輸血量が不足していたためでした。都内の基幹病院での医療事故です。
 この件は、病院での説明会などを経て示談で解決しました。説明会で夫が主治医に問い質し、主治医に「輸血への対応が足りなかったと認めざるを得ません」と白状させたのが決め手となりました。示談書の調印の際に、最後に夫からあったのがこの発言です。夫は「先生個人への悪感情は不思議なほどありません。うまくいって当然、失敗すれば非難を受ける立場は大変だと思います。この件が慎重さを増す結果となっても、心に重荷として残らないことを望んでいます」と締めくくりました。説明会も含め本人とともにじっくり取り組んだことが、この言葉に結実したのだと思います。


 医療事故における医師・医療機関の責任追及の目的は、被害者が被害を克服し、前向きに生きる道筋を見いだすことにあると思います。これらの「一言」には、それが凝縮されていると思います。

以 上

第47回 医療問題弁護団・研究会全国交流集会にて「医療過誤訴訟における相当程度の可能性の検証」の報告をしました

 2025(令和7)年11月7日、札幌で行われた、「第47回 医療問題弁護団・研究会全国交流集会」にて、渡邊隼人団員、吉村和貴団員、中川裕子団員、中島和泉団員、佐藤真依子団員、花垣結団員、浅見雄人団員が、「医療過誤訴訟における相当程度の可能性の検証」というテーマで、「相当程度の可能性」が実務に与えた影響や現在の議論状況、課題等について、裁判例や文献等を分析した結果を報告しました。
 「相当程度の可能性」について、患者側代理人として、現状の議論状況や裁判例の状況を正しく認識することの重要性や、「高度の蓋然性」の主張・立証についても改めて考える契機となりました。

12月14日(日)15:30~16:30 署名活動を新橋駅SL広場前で行います!

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を次の日時・場所で行います。是非ご参加下さい。
<第163弾>2025年12月14日(日)15:30~16:30
場所 JR山手線 新橋駅 SL広場前

11月2日(日)16:00~17:00 署名活動を神田駅西口で行いました

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を次の日時・場所で行いました。
<第162弾>2025年11月2日(日)16:00~17:00
場所 JR中央線 神田駅 西口