団員リレーエッセイ弁護士の声
子どもたちへの放射性医薬品過剰投与~発覚から15年のあゆみ (紙子 陽子)
1 長年にわたる小児への過剰投与の公表
市立甲府病院では、1999年から12年にわたって、小児へのRI検査(核医学検査)において、日本核医学会の推奨する投与量を超過する量(5倍未満から40倍まで)の放射性医薬品を、0歳から15歳の小児の患者145名(延べ226名)に投与していました。この事実が公表され社会の明るみに出たのは、奇しくも東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の約6か月後である2011年9月でした。
当初の病院からの説明は、患者家族にとって信頼や納得のできるものではなく、親たちは子の発がんリスクなど健康への不安を募らせました。やがて、親たちは、力を合わせて病院・甲府市と協議し、真相究明や補償等を求め、被害者同士継続的に交流して支え合うために、被害者の会を設立しました。この時点で既に親たちは、再発防止、医療安全の啓発・法整備・監視など、今回の経験を通した社会貢献の模索まで、会のビジョンとしていたのです。
相談を受けた弁護士を中心に、医療問題弁護団内の有志の弁護士で弁護団が結成され、地元の弁護士も加わり、被害者の会とともに活動しました。
2 被害者の会と弁護団の活動
それから約5年間、会と弁護団は、ともに真相究明、再発防止、さまざまな面での被害回復を求めて活動しました。会のメンバーは、院外の事故調査委員会設置を求める署名活動(1万筆を超える署名を市に提出)や、議会への請願、報道関係者や議員に被害の実情を伝えるなど、それぞれのできることに力を注ぎました。子に検査を受けさせた後悔、偏見・差別の恐れなど苦しみを抱えながら、会員間の交流を図る取組みや会の通信の発行も行い、互いに励まし合って活動を続けました。
粘り強い会の活動が実り、2014年3月、RI事故調査委員会(外部委員が参加)による事故調査報告書が公表されました。これに先立つ2013年6月には、被害者の会と弁護団は、病院と市に対する「統一要求」をおこなっており、15回にわたる継続協議を経て、2015年10月、被害者の会に属する患者23名と市との示談が成立しました。甲府市と病院は患者・家族に謝罪し、市は「今後の約束」という具体的な再発防止策を発表しました。
ここまでの事実経過は、2016年の当欄リレーエッセイ「わが子のために、できることを~市立甲府病院・放射性医薬品過剰投与事件~」に報告しています。
その後、市は、会に所属していない患者に対しても、引き続き示談成立に努めているとのことです。
3 示談成立後10年の活動とこれから
被害者の会と弁護団は、10年間の活動を振り返り、2021年に1冊の記録集を作成して、甲府市長・病院長に手渡し、山梨県内の病院や関係機関等にも配布しました。
示談において市と交わした約束の一つに、患者に対する50年の定期健康診断の実施があります。2011年から現在まで、市立甲府病院や患者の希望する他の病院にて、年1回の超音波検査と年2回の血液検査、尿検査が実施され、患者の甲状腺と全身の健康状態のチェックが続けられています。
また、患者の子どもたちの健康を見守るために必要な期間と同程度のあいだ、病院と会の定期協議がもたれることになっており、年1回開催しています。定期協議では、病院からは定期健康診断の統計的結果や、事故調査報告書で指摘された問題を解決する取組の進捗状況、病院内の研修の実施状況等が報告されます。
被害者の会・弁護団から、病院に対するインシデント・アクシデントのレベル別件数の公表の促しや、医療安全管理体制をモニターする趣旨の質問や意見が重ねられています。
親たちには、乳幼児だった患者が成長したとき、なぜ定期健康診断を受けなくてはいけないのか分かってもらう必要があるが、この難しい事件について(健康への影響評価等)をどのように説明したらよいのかという悩みがありました。そこで被害者の会は、医師からの患者への個別説明や、説明資料を要望し、これに応じて病院は、2022年にRI検査問題に係る説明資料を作成しました。資料では、放射線に関する基礎知識に多くのページ数が割かれています。
2026年には、示談成立後から始まった定期協議が第10回を迎えました。第10回の定期協議では、病院内で毎年行われている本過剰投与事件を学ぶ研修の内容や、研修受講者へのアンケートの概要を知ることができました。詳しい内容の研修によって、多くの受講者が事故調査報告書で指摘された問題点や、患者家族の苦しみを知り、この事件を風化させないという意識を抱いている様子がうかがえました。
定期協議での意見交換や要望が、こうした院内での経験の継承に活きていることが感じられました。
今後も、被害者の会が当初から視野に入れていたように、この活動が個々の患者の被害回復のみならず、地域医療の安全向上にもつながるよう、活動を続けていきたいと思います。
以 上

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