団員リレーエッセイ弁護士の声
薬とサプリと食品と ~本当は怖い(※こともある)サプリの話~(宮城 朗)
薬品による被害(いわゆる薬害)は、医療事件の一部と位置付けて良いように思います。
しかし、もう少し視野を広げると、医薬品の周辺領域には、健康危害のリスクが決して小さいとは言えない健康食品・サプリメント(※厚労省の定義では、「健康食品」とは健康の保持増進に資する食品全般、「サプリメント」とは、その中で特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品を指すとされています。)の膨大な領域が広がっています。それは一体どのようなものでしょうか。
その前提としては、薬というものの本質に対する理解が必要であるように思います。
昔から、「薬と毒とは表裏の関係にある」ということが言われています。
どういうことかと言うと、薬剤が疾患・怪我等に対して強力な薬効を示すのは、人間の身体の種々の生理作用に対して強い作用を及ぼすからです。
この事は、逆に見ると、強い作用を有するがために、不適切な使い方をすると有害な副作用を発生させるリスクの方もそれだけ高いということを意味しています。医薬品の誤使用は、人の身体・生命の安全に直結する問題です。
そのため、薬剤を日本国内で製造・販売する業者は、新たに薬剤を製造・販売するためには、医薬品医療機器総合機構(PMDA)という専門機関の非常に厳格な承認審査を受けなければならず、承認申請のあった新薬の中で最終的な承認に辿りつく確率は3万分の1程度、審査の所用期間は平均して7~10年程度かかると言われています。
国内承認を得た薬剤の製造過程も、各製薬会社には、世界標準であるGMP規格(適正製造規範)という非常に厳しい管理体制構築と継続実施が求められます。
また、国内流通に置かれた薬剤の使用についても、その薬剤を、①どのような人(年齢・性別その他)に対してどのような病気等に対して(適用範囲)、②どのような用法・用量等において用いればよいのか、③副作用としてどのようなものがあるのか、④どのような症例について用いてはならないのか(禁忌)等々の事細かな医師・薬剤師その他医療関係者に対する情報提供が行われ、非常に注意深い取扱いが行われています。
このような薬品と対極にあるのが食品の世界で、肉・魚・野菜等の生鮮食品はもとより、それらを原材料とする加工食品等についても、薬剤のような厳格な承認手続や管理は求められていません。
もちろん食品においても、例えばO157や貝類のシガテラ毒素のような食中毒、寄生虫(魚類のアニサキス中毒等)、腐敗、食物アレルギー、食品自体の毒性(ふぐ毒等)、製造中の異物・毒物混入、誤嚥による窒息(餅など)、成人病リスクの増大、添加物の継続摂取による発がん等々、様々な健康リスクは存在します。
しかし、市場に通常流通している普通の食品は、①国内外で長年月にわたって全国民によって歴史的に食されてきて基本的に安全であることが確認されていること(喫食経験の存在)、②全国民による日々の膨大な需要を支える必要流通量の確保等から、薬品のような厳格管理を行うことは非現実的です。そこで、食品事業者には、最低限の安全・衛生管理のルールだけは守ってもらうこととして、特定食品による健康危害が発生した場合には、直ちに保健所等の関連機関に報告を挙げてもらって迅速に対処するという形になっています。
それでは、健康食品の領域はどうなのかと言うと、食品と医薬品との間の中間領域に属すると言えるでしょう。
基本的な特性としては、天然由来の原材料を用いた加工食品と言えるので、法律的な整理としては「食品」の領域に含められます。
しかし、健康食品は、その形状や提供方法に様々なグラデーションがあり、天然由来の原材料を少し加工しただけのものから、多量な同一成分を濃縮して、薬剤と同じような錠剤(タブレット)やカプセル状にしたもの(サプリメント=栄養補助食品)まであります。
健康食品の中で、より健康リスクが高いのは、後者のサプリメントの方です。
これは、薬剤のように一定量を毎食後等、頻回に長期間にわたって継続摂取するもので、外観上も医薬品との区別が付きにくい製品です。
本来、医薬品とサプリメントとでは、その目的も制度の建て付けも全く異なります。
医薬品は病気や怪我を治療するために用いられるもの、これに対してサプリメントは医学的な効果・効能を謳ってはならず(※違反すると行政処分や罰則がある)、あくまでも通常の食事で不足しがちな栄養素を補助的に補充して日々の健康を維持・増進するためのものに過ぎません。
先に見てきたとおり、食品なので販売開始に厳しい審査は無く、医薬品のような販売後の使用方法の厳密なコントロールもありません。
ところが、実際にはインターネット上(業者サイト・通販サイト・バナー・ブログ・SNS・動画等)に氾濫する無数のサプリメント広告は、明確な医学的効能を直接的に表示することこそ控えるものの、一般的な消費者の知識や目線からすると、ダイエット・発毛促進・成人病予防・健康寿命延長・免疫力向上・消化機能改善・腰痛改善・血流改善・認知症予防・関節機能改善・肌質改善・美白等々、様々な明確な効能を、広告全体の表現を全体として見ると保障しているように見えてしまうように仕組まれているという実態があります。
更に、広告規制に抵触しないように、他のユーザーによる体験談の掲載、影響力のあるインフルエンサーのサイトによる使用報告等で、医学的効能の確信を抱かせるようなケースも多く存在します。
その結果、多くの一般消費者が、サプリメントの医学的効能を期待し、錠剤・カプセルのような形状の類似性からも、サプリメントを実質的医薬品のような誤ったイメージを抱いてしまっている状況があると行政を含む多くの機関・組織から報告されています。
しかし、サプリメントは基本的に食品なので、医薬品のような効能は始めから期待できません。それだけならお金の損だけの話ですが、時には重大な健康リスクの懸念が伴います。その理由は、具体的には、次のようなものです。
- 栄養成分過剰摂取のリスク:
サプリメントは一定の栄養成分を濃縮し、継続的に摂取します。普通に食品として食べて消化吸収するなら危険は無くとも、同じ成分だけを大量に継続摂取することの安全性、健康への影響は確認されていないことがあります。解りやすい例を挙げれば、砂糖・塩・醤油のようなものでさえ、無制限に摂取すれば人は死ぬことがあります。原材料が天然由来のものであったとしても、過剰摂取は健康被害を発生させることがあります。具体例としては、「アマメシバ」というマレーシアの樹木から製造されたダイエット用健康食品に起因する気管支炎の発症例があります。アマメシバ自体は現地で食用に供されて安全と認識されていた食品であっても、サプリメントとして継続的に大量摂取した結果、このような被害が発生しています。ビタミンやミネラル、カテキン等、一般に危険が無いと認識されている物質であっても、長期間の過剰摂取による同様の危険は完全には否定できません。 - 他の成分混入のリスク:
サプリメントの製造工程は、医薬品のように厳密に行われていません。その結果、製造現場において想定外の物質が混入して健康被害を発生させることが有り得ます。最近の有名な例としては、紅麹サプリメントの製造工場における青カビ混入による腎障害の大量発生があります。あるいは原材料が輸入品であったような場合、海外における精製の工程に何らかの問題があった場合、輸入時のチェックが完全に行われない危険もあると思います。 - 実質的医薬品リスク:
サプリメントの中には、原材料が天然由来のものであっても、その中に医薬品と同等の成分が含まれ、サプリメントとして濃縮された結果、実質上、医薬品に近い製品になっていることがあります。 - 飲み合わせリスク:
医薬品においては、この薬剤を服用している時には、この薬剤は服用すべきではない等、複数の薬剤併用による飲み合わせリスクのチェックが、医師・薬剤師によって行われて危険が回避されています。しかし、ユーザーが処方されて服用している医薬品と、サプリメントに含有されている成分が、同時摂取に適さないような関係であった場合、飲み合わせのリスクを生じますが、医師がこれを認識できないために健康危害を発生させる可能性があります。 - 病気悪化のリスク:
サプリメントは、あくまでも健康な人が、健康増進のために服用するもので、既に持病のある人を回復させて健康にする医学的効用は期待できません。それはかえって病気を悪化させるリスクを生じさせることがあります。例えば、肝機能が低下している患者が、肝臓によって分解される物質が含まれるサプリメントを摂取した場合、肝臓に無用の負担を課することになる結果、肝機能を更に悪化させるようなリスクが考えられます。 - 治療開始遅延リスク:
重大な疾患にかかり、本当ならば直ちに医療機関を受診すべきような容態にある患者が、サプリメントに対して過剰な期待を抱き、自己判断により治療開始時期が遅延したことによって疾患が悪化してしまう可能性もあります。 - 新規原材料リスク:
最近のサプリメントでは、日本国内では従来知られていなかったような海外の新規原材料から製造されるものが多くなっています。そのような新規原材料に含まれているような栄養成分が、理論上は健康増進を期待できるようなものであったとしても、日本国内における歴史的な喫食経験が無い原材料からサプリメントを製造する場合、長期間にわたって大量摂取した場合の安全性には、経験的側面としては何の保障も無いことになります。例えば、「プエラリア・ミリフィカ」というタイ全土に生育する葛の根を原材料とするダイエット・サプリメントにより、5年間で209件もの不正出血・月経不順という健康被害を発生させた事例が国民生活センターから報告されています。また、「スピルリナ」という藻を原材料とするサプリメントは、様々な有効栄養成分を含み免疫力を向上させる等と広告されていますが、広範な皮膚症状を伴った炎症性筋疾患を発症させた症例も報告されています。これらの原材料自体は、そのまま食品として摂取する限りは健康被害を全く生じさせませんが、これも大量濃縮して継続摂取することにより健康被害に繋がった事例です。
結論としては、健康食品やサプリメントは、全てが危険なものであるとか、全て否定されるべきものとまでは全く思いませんが、その本質とリスクを正しく理解した上で利用すべきものと思います。
正直、私自身は、使いたいとは全く思いません。消費者庁が許可制または届出制を導入している特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品等がありますが、これらは医薬品レベルの効能を有するものでは全く無いし、前記の紅麹サプリのように機能性表示食品であっても大規模な健康被害を発生させた事例もあります。これらの許可または登録の存在によって直ちに品質・安全性が保障されたと理解すべきではありません。
要は、サプリメントは栄養補助食品に過ぎないので、医薬品のような著しい効能は期待できないことを知るべきです。
そして、基本的には必要な栄養素は通常の食事から摂取するのが安全で、サプリメントの利用はどうしても普通の食事で一部の栄養素が不足している場合等に限定すべきです。
何故なら、一定成分を大量濃縮して継続摂取するサプリメントは、その事自体に構造的な危険性を含むと言えるからです。
少なくとも、過剰摂取は厳禁です。
また薬剤の服用をしている方は、主治医にそのサプリを併用して良いかどうか確認すべきでしょうし、基本的に病気にかかられている人は避けるべきものと思います。
今まで一般にあまり知られていなかった原材料について、画期的効能が確認された等の広告には注意が必要です。
そのような新規原材料については、多くは安全が確認されていません。
このように、サプリメントには、著しい効果は期待できないとの基本的限界があるにも拘わらず、インターネット上のサプリメント広告は、効果・効能を誤解させて惹きつけるような広告表現があまりにも多く、感心しません。
それだけでなく、様々な問題点、健康リスクもあると承知した上で付き合うべきものと思います。
以 上

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