東京三弁護士会主催の医療訴訟連続シンポジウム「 東京地裁医療集中部20周年を迎えて~到達点と課題」が2回にわたり開催され、団員3名が登壇しました

 東京三弁護士会主催の医療訴訟連続シンポジウム「東京地裁医療集中部20周年を迎えて~到達点と課題」が本年1月13日、3月22日の2回にわたり、多数の聴講者を得て開催されました。
 東京地裁医療集中部創設時の部総括、現在の部総括2名、医療側代理人2名、患者側代理人3名がシンポジストとして登壇しました。登壇した患者側代理人はいずれも医療問題弁護団の団員で、団長の安原幸彦、幹事長の五十嵐裕美、副幹事長の松井菜採です。司会・コーディネーターは医療問題弁護団副代表の大森夏織でした。
 この連続シンポジウムはいずれも判例タイムズで掲載予定です。


協力医の意見聴取について(森 孝博)

 医療事件は、専門性が高く、法律相談だけで病院側の法的責任の有無を判断できることはあまりありません。そのため、基本的にまず法的責任の有無を判定するための調査手続を経ることになり、カルテ等を入手・分析し、医学文献を調査します。近頃は、書籍だけでなく、インターネットでも様々な医学情報を入手できるようになっています。

 しかし、実際に目の前にある事案に即した医学的評価や判断となると、文献やインターネットで得られる医学知識だけでは判断がつかないことがあります。法律の分野でも、この世に同じ事案は二つと存在しないため、条文や判例を知っているだけでは足りず、当該事案の具体的事情をどのように条文等に適用(あてはめ)するかの判断や見極めが求められ、これが難しいところですが、医療の分野においても、個別具体的な事案に即した的確な医学的判断や見極めをすることがいかに難しいものであるかを感じます。

 そうした時、医療の専門家である協力医から医学的アドバイスをいただくことで、医療事件の調査を進める上で重要な気づきや示唆を得られます。協力医の意見聴取と呼ばれる手続ですが、私自身、ある麻酔事故の調査において、協力医から、多くの臨床経験に照らして、局所麻酔薬中毒やアナフィラキシーショックは考えられず、くも膜下腔への誤注入に違いないとのご意見をいただき、一気に疑問が氷解したことがありました。

 もちろん法的責任の追及に有利な意見だけをいただけるものではありませんが、それも含めて、第三者的立場から客観的な医学的アドバイスを述べてもらうことで、診療経過に対する医学的理解が大きく深まるように感じます。私のつたない経験ではありますが、一般的にはあまり馴染みのない手続と思ったのでエッセイにしてみました。協力医の意見聴取がどのようなものなのかを理解していただく一助になれば幸いです。

以 上

医療事故と生命保険契約の関係(星野 俊之)

 直前のエッセイとは打って変わって堅苦しい内容になり恐縮ですが、今回は医療事故を主たる原因として患者が亡くなられた場合、生命保険契約ではどのように扱われるのかという点について、整理をしてみたいと思います。

1 普通死亡保険金

 単純に被保険者が死亡したことを保険事故とする普通死亡保険金(三大疾病保険等に含まれる死亡保障も同じです)は、死因が何であるかを問いません。そのため、医療事故を主たる原因として亡くなられた場合であっても、普通死亡保険金は支払対象となります。

2 災害死亡保険金

 これに対して、災害系の特約で定められる災害死亡保険金は、「不慮の事故」を直接の原因とする被保険者の死亡を保険事故としており、死因を限定しています。ここで、診療にあたって医療事によって被保険者が死亡したときに、この医療事故を「不慮の事故」とみて、災害死亡保険金の支払対象となるのか否かは時折争いとなっており、地方裁判所や高等裁判所の裁判例がいくつか存在しています。

(1) 疾病の診療に関して発生した医療事故について

 疾病の診療に関して発生した医療事故については、ほとんどの生命保険会社の約款において、疾病の診断または治療を目的とした医療行為により生じた有害作用は、災害死亡保険金の保険事故である「不慮の事故」には該当しないとする除外規定が置かれています。
 この約款の規定の趣旨は、医療行為はそもそも有害作用が生じる危険性をはらむものであるところ、疾病の治療に関して発生した医療事故による死亡は、大きく見れば疾病の一連の経過の中での出来事であるから、災害系の特約における保障対象外とすることにあると考えられています。過去の裁判例でも、概ね同様の考え方を取り、疾病の診療に関して発生した医療事故による死亡は、災害死亡保険金の支払対象とはならないと判断をするものが多いようです。
 なお、宮崎地裁平成12年1月27日判決は、「例えば、患者を取り違えて手術を実施したとか、薬品を誤って劇薬を注射したなど、客観的に医師等の過失が明白であって著しく不相当な医療事故であると認められる場合には」、疾病の診療に関して発生した医療事故が例外的に「不慮の事故」に該当しうるとも判断しています。しかしながら、ここで示されている内容は、医療訴訟において通常問題とされる医師の過失よりも、さらに重い態様の過失を念頭に置いていると考えられ、これに該当する事例はかなり限定的であろうと思われます。
 以上の考え方によると、疾病の診療に関して発生した医療事故については、普通死亡保険金のみが支払対象となり、(ごく例外的なケースはあるものの)災害死亡保険金の支払対象とはならないものと考えられます。

(2) 傷害の診療に関して発生した医療事故について

 これに対して、傷害の診療に関して発生した医療事故については、これを「不慮の事故」から除外する約款規定は置かれていません。これは、発端となった傷害が「不慮の事故」に該当する以上、その診療に関して発生した医療事故も、当初の「不慮の事故」の一連の経過の中での出来事である以上、災害死亡保険金の支払対象とすべきであるという考えによるものと思われます。
 以上の考え方によると、傷害の診療に関して発生した医療事故については、普通死亡保険金だけでなく、災害死亡保険金の支払対象にもなるものと考えられます。

3 まとめ

 ご家族が亡くなられた際には、加入されていた保険会社への保険金請求をすることが多いと思われますが、その際の参考にしていただけますと幸いです。

以 上

尋問研修を開催しました

 令和4年2月19日、尋問研修を実施しました。
 尋問研修とは、団員が実際に取り扱った事件を題材として、主として若手団員が模擬医師尋問を行う研修です。
 尋問される医師役に現役の医師をお招きし、医療集中部の裁判官・医療側代理人を講評担当としてお招きして実施いたしました。
 司法修習生も傍聴に参加し、大変実りのある研修となりました。

「合理的な患者」とは?(松田 耕平)

「陽性の結果が出ちゃいましたね。これから色々と大変でしょうけど、医療的にはどうすることもできないので、受け入れていただくしかないですね。」

 これは先日、私がコロナ陽性の判定を受けた時の先生(医師)の言葉です。

「なんやて!? わてがコロナ陽性?? んなアホな!!!」

 動揺のあまり、心の中では東京生まれ・東京育ちの私が普段使うことのない言葉が出る始末。そんな私を尻目に、「では。」と言って颯爽と診察室から出て行く先生。

「待って…待って先生!コロナのことや今後の治療のことなど色々聞きたいのですが…」

…と、再び心の中の声。けれど結局、先生には何も聞けませんでした。(※ 聞けば答えてくれそうな雰囲気の先生だったので、先生が悪いわけではありません)


 冷静になってあとから考えると色々と聞きたいことが出てくるけれど、その時は咄嗟のことでなかなか思いつかない、そんなことってありませんか?
 このことを慮って、こちらから聞かずとも説明してくれたり、質問しやすい雰囲気を作ってくれたりすれば良いのですが、そこまでは求めにくいというのもまた現実...。


 ところで、医療事件では、“医師の患者に対する説明義務”が争点になることも多いです。この場合、「医師が何を説明すべきであったか」とともに、その説明すべきことを「実際に患者に説明したのか」という事実関係そのものが争いになることもあります。
 説明した時の様子が録音されていたり詳細がカルテに書いてあったりすれば一目瞭然ですが、そのようなケースはなかなかありません。その時は、断片的なカルテ記載の空白(行間)を「経験則」で埋める(推測する)ことによって、説明があったかどうかが判断されたりもします。
 この「経験則」を一言で説明するのは難しく、色々なアプローチがあり得るのですが、そのなかの一つに「合理的(または一般的)な患者であれば説明を求めた(または求めなかった)であろう」という観点から検討されることもあります。
 しかしこの「合理的な患者」というのがくせ者で、どうも裁判官は、“いつでも冷静で、疑問に思ったことがあれば、適切なタイミングで、しかも医師に対しても臆することなく聞くことができる人”という人物像をイメージしているように見受けられます。(※ 個人の感想です)
 でも、そんな人ってごく僅かだと思うのです。ほとんどの人は聞きたいこともすぐには思い浮かばないだろうし、病気を告げられた時の衝撃もあるだろうし、お医者さんはいつも忙しそうだから遠慮してしまったりもするだろうし。こういう思考や反応があり得るのが「普通」で「合理的」な人なのではないでしょうか。
 だけどそんな「迷い」や「隙」があることを裁判官が理解して、「説明はなかった」と判断してくれることはほとんどないように思います。(※ あくまで個人の感想です)
 裁判で、「ふだん医療事件をやっている私ですら、いざ自分が患者になると、医師に質問できなかったんですよ~!」と声高に叫んでも、きっと届かない。

「ときには不合理なこともするのが合理的な患者では?」

 このことを裁判官に分かってもらうにはどうしたらよいのか。自宅療養中に考えてはみたものの答えはでませんでした。果たして見つかるのかどうか...。
 けれど、これからの弁護士活動を通じて、いつか見つけ出したいと思います。

※ 私の場合は、医師が退室した後、看護師がきて今後の手続について説明してくれました(役割分担もあるのだろうけど、看護師が入ってくるまでの数分間、診察室で一人待機していた時は不安な気持ち全開でしたが...)。

以 上

「死を悲しむことができない」つらさ(木下 正一郎)

 新型コロナ感染状況も落ち着いている2021年12月上旬、大学時代の友人らに久しぶりに会いました。昔の友人にしかできないような青臭い話で勝手に盛り上がり、今闘っているHPVワクチン被害のことを話しました。
 ワクチンつながりで新型コロナワクチンの話が出て、友人の一人から、ご近所の知り合いの息子さんがワクチンを打って3日後の朝、亡くなっているのを発見されたという話を聞きました。何も健康に問題のない、成人の息子さんだったとのことです。このようなことがあったからといって、誰かが原因を明らかにして謝ってくれるわけでもありません。何も分からないままに過ぎ、特にお母様は茫然自失で何もできない状態に陥っているとのことでした。
 その友人は、そのお母様が「死を悲しむことができない」と言っていました。

 私は、「死を受け入れることができない」という言葉で、突然、医療事故被害者遺族となった方々の気持ちや置かれた立場を分かったつもりでいました。
 しかし、「悲しむことができない」というのは、置かれた状況を説明するのに、これ以上的確な表現があるだろうかと思われました。大事な人を亡くして本当は悲しいはずなのに、通常の出来事でなく、「なぜ」という思いばかりが渦巻いたり、受け入れる用意もない出来事にそもそも何も考えることができなかったりで、「悲しむことができない」・・・。想像するにつらすぎます。

 私もいつの間にか弁護士になってから20年を超えました。医療事故事案を受ける度に、「医療機関は事故の被害者の立場になって考えてほしい」などと言っていましたが、いくつも医療事故事案を受けるうちに自分自身が想像力を欠如することになっていないか。他の場面で受ける指摘でも、そのように反省することが最近はありました。
 20年の経験を経て、弁護士として被害者のためにできることの限界も重々承知するようになって、限界があることをできない言い訳にしていたようなところもありました。しかし、限界があるなら限界があるで、「悲しむことができる」手伝いをしっかりとしなければ、と感じました。どこまで行っても、普通の「悲しむことができる」状態とは違うことは理解しつつ・・・。

 私が言葉にすると、うまく表現できず軽くなりますが、精一杯感じたことを著しました。

以 上

1月9日(日)15:30~16:30 署名活動を大泉学園駅 南口ロータリー前で行いました

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を 次の日時・場所で,行いました。

<第127弾>2022年1月9日(日)15:30~16:30
場所 西武池袋線 大泉学園駅 南口

初めて医療相談を受けられる方へ(武田 志穂)

 医療事故に遭ってしまった、専門家に相談したいと思っても、弁護士の法律相談など受けたことがない、という方がほとんどだと思います。
 自分や自分の家族が医療事故に巻き込まれた、と感じた場合に、どこに相談に行ってよいかわからない、相談だけでも高額の費用がかかるのではないか、と危惧される方も多いのではないかと思います。

 医療問題弁護団では、初回の無料相談を実施しています。相談時間に特に制限はありませんので、お気軽にお申込みいただければと思います。多くの場合は、1時間前後お話をお伺いすることが多いです。
 相談を受けたいけれども法律事務所まで出向くのが難しい、という場合には、弁護士によってはzoom等のWEB会議システムを利用して在宅で法律相談を受けていただく形も取れますので、そのようなご希望がありましたら担当となった弁護士にご要望をお伝えいただければと思います。

 医療問題弁護団の事務局を通じて相談の申し込みをしていただくと、すぐに担当の弁護士が二人決まります。ベテラン中堅枠1名、若手枠1名という感じです。実際に面談してお話を伺う前に事前調査票という書類を作成していただき、それに基づいて担当弁護士がある程度下調べしたうえで相談に臨んでいます。
 初めての相談ということで緊張されていらっしゃる方もいますが、最近はすでにほかの法律事務所等で既に相談を受けられたうえで、セカンドオピニオン・サードオピニオンを聞きたい、という形で相談を申し込まれる方もいらっしゃいます。そのような形で相談を申し込んでいただいても全く問題はありません。ご相談の中では、相談時に判明している事実経過等を踏まえた見立て・見込みや、調査をご希望される場合の費用等についてご説明させていただいています。ご相談だけで終了するケースが多いです。

 なお、ご相談後、全件医師(協力医)に事例を検討していただき、事例の問題点等を抽出していただいています。ご相談いただいた事案によっては、相談時の見立てが難しく、その医師のご意見を伺ってから依頼されかどうか最終判断していただく、というケースも存在します。
 もし、医療事故に遭ってしまい弁護士に相談するかどうか迷っていらっしゃいましたら、是非当弁護団の無料相談をご利用いただければと思います。

以 上

医療と労働事件(鈴木 悠太)

 私は、労働者側で労働事件を多く扱う法律事務所に所属しています。
 私自身、扱っている事案の9割近くが労働者側の労働事件で、年間100件近い労働事件を扱っています。
 そんな私が、なぜ労働事件に加えて、医療問題弁護団で医療事件を取り扱っているのかというと、元々生命や人体、医療への興味・関心があったからです。
 私は、弁護士を志す前は専ら理系の人間で、大学受験で生命科学部を受験しようとしたこともありました。
 その後文転して弁護士を目指すことになりましたが、生命や人体、医療などの理系分野には引き続き興味・関心を持っていました。
 そして、弁護士になった後に医療問題弁護団の存在を知り、患者側に寄り添って医療事件を扱う先輩方を見て、私も生命や人体、医療への興味・関心を活かして医療事件を扱ってみたいと思い、医療問題弁護団に加入しました。
 医療事件は、医学文献やカルテ等、調査しなければならないことが多く、労働事件と並行して扱うのは大変ですが、興味・関心に駆り立てられて調査を進めることができていると思います。

 実は、労働事件においても、医療事件ほどではないにせよ医療の知識が必要になることがあります。
 一番は、労働災害(労災)の事件です。職場の事故や業務により傷病を患ってしまった場合、それが労災であると認められ、労災保険給付を受けたり会社に損害賠償請求したりするためには、傷病の発症や、傷病と業務との因果関係(業務起因性)を立証しなければなりません。その立証はまさに医学的な立証になります。
 カルテを検討することはもちろん、時に医療事件同様に医学文献を調査する必要があることもあります。
 私は、過労自殺の案件を扱うことも多いのですが、過労自殺は、過労によるストレス等から精神障害を発症し、その結果自殺に至ってしまうものなので、精神障害の発症や、精神障害の業務起因性が問題となります。
 そのほかにも、傷病により休職していた人の復職拒否の事案で、傷病が回復して休職事由が消滅していたことを立証するために医学的な立証が必要になることや、医療従事者の解雇事案で、解雇理由の有無を検討するために医療の知識が必要になることもあります。

 また、医療事件のご相談の中にも、そもそもの傷病の原因が職場にあり、労災申請等を検討すべきと思われる場合があります。

 労働事件も医療事件も専門的で困難な分野ですが、両方を扱っているからこそ、それぞれの相談を受けた際に幅広いアドバイスができると信じて、これからも知見を深めていきたいと思います。

以 上

基礎研修訴訟編を開催しました

 令和3年12月14日、後藤団員を講師として基礎研修(訴訟編)を開催しました。
 医療事件の訴状の書き方の基本についての説明がなされ、新人団員から「非常にわかりやすく、訴状作成のイメージが持てた。」「被害者救済のためにどのような手続を選択すべきかについてのお話があり、非常に考えさせられた。」等の感想もあり、大変盛況でした。