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お知らせ(事件報告・提言)

医療事故調査の在り方に関する意見書

【要 約】
医療事故発生時に医療事故調査を実施すること、及び、重大な事故事例である場合には医療事故調査委員会を設置して医療事故調査を実施することを,全国の医療機関に対し周知徹底することを求めた。


平成17年5月

医療問題弁護団
(事務局)
東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506
福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544
FAX 03(5698)7512
掲載ホームページ:http://www.iryo-bengo.com/

目 次

はじめに ~ 「医療事故調査の在り方に関する意見書」の目的

第1 本意見書の要旨

第2 医療事故調査の目的
1 事故原因を究明して,医療事故の再発防止,発生予防を図ること
2 事故原因を究明して,医療事故被害者らの被害救済を図ること

第3 医療事故調査の法的位置づけ
1 医療法施行規則に基づく医療事故調査義務
2 医療事故調査委員会による調査義務
3 診療契約または信義則に基づく報告義務等の前提として必要な医療事故調査

第4 医療事故調査の実施
1 医療事故調査を実施すべき場合
2 小規模医療機関における医療事故調査の実施
3 医療事故発生直後の初動対応
(1) 初動対応の重要性・必要性
(2) 初動対応に関する医療機関の現行の取り扱い
4 内部通報者の取扱い

第5 医療事故調査委員会による調査・報告
1 医療事故調査委員会の設置
(1) 医療事故調査委員会を設置すべき場合
(2) 設置基準に関する医療機関の現行の取り扱い
(3) 医療事故調査委員会設置までの流れ
2 医療事故調査委員会の組織形態及び委員の構成
(1) 組織形態
 [1] 内部調査委員会のみを設置するもの
 [2] 外部調査委員会のみを設置するもの
 [3] 混合型調査委員会のみを設置するもの
 [4] 内部調査委員会及び外部評価委員会を設置するもの
(2) 委員の人選及び構成
 [1] 内部委員
 [2] 外部委員
 [3] 混合型調査委員会における委員の構成
(3) あるべき医療事故調査委員会の組織形態
3 事実調査の対象
 [1] 人
 [2] 記録
 [3] 物
4 事実調査における課題
(1) 事故原因の分析
(2) 再発防止策の提言
(3) 事故後の対応とその評価
5 医療事故調査委員会における調査過程の可視性・透明性の確保
6 委員への資料等の配布
7 議事録の作成
8 事務局体制の充実
9 医療事故調査報告書の作成と交付
(1) 医療事故調査報告書の作成
(2) 医療事故報告書の記載内容
(3) 医療事故調査報告書の医療事故被害者らへの交付
10 調査結果の公表

はじめに ~ 「医療事故調査の在り方に関する意見書」の目的

 これまで,医療事故調査は,各医療機関によってそれぞれ独自の考え方で行われてきた。そのため,医療事故調査報告書から読み取ることができる調査活動の内容は,実に様々である。
 本意見書は,これまで公開されている医療事故調査報告書を検討し,その上で,医療事故調査のあり方,医療事故調査委員会の設置・運営について一つの指針を提示した。本意見書を参考に公正かつ適切な医療事故調査が行われることによって,医療事故の原因を究明し,医療事故の被害者である患者及びその家族(以下,「医療事故被害者ら」という。)の被害の救済を図るとともに,医療事故の再発防止・発生予防を図ることを求めるものである。

第1 本意見書の要旨

 医療事故調査の目的は,事故原因を究明して,[1]医療事故の再発防止・発生予防,[2]医療事故被害者らの被害救済を図ることにある。
 医療法施行規則は,医療事故調査を実施すべきこと,及び,重大な事故事例の場合に医療事故調査委員会を設置して調査すべきことを義務づけていると解する。医療事故が発生した場合はすべて医療事故調査を実施すべきであり,重大な事故事例では医療事故調査委員会を設置して調査を実施すべきである。
 小規模医療機関において医療事故調査を実施することに困難が伴う場合には,地区中核医療機関・地区医療団体の協力を得る等の方法により医療事故調査を実施すべきである。
 医療事故が発生した場合,医療安全管理委員会等の責任の下,医療事故に関係した医療従事者に事実経過を記録させ,重要な証拠を保存する等の初動対応をとるべきである。
 内部通報者が現れた場合は,当該内部通報者に不利益処分を科さないようにする。
 医療事故調査委員会を設置する場合は,外部委員のみで構成される外部委員会,または,外部委員と内部委員とで構成される混合型委員会を組織しすることを原則とし,外部委員としては,患者側弁護士や事故調査の手法に知見を有する有識者を入れるべきである。
 医療事故調査では,人,記録,物のすべてが調査対象となり,医療事故被害者らからは初期の段階で意見を聴取する。
 事故原因の分析にあたっては,多角的に事故原因を検討することが必要である。また,回顧的視点から事故原因を分析することは,実効性のある再発防止策の策定には不可欠である。
 再発防止策策定にあたっては,当該医療機関におけるシステムとしてどのような再発防止対策がとれるかという視点が重要であり,現場に根付く対策を策定することが必要である。
 医療事故調査委員会の開催要項を事前に医療事故被害者らに伝える。医療事故被害者らが求めれば,原則として医療事故調査委員会の議事の傍聴を認めるべきであり,傍聴を認めない場合は速やかに議事録を医療事故被害者らに交付すべきである。
 委員への資料等の配布,議事録の作成その他の庶務を円滑に行うため,事務局体制の充実が必要である。
 医療事故調査報告書には,調査の経過・結果をすべて記載しなければならず,その記載は具体的で,第三者が理解できる内容でなければならない。医療事故報告書を作成すれば,同報告書を医療事故被害者らに交付し,事故原因等について説明する。
 最初の医療事故調査委員会招集から医療事故調査報告書の医療事故被害者らへの交付までは,3ヶ月程度を目標とすべきである。
 医療事故調査の結果は原則として公表すべきであり,公表にあたっては医療事故被害者らのプライバシーに配慮すべきである。

第2 医療事故調査の目的

1 事故原因を究明して,医療事故の再発防止,発生予防を図ること

 医療事故調査の目的が,医療事故の原因を究明し,その原因を踏まえて再発防止策を策定し,もって,医療事故の再発を防止することにあることは明らかである。
 これだけにとどまらず,医療事故調査は,他の医療機関における医療事故の発生予防をも目的とする。すなわち,ある医療機関において発生したものと同種の医療事故は,他の医療機関において他の患者に対しても起こりうる。したがって,医療事故発生の事実経過並びにその原因及び対策を,広く共有することによって,他の医療機関における医療事故の発生を予防することができ,ひいては日本の医療の安全を確保することとなるのである。
 かかる医療事故発生予防という目的を達成するためには,医療事故調査の結果が,医療事故報告書として公表されることが極めて重要である。

2 事故原因を究明して,医療事故被害者らの被害救済を図ること

 医療事故調査や医療事故調査報告書の公表の場面において,医療事故被害者らの感情に配慮すべきであることは言うまでもなく,公表されている医療事故調査報告書の中にも,このような配慮を示しているものも存在する。しかしながら,医療事故被害者らの感情の点については,それに配慮することで足るという性格のものではない。
 そもそも,医療事故とりわけ医療過誤が発生した場合に,医療事故被害者らの被害救済・被害回復を図るべきことは当然である。そして,医療事故に遭遇した時,医療事故被害者らが求めるものは,通常,真相究明,情報開示と説明責任,法的責任の明確化と反省謝罪,再発防止等であるところ,医療事故原因等を究明することは,医療事故被害者らの上記要望に応えることになり,ひいては医療事故被害者らの救済を図ることとなる。
 したがって,医療事故の原因等を究明することにより,これら医療事故被害者らの要望に応え,もって,被害救済を図ることは,医療事故調査の重要な目的の一つである。

第3 医療事故調査の法的位置づけ

1 医療法施行規則に基づく医療事故調査義務

 医療法施行規則11条4号は,病院又は患者を入院させるための施設を有する診療所の管理者は,「医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること」としている。医療機関が,事故報告等の上記方策を講じるためには,まずは公正かつ適切な医療事故調査を行う必要がある。したがって,医療機関の管理者は,同規則11条4号によって,医療事故調査を義務づけられている。
 また,特定機能病院や国立高度専門医療センター等の事故等報告病院に対しては,同規則9条の23第1項2号,11条の2は,事故発生日から2週間以内に事故に関する報告書の作成を義務づけ,同規則12条は,事故発生日から原則として2週間以内に報告書を厚生労働大臣の登録を受けた分析事業機関に対して提出しなければならないとしている。この事故等報告書には「事故等事案に関して必要な情報」を記載することとされており(同規則9条の23第2項5号),医政局長平成16年9月21日付「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」によれば,「事故等事案に関して必要な情報」とは,発生要因,患者側の要因(心身状態),緊急に行った処置,事故原因,事故の検証状況,改善策とされている。かかる事項を事故等報告書に記載するためには,医療事故調査を実施することが不可欠である。したがって,医療法施行規則9条の23,11条の2,12条も医療事故調査が実施されることを当然の前提としている規定であるといえる。

2 医療事故調査委員会による調査義務

 医療事故調査の方法の一つとして,医療事故調査委員会による調査がある。
 医療法施行規則11条2号では,病院又は患者を入院させるための施設を有する診療所は「医療に係る安全管理のための委員会を開催すること」としている。医療に係る安全管理のための委員会(以下,「医療安全管理委員会」という。)について,平成14年8月30日医政発第0830001号各都道府県知事宛「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」では,「第2(2) 新省令第11条第2号に掲げる『医療に係る安全管理のための委員会』(以下「安全管理委員会」という。)とは,医療機関内の安全管理の体制の確保及び推進のために設けるものであり,次に掲げる基準を満たす必要があること。」「ウ 重大な問題が発生した場合は,速やかに発生の原因を分析し,改善策の立案及び実施並びに職員への周知を図ること。」としている。このことからすれば,医療安全管理委員会には,少なくとも重大な事故事例については,発生の原因を分析し,改善策の立案をする委員会,すなわち医療事故調査委員会が含まれることが予定されているといえる。

3 診療契約または信義則に基づく報告義務等の前提として必要な医療事故調査

 医師は,診療契約に基づいて,患者を診療・治療した場合,患者に対し,診断の結果,治療の方法,その結果などについて説明,報告すべき顛末報告義務を負っている(民法645条,受任者の報告義務)。
 また,裁判例では,患者が死亡した場合において,その死因が不明である等の場合で,遺族が患者の死因の解明を望んでいる時は,病院としては,遺族に対し,死因解明に必要な措置について提案をし,それら措置の実施を求めるかどうかを検討する機会を与える信義則上の義務を負う(東京地判平成9・2・25判例時報1627号118頁)としたものが存する。さらに,医師の付随的な義務として,患者が死亡するに至った経緯・原因について,診療を通じて知り得た事実に基づいて,遺族に対し適切な説明を行うことも,医師の遺族に対する法的な義務というべきであるとした裁判例も存する(広島地判平成4・12・21判例タイムズ814号202頁)。
 このような顛末報告義務,遺族への死因解明提案義務,死因等説明義務を医師及び医療機関が履行するためには,医療事故調査を行い事故発生に至る事実経過及び事故原因を明らかにすることは必須である。
 したがって,診療契約上または信義則上の顛末報告義務等を履行するためにも,医療事故調査は必要なものである。

第4 医療事故調査の実施

1 医療事故調査を実施すべき場合

 前記のとおり,医療事故調査の目的が,原因究明等の調査をすることによって,医療事故の再発防止・発生予防,及び,医療事故被害者らの被害救済を図ることにあることからすれば,医療事故が発生した場合はすべて,医療事故調査を実施しなければならない。

2 小規模医療機関における医療事故調査の実施

 小規模医療機関についても,診療契約または信義則に基づく報告義務等を履行するため,及び,医療事故の再発防止・発生予防のために,医療事故調査が必要であることに変わりはない。そして,小規模医療機関においては,人的・物的資源の制約から,医療事故調査,とりわけ医療事故調査委員会を開催してする調査には困難が伴う場合がある。したがって,このような場合には,地区中核医療機関・地区医療団体の協力を得る等の方法により医療事故調査を実施すべきである。
 地区中核医療機関・地区医療団体は,医療事故調査の実施または医療事故調査委員会の設置に困難を伴う小規模医療機関における安全管理を推し進めるため,そのような医療機関に協力して医療事故調査が実施できる体制を早急に整えるべきである。

3 医療事故発生直後の初動対応

(1) 初動対応の重要性・必要性

 原因究明のためには何よりも事実の調査が重要である。しかし,事実についての人間の記憶は,記憶した時点から時間の経過とともに薄れていくものであり,時間が経過した後に関係者から事情を聴取しても正確な事実を把握できない可能性が高くなる。特に,チーム医療が行われることが多い今日,診療経過を通じてすべての事実を把握している者が存在する場合の方が少なく,一人一人の医療従事者にその者が関与した事実を,発生した医療事故との関係で意味ある事実としていつまでも記憶しておくことを期待することはできない。ましてや,医療事故発生という混乱した状況の下では,事実を正しく記憶できていないおそれもあり,これが時間の経過とともに風化していけば,ますます事実の調査は困難を極める。
 また,事故発生直後の段階で,重要な証拠(医療器具や記録等)を保存する措置を講じなければ,それらが散逸し,その収集が困難となる。
 以上から,医療事故発生直後から,関係者が記憶する事実を記録にとどめさせ,重要な証拠を保存する等の初動対応をとることが必要である。
 そこで,事故発生直後から,医療安全管理委員会(医療法施行規則11条2号),「医療に係る安全管理を行う部門」(同規則9条の23第1項1号ロ。以下,「医療安全管理室」という。),「専任の医療に係る安全管理を行う者」(同規則9条の23第1項1号イ。以下,「医療安全管理者」という。)(以下,医療安全管理委員会,医療安全管理室及び医療安全管理者を総称して,「医療安全管理委員会等」という。)が,医療事故に関係した医療従事者に事実経過を記録させ,重要な証拠を保存する等の初動対応をとり,直ちに調査に着手すべきである。
 なお,後述する医療事故調査委員会が設置されることとなった場合には,医療安全管理委員会等は,その時点までに調査した結果を,保存した記録・証拠とともに医療事故調査委員会に引き継ぎ,同委員会における調査が円滑,公正かつ適切に実施されるようにしなければならない。

(2) 初動対応に関する医療機関の現行の取り扱い

 上記のような初動対応に関しては,平成12年9月の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(国立病院・療養所及び国立高度専門医療センターにおける医療事故発生時の対応方法について,国立病院等がマニュアルを作成する際の指針を示すために,厚生省リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成委員会が策定したもの)において,「医療事故発生時の対応」として「事実経過の記録」について,「医師,看護婦等は,患者の状況,処置の方法,医療事故被害者らへの説明内容等を,診療録,看護記録等に詳細に記載する」こととされていた。しかし,これでは,医療事故発生という混乱した状況の下で,事実の記録を現場の医療従事者だけに委ねてしまうことになり,事故後の調査において精査されなければならない事実経過の掌握として不十分なものとなる可能性を内包していた。
 これに対し,平成15年3月の「国立病院・療養所における安全管理のための指針」(平成14年8月の医療法施行規則の一部改正等を踏まえ,平成15年3月に「リスクマネージメントマニュアル作成指針」が改訂されたもの。)では,医療安全管理室の所掌事務に「医療事故発生時の指示,指導等に関すること (1)診療録や看護記録等の記載,医療事故報告書の作成について,職場責任者に対する必要な指示,指導」を掲げ,医療安全管理者の主要な役割について,「医療安全管理者は医療安全管理室の業務のうち,以下の業務について主要な役割を担う」と述べた上で,主要な役割として「医療事故発生の報告又は連絡を受け,直ちに医療事故の状況把握に努めること」を挙げている。
 これは,医療事故発生時における初動対応の重要性を認識し,医療安全管理室及び医療安全管理者に初動対応を実施させる趣旨の指針と解される。
 なお,国立病院(現 独立行政法人国立病院機構の開設する病院),国立療養所及び国立高度専門医療センター以外の他の医療機関においても,医療事故発生時には医療安全管理室(医療安全管理室を設置していない医療機関においては医療安全管理委員会)及び医療安全管理者が,関係した医療従事者に事実経過を記録させ,重要な証拠を保存する等の初動対応をとるようにすべきである。しかし,この点に関し,医療機関の中には,医療事故対策マニュアル等において,医療事故発生時の対応として,医師・看護師等が事実経過の記録を行うべきとのみ定めているものも少なくない。したがって,各医療機関は,医療事故発生時には医療安全管理室(医療安全管理室を設置していない医療機関においては医療安全管理委員会)及び医療安全管理者が,関係した医療従事者に事実経過を記録させ,重要な証拠を保存する等の初動対応をとることとするよう,マニュアル等を改訂すべきである。

4 内部通報者の取扱い

 医療機関が事故の発生を認識する端緒が内部通報である場合,その内部通報者が誰かを追求することは原則として行わないこと,内部通報者が判明した場合でも,その者に不利益を課さないこととすべきであり,そのことを事故調査の原則のひとつとすることが,各医療機関内において明らかにされるべきである。これは言うまでもなく,すべての事故を,同種事故の再発防止・発生予防を図り医療安全の向上の教訓とするために,広く事故の情報を得られるようにするためである。
 なお,平成16年6月に成立した「公益通報者保護法」においては,労働者が不正目的ではなくして,個人の生命または身体の保護,消費者の利益の擁護等にかかる事実を公益通報することによって,降格・減給・その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めている。

第5 医療事故調査委員会による調査・報告

1 医療事故調査委員会の設置

(1) 医療事故調査委員会を設置すべき場合

 前記のとおり,医療事故が発生したときには医療事故調査が行われなければならないが,重大な事故事例が発生した場合には,医療事故被害者らの被害救済の重要性が高まるとともに,原因究明及び再発防止・発生予防を求める社会一般の要請も強くなる。そのため,原因究明のための調査及び再発防止・発生予防策の策定がより公正かつ適切な手続きで行われる必要が生じる。したがって,重大な事故事例が発生した場合には,医療事故調査委員会を設置して医療事故調査を実施しなければならない。
 「重大な事故事例」の範囲については,医療事故事例の報告制度における報告範囲と同様に考えればよい。
 すなわち,医療法施行規則は,国立高度専門医療センター,特定機能病院等について,特に重大な事例の報告を義務づける制度に関する規定を置いている(医療法施行規則9条の23第1項2号,11条の2)。そして,事故事例報告を求める医療機関における事故等の範囲については,厚生労働省に設置された医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会 事故報告範囲検討委員会が取りまとめた「報告範囲の考え方」(参考資料1)と具体例(参考資料2)が存在する。そこで,「報告範囲の考え方」(参考資料1)において事故として報告すべきとされている範囲と同様の範囲について,医療事故調査委員会を設置すべきである。ただし,「報告範囲の考え方」(参考資料1)記載の「C.濃厚な処置・治療を要した事例」については,一過性のものであるので,医療事故調査委員会の設置を判断するにあたっては,必ずしも「重大な事故事例」に含めなくともよいと考える。
 なお,参考資料1 注2記載のように,「管理(管理上の問題)」には,療養環境の問題の他に,医療行為を行わなかったことに起因するもの等も含まれることに留意すべきである。

(2) 設置基準に関する医療機関の現行の取り扱い

 現在,多くの医療機関では,医療事故調査委員会規程,医療事故防止対策マニュアル等で,「原因究明の必要があると認めた医療事故について」「必要がある場合」等に医療事故調査委員会を設置する旨の規定が置かれているにとどまる。しかし,重大な事例の場合に医療事故調査委員会を設置することとすべきであり,これを明示していない点で,上記のような規程は妥当でない。
 ただし,「重大な事例が発生した場合」に医療事故調査委員会を設置すべきと定めるだけでは不十分であり,医療事故調査委員会設置をできる限り明確な基準に基づいて判断できるものとし,もって,医療事故調査委員会を速やかに設置し早期に医療事故調査に着手できるようにするとともに,医療事故調査委員会設置の判断に恣意的判断が入らないようにすべきである。そこで,次のような規程案を,各医療機関の医療事故調査委員会規程,医療事故防止対策マニュアル等に明文化すべきである。

<規程案>
 病院長は,次に掲げる事例が発生した場合には,医療事故調査委員会を設置する。
 1 明らかに誤った医療行為又は管理に起因して,患者が死亡し,若しくは患者に障害が残った事例
 2 明らかに誤った医療行為又は管理は認められないが,医療行為又は管理上の問題に起因して,患者が死亡し,若しくは患者に障害が残った事例(医療行為又は管理上の問題に起因すると疑われるものを含み,当該事例の発生を予期しなかったものに限る。)
 3 1及び2に掲げるもののほかに,医療に係る事故の発生の予防及び再発の防止に資すると認める事例

(3) 医療事故調査委員会設置までの流れ

医療事故調査委員会設置までの流れを図示すると,次のとおりとなる。

  事故発生の認識
  (医療従事者による事故の認識
  ・患者からの苦情申立)

    直ちに

  医療安全管理委員会等への報告

    直ちに

  医療安全管理委員会等による
  初動対応・
  医療事故調査開始

    設置基準に該当する場合,速やかに

  医療事故調査委員会設置

2 医療事故調査委員会の組織形態及び委員の構成

(1) 組織形態

 医療事故調査委員会は,委員の構成によって内部調査委員会,外部調査委員会,混合型調査委員会に分類される。これらに外部評価委員会を加え,医療事故調査委員会の組織形態としては次のようなものが考えられる。

[1] 内部調査委員会のみを設置するもの

 内部調査委員会:事故が発生した医療機関の職員から委員として任命された者(以下,「内部委員」という。)のみで構成され,事故原因を調査する権限を有し,同調査の実施・医療事故防止策を策定する委員会

[2] 外部調査委員会のみを設置するもの

 外部調査委員会:事故が発生した医療機関の外部の者から委員として任命された者(以下,「外部委員」という。)のみで構成され,事故原因を調査する権限を有し,同調査の実施・医療事故防止策を策定する委員会

[3] 混合型調査委員会のみを設置するもの

 混合型調査委員会:内部委員及び外部委員が参加して構成され,事故原因を調査する権限を有し,同調査の実施・医療事故防止策を策定する委員会

[4] 内部調査委員会及び外部評価委員会を設置するもの

 外部評価委員会:事故が発生した医療機関の外部の者で構成され,内部調査委員会が調査した調査結果及びこれに基づき認定した事実並びに策定した医療事故防止策やその実施状況が適正か否かを事後評価する委員会

(2) 委員の人選及び構成

[1] 内部委員

a. 医療事故に関与した医療従事者及び当該診療科に所属する者(部門長を含む。)は委員に任命しない。

原因を究明して医療事故被害者らの被害救済を図ることが医療事故調査の目的であること,医療事故調査委員会が設置される重大な医療事故事例では原因究明及び再発防止・発生予防に社会も大きな関心を寄せていることからすれば,医療事故調査委員会における調査は,公正さ・透明性を保って行われなければならない。
 かかる公正さの観点,及び,医療事故に関与した医療従事者は調査の客体となることからすれば,当該医療従事者が医療事故調査委員会の委員に任命されるべきでないことは当然のことである。
 また,公正さの観点からは,医療事故に関与した診療科に所属する者(部門長を含む。)も委員として任命すべきではない。医療機関が作成した医療事故対策マニュアル等によれば,医療事故が発生した診療科責任者を医療事故調査委員会の委員とするものも存在するが,当該診療科の知識など専門性を要するという事情がある場合には,当該診療科に精通した外部委員を任命するようにすべきである(後述[2]a.)。

b. 医療機関の顧問弁護士を委員として任命する場合は,内部委員扱いとする。

[2] 外部委員

a. 発生した医療事故ないし起因する医療行為等の分野における医療の専門家を外部の者から任命する。

 適切に調査を実施するためには,発生した医療事故または起因する医療行為等の分野における医療の専門家の意見を聞くことは必要不可欠である。

b. 医療従事者ではない者を委員として任命する。患者側弁護士(通常患者側で代理人を務めたり,その他患者のための活動をする弁護士)や科学的な事故調査の手法についての知見を有する有識者を委員として任命することが重要である。

 医療従事者は医療の専門家であるが,必ずしも事実調査及び事実認定の専門家ではなく,医療に関する事故の調査であっても事実調査及び事実認定に長けた委員の存在が不可欠である。また,医療事故調査委員会における調査が医療事故の再発を防止するという目的でなされるものである以上,調査によって事故当時の状況を明らかにするだけでは足りず,事故の発生前から発生後にかけての経過,及び,発生した結果に照らし,いずれかの時点で事故が発生しない何らかの措置を執ることができなかったかという回顧的な視点での調査が必要となる。
 そこで,かかる視点から調査及び事実認定を行うことに長けている弁護士や事故調査の手法についての知見を有する有識者等が外部委員として加わるべきである。
 さらに,事実調査及び再発防止策策定にあたり,医療という専門性の枠内だけで考えるのではなく,医療事故が発生した場合に医療事故被害者となる患者側の意見をもくみ上げ,より適切な再発防止策を講じるためには,患者側弁護士を委員として任命することが重要である。

c. 公正さの観点,及び,当事者は調査の客体となるという理由から,事故に関与した医療従事者と同様,当該医療事故被害者らが委員として任命されるべきでないことは当然である。

d. 医療事故被害者らが委員として推薦した人物は,公正性の確保の観点から,委員の人選にあたって十分に尊重すべきである。

[3] 混合型調査委員会における委員の構成

 混合型委員会を設置する場合は,内部委員と外部委員の人数のバランスを図る。

(3) あるべき医療事故調査委員会の組織形態

 医療事故調査委員会を組織するにあたっては,公正さの確保と,事故調査に適切な人材による調査の実施という観点から,外部委員が加わる形態,すなわち,[2]外部調査委員会または[3]混合型調査委員会を設置する形態を原則とすべきである。そして,前記のとおり,[3]混合型調査委員会を設置する場合には,内部委員と外部委員の人数のバランスを図る必要がある。
 また,事故をきっかけとして,病院の運営体制や医療従事者の意識等,改めて病院全体の構造的な問題にまでさかのぼって検討を深めるべき場合には,病院のあり方そのものについて第三者の率直な意見を仰ぐという観点から,また,医療事故調査とは切り離してそのような検討に特化して対策を講じるという観点から,[4]外部評価委員会を設置するということも有意義であると考える。

3 事実調査の対象

 事故が起きた症例について,どのような事実経過を辿ったのかを詳細に確定することは,事故調査の基本であり,調査に実効性をもたせるための不可欠の前提である。事故調査は,どのような事実が積み重なって事故発生に至ったのかという事実を確定する作業からまず始まることになる。事故調査委員会のメンバーが,いったい何が起きたのかを再現的にイメージできる程度にまでなっていると,事故原因の分析においても再発防止策の提言においても,具体的で有意義な議論を行うことができる。
 事実調査の対象となるのは,[1]人,[2]記録,[3]物に分類される。

[1] 人

 その事故の発生に関与したすべての人は調査対象となる。医療チーム(医師・看護師・薬剤師・医療機器の管理者等),患者自身,患者の家族などである。カルテなどの医療記録に記載されている事実は,必ずしもすべてではなく,これらの人々から体験した事実を聴取して医療記録に記載されていない事実経過をも補充すべきである。
 患者自身あるいは患者の家族については,2つの面で調査対象とされるべきである。一つは,言うまでもなく各人が体験した事実について聞き取りをするという意味で事実調査の対象である。そしてもう一つは医療事故被害者らの被害感情と事故調査への要望を聴取する対象である。事故調査の目的の一つが,医療事故被害者らの真相究明等の要望に応えて,被害救済を図ることからするならば,各委員が医療事故被害者らの意見・要望を明確に認識することが必要であり,そのためにも医療事故被害者らからの意見の聴取は不可欠である。
 なお,医療事故被害者らの意見・要望に応えこれを調査に反映させるとともに,調査の公正さ・透明性を確保するためにも,医療事故被害者らからの聴取は,事故調査の初期の段階で行われるべきである。

[2] 記録

 カルテなどの医療記録,看護記録,各種検査結果,手術のビデオなどの画像資料,その他すべての当該患者の診療に関して作成された記録は調査の対象とされるべきである。また,意図的な改ざんはもとより,事故発生後に既存の記録に手を入れて改変することは,その目的いかんに関わらず,調査の公正さを担保するために行われるべきではない。事故後の経過を記録にとどめる場合には,診療録・看護記録などに事故後の記載であることがわかるように区別して記述するか, あるいは,事故報告書などの別文書とし,通常,作成される医療記録とは区別して行うべきである。
 前記第4,3「医療事故発生直後の初動対応」の項で述べたとおり,これらの記録の管理は,医療事故調査委員会設置前においても現場の医療従事者ではなく医療安全管理委員会等の責任の下で行われるべきであり,医療事故調査委員会設置後は同委員会の責任の下で管理されるべきである。
 なお,事後的調査によって容易に原因究明がなされるためには,再現性に資する資料(充実した診療記録,術中ビデオ等)が診療過程で作成されることが不可欠である。

[3] 物

 診療に用いられた各種医療機器・医療機材も,当然,調査対象に含まれる。これらは,そのままの状態で保全されなければならない。東京都立広尾病院事件のように誤投薬された際に用いられた注射器が廃棄されるなどの事態があれば,重要な証拠資料が失われて事実が不明になるばかりでなく,その主観的意図とは関係なく,医療機関としての事故調査に対する姿勢を疑われることとなる。また,とりわけ医療機器が関与する事故である場合,事故を起こした「物」そのものがまずは事故時の状態のままで保存されるべきである。
 さらに,事故原因の解明のための「物」に対する分析調査など,事故調査のために物に対して手を加える必要がある場合には,医療事故被害者らの同意を得つつ,かつ,物の性状を記録しつつ行われるべきである。
 なお,記録同様に,調査対象物の管理も,調査委員会設置前においては現場の医療従事者ではなく医療安全管理委員会等の責任の下で行われるべきであり,調査委員会設置後は委員会事務局の責任の下で管理されるべきである。

4 事実調査における課題

(1) 事故原因の分析

 事故調査においては,第一には事故がなぜ起きたのかという事故原因についての分析的・科学的な検討が行われなければならない。
 実際に施された個々の医療行為の誤りの有無という漫然かつ抽象的な吟味や,科学的な知見を前提とせず,それまでの医療慣行を基準として是非を論じるような検討の仕方は,事故原因の分析においても再発防止策の提言においても意味がない。
 具体的な事故原因分析の手法としては,アメリカの航空宇宙局(NASA)による事故分析と対策に用いられている4M4E分析法や,フロー分析,SHELL分析等などが知られている。これらの事故分析手法として評価のある手法を用いる等して,多角的に事故原因を検討することが必要である。
 また,分析に際しては,医療従事者のみで行うべきではなく,回顧的・後方視的な証拠に基づく事実認定の訓練を受けている法律実務家,科学的な事故調査の手法についての知見を有する有識者などの外部委員を医療事故調査委員会に入れ,学際的な議論を行うようにすべきである。とりわけ,法律実務家が有する事実認定の手法や法的発想は,事故発生の予見可能性や結果回避可能性の有無,あるいは,事故原因と生じた結果の因果関係を認定する上で重要であり,実効性のある再発防止策の策定の不可欠の前提となりうる。

(2) 再発防止策の提言

 事故原因の分析に基づき,同種の事故を繰り返さないための再発防止策の具体的な提言を行うことまでもが,事故調査委員会には望まれる。
 再発防止策を検討するにあたっては,どのような事故であっても,事故原因を特定の個人のミスの指摘や個人の努力のレベルの問題にとどまるとすべきではなく,当該医療機関におけるシステムとしてどのような再発防止対策がとれるかという視点が重要である。
 また,この再発防止策は,現場に根付くものであることが必要である。そのためには,事故発生の直接の原因だけでなく,背景事情までをも十分に理解・検討することが必要である。提案される再発防止策は,医療現場の実態に基づいた実施可能なものであるべきである。現場の実情を無視した実施困難な提言ばかりが増えると,提言無視の風潮を助長するだけであり,結局は,実効性ある再発防止策の実現に結びつかない。
 なお,再発防止等の実施状況の点検も重要である。

(3) 事故後の対応とその評価

 事故発生時までではなく,事故後にとられた対応についての検討も有用である。
 事故後の対応の中では,とりわけ医療事故被害者らに対する対応が問題となる。事故発生を認識したら,その法的責任いかんにかかわらず,医療機関としては,医療事故被害者らから求められなくても医療記録の写しを交付するなど,積極的に情報開示し,説明責任を尽くすべきである。
 これに対し,事実の隠蔽・証拠の隠滅廃棄など,不適切な事後対応については,同様の事態の再発防止・発生予防のために事故調査委員会において批判されるべきである。事故調査委員会において,事故後の対応の適否についての検討を積み重ねることによって,事故後の医療事故被害者らへの対応が成熟することが期待される。

5 医療事故調査委員会における調査過程の可視性・透明性の確保

 医療事故調査がどのように行われているかについて医療事故被害者らの知りたいという要望に応えるため,また,医療事故調査委員会における調査が公正さ・透明性を保って行われるようにするため,医療事故被害者らに対し,医療事故調査委員会での調査を知る機会を提供すべきである。
 そのためには,まず,医療事故調査委員会開催の日時・場所などの要項を事前に医療事故被害者らに伝えるべきである。
 また,医療事故被害者らが求めれば,原則として医療事故調査委員会の議事の傍聴を認めるべきである。仮に,委員に対する心理的影響を考慮して委員会の傍聴を認めない場合は,委員会開催後速やかに議事録を作成して,医療事故被害者らに開示し,その写しを交付すべきである。
 なお,医療事故被害者らが委員会の議事進行を録音したりビデオ撮影することについては,単に傍聴を認める場合と比較して委員の心理に与える影響が大であるので,一律に認めるべきか否か判断することは難しく,個々の場合に応じて適切に判断するほかない。

6 委員への資料等の配布

 医療事故調査委員会では,細かい事実経過に基づき,医療という専門性ある分野の議論がなされることになる。
 そのため,委員が十分な準備をして委員会の議論に臨むことができるように,可能な限り,資料・参考文献は事前に委員に配布すべきである。診療記録写しや医学文献等の参考文献につき,翻訳や補充説明が必要とされる場合には,必要に応じて,訳文や補充の説明書も用意しなければならない。

7 議事録の作成

 医療事故調査委員が開催された場合,必ず議事録を作成する。これによって,調査の過程ないし終了後に生じた疑問点を検証したり,調査終了後に同種事故が発生した場合の当該調査・防止策の適正さを再検討できるようにしなければならない。

8 事務局体制の充実

 前記のとおり,医療事故調査委員会の開催にあたり委員への資料の配布,議事録の作成その他の庶務が円滑に行われることによって,迅速かつ適切な医療事故調査・報告がなされるためには,事務局体制を充実することが必要不可欠である。多くの場合,医療安全管理室が事務局を務めることが考えられる。
 医療事故が発生した場合,医療安全管理室を含む医療安全管理委員会等が初動対応にあたり,医療事故調査委員会が設置されたときは医療安全管理室が事務局を務めることからすれば,医療法施行規則上の義務ではないが,一定規模以上の医療機関で医療安全管理室を常設することが望ましい。

9 医療事故調査報告書の作成と交付

(1) 医療事故調査報告書の作成

 医療事故被害者らの真相究明等の要望に応えるため,また,再発防止・発生予防策の周知のためには,医療事故調査の結果をまとめ,医療事故調査報告書を作成することは必須である。

(2) 医療事故報告書の記載内容

 医療事故調査報告書には,医療事故等の内容に関する情報,発生要因,患者側の要因(心身状態),緊急に行った処置,事故原因,事故の検証状況,改善策,医療事故調査委員会の構成,その他調査の経過・結果をすべて記載しなければならない。
 その記載にあたっては,同報告書に基づき実践すべき事項が明確になるよう,具体的な記載をこころがけるべきである。
 また,医療事故調査報告書は,報告者や当該医療機関関係者だけが内容を把握できればよいというものではない。医療事故被害者らや,広く第三者において十分に理解することができる内容でなければならない。したがって,平易な文章にて記載される必要があり,適宜,説明に必要な資料等を付けたり,議論の内容が分かるように対立意見を紹介することなどが必要となる。

(3) 医療事故調査報告書の医療事故被害者らへの交付

 医療事故調報告書作成後,調査結果を公表する前に,医療事故被害者らに対し,医療事故調査報告書の写しを交付して,事故原因などについて説明しなければならない。
 なお,医療事故調査報告書が医療事故被害者らへ交付されるまでの期間については,被害救済の目的に照らせば,早期に医療事故調査報告書が医療事故被害者らに交付されるべきであり,再発防止・発生予防という目的に照らしても,事故が風化する前に報告がなされるべきである。具体的には,最初の委員会招集から医療事故調査報告書の医療事故被害者らへの交付までを,3か月程度で進めることを原則とすべきである。

10 調査結果の公表

 公的医療機関等においては,医療事故の公表について独自に公表基準を定めていることが多い。医療事故のみならず,医療事故調査の結果等についても公表基準を事前に規定しておくことが望まれる。
 医療事故調査の目的は,医療事故が発生した医療機関における同種事故の再発を防止するとともに,他の医療機関における同種事故の発生を予防することにあるから,医療事故調査報告書は広く外部へ公表し,医療事故発生の事実経過並びにその原因及び対策が社会一般に共有すべきである。また,このように公表することによって,外部の批判に晒され,あるいは,外部の知恵を入れることで,より良い再発防止・発生予防策を構築することができ,日本の医療のさらなる安全確保につながっていくこととなるのである。
 公表にあたっては,医療事故被害者らのプライバシーに配慮すべきことは当然である。この点,平成16年12月24日厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」では,「Ⅲ 医療・介護関係事業者の義務等 5.個人データの第三者提供(法第23条)(5)その他留意事項」として,「医療事故等に関する情報提供に当たっては,患者・利用者及び家族等の意思を踏まえ,報告において氏名等が必要とされる場合を除き匿名化を行う。また,医療事故発生直後にマスコミへの公表を行う場合等については,匿名化する場合であっても本人又は家族等の同意を得るよう努めるものとする。」との指針を示している。したがって,同指針に則り,医療事故調査報告書を公表するようにすべきである。

以 上

参考資料1「報告範囲の考え方」

参考資料2「事故報告範囲具体例」


医療問題弁護団政策班

 鈴 木  利 廣 , 大 森  夏 織 

 宮 城    朗 ,○五十嵐  裕 美

 伊 藤  律 子 ,○鄕 井  章 光

 中 島  ゆかり ,◎木 下  正一郎

 中 川  素 充 , 藤 田    裕

  * ○印は本意見書起案担当者
      ◎印は責任者
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