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お知らせ(事件報告・提言)

「医療事故発生後における説明会開催について」に関する意見書

当弁護団は、東京を中心とする200名余の弁護士を団員に擁し、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動等を行い、それを通じて、患者の権 利を確立し、かつ、安全で良質な医療を実現することを目的とする団体である。
医療事故発生時における医療機関の患者・家族に対する情報開示・説明責任につ いて、2005(平成17)年4月、「医療事故発生時における診療記録等の開示 について」と題する意見を述べた。
本意見書では更に事故後の説明会開催について 意見を述べる。


2006(平成18)年9月20日
医療問題弁護団
代表 弁護士 鈴木 利廣
(事務局)
東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506
福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544
FAX 03(5698)7512
掲載ホームページ:http://www.iryo-bengo.com/

目  次

第1 意見の趣旨

第2 意見の理由


第1 意見の趣旨

医療機関は、診療に関する説明責任を果たすため、医療事故発生後において、患者ないしはその家族(以下、「患者・家族」という。)に対し、診療記録を開示するとともに、事実関係、事故原因及び再発防止策等について、診療記録等に基づいて説明する機会を設定(その具体的方法として、説明会の開催)する法的義務がある。

第2 意見の理由

1 はじめに

当弁護団では、医療機関から診療記録等の開示を受けた後、当該医療機関に対して、事実関係、事故原因及び再発防止策等の説明を求めるため、説明会の開催を要請するのが通例となっている。医療事故が発生した場合において、患者・家族は、何よりも原因を知りたいと考えるものである。

そして、患者・家族が診療記録を精査し、生じた疑問点・問題点につき、当該医療行為を行った医療機関に対して質問して説明を求めた場合、医療機関にはこれに対して誠実に対応して、診療に関する説明責任を果たすことが求められている。

2 アンケート調査

そこで、説明会の開催状況を調査するため、当弁護団では、団員を対象として、医療事故が発生した場合において、医療機関が、患者・家族に対する説明会を開催しているか否かにつきアンケート調査を実施した。団員からは代理人となった事件につき68事例の回答があったが、結果として、51事例の病院が、患者・家族の要望に応えて、診療記録を開示した上で説明会を開催していることが判明した。

しかし、17事例の病院では、患者・家族の要望には応えず、説明会開催を拒否している。拒否理由としては、文書による質問書・回答書に代えたというものが11事例、「既に患者に十分な説明を行った」として説明を拒否したものが5事例あり、文書による回答をするとしながら質問書に回答しなかったものが1例であった。説明会拒否事案は、医療機関側に特定の代理人弁護士が就任している場合に顕著であった。

また、質問書に対する回答書に代えるとして説明会の開催を拒否した場合でも、患者・家族の質問事項に対して、簡略すぎる書面であったり(事例1)、抽象的な回答である(事例13)など、患者・家族の納得しがたいものであると感じた。説明会拒否事例17のうち11事例が調停ないしは訴訟(その準備を含む)に移行していることがそれを示しているといえる。

3 医療機関の説明責任
(1)医療契約における説明責任の特殊性

医療契約は、患者の生命・身体に直接影響する極めて重要な事柄に関する契約であって、契約当事者間の高度の信頼関係に基づくものである。診療に何等かの瑕疵があった場合、重大な影響を受けるのは患者であり、その家族であって、それは時として患者の死すらもたらす。患者は、信頼する医師及び看護師など医療従事者等に対し、信頼して自己の生命・身体を預けるのであって、医療契約は通常の契約とは異なった、極めて高度の信頼関係に基づくものなのである。

医療事故が発生したとき、当事者間の信頼関係は崩壊するが、これを回復し、信頼関係を再構築するには、情報の提供と真摯な説明が必要である。適切な資料が開示され、患者・家族もその資料を十分に検討・理解をした後に、直接口頭による説明がなされるのでなければ、その回復など到底適わない。

(2)説明義務の法的根拠

ア:患者に対する説明義務

医療契約の法的性質は、当事者の一方が、法律行為以外の事務の委託をし、相手方がこれを承諾して委任事務を処理するという準委任契約(民法656条)であると解するのが一般的であり、多数の判例も準委任契約とみている(「医療契約法の理論[増補新版]」菅野耕毅著97頁、信山社2001年)。

医療契約の法的性質からは、医療従事者等には、患者に対して、その「請求あるときは何時にても」診療に関する報告義務を負い、また、「委任終了の後」「遅滞なく」その顛末を報告する義務が課せられている(民法656条、645条)。その反面として、委任者である患者は、知る権利を有する。

そして、民法645条・656条は、受任者が善管注意義務を果たしているか否かを委任者の方で判断できるに足りる客観的な資料の提示を委任者に対して要求できる地位を保障したものと解されるところ、同条を根拠として、診療記録の閲覧謄写請求権が認められることは、当弁護団が2005(平成17)年4月に発表した「医療事故発生時における診療記録等の開示について」の意見書に述べたとおりである。

さらに、診療記録の開示によっても明らかにならない事実及び当該診療記録を検討した結果から生じた疑問点や問題点等について、これを患者に対して明らかにし、かつ、返答するなど臨機応変に直接説明する責務が医療機関には課せられているというべきであり、そのような説明義務(患者・家族からは説明を求める権利)もまた民法645条・656条から導き出されるものである。イ:家族に対する説明義務

患者が死亡した場合、委任者の死亡によって準委任契約は終了する(民法653条1号・656条)。

この場合、医療機関は契約当事者でない家族(遺族)に対して説明義務を負うかが問題となりうる。しかし、契約当事者でなくとも、患者は、医療契約締結時において、特段の意思表明のない限り、自らが死亡した場合には、その死因などについて家族に説明して欲しいとの意思を有していることが通常であり、従って医療契約に付随する義務として、患者の家族に対しても説明義務を負っていると解すべきである。

そして、家族による患者の診療記録等の閲覧謄写請求権及び診療記録開示後に説明を求める権利もまた、上記アと同様に解すべきといえる。

(3)判決例

以下は、既出「医療事故発生時における診療記録等の開示について」の意見書発表後の近時の判決例であり、医療事故発生時における患者・家族に対する説明義務を端的に肯定したものである。

ア:甲府地裁平成16年1月20日判決(判例時報1848 号119 頁)

本判決は、妊婦の出産時の死亡事故につき、医師の診療に関する過失は否定したが、当該医療事故訴訟において、医師が証拠書類を改ざん・偽証させたこと及び出産後の新生児の死亡を死産とした医師の行為について損害賠償を求めた事案である。本判決は以下のように判示し、遺族に対する説明義務を肯定し、医師の責任を認めた。

「医師は、診療契約を結んだ患者に対し、診療内容の報告・説明をする義務を負う(民法645条)。患者が診療行為に伴い死亡した場合、説明を求める主体としての患者はすでに亡いが、人の死という重大な結果が発生した以上、患者の遺族がその経緯や原因を知りたいと強く願うのは当然のことである一方、診療の経過を最もよく知っているのは担当医師であるし、また、その専門的な知識をもとに死亡の経緯や原因について適切な説明をすることができるのも担当医師しかいない。

したがって、自己が診療した患者が不幸にして死亡するにいたった場合、担当医師は、患者に対して行った診療の内容、死亡の原因、死亡にいたる経緯について、その専門的な知識をもとに、説明を求める患者の遺族に対して誠実に説明する法的な義務があるというべきである。」

イ:東京高裁平成16年9月30日判決(判例時報1880 号72 頁)

本判決は、術後療養中に亡くなった患者の遺族が、投与薬剤の取り違えという注意義務違反の過失及びそのような危険を回避することが可能なシステムを構築せずに危険な医療を提供してきたという組織構造上の過失によって患者が亡くなったこと、そして、死後の対応において、原因究明義務及び情報開示・説明義務違反があったとして損害賠償を求めた事案である。本判決は以下のように判示し、遺族に対し、説明義務違反が認められると判示した。

「すなわち、医療行為は患者の生命、身体、健康等にかかわるものであり、患者の自己決定を尊重するためにも、患者は、医療行為に先立ってその内容及び効果の情報の提供を受け、医療行為が終了した際にはその結果についても情報の提供を受ける必要があるし、他方、病院側は上記情報を独占している上、当該情報に接しこれを利用することが容易であるから、病院開設者及びその診療契約の締結診療行為の実施を全面的に代行する医療機関は、特段の事情がない限り、連帯して患者に対し医療行為について説明する義務を負うものと解される。

また、医療法は、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るように努めなければならないと規定している(同法一条の四)。さらに、診療契約は準委任契約であるところ、民法は、受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも準委任事務処理の状況を報告し、準委任終了の後は遅滞なくその顛末を報告することを要する旨規定している(同法六五六条による六四五条の準用)。

以上のような医療情報の提供の必要性及び医療情報の偏在という事情に、上記法令の規定を併せ考えると、病院の開設者及びその全面的代行者である医療機関は、診療契約に付随する義務として、特段の事情がない限り、所属する医師等を通じて、医療行為をするに当たり、その内容及び効果をあらかじめ患者に説明し、医療行為が終わった際にも、その結果について適時に適切な説明をする義務を負うものと解される。 病院側が説明をすべき相手方は、通常は診療契約の一方当事者である患者本人であるが、患者が意識不明の状態にあったり死亡するなどして患者本人に説明をすることができないか、又は本人に説明するのが相当でない事情がある場合には、家族(患者本人が死亡した場合には遺族)になることを診療契約は予定していると解すべきであるので、その限りでは診療契約は家族等第三者のためにする契約も包含していると認めるべきである。患者と病院開設者との間の診療契約は、当該患者の死亡により終了するが、診療契約に付随する病院開設者及びその代行者である医療機関の遺族に対する説明義務は、これにより消滅するものではない。」。

なお、本判決では、死因解明義務について、原審判決が、信義則上、診療契約に付随する義務として認めたことに対し、「死因解明義務は上記説明義務を尽くす前提として可能な範囲内で行えば足りるものであるから、最終的に説明義務とは別にこの義務があると解する必要はない。」として、その独自性は否定しながらも、説明義務を尽くす前提として死因解明を行うべきことを肯定している。

(4)「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)」

2001(平成13)年6月、国立大学医学部附属病院長会議常置委員会は、「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)」を最終報告として公表したが、そのうち「第Ⅳ編事故発生時の対応(2)患者・家族への対応」として、「[2]誠実で速やかな事実の説明」、「[3]診療記録の開示」、「[4]「遺族」について」という項目を設け、以下のとおり提言している。

すなわち、「[2]誠実で速やかな事実の説明」では、「医療事故ないしは事故の疑いのある事態が発生した場合には、患者や家族に対して、事実を誠実に、かつ速やかに説明することが必要であるが、その際、発生した事態について、具体的にどのように説明するべきかが重要である。」「それは、患者・家族への説明は、医療側の考えを「理解させる」ために行うのではなく、患者・家族が自ら「判断」できるようにするために行うものであり、そのために十分な情報を提供するということである。患者・家族の側に立って「この事実・こういう解釈について知らされていれば、異なる判断を下したかも知れない」ということがあれば、そのような説明は、決して誠実な説明であるとは言えないと考える。 また、きちんと医療の専門家としての解釈を提示し、誤った認識に陥らないように協力することは必要であるが、最終的に判断するのは患者・家族であり、特定の考え方を押しつけることにならないように気を付けなければならない。」「大事なことは、患者・家族が自ら適切に理解し判断を下せるために、提供する情報に過不足がないかどうか、伝え方に偏りがないかどうかということであり、こうした観点から検討して見れば、自ずと説明すべき内容も「見えてくる」はずである」とし、患者・家族に説明するにあたり踏まえるべきポイントを以下のとおり掲げる。

また、「[3]診療記録の開示」では、「発生した事態について、患者・家族が自ら理解し判断する上で、いわゆる「カルテ」をはじめとする診療記録は極めて重要な資料である。医療側による説明に必要な場合はもとより、患者・家族の側から求めがあれば、原則としてこれを開示することが必要である。」「医療事故との関わりからは、端的に、診療行為が適切だったかどうか、あるいは過誤と結果とに因果関係があるかどうか、等の点が主たる関心事項になると考えられることから、こうした点について検証することを目的とした開示申請も(他の医療機関に「セカンドオピニオン」を求めるために原資料の謄写を求めることも含めて)、適切なものとして認めるべきことを付言したい。また、サマリーの交付は、分かりやすい説明を行う上で有効な手段であるが、求めがあれば、原資料も開示すべきである。」とする。

さらに、「[4]「遺族」について」では、「患者が死亡した場合に、遺された人々が、患者の疾病とそれに対して行われた医療、患者が最終的に死に至る経緯について知りたいということであれば、病院としては、そうした要請を尊重してできるだけの対応を行うことが望まれ、診療記録の開示要請に対しても、原則としてこれに応じるべきであると考える。開示の目的が、[3]で述べたような、医療行為の適切さを検証すること等であっても同様である。」とする。

以上のとおり、本提言からも、発生した事態について患者側が自ら理解し判断する上で診療記録は極めて重要な資料であり医療機関が説明を行う場合には不可欠の前提となること、誠実で速やかな事実の説明は患者側が自ら「判断」できるようにするために行うものであり、そのために十分な情報(診療記録に尽きず、診療に関与した医師・看護師の説明を含む)が提供されなければならないこと、患者側が自ら適切に理解し判断を下せるために、提供する情報に過不足がないかどうか、伝え方に偏りがないかどうかを検討しつつ適切な説明が求められていることは明らかである。

(5)「診療情報の提供等に関する指針」

2003(平成15)年9月12日、厚生労働省(医政局長)は医療機関において則るべき「診療情報の提供等に関する指針」を都道府県知事に通知し、管内の市町村・関係機関・医療従事者等に対し「周知徹底及び遵守」の要請をするよう指示した。本指針は、インフォームド・コンセントの理念や個人情報保護の考え方を踏まえ、医療従事者等の診療情報の提供等に関する役割や責任の内容の明確化・具体化を図り、医療従事者等と患者・家族とのより良い信頼関係を構築することを目的とするものであり、医療従事者等が負っている説明義務の具体化といえる。

当指針3「診療情報の提供に関する一般原則」では、「医療従事者等は、患者等にとって理解を得やすいように、懇切丁寧に診療情報を提供するよう努めなければならない。」「診療情報の提供は、[1]口頭による説明、[2]説明文書の交付、[3]診療記録の開示等具体的な状況に即した適切な方法により行われなければならない。」とし、また、当指針7「診療記録の開示」では、診療記録の開示に関する原則において、「医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。」「診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。」とし、さらに、当指針9「遺族に対する診療情報の提供」では、「医療従事者等は、患者が死亡した際には遅滞なく、遺族に対して、死亡に至るまでの診療経過、死亡原因等についての診療情報を提供しなければならない。」として、口頭説明による診療情報の提供、担当医師等による速やかな説明及び遺族に対する診療情報の提供が規定されている。

以上のとおり、本指針においても、「診療情報の提供に関する一般原則」として口頭による説明が挙げられ、また、「診療記録の開示に関する原則」として、患者・家族が診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならないとし、診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、できる限り速やかにこれに応じなければならない、この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましいことを、原則として掲げている。

(6)小括

以上検討したとおり、医療機関は患者・家族に対して当該診療についての法的説明義務を負っており、診療記録の開示によっても明らかとならない事実経過ないしは疑問点などについて患者・家族から説明を求められた場合には迅速に応じなければならない義務、すなわち、説明責任の具体的手法として説明会開催を求める権利が患者・家族の具体的権利として発現していることは、判決例及び臨床実務の運用からして明らかである。

4 説明会の開催について
(1)手段としての説明会

上記3(4)の提言及び(5)指針による説明が可能となるには、患者・家族が診療経過等の事実関係を十分に理解するために、事前に診療記録を入手した後に行われる説明であること、患者・家族が質問し、疑問点を指摘して返答を求められること等、診療情報を適切に入手し理解する手続きが不可欠である。これに最も適しているのが説明会の開催なのである。

そして、患者・家族の疑問及び問題点を相互に検討し、再発防止のための意見交換を行うことにより、医療機関が再発防止策を提言する切っ掛けともなり、相互不信による紛争の発生・長期化を防止する方策ともなるのである。

(2)質問書に対する回答書に代えた場合の問題点

説明会によるのではなく、質問書に対する回答書に代えた場合、事前に診療記録等の開示がなされていたとしても、生じた疑問や問題点について明確な説明がなされないのであれば、それは説明とはいえない。

当弁護団のアンケート結果からも分かるように、質問書・回答書による書面の行き来では、質問事項に対して明確に回答せず、質問への回答と言えない抽象的な回答に終始する場合があり、かえって患者・家族の不信感を煽る結果となっているなど、医療機関の信頼回復は到底望めないのが現実である。

また、適切な質疑応答など望むべくもなく、患者・家族の十分な理解は得られない。さらに、時間的にも迂遠であり、紛争が長期化することは容易に想像できることである。

(3)診療記録を開示しない説明は十分ではない

アンケートにも表れているように、説明会の開催を拒否する理由として、患者・家族に対し、既に十分な説明がなされていることを挙げる場合がある。

しかし、多くの場合、医療機関は、診療記録を開示しないまま、患者・家族に対する説明を行っている。前述(本意見書8頁)のように、患者・家族への説明は、患者・家族が自ら「判断」できるようにするために行うものであり、そのために十分な情報を提供するということが必要である。診療記録の開示がなされなければ、正しい診療経過を知ることも医療機関の説明が正しいか検証することもできないのであるから、そのような説明では十分な説明とは言えない。

したがって、診療記録の開示がなされない時点で説明を行ったことをもって、「十分な説明を行った」として、説明会の開催を拒否することは許されない。

(4)説明会は指弾・糾弾の場ではない

医療過誤訴訟において医療機関側の代理人に就任することが多い弁護士の中には、「説明会が指弾・糾弾の場になるおそれがある」から、説明会の開催要求には応じないという意見を述べるものもいる。

この点については、少なくとも患者・家族側に代理人弁護士がついた場合には、争点を整理した上で必要な事項に限って説明を求めるよう、十分な配慮をしている。したがって、説明会が指弾・糾弾の場になるおそれがあることから、説明会開催を拒否する運用をしている医療機関があるとすれば、過剰な反応であり患者・家族との信頼回復の機会を自ら逃しているとしかいえないから、そのような運用は直ちに改めるべきである。

(5)説明会を開催する場合の留意点

説明会が以上の目的を達するためには、患者・家族も事前に十分な検討が行えるよう、[1]説明が行われる時期は、患者・家族が診療記録を入手した後に実施され、かつ、[2]説明する医師は、当該診療行為を直接行った医師及び看護師によることが望ましく、これが適わない場合であっても、当該診療を十分理解している医師及び看護師を立ち会わせるべきである。[3]また、説明会に先立って、当該医療機関内で事故の事実関係の確認と原因分析が十分に行われていることが望ましく、医療事故調査委員会が設置された場合には、当該調査委員会の結果を踏まえて説明が行われることが必要である。

また、[4]患者・家族でも十分に理解することが可能は平易な言葉を使用すべきである。診療記録等には英語等の外国語で記載された部分が多く、かつ、各医療従事者等独自の略語が多用される実情にあるので、患者・家族の求めがある場合には、写しに日本語訳を付して交付することが必要である。

5 結語

医療事故の被害者は、[1]事故原因の究明、情報開示と適切な説明、[2]法的責任の明確化と謝罪、[3]再発防止、[4]医療保障・金銭的補償・賠償を求めている。

民事裁判では、損害賠償に焦点があてられ、金銭賠償の問題として矮小化されてしまう可能性があり、また、紛争は長期化して患者・家族の被害感情の慰謝など到底望めない。そして、その結果によっては、被害者である患者・家族の願いである原因究明や再発防止に向けての取り組みが実現しない場合がある。患者・家族の究極の願いは、原状回復であるが、生命・身体に対する被害が元通りとなることは難しいのが現実であるから、原因究明及び再発防止が現実的に求めうる願いであり、それが短い期間に実現されることが、診療を行った当該医療機関の専門家としての責任であり、また、職業倫理として求められるべきものであろう。

医療機関にとっては、患者・家族の求めに応じるだけでなく、自発的に原因を究明し、情報を開示し、説明責任を尽くすことが、医療事故が発生した場合における、信頼回復につながるのである。説明会の開催は、医療機関及び患者・家族にとって、原因究明、再発防止及び医療に対する信頼回復という点で極めて重要な意義を有するのである。以上別表1:説明会実施に関するアンケート(pdf)
別紙2:アンケート結果(説明会拒否事例)(pdf)

医療問題弁護団政策班
○ 鈴木 利廣,  大森 夏織
  宮城  朗,○ 五十嵐裕美
 伊藤 律子,  髙井 章光
 木下正一郎,  中川 素充
◎ 藤田  裕

  * ○印は本意見書起案担当者
      ◎印は責任者
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