生殖補助医療-急がれる法整備

弁護士 五 十 嵐 裕 美

1 「生殖補助医療の光と陰」

タレントの向井亜紀さんと元プロレスラーの高田延彦さん夫妻が、アメリカの女性に代理出産してもらった双子の出生届を受理するよう求めた裁判で、東京高等裁判所が、夫妻の訴えを肯定した裁判は記憶に新しい。

生殖補助医療をめぐっては、これ以外にも、死亡した夫の凍結精子を使って妊娠出産した女性が認知を求めた裁判などがあり、法的整備がなされていない現状で、司法に個別の判断が委ねられている問題点が指摘されて久しい。

生殖補助医療は、かつては神の領域だった生命の誕生に人為的な介入を可能にした、ある意味で画期的な技術である。子宮摘出などの理由で妊娠出産がかなわない人々にとってはこの上ない朗報であるが、反面、精子や卵子を選別することによるデザイナーべビーや親子関係の複雑化、さらには出生前診断にまつわる問題など、たくさんの生命倫理的問題をはらんでいる。人を恣意的にこの世に誕生させることに伴う嫌悪感や人の身体を道具として使う点、生まれてくる子に対する差別の有無など、社会や個人の価値観にかかわる多様な問題をはらんでいるのである。

2 法的整備か?ガイドラインか?

生殖補助医療の分野について法的な規制が必要であるのか、それとも学会や医師会などの団体によるガイドラインに規制を委ねるのかについては、少なくとも、法的権利関係である「親子」の関係を決めなければならないという意味において法の整備が必要なことについては異論がないように思われる。

しかし、法制定について総論賛成でも、いったい誰が親となるべきなのか、利用が許される生殖補助医療の範囲はどこまでなのか、どういう人が生殖補助医療を利用できるのか、生まれてきた子どもの権利は保障されるのかetc、etc、各論となると議論百出で、今日まで法案作成にすら至っていないのが現状である。

3 子の福祉の観点を

生殖補助医療の法的整備を進める際に、忘れてならないのは子の福祉の観点である。子どもは親や生まれてくる方法を選べない。生まれてくる子どもが健やかに成長できることが保証される法でなくてはならない。この点で強調したいのが、子の出自を知る権利である。自分がどこから来たのか、それを知ることは人間にとってアイデンティティの確立に不可欠なのではないだろうか?産院で取り違えられ、実の親を知ることを求めて訴訟を起こした事件があったが、原告の目的はもちろん慰謝料を得ることではなく、自分が真実は誰の子であるか、自分のアイデンティティを確認したいという人として自然で、かつ、根源的な要求に基づく行動であったに違いない。

4 次世代への責任

生殖補助医療が決して一部の特別な人々だけが受けるものではなくなっている現在、法整備の問題は、日本の社会が、どのような次世代を作っていくのかにかかわる議論である。

目を背けたくなるような虐待事件も連日のように報道されているが、生殖補助医療の議論を通じて「子どもを産み育てる」ことについて社会の議論が深まって欲しいものだと思う。

「医療事故調査体制の自己評価基準」ご活用の要望書

当弁護団は、東京を中心とする200名余の弁護士を団員に擁し、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動等を行い、それを通じて、患者の権利を確立し、かつ、安全で良質な医療を実現することを目的とする団体です。
当弁護団は、平成17年5月、「医療事故調査の在り方に関する意見書」(以下、「前意見書」といいます。)を発表しました(当弁護団ホームページhttp://www.iryo-bengo.com/を参照下さい。)。


平成18年11月20日
医療問題弁護団
(事務局)東京都葛飾区西新小岩1-7-9
西新小岩ハイツ506
福地・野田法律事務所内
電 話 03(5698)8544
FAX 03(5698)7512
掲載ホームページ:http://www.iryo-bengo.com/


前意見書では、医療事故調査のあり方、医療事故調査委員会の設置・運営についての指針を提示し、公正かつ適切な医療事故調査が行われることによって、医療事故の原因究明、再発・発生予防、被害者である患者・家族の被害救済に資すると考えました。

近年、重大事故が発生した場合に、医療事故調査委員会を設置する事例が現れ始めてきました。しかし、新聞報道によれば、医療事故が起きた際、公正さを確保するために医療事故調査に第三者が加わることをルール化しているのは、都道府県や公的な病院グループでも3割にとどまり、調査報告書の公表を定めている団体は1割にすぎません(平成18年2月12日朝日新聞東京版朝刊)。かかる現状は、未だ前意見書の趣旨に基づいて医療事故調査が実施されていないことを物語っています。

そこで、当弁護団は、より具体的に前意見書に示した指針をどのように実現すべきか、医療機関にとって行動指針となる評価基準を別表「医療事故調査体制の自己評価基準」(以下、「自己評価基準」といいます。)として作成しました。

本自己評価基準の構成等は以下のとおりです。

本自己評価基準は、医療法、医療法施行規則の定め、厚生労働省の通知などを基本として、「医療事故の原因究明、再発・発生予防、被害者である患者・家族の被害救済」という目的を達成するために、患者・家族の視点に立った医療事故調査体制を理想(満点)として作成したものです。かかる作成の趣旨を踏まえて、広く医療機関においては、医療事故調査体制の自己評価及び改善のためにご活用頂くことを希望しております。

各設問を設置した趣旨については、自己評価項目別に記載しておりますので、そちらをご参照下さい。
医療事故調査体制の自己評価基準

なお、「医療事故」という用語については、医療法施行規則で事故等報告書作成を要する事故等事案(行った医療又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に心身の障害が残った疑いのある事例など)と同意義のものとして、使用しております。そのような理解で本自己評価基準を利用いただきたいと考えております。
以 上