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お知らせ(事件報告・提言)

医療職被害者アンケート結果の報告

  1. アンケートの方法・目的等(1) 私たちは、「医療職の被害者」および「医療職の被害者家族・遺族」(以下「医療職被害者」といいます。)に対し、医療事故や事故に対する法的行動(弁護士に依頼して、事故調査・示談交渉・訴訟等をすること)に関するアンケート調査を行いました。医療職被害者は、医療者と医療被害者・家族の双方の立場を経験ないし理解していると思われたからです。アンケートは、弁護士を介してアンケート用紙を送付するという方法により行いました。すなわち、医療問題弁護団から、医療職被害者から医療事件の相談・委任を受けたことのある弁護士に発送し、各弁護士からそれぞれの医療被害者(相談者・依頼者)にアンケート用紙を発送してもらいました。医療問題弁護団が弁護士に発送したアンケート用紙の総数は56通であり、2010年5月20日までに、16通の回答を得ました。回収率も低く(28.6%)、回答数も少ないため、本アンケート結果から、医療事故に関する何らかの結論を導き出すことはできません。しかし、医療者と医療被害者・家族の双方の立場を経験ないし理解をしている方々の生の声が反映された貴重な結果ですので、報告させていただくことにしました。(2) なお、本アンケートの質問項目を作成するにあたり、医療事故市民オンブズマン・メディオの了解の下、同団体の「『医療と人権基金』助成研究『医療事故と診療上の諸問題に関する調査』報告書」(2003年12月、http://homepage3.nifty.com/medio/info/reserch2002medio.htm、以下「メディオ調査」という)の質問項目を参考にさせていただきました。メディオ調査は、医療事故被害者(その家族や遺族を含む)一般を対象としたアンケート調査です。本件アンケートの分析では、メディオ調査と同一の質問を設定した項目については、メディオ報告書と比較検討しました。
  2. 回答者の属性16名の医療資格の内訳は、医師9名、歯科医師2名、看護師・薬剤師が5名でした。うち14名は、現在もその医療資格の職業に従事しており、1名医療事故により休職中、1名は専業主婦・主夫でした。
  3. 被害について医療被害を受けた時期は、全員1999年以降です。1999~2002年6件、2003~2006年4件、2007~2010年6件でした。医療被害の程度については、死亡7件、身体障害者等級1級または2級相当の重度後遺障害5件、それ以外の後遺障害4件でした。被害に遭った医療機関の種類は、特定機能病院6件、中規模以上の病院7件、診療所・クリニック2件でした。医師で自身の専門領域とする診療科で被害に遭ったとの回答は1名、医師以外で自身と同じ職種の医療者による被害であるとの回答は2名であり、多くの回答者は、自身の専門以外の領域での被害であると回答しました。
  4. 事故に対する考え・感情事故に対する考えに関する質問(Q6)では、「この事故を避けることができたはずだ」に〈とてもそう思う〉と回答したのは、14名(87.5%)でした。「この事故は特定の個人に責任があると思う」という設問では、〈とてもそう思う〉13名、〈ややそう思う〉2名であり、15名(93.8%)が、個人の行った行為により事故が起こったと考えていました。「自分たちにも問題があると思う」という設問では、〈ややそう思う〉2名(12.5%)であるのに対し、〈そう思わない〉12名(75%)でした。事故に対する感情に関する質問(Q7)では、「怒りを感じる」で〈とてもそう思う)が13名(81.3%)、「うらぎられた」で〈とてもそう思う)が10名(62.5%)、「悲しい」で〈とてもそう思う)が11名(68.8%)、「後悔を感じる」で〈とてもそう思う)が11名(68.8%)でした。〈ややそう思う〉を合計すると、14名〈87.5%〉、13名〈81.3%〉、13名〈81.3%〉、14名〈87.5%〉となります。「つらいので考えたくない」で〈そう思う〉と回答したのは7名(43.8%)、「いつまでもくよくよしていても仕方がない」で〈そう思う〉と回答したのは9名(56.2%)でした。メディオ調査と比較すると、医療被害者一般において〈そう思う〉との回答が多かった項目については、本アンケートでも回答が多く、事故に対する考えや感情については、医療被害者一般と医療職被害者の回答の傾向は、おおむね同様でした。
  5. 事故に関する説明事故についての医療機関の説明内容に関する質問(Q8)では、「説明はわかりやすかったと思う」「説明は一貫していたと思う」「医療機関側から十分な謝罪があった」「病院側から経済的補償の申し出があった」との設問に〈まったくあてはまらない〉と回答したのは12名(75%)でした。また、「説明はくわしかったと思う」で〈まったくあてはまらない〉が11名(68.8%)、「質問する機会は十分にあったと思う」「病院側は事故について何らかの責任を認めた」の各設問で〈まったくあてはまらない〉が10名(62.5%)でした。本アンケート結果では、メディオ調査よりも〈まったくあてはまらない〉と回答した割合が高い傾向にありました。医療職被害者のほうが、医療被害者一般よりも、医療機関の説明内容に満足していないと見られます。
  6. 医療事故調査委員会事故調査委員会の開催に関する質問(Q9)では、「開催しなかった」が9件(56.3%)、「医療機関が自主的に立ち上げた」が2件、「患者側から要望したら立ち上げた」が3件でした。事故調査委員会が開催された5件(31.3%)では、いずれも外部委員が委員として選任されていましたが(Q10)、外部委員の人数は、各事件によって異なり、「1名」という回答から「5~6名」という回答までありました。調査結果の報告に関する質問(Q11)では、「報告書の交付と口頭による報告があった」との回答が2件、「報告書の交付だけを受けた」が2件、「口頭の報告だけを受けた」が1件でした。報告の内容に関する質問(Q12)では、「わかりやすかったと思う」「くわしかったと思う」に〈あてはまらない〉とした回答が3件、「自分の疑問に答えてくれたと思う」「事故の原因について適切に分析されていたと思う」「事故の再発防止策や医療安全に向けての課題について適切に検討されていたと思う」に〈あてはまらない〉とした回答が4件でした。自由記載のコメントには、「詳しく書いてあったとは思うが、すべてが道義的な病院側に有利な言葉だった」「医療サイドをかばう」「事象の細部1つ1つの評価が不充分である。明らかな過失はあるのに、医療よりの発言」といった指摘が見られました。また、「新聞報道で調査委員会を設置するかのような会見があったが、家族側には全く知らされていないし、結果の報告もない」とするコメントも見られました。
  7. 謝罪医療機関側から謝罪の言葉があったかの質問(Q13)には、「はい」が3件(18.8%)、「いいえ」が8件(50%)でした。また、「その他」に回答した3件のうち2件には、「やむを得ずの謝罪で真摯なものではなかった」「形式的な(表面的な)謝罪は受けたのかもしれないが、謝罪には程遠い」とのコメントが付されていました。メディオ調査と比較すると、「はい」よりも「いいえ」の回答のほうが多いことは、共通しています。しかし、メディオ調査では「はい」とする回答が8.1%であり、本アンケートのほうが「はい」とする回答割合が多くみられました。
  8. 再発防止医療機関が再発防止のための改善をしたかの質問(Q14)には、「知らない」の回答が8件(50%)、「改善していない」が4件(25%)、「おおむね改善した」が3件(18.8%)でした。「知らない」という回答割合が多いことは、メディオ調査と共通していました。自由記載のコメントには、「病院は何事もなかったように、何も変わっていないままである」「今回の教訓が生かされているとは思えない。評価に値しない。再度同じ事例は起こりうる。」「医療機関側は、本件を医療事故として認識することを拒否している」「未熟な医師だけで手術をやったので、必ず経験豊富な医師をつけるべき」「実力が伴っていない」等、医療機関が再発防止のための改善をしていないことを指摘するものが多くみられました。なお、「日本の医療機関全体での影響が得られた」とするコメントも1件ありました。
  9. 事故後の対応(1) 事故後の医療機関の対応に関する質問(Q15)では、「こちらの気持ちに配慮してもらえた」との設問に〈まったくそう思わない〉と回答したものが11件(68.8%)、「事故自体よりもその後の対応が許せなかった」に〈とてもそう思う〉が9件(56.3%)、「十分な補償の申し出があったら納得できた」に〈まったくそう思わない〉が8件(50%)、「医療機関の対応全体に満足している」に〈まったくそう思わない〉が12件(75%)でした。メディオ調査と比較すると、メディア調査で高い回答割合を示した項目については、本アンケートでも回答割合が高く、事故後の対応に対する評価については、医療被害者一般と医療職被害者とでは、おおむね同様の傾向がみられました。(2) 本件アンケートでは、医療機関は被害者・家族に対する事故後の対応について改善すべき点があると思うかについても質問しましたが(Q16)、無回答の1名を除いた15名全員が「はい」という回答でした。自由記載のコメントには、「すべてにおいて改善すべきである」「事故後も全く否を認めない」「被害者に対する真の陳謝の態度を全く示していない」「説明と謝罪、医学的根拠を示すこと」「自分のミスは素直に認めるべき」「医療事故であることを素直に伝えるべきであった」「責任をまず認めること。言い訳をしないこと。」「こちらから指摘する前に説明があってしかるべき」「もっとしっかり勉強して、患者に慎重に対応しないと再び医療過誤の問題を起こすと思う」「事実を認識し、謝罪することが重要だと思う。」等の回答がありました。
  10. 法的行動をとった理由法的行動をとった理由に関する質問(Q17)への回答で、〈とてもあてはまる〉の回答割合が最も多かったのは、「事故後の医療機関側の態度が許せなかった」13件(81.3%)でした。次いで、回答割合が高いのは、「納得のできる説明がほしかった」「怒りを感じた」「他の人には同じことが起こってほしくなかった」「過誤を認めさせたかった」(各12件、75%)でした。〈ややあてはまる〉の回答割合まで含めると、「事故後の医療機関側の態度が許せなかった」と「過誤を認めさせたかった」が各14件(87.5%)で、最上位でした。反対に、〈とてもあてはまる〉の割合が最も少なかったのは、「経済的補償がほしかった」の2件(12.5%)と「事故にかかわった医師に仕返しをしたかった」の3件(18.8%)でした。メディオ調査で高い回答割合を示した設問は、本アンケートでも高い回答割合を示し、メディオ調査で低い回答割合の設問は、本アンケートでは低い回答割合でした。法的行動をとった理由については、医療被害者一般と医療職被害者とでは、おおむね共通した傾向がみられました。もっとも、本アンケートでは、〈とてもあてはまる〉の回答数が最上位の設問は「事故後の医療機関側の態度が許せなかった」でしたが、メディオ調査では、同設問の順位は6位でした(メディオ調査における最上位は「納得のできる説明がほしかった」でした)。医療職被害者のほうが、医療機関側の事故後の対応について注目している可能性もあります。自由記載のコメントでは、「亡くなった患者の気持ちの代弁」「法的にどの程度問題となるかが知りたかった……真実が知りたかった」「真実を知りたい」「最初の態度と次の態度が違い。内容説明も変わっていた。……ちゃんと認めて、謝って欲しかった。」「客観的な評価がほしかった」「感情的になってしまう」「同様の事案を繰り返して欲しくなかった」「担当医、診療科、病院の全てが許せない」「罪の意識もなく平然と暮らしている加害者たちを、公の場に引きずり出したい」「刑事責任を追及したい」等の回答がありました。
  11. 法的行動に対する感想法的行動をとった結果の感想に関する質問(Q18)では、〈とてもそう思う〉〈ややそう思う〉に回答した割合が最も高かったのは「精神的に疲れた」9件(56.3%)の設問でした。〈あまりそう思わない〉〈まったくそう思わない〉に回答した割合が最も高かったのは、「家族関係が悪化した」の11件(68.8%)、「医療機関側を許せるようになった」「生活が経済的に苦しくなった」「親戚関係が悪化した」の各10件(62.5%)、「仕事に悪い影響があった」が9件(56.3%)であった。メディオ調査と比較すると、「精神的に疲れた」に〈そう思う〉と回答した割合が高いこと、法的行動による家族・親戚関係に対する悪影響について〈そう思わない〉と回答した割合が高いことは、共通していました。生活に対する経済的影響、仕事に対する悪影響については、メディア調査よりも本アンケートのほうが〈そう思わない〉と回答した割合が多くみられました。自由記載のコメントでは、「弁護士の先生方にお願いできたこと、こちらの辛い気持ちを代弁していただけることは心強い」「家族以外、全て敵に思えてしまっている様な精神状態だったので、弁護士と話ができた時のあのホッとした気持ちは、一生忘れられない」といった肯定的な評価もありました。他方、「100%加害者が悪いのに、なぜ、罪を認め、罰を与えられないのか」「医療司法に対し、信頼を更に無くした」「本人も、加害者も傷ついた」「訴訟によってさらに多忙となり、エネルギーを消耗している感じ」「法的行動をとるのに、いかにエネルギーが必要か痛感した」「(術者が)加害者として扱われず……被告が病院となったことはとても納得できない」等の否定的な評価もありました。
  12. 事故に関して求めていること現時点で事故に関して求めていることに関する質問(Q19)で、〈とてもあてはまる〉の回答割合が最も高かったのは、「医師の罪を隠蔽させたくない」12名(75%)でした。次いで、回答割合が高いのは、「納得のできる説明が欲しい」「医師に当人のしたことを悟らせたい」「他の人には同じことが起こって欲しくない」「過誤を認めさせたい」「自分の思いを医師に知らせたい」の各10名(62.5%)でした。〈ややあてはまる〉まで含めると、回答割合が最も高かったのは、「医師の罪を隠蔽させたくない」「納得のできる説明が欲しい」「医師に当人のしたことを悟らせたい」「他の人には同じことが起こって欲しくない」のほか、「加害者は罰せられなければならないと思う」「自分の経験を医療システムに反映させたい」であり、各12名(75%)でした。反対に、〈あてはまる〉の回答割合が最も低かったのは、「カウンセラーに相談したい」1名(6.2%)で、次いで「同じ経験を持つ人と話したい」「事故のことは忘れて別の人生を歩みたい」の各3件(18.8%)でした。メディア調査と比較すると、「医師の罪を隠蔽させたくない」「納得のできる説明が欲しい」「医師に当人のしたことを悟らせたい」「加害者は罰せられなければならないと思う」「他の人には同じことが起こって欲しくない」「過誤を認めさせたい」「自分の思いを医師に知らせたい」「自分の経験を医療システムに反映させたい」については、メディオ調査でも〈あてはまる〉とした回答割合が高く、本件アンケートもこれと同様の傾向にありました。「カウンセラーに相談したい」「事故のことは忘れて別の人生を歩みたい」の回答割合が低いことも、メディオ調査と同様でした。他方、「同じ経験を持つ人と話したい」については、メディオ調査では〈あてはまる〉という回答割合が高いのに対し、本アンケートでは回答割合が低く、異なった傾向が見られました。自由記載のコメント欄には、「医師・医療機関からの謝罪の言葉」「事故は防げたはずであること、同じことを繰り返してほしくないこと、遺族に対してきちんと説明と謝罪をする必要があることを、病院に伝えたい」「事故は必ず発生することではあるが、同様のミスは避けるシステム作りに少しは反映されると思う」「医師には人間性を養う教育をしっかりやってもらいたい」「事故により受けた精神的苦痛や後遺障害である疼痛は、被害者本人の訴えしかなく、客観的に立証できる方法がないために、どれだけ被害の重症だったか、なかなか分かってもらえないのが現実である。この現実を加害者はもちろん、第三者の人々に切実に受け止めてほしい。」「免許を剥奪すべきであると思う。」「刑事責任の追及あるのみ。」等の回答がありました。
  13. 自身の医療等に対する対応の変化事故を経験したことにより、自身の医療や患者に対する対応・考え方等に変化があったかの質問(Q20)には、「かなり変化はあった」が6名(37.5%)、「やや変化はあった」が6名(37.5%)、「あまり変化はなかった」が3名(18.8%)でした。自由記載のコメント欄には、「ミスをおかさないように、ダブルチェックを心がける」「全ての行為において、『患者』と見ることをせず、もし家族だったら今この人に何をするか、何というかを考えるようになった」「どのような病気であっても、1つの病気、1人の病人として真摯に受け止め、誠実に向き合うことを再確認した」「患者に優しくなった……過失が生じないように一層気をつけるようになった。ドクターの実力を信用しないようになった。」「今まで以上に、説明や患者の心配している内容を具体的に知ることを心掛け、それを一緒に解決して行こうとする気持ちをより明確に伝えるようにした」「真実を常に悟る」「少しでも副作用が疑われたら、すぐに休薬して検査をするように、以前より強く勧めるようになった」「世間や学会などで議論されている医師のリスクマネージメントに対する医師の拘束的事項が空文であることを知った」等の回答がありました。
  14. 現在の示談、訴訟の進行状況現在の示談や訴訟の進行状況に関する質問(Q21)に対しては、示談成立・訴訟終了したものが7名、現在係争中のものが4名、示談交渉も訴訟も始めていないものが4名、無回答が1名でした。
  15. 事故調査の中立的第三者機関医療事故の調査を行う中立的第三者機関の設立(Q22)については、「設立すべきである」が11名(68.8%)、「どちらかというと、設立したほうがよい」が4名(25%)、「設立する必要はない」が1名(6.3%)でした。自由記載のコメント欄には、「設立すべきである」とした回答者からは、「医師の世界は大変狭く、しかも同業者同士がかばい合うことも多いので、おかしなことをしても、誰にもばれずに済んでしまい、同じような過ちを重ねてしまう。利害関係のない中立的な第三者機関がないと、質の低い医療を行っている病院は無くならない。」「原因の解明と事故の責任追及・補償とは、分離して行うべきと思っている。必要があれば、まず補償や家族・友人の精神的ケアを行うことが必要である。」「訴訟に持ち込む前に、弁護士同士の話し合いのみではなく、第三者を入れて関係者の意見を第三者にも聞いていただき、第三者機関の意見を参考にして、なるべく和解に向けた方向に向けるべきであろうと思われる。」「専門的知識を必要とするので、中立的機関がないと被害者に不利」「司法に求めるものが大きすぎ、裁判官では論点が混乱している。早期に調査可能な中立的第三者機関をつくるべきである」「現実的にはかなり難しい問題がある。学問的中立である人物が望ましいが、人物選考がこれまた難しい。」といった回答がありました。「どちらかというと、設立したほうがよい」とした回答者からは、「最低限の医療知識を持っていなければいけない」「警察、検察に専門的な判断は下せない。ただ、中立的機関が厳しいジャッジを下してくれるとも思わない。」「どこまで客観的評価ができるか分からなくて心配。」といった回答がありました。「設立する必要はない」の回答者は、「完全に中立な機関など、存在は困難である」と記載していました。
  16. 刑事責任医療事故の刑事責任に関する質問(Q23)では、「刑事責任は一切問うべきではない」が2名(12.5%)、「問うべきケースはある」が13名(81.3%)でした。自由記載のコメント記載によると、「問うべきケースはある」とした回答者の中にも、刑事責任追及に慎重派と積極派がありました。慎重派からは、「特別な症例を除き、基本的には刑事責任を追求することはないと思う」「事前のインフォームドコンセントがしっかりしており、患者の同意があれば、事故が起こっても刑事責任は問うべきではない」「現実的にリピーター医師を矯正する方策がない状況では、刑事責任を問うケースがあっても仕方ないと思う。ただ、医療が萎縮してしまう面もあるから、適応は慎重に行うべきと考える。」との回答がありました。積極派からは、「未熟な医療は、故意でなくても、刑事責任が生じると思う。」、「治療には医師の裁量権があるが、医学は日進月歩しており、医学常識的な治療で治療されない場合は、責任があると思う。」「医師及びその他医療従事者として働いているのだから、業務上過失致死(傷)罪などで当人が罰せられて、当然だと思う」「医療事故は、死亡例だけがとりあげられる傾向があるが、死亡例のみならず、重度障害例も含め場合により業務上過失致傷を適応すべき事例があると思う。」「医療事故に対する刑事責任が軽すぎる」「患者の精神的な苦しみを償うには、金銭だけでなく免許の剥奪・一定期間の職務停止・身体の拘束も必要」といった回答がありました。中間的な立場のコメントとしては、「残念ながら適性のない医師が現実的に存在する。そのような医師を放置する限り医療事故はなくならないため、刑事責任を問うこともやむを得ないと思う。」といった回答がありました。なお、「一切問うべきではない」とした回答者からは、自由記載のコメントはありませんでした。
  17. 行政処分医療事故の行政処分に関する質問(Q24)では、「一切問うべきではない」が2名(12.5%)、「問うべきケースはある」が13名(81.3%)でした。自由記載のコメントによると、「問うべきケースはある」との回答者の中にも、行政処分の慎重派と積極派がありました。慎重派からは、「仕方のない結果というものはあると思う。そこは、しっかり医療者を守って欲しい。そうしないと防ぐことが出来る事や、故意的なことに対して、隠すことになる。」との回答がありました。積極派からは、「医師に適さない人が医療を続けると、いつか悪いことが生じると思う。」「刑事責任以上のものは行政処分を問うべき」「医師として良識に欠けるようなケースでは積極的に処分すべきである。」「知識や経験が一定レベル以下の医師及びその他の医療従事者は、その状態で免許を持って業務を行っていることそのものが、犯罪だと思うので。」「医療事故に対する行政処分全て甘すぎる。そこから医師の堕落がある。」「医療事故自体が、不透明なことがあり、厚生労働省は、手術数などの公表を病院に指導するなら、医療事故内容についても詳しく公表すべきである。」との回答がありました。その他、「医療事故をおこした担当医の所属する医療機関が行政処分を受けるべきではないだろうか。それによって医療機関による所属医師に対する指導がいきとどきやすくすることを期待したい。」「該当する学会でも充分話し合い、再教育のシステムを構築することが大事と考える。」との指摘もありました。なお、「一切問うべきではない」の回答者2名は、刑事責任(Q23)についても「一切問うべきではない」と回答しており、本設問にも自由記載のコメントはありませんでした。
  18. 事故防止のための努力医療事故防止のために、医療界として、今後どのような努力をしていく必要があるのかを、自由記載していただきました(Q25)。(1) 医療システム改善に関するコメント
    「病院のレベルが患者側には分かりにくいので、もっとオープンになればいい。」「事故は起こり得ることであり、オープンにすることが普通になるように、システム作りを。」「[1]ミスのないようにチェックを何事も行う、[2]小さなミスでも、その原因を考え、再発のないようにする、[3]医療人の間のコミュニケーションをよくする、[4]技術アップを図る、[5]リスクの高い医療行為を行った時は、ミスを犯したらすぐにバックアップ体制を整備しておく」「学会は、かばい合うのでなく、再発を防ぐための努力をしていただきたい。医療に関係する者はすべて、『人の命を守る』という原点を忘れることなく携わることが必要」「医師の充実、1人医療の廃絶」といった回答がありました。(2) 医師の医療水準、再教育・研修等に関するコメント
    「医療水準の向上。特に開業医のレベル。」「事故を起こすには、何かの問題が蓄積されて、起こっているような気がする。偶然ではないと思う。患者に対する医師の姿勢に問題があるのでは。研修医の教育に問題があるのでは。」「根本的には大学受験から問い直さなければならないと思うが、大学教育中に倫理感について徹底的教育が必要と思う。また、定期的な研修も必要と思う。」といった回答がありました。(3) 医療紛争や責任追及に関するコメント
    「病院側の弁護士が、職員に対して講義を行っているが『家族は、謝って欲しかったと言うが、結局はお金を要求してくる。だからすぐ謝ってはいけない』と話していた。まずは病院側の弁護士も、もっと考えを変えて欲しい。」「(裁判所から)鑑定を依頼された機関の中立性・妥当性を確保するのは、本来困難と思う。鑑定が公開され、その鑑定内容の妥等性が一般の医療現場の人間から見えるようにしてもらいたい。」「医療事故の責任をもっと重くすべきだ。それ以外に医療事故が少なくならない。」といった回答がありました。

以上

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