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団員リレーエッセイ弁護士の声

「包茎手術被害対策弁護団」による事件解決のご報告(工藤杏平)

1 2件の解決事件のご報告

 私も弁護団員の一員として活動している、医療問題弁護団を母体とする「
包茎手術被害対策弁護団(以下「当弁護団」といいます。)」による2件の
事件解決のご報告をさせて頂きます。なお、いずれも訴訟上の和解による解
決です。
 また、2件のクリニック(被告)はそれぞれ別のクリニックです。

2 2件の解決事件にみられる共通点

 詳細は下記の各事件をご覧頂ければと思いますが、両事件ともに以下のような共通点が見てとれます。

 これらは、包茎手術に限らず、いわゆる自由診療領域において散見される、「医学的には必要性・緊急性がなく、当初は受ける予定ではなかった施術を、十分な(正確な)説明のないまま勧められ、熟慮期間のないまま高額な契約をし、即日施術をする」という共通の問題点であると思われます。

3 2件の解決事件を通じて皆さまに伝えたいこと

 共通点にみられるような実態は、医療の安全性やインフォームド・コンセントなど患者の権利が大きく損なわれていると同時に、消費者被害としての側面も大きく、「医療消費者被害」と呼ばれたりもする社会問題です。

 今回報告をさせて頂いた包茎手術を含む男性器に関する施術について言えば、羞恥心などから被害を受けていても声をあげにくいという実態があると思います。当然ながら、当弁護団で取り組んだ以下の2つの事件も氷山の一角に過ぎず、実際には、クリニック側が利益を得ているその背後に、泣き寝入りを強いられている方が数多くいると思います。

 包茎手術や男性器に関する施術によって痛みなどが生じた、受ける予定ではなかった施術や不要だと思われる施術を勧められて受けてしまったなどの経験をされた方は、まずは医療問題弁護団までご一報いただき相談をして頂ければと思います。

 そして、これから施術を受けることを検討される方は、是非、事前に出来る限り情報収集をし、本当に自身に必要な施術なのか・本当に自身が期待するような効果のある施術なのかをよく吟味して欲しいと思います。また、施術を受ける前に、(カウンセラーやクラークなどと呼ばれる方ではなく)医師と、必要性や効果、危険性などについてよく質疑を重ね、出来る限り疑問点を解消するとともに、その質疑や受けた説明の内容を後日のトラブル防止のために何らかの目に見える形(書面や許可を得ての録音など)に残して欲しいと思います。そして、少なくとも、説明を受けた当日に(高額な)契約をし、即日施術を受けることは避けて欲しいと思います。

 「医療消費者被害」と呼ばれるものを出来る限り減らすためには、裁判などによる事後的な救済を続け、それらを通じて当該クリニックや業界全体へ広く再発防止へ向けたメッセージを発信し続けることはもちろん、それと同時に、患者自身も、施術を受ける前に、施術を受けることについてより一層慎重かつ冷静になり、施術によるトラブルを未然に防ぐことも重要であると思います。

4 2件の解決事件の内容

 各事件の内容、争点に関する主な主張(訴訟においてはより多くの主張をしていますので、以下で記載するのはその一部です。)や和解の概要は以下のとおりです。詳細は各参照リンク先もご覧ください。

【1件目】 (参照:「包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告」

 男性器治療を行うクリニックにおいて、包茎手術の際に勧められた「亀頭増大術」を実施するに当たり、施術の「効果」や「合併症(施術後にそれがもとになって起こることがある症状や病気などを指します。)」に関する説明がなかったことなどを理由に、患者が原告となり、クリニックを被告として損害賠償を求めた事案です。
 争点に関する主張は主に以下の2点です。

  1. 亀頭増大術で使用されたヒアルロン酸は吸収性の物質です。亀頭部に注入することで一時的に大きさに変化があったとしても、その持続期間はヒアルロン酸が体内に吸収されるまでの平均6ヶ月から1年間とされています(少なくとも永久的に持続することはありません。)。そこで、当弁護団は、手術に当たっては、その効果を丁寧に説明すべきであり、ヒアルロン酸を注入することにより効果が長期間持続するかのように患者を誤診させる説明を行うべきではないと主張しました。
  2. ヒアルロン酸の注入にあたっては、発赤、浮腫、疼痛、紫斑、皮膚壊死やアレルギー、炎症反応などの合併症が生じる危険性があります。そこで、当弁護団は、施術に当たっては、合併症の発症可能性などの危険性について丁寧に説明すべきであると主張しました。

 そして、訴訟で主張・立証を続けたところ、最終的には、以下の内容を含む訴訟上の和解が成立しました。

【2件目】(参照:「包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告 2」

 男性器治療を行うクリニックにおいて、包茎手術に関する「保険適用の可否」、「陰茎に対するヒアルロン酸注入術」についての「効果」や「合併症」について説明がなかったことなどを理由に、患者が原告となり、当該クリニックを経営していた医師個人を被告として、損害賠償を求めた事案です。
 争点に関する主張は主に以下の2点です。

  1. 包茎手術は、保険適用される「環状切除術」と同内容の施術と考えられますので、保険医療機関であれば保険を適用して施術を受けることができました。そこで、当弁護団は、包茎手術は保険適用の対象となる環状切除術と同様であることを説明すべきであると主張しました。
  2. ヒアルロン酸注入により得られる効果は、注入部位が亀頭でも陰茎でも成分が同じである以上、上述のとおり一時的なものです。また、ヒアルロン酸を陰茎に注入すると、陰茎の壊死などを引き起こす危険性があることも同様です。そこで、当弁護団は、ヒアルロン酸の陰茎への注入に際し、(被告側が主張したような)刺激低減・早期治癒・止血効果を目的とした使用は医学的に一般に承認されていないことや、ヒアルロン酸の陰茎への注入は陰茎の壊死などの合併症を引き起こす危険性があることを説明すべきであると主張しました。

 そして、訴訟で主張・立証を続けたところ、最終的には、以下の内容を含む訴訟上の和解が成立しました。

以上

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