包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告 3

包茎手術被害対策弁護団 弁護士 工藤 杏平

第1 事案の概要

 本件は、依頼者が、某大手美容クリニックにおいて、「包茎治療」「亀頭及び陰茎増大術(いずれも非吸収性のフィラーを患部に注入)」を受けたものの、増大効果が得られなかったばかりか、亀頭及び陰茎に複数の身体的不具合(亀頭部の黒ずみ、痛み、陰茎変形など)が生じたことについて、「適応義務違反(生殖器への注入が禁忌とされている薬剤の注入)」と「説明義務違反」を根拠に、治療費や慰謝料などの損害賠償請求をした事案です。
 双方の主張や和解に至る経緯などの詳細は、国民生活センターのサイトに公表されていますのでご覧頂ければと思います(「国民生活センターADRの実施状況と結果概要について(令和3年度第2回)[PDF形式]」をクリックして頂き、開いたページにある「【事例4】男性器の増大手術等に関する紛争」が本件です。)。

第2 解決に至る経過の概要

令和2年9月28日 国民生活センターにADR申立
  同年12月4日 第1回和解仲介期日
令和3年1月22日 第2回和解仲介期日
  同年3月17日 第3回和解仲介期日
  同年4月21日 第4回和解仲介期日(和解成立)

第3 本和解の意義

本件は、
①平成31年3月に和解が成立した事件(2020.09.07包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告
②令和2年12月に和解が成立した事件(2021.01.12包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告 2
に続き、当弁護団の解決事件の3件目となります。
 本件では、訴訟ではなく国民生活センターのADRを利用し、「過失(生殖器への使用が禁忌とされている薬剤の使用など)」や「被害(陰茎や亀頭部に生じた不具合)」を出来る限り分かりやすく主張・立証をすることにより、訴訟よりも比較的早期に一定の解決をすることができました。

以 上

医療問題弁護団での2年半を振り返って(森田 和雅)

1.はじめに

 私は、弁護士登録をして約半年後に当弁護団に入団しました。弁護士登録をしてからもうすぐ3年を迎えようとしておりますので、これまで約2年半、当弁護団で活動をしてきたことになります。元々、弁護士になる前に法科大学院で受講していた「医療訴訟」という講義がきっかけで、医療事件には興味を持っておりました。そして、弁護士登録後、当弁護団の新人弁護士向けのガイダンスに参加し、患者側代理人としての活動に大変魅力を感じ、当弁護団に入団をするに至りました。以下では、これまでの当弁護団での活動を簡単に振り返ってみたいと思います。

2.法律相談・調査活動

 当弁護団では、法律相談やその後の調査活動等は原則として弁護士2名体制でお受けしており、若手弁護士は経験豊富な先輩弁護士とペアを組んでおります。私も、これまでに、先輩弁護士の指導を受けながら、複数件の法律相談やその後の調査活動に取り組んでまいりました。医療事件は弁護士にとっても専門性の高い分野であり、初めの頃はカルテの読み込みや医学文献の収集に苦労しましたが、経験を重ねるにつれて徐々にコツをつかめてきたように思います。やはり、実際の事件を経験することが実力をつける一番の近道なのではないかと思います。

3.研修班での活動

 当弁護団に所属する弁護士のための研修の企画、運営に携わってまいりました。研修班では、新入団員が法律相談の配点を受けるために受講が義務付けられている基礎研修(調査編・訴訟編)や、尋問の技術を身に着けるための尋問研修、医学的知見を学ぶための医学研修等の多様な研修を継続的に企画しております。私自身も、これらの研修に参加し、諸先輩方の実際の経験に基づいた貴重なお話を伺うことができ、大変有意義な研鑽の場であると感じております。

4.救命救急センターの見学

 2019年11月に、研修班の企画の1つである都内の病院の救命救急センターの見学研修に参加しました。同研修では、夕方6時30分から翌朝7時30分までの間、救命救急センターに自力で来院された患者さんの一次トリアージの様子や、救急搬送された患者さんの初療室での処置の様子、救命救急病棟内部の設備等を見学させていただきました。救急搬送から初療室での処置の慌ただしい様子を目の当たりにし、救命救急が、患者さんにとっての適切な処置を常に迅速に判断することが求められる厳しい現場であることを改めて感じました。患者側代理人として活動をしていく上でも、医療現場の実態を理解しておくことは必要であると思いますので、大変有意義な経験をさせていただけたと思っております。

5.医学部生の研修のお手伝い

 当弁護団の先輩弁護士が医学部2年生の実習を受け入れて、法廷傍聴や講義、ディスカッション等を行う機会があり、私もそのお手伝いをさせていただきました。患者側代理人に対して医師と対立する立場のような印象を持っておられた学生さんも、講義やディスカッションを通じて患者側代理人の活動内容や理念を知り、医師も患者側代理人もともに「より良い医療のため」という共通の目的を持っていることを理解していただけたようでした。

6.おわりに

 これまでの約2年半、大変多くのことを学ぶことができ、当弁護団に入団をして良かったと思っております。今後も初心を忘れず、患者さんのため、より良い医療のため、日々精進してまいりたいと思います。

以 上

医療事件に育てられて(青野 博晃)

 弁護士になって、もうすぐ11年目が終わろうとしています。
 弁護士の業界では、年次を経るごとに、若手、中堅、ベテランと呼ばれるのですが、私もそろそろ中堅と呼ばれる世代です。

 現在、弁護士の多くは、大学や法科大学院を出て司法試験に合格し、司法修習という研修を経て、弁護士になります。
 言い方を変えると、学校と司法修習で基礎的な法律と実務のほんの一部を学んだだけで、弁護士「先生」と呼ばれる存在になってしまいます(個人的には「先生」という呼称は好きではありませんが、それはさておき)。
 そのため、多くの弁護士にとって、実際に仕事をする中で経験を積むことが重要になり、先輩弁護士と一緒に事件に携わり、「事件に育てられる」ことで成長していきます。

 そして、医療という専門性の高い分野を扱う弁護士を志した私のこれまでは、医療問題弁護団の活動を通して、先輩弁護士とご相談者・ご依頼者に育てられたと思っています。

 医療問題弁護団では、医療被害に遭われた患者さんやそのご家族からのご相談やご依頼をお受けしますが、常に、弁護士2名以上の体制で事案にあたり、若手弁護士は、先輩弁護士とペアを組みます。
 専門性の高い医学的知識を学んで理解し、法律という異なる専門分野において使いこなすためには、真摯な勉強と経験が必須です。
 そのため若手弁護士は、ペアになった先輩弁護士との議論を通して知識や考え方を深めます。
 また、医療問題弁護団では、団員の受けたご相談やご依頼について、必要に応じて団内の少人数のグループで、協力医の意見を受けつつ討議し(勿論、相談者や依頼者のプライバシーには最大限に配慮します。)、多角的な検討をしています。

 また、ご相談者・ご依頼者から被害についての訴えや想いなどをお話しいただき、被害を理解できるよう努めます。
 その中では、あるべき患者側弁護士としての姿勢などを学ばせていただくことも多くあります。

 中堅に差し掛かるにあたって振り返ったとき、私も、医療問題弁護団の多くの先輩方と一緒に医療事件に接することで、成長できていることを改めて実感します。
 医学文献の読み方や理解の仕方を教えてもらったり、議論をしながら自分の理解の浅さを痛感したり、裁判所に提出する予定の書面を跡形もなく直されたりしながらも、医療問題弁護団の活動を通して、先輩弁護士の仕事を見て学ぶことが多くありました。
 また、ご依頼者の方にも、被害の辛さなどをお話しいただき、ときには叱咤いただきながらも、弁護士としてその想いにどうしたら応えられるかを考える機会をいただきました。

 医療問題弁護団では、先輩が後輩を育て、ご相談者・ご依頼者に学びをいただいて、専門性を持つ患者側弁護士を育てることも活動の大きな柱だと思っています。
 中堅に差し掛かった私もまだ先輩から学ぶことは多いですが、一方で若手を育てる側に回らなければなりません。
 そのような学びの連鎖が、弁護団にご相談・ご依頼いただく患者さんやご家族のお役に立てたらと思い、医療問題弁護団の活動に携わっています。

以 上