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団員リレーエッセイ弁護士の声

カルテ事情の今昔(飯塚 知行)

 過日、医療問題弁護団の「症例検討会」でカルテ(ここでは診療録を含む医療記録全体)に纏わる話がテーマになりました。

 医療事故を患者側で担当する弁護士にとって、カルテ読みと医学文献検索は、事案取組みの第一歩であり、これなくして事案解決へのゴールは見えません。
 また、「カルテ読み」は、大きく、「字面を読む作業」と「行間を読む作業」に分かれます。そこで、今回は、この内「カルテの字面を読む作業」について少し書いてみたいと思います。

 現在、世の中は電子カルテ全盛の時代に入りましたが、私が医療事故に関わる仕事に首を突っ込んだ時代は、当然ながら、カルテは手書きでした。
 当時、カルテを記載するドクターには、とても「達筆」な方が多く、各科(時にはドクターご本人)に独特な略語が多用され、そして、ドイツ語の医学用語もカルテ上で踊っていました。
 つまり、一筋縄では読めない。私どもの仕事はカルテの解読から始まりました。当時は簡単にネット検索という時代でもなく、医学用語辞典等を片手に、時に診療経過や前後の文脈から推測し、さらには協力医の見解を仰ぎと、悪戦苦闘しました。
 過日の症例検討会で、あるドクターから、その方より昔のドクター達のなかには敢えて第三者からは分かりづらくするためにドイツ語や独自の略語を使われていた方もいたという話を伺いました。さもありなんですが、カルテによる医療従事者間、或いは、医師と患者の間の情報共有を目指すという現在の状況(多くの場合はそうであると信じています。)を考えると隔世の感があります。この点については、機会があれば、「カルテは誰のもの」という視点で改めて考えてみたいと思います。

 何れにしても、電子カルテが普及したことで、患者側代理人弁護士にとって最も有り難かったのは、カルテの「字面を読む」苦行から解放されたことかもしれません。
 電子カルテになって、カルテの解読は、ほぼ不要になりました。また、副次的にカルテの改竄やカルテ隠しのリスクも格段に減りました。そうして、患者側のカルテの取得(確保)の方法も、「証拠保全」主流から「カルテ開示請求」主流へと移っていきました。
 他方、電子カルテ化されたことにより、カルテ上に、ある意味で無駄な情報が多くなり、また、本当に必要な情報が埋没したり、抜け落ちていたりすることも多くなったのかなと感じることもあります。
 電子カルテは、今は未だキーボードを叩いて入力することが普通ですので(音声入力が進歩すると医療従事者の使い勝手も上がると思うのですが)、カルテの記載内容に、コピー&ペーストが多くなるようです。ただ、これは手間の問題だけでなく、当該医療従事者の能力の問題であることも多いのではないか、と指摘する意見も耳にします。

 ところで、先日、弊事務所で担当している事案の「カルテ開示請求」で大部のカルテが届きました。但し、PDF化されCD-ROMに保存されて来ました。比較的珍しいパターンかなと思います。
 まず、やや老体は、PC画面を追うのは辛いので、紙ベースにして読み始めましたが、事務所の同僚のK弁護士から、「PDFの検索機能を使うと便利なことがありますよ」と、言われ、「そうか、そうだな」と、どこぞから鱗が落ち、それ以来、「Ctrl F」は魔法の呪文となっています。勿論、まずカルテ全体を俯瞰しながら読みますが、個々の事案を考えるに当たっては当然気になる「key word」がありますので、検索機能によって、それを追いかけられるということは、見落としを減らし、時間を節約する上でも、とても有効です。但し、当該事件について、きちんと理解し、適切な「key word」を抑えられていることが前提となりますが。
 今後、このような形での「カルテ開示」が増えれば、患者側代理人弁護士にとっても、医療側代理人弁護士にとっても、事案の理解を共有するという意味で有益だなと思う次第です。

 さて、紙面ではなく体力(根気)が尽きましたので、「カルテの字面を読む作業」はこの程度にしたいと思いますが、また、機会を頂ければ、「カルテの行間を読む作業」や「カルテは誰のもの」という視点で書いてみたいと思います。

 to be continued??

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