医学研修を実施しました

令和3年(2021年)1月18日に、帝京大学医学部附属病院整形外科教授の 西村慶太先生を講師にお招きし、 医学研修「骨は生きている。そして、骨折の基本を知る。」を 開催しました。
骨折と再生のメカニズムの理解が深まったと とても好評でした。

医療事故調査制度の改善を求める要請書の提出(木下正一郎)

要請書の提出

医療事故調査制度が2015年10月にスタートしてから、5年が経過しました。医療事故調査制度は、医療事故の原因を明らかにし、医療事故の再発防止を行い、医療の安全を確保する制度です。国民の安全な医療を受ける権利を確保するため、国及び医療機関が負う社会的責務を具現化する制度であるといえます。

しかし、制度開始以前・開始当初から制度趣旨に照らしていくつもの問題が指摘されていました。5年を経て一層制度の問題が顕在化しています。

5年の節目に、患者の視点で医療安全を考える連絡協議会(患医連)は、医療事故調査・支援センター(センター)の権限強化や見直し検討会の設置を求めて、2020年12月23日、厚生労働大臣に宛てた「医療事故調査制度の改善のために厚生労働省内に見直し検討会の設置を求める要請書」を厚生労働省医政局総務課医療安全推進室に提出しました。以下、要請の内容を紹介します。 なお、患医連は、医療過誤原告の会、医療事故市民オンブズマン・メディオ、医療情報の公開・開示を求める市民の会、医療の良心を守る市民の会、陣痛促進剤による被害を考える会が加入しています。患医連、医療問題弁護団、患者の権利法をつくる会の3団体で医療版事故調推進フォーラムを構成し、医療事故の再発防止・医療安全の推進のため公正な医療事故調査制度の確立を要請する活動をしています。

医療事故報告・調査を促進するセンターの権限の強化

制度開始前、医療事故報告件数は年間1300~2000件と試算されていました。年間2万件を超す医療事故死亡事例が発生していると推計されているところ、この試算にしても少ないものでした。そうであるにもかかわらず、5年間の医療事故報告件数は毎年400件未満で、5年の合計でも1847件にしか達しませんでした。

また、2015年10月~2019年12月末までの4年3ヵ月の実績で、400床以上の施設のうち約28~70%の施設で医療事故の報告実績がなく、900床以上の施設(全53施設)に限ってみても、28.3%にあたる15施設で報告実績がありませんでした。多くの医療機関で医療事故が報告されていないことが疑われます。

実際、2019年の医療機関からの相談に対し、センターが37件で報告を推奨すると助言したにもかかわらず、16件(43.2%)では医療機関が医療事故報告を行いませんでした。

さらに、医療過誤原告の会に医療事故の被害者・遺族から寄せられた相談のうち、予期せぬ死亡と判断される相談件数は5年間で135件ありましたが、医療機関がセンターに報告したものは14件に過ぎませんでした。

このように、報告されるべき医療事故が報告されていなくて、報告件数が少ない実態が明らかになっています。

そこで、患医連は、センターが医療事故として報告すべきと判断した事例については、医療機関に対して報告を求めること、この求めにもかかわらず、医療機関が医療事故の報告をしない場合には、センターは、医療事故の報告をしない医療機関の名称を公表すること、センターの求めに応じて報告・調査を行おうとしないときは、センターが医療事故調査を行うことができるように、センターに権限をもたせる法律、運用の改正をすることを求めました。

センター調査報告書の公表

現在、センターが行う調査報告書(センター調査報告書)は公表されていません。

センターで調査・分析された結果であるセンター調査報告書が公表されれば,これを教訓として,全国の他の医療機関も同様の医療事故を防止することができます。したがって,医療事故の当事者たる遺族と医療機関のみならず,他の医療機関でも医療事故の防止に役立てられるよう,センター調査報告書が公表されることが必要かつ重要です。公表にあたっては、特定の個人を識別することができる情報はマスキングされることを想定しています。

また、報告事例を明らかにしていく上でも、事故事例の公表は重要と考えます。いかなる医療事故事例を報告すべきかについては、医療法6条の10に定められています。法律の規定は抽象的にならざるを得ず、具体的事例を報告すべきか否か見解が分かれることがあります。報告すべき基準を明確にしようとしても同様の問題は残ります。基準の文言を修正するよりも、多数の医療事故事例を公表して、医療機関が医療事故として報告をすべきか判断するにあたり参照できるようにすることが適当と考えます。それにはセンター調査報告書の公表が最も適しています。

そこで,患医連は、再発防止の観点から、また、適切に医療事故報告がなされるようにする観点から、センター調査報告書を公表することを求めました。

見直し検討会の設置

ここまでに述べたとおり、現行の医療事故調査制度は医療の安全を確保するという目的を達成するにあたり、重大な問題があります。5年を経た今、医療事故調査制度は医療の安全の確保に資するよう、改められなければなりません。

そこで、患医連は、医療事故調査制度の改善に向けて、すべきこと及びロードマップを議論し整理するために、見直し検討会の設置を強く求めました。

なお、5年前の医療事故調査制度の開始前に、運用を検討する検討会が設置されました。しかし、検討会設置直前に、それまで医療安全を確保する実践を行ってきた複数の構成員候補者が検討会の候補者から外され、これに代わる構成員が選任されました。新たに入った構成員からは、医療事故の報告・調査をしなくともよしとする意見が出され、意見はまとまらず、医療事故調査制度は医療事故再発防止に十分に資するものとはなりませんでした。したがって、検討会の構成員には、医療事故調査制度のもとで医療の安全を確保する実践を行ってきた者、少なくとも医療の安全を確保する意思がある者を選任しなければなりません。

医療問題弁護団では、患医連、患者の権利法をつくる会とともに、引き続き、医療事故調査制度の改善を求め、医療事故の再発防止に向けた活動を続けていきます。

包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告 2

包茎手術被害対策弁護団 事務局長 団員 弁護士 晴柀 雄太
同弁護団    賛助会員 弁護士 渡邊 隼人

第1 事件の概要

 本件は、男性器治療を行うクリニックにおいて、平成27年3月、同クリニックを開設・経営する医師が施術に関する保険適用の可否や効果について説明義務を尽くさなかったため、原告が誤解して契約を締結し(契約金額237万6,126円)、包茎手術のほか、ヒアルロン酸注入等の施術を受け、現在に至るまで139万5,126円を支払ったという事件です。
 本来、必要のないヒアルロン酸注入などの施術がトッピングされており、しかもこれらの施術について術前に十分な説明がなされることなく、むしろ誤った説明がなされるなど、過度な勧誘行為がなされた点において、非常に問題が大きい事案と考えられます。
 特に本件については、下記第2・1でも述べます通り、国民生活センターが問題であるとして指摘した典型的な事案(緊急性がないにもかかわらず即日契約・即日施術をしており、しかも医学的に必要性が認められず意味もない施術を十分な説明なく追加し、契約金額が極めて高額になったという事案)であって、社会的にも問題の大きい事案と考えられます。

第2 損害賠償請求訴訟について

1 本件の経緯
平成28年 6月23日  国民生活センターによる発表
          「美容医療サービスにみる包茎手術の問題点!」
平成28年 6月26日  当弁護団によるホットライン実施
平成30年 2月 7日  法人を提訴(請求額263万4,638円)
平成30年 8月10日  医師個人を提訴(請求額263万4,638円)
平成30年12月25日  法人のみ訴え取り下げ
令和 2年12月 8日   医師個人との間で和解成立
          (和解条項の詳細は下記3参照)。

2 訴訟の争点
原告は、男性器治療を行うクリニックにおいて、包茎手術、ヒアルロン酸注入術、フォアダイス焼灼術を受けたところ、同クリニックを開設・経営する被告医師は、原告に対し、術前に適切な説明をしませんでした。
(1) 包茎手術について
ア 原告が施術を受けたクリニックにおいて包茎手術・美容形成術と称される施術は、保険適用される環状切除術と同内容の施術と考えられますので、原告は保険医療機関であれば保険適用して環状切除術を受けることができました。そして、同じ環状切除術である以上、自由診療で行う場合と保険診療で行う場合で結果に差異が出ることは考えられません。また、合併症についても環状切除術と同様の合併症(出血、創部浮腫、疼痛など)が生じ得ます。そのため、クリニックの医師は、自院における包茎手術・美容形成術は保険適用の対象となる環状切除術と同様であること、環状切除術を保険適用の上受けても結果に差異がないこと、保険適用で受けた方が費用負担が軽くなること、術後の合併症として出血、創部浮腫、疼痛などが生じる可能性があることを説明すべき注意義務がありました。しかし、当クリニックは、自院で行っている包茎手術・美容形成術であれば、保険適用される環状切除術では得られない効果があるかのような説明をしており、また健康保険を適用して同じ施術を受けられることや包茎手術の合併症を説明しておらず、この点で説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、当クリニックにおいて包茎手術・美容形成術と称される施術は環状切除術と異なること、また原告には健康保険を適用して包茎手術をすることはできないと反論しました。

(2)ヒアルロン酸注入術について
ア ヒアルロン酸を注入することで得られる効果は、一時的に組織を増量・増大する程度のもので、それ以上の効果は認められておらず、通常はフェイシャル皮膚用注入剤として使用されています。他方で、ヒアルロン酸を陰茎に注入すると、陰茎の壊死を引き起こす危険があります。そのため、ヒアルロン酸の陰茎への注入や、被告が主張するような刺激低減・早期治癒・止血効果を目的とした使用は医学的に一般に承認されていないこと、ヒアルロン酸の陰茎への注入は陰茎の壊死を引き起こす危険性を有することを説明すべき注意義務がありました。
 しかし、被告医師は、これらの説明をしていないどころか、ヒアルロン酸を注入することで刺激低減・早期治療・止血効果が見込まれるなどと説明しており、この点で説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、刺激低減・早期治癒・止血効果についてはエビデンスに裏付けられたものであると反論しました。

(3)フォアダイス焼灼術について
ア フォアダイスについては治療しなくとも生命・健康を害することはないため通常治療の対象とならず、フォアダイスについては特に治療しないことが大半です。また、フォアダイス焼灼術を行うことで陰茎に痕が残る可能性もあります。そのため、被告医師は治療するだけではなく経過観察することも一つの選択肢であること、仮にフォアダイス焼灼術を行った場合には陰茎に痕が残る可能性があることを説明すべき義務がありました。
 しかし、被告医師は、これらの説明をしておらず、説明義務違反の過失があります。
イ 被告は、生命・健康を害するものではないことを認めつつ、治療しなくてもよいということを説明したと反論しました。

3 和解条項
 主な和解条項の詳細は下記の通りです。
① 被告は、原告に対し、原告が、平成27年3月16日、被告の経営していた治療院において、包茎手術並びに同手術に伴うヒアルロン酸注入術及びフォアダイス焼灼術(以下「本件各施術」という。)を受けるに際し、十分な説明を受けることができず、本件各施術の効果及び必要性を誤解して、本件各施術を受けるに至ったことを確認する。
② 被告は、現在、院長を務めるクリニックにおいては、患者に対し、本件各施術を行うにあたり、ヒアルロン酸注入術及びフォアダイス焼灼術の効果、必要性及び危険性並びに包茎手術に係る健康保険適用の有無について施術前に十分な説明を行うとともに、費用についても適切に同法人のホームページ等に記載し、患者が本件各施術の必要性及び負担費用等につき誤解をしないよう努めており、今後も患者に対する十分な説明や情報提供を実施するように努めることを約する。
③ 被告は、当該施術を行うにあたっては、患者をして、本件各施術を受けるか否かについて十分に検討できるように配慮するよう努め、患者に対し、患者が来院時に希望していた施術以外の施術を進める場合には、当該患者が適切に同施術の必要性を吟味するための熟慮期間を設けるよう努めることを約する。
④ 被告は、包茎手術その他男性器に関する施術を実施するにあたっての施術の料金設定について、常に適切になるよう努めるとともに、施術当日ディスカウントする等の方法により施術を誘導しないことを約する。
⑤ 被告は、原告に対し、本件和解時における既払金を除くほか、本件各施術に係る治療費を請求しないことを確認する。
⑥ 被告は、原告に対し、本件解決金として金●円(※守秘条項)を支払う義務があることを認める。

第3 本件和解の意義など

 本件は、昨年3月に和解が成立した事件(2020.09.07包茎手術被害に関する損害賠償訴訟 和解解決の報告)に続き、包茎手術及びこれに付随するトッピング術による被害に関する損害賠償請求訴訟2件目の解決事案となります。
 本件和解は、被告医師の術前説明はいずれも不十分であり、それが故に原告が本件施術の効果・必要性について誤解し施術を受けるに至ったことを明確に示しています(和解条項①参照)。その上で、包茎手術及びこれに付随するトッピング術における保険適用の可否、施術の効果やその危険性の術前説明(インフォームド・コンセント)のありかたについて、今後施術を受ける患者が誤解することなく正しい理解のもと実施すること(和解条項②参照)、さらには、術前説明後、患者が施術を受けるか否か十分に検討する期間を設けること、料金設定を適正なものにすること、料金をディスカウントすることで顧客勧誘しないことを求める内容となっています(和解条項③、④参照)。
 本件和解は、保険適用の可否、施術効果や合併症等についての適切な説明なく、包茎手術やそれに付随するトッピング術へ過度に誘引する営利主義的な包茎手術及びそれに付随するトッピング術に警鐘をならし、抑止する画期的なものであると考えます。

第4 包茎手術被害相談

 他にも包茎手術などの美容医療による被害に悩んでいる方が多くいらっしゃると思いますので、包茎手術により痛みや後遺症が生じた、高額な手術・不要な手術を強く迫られたなどの被害に遭われた方は、下記の医療問題弁護団窓口までご相談ください。
 
 医療問題弁護団 電話番号:03-6909-7680
         ホームページ:https://iryo-bengo.com/

第42回 医療問題弁護団・研究会 全国交流集会で、医療問題弁護団・東京が、「自由診療分野における医療被害の救済と防止のあり方を考える-美容医療及びがん治療の裁判例をもとに-」を発表しました

 2020(令和2)年12月12日、全国各地の医療問題弁護団・研究会による全国交流集会がオンライン開催され、医療問題弁護団・東京でも「自由診療分野における医療被害の救済と防止のあり方を考える-美容外科医療及びがん治療の民事裁判例の検討をもとに-」の発表を行いました。
 登壇者は五十嵐裕美団員、三枝恵真団員、田畑俊治団員、奥山渡志也団員でした。自由診療における診療情報提供のあり方を提言し、同時に、説明強化を含む患者の要望の診療契約への反映、医療水準によらない過失判断手法などを提示しました。

日本医事法学会第50回研究大会に、松井菜採団員が講演者として登壇しました

 2020(令和2)年11月29日、日本医事法学会第50回研究大会に松井菜採団員が登壇し、「自由診療分野における医療被害の救済と防止のあり方を考える-美容外科医療及びがん治療の民事裁判例の検討をもとに-」の発表を行いました (ウェビナー)。

 医療問題弁護団でチームをつくって研究した成果も取り入れたものです。通常の医療過誤損害賠償事件の賠償法理で反映しきれてこなかった、説明強化を含む患者の主観的願望の診療契約への反映、医療水準によらない過失判断手法などの考察を提示しました。

木下正一郎団員が、J-WAVE「JAM THE WORLD」の「UP CLOSE」に出演し、医療版事故調査制度についてコメントしました

 2020年11月25日(水) 木下正一郎団員が、J-WAVE「JAM THE WORLD」の「UP CLOSE」に出演し、制度施行から5年を経てもなお十分な報告がない医療版事故調査制度の問題や改善の方策についてコメントしました。

11月22日(日)16:00~17:00 署名活動を中野駅 北口で行いました

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を 次の日時・場所で,行いました。

<第124弾>2020年11月22日(日)16:00~17:00
場所 JR中央線 中野駅 北口

基礎研修調査編を開催しました

令和2年11月17日(火)に、野尻団員を講師として基礎研修を開催しました。
初めてのzoomによる研修の開催でしたが、具体的事例に基づく丁寧で分かりやすい講義であり、大変好評でした。

10月24日(土)16:00~17:00 署名活動を高円寺駅 北口で行いました

公正な医療事故調査制度の確立を求めて チラシ配布・署名活動を 次の日時・場所で,行いました。

<第123弾>2020年10月24日(土)16:00~17:00
場所 JR中央線 高円寺駅 北口

松井菜採団員を講師としてミニ勉強会「医療事件における医学文献等の収集と活用の実際」を開催しました

2020年10月20日、松井菜採団員を講師として、医学文献の種類ごとの探し方 、読み方、評価、書証化等活用上の留意点などの団内勉強会を開催しました。23人が 参加し、若手や新人も多く、ベテラン・中堅勢からは各自さまざまな体験談や視点なども紹介され、大変充実した勉強会でした。