福島県立大野病院事件検討報告書 -刑事記録等から見えてきたもの-

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序文

2008年8月20日、福島地裁は、福島県立大野病院の母体死亡事例について業務上過失致死罪等に問われた産科担当医に対し、無罪の判決を言い渡した。

大野病院事件は、現職の産科医の逮捕という特異な経過を辿ったことから全国の注目を浴び、医療に対する刑事司法の介入の是非について大きな議論を巻き起こした。

また、折から進行中だった「医療版事故調」の導入論議にも大きな影響を及ぼし、さらには、近年巷間喧しい「医療崩壊」のひとつの象徴的事件とも擬せられてきた。

このような複雑な文脈の中で、本件の無罪判決は、多くの医療関係者の「歓迎」を受けた。

それから1年余が経過し、大野病院事件は、あたかも、無罪判決によって全ての問題点が解消されたかの如く受け止められている。

しかし、刑事無罪判決は、本当に全ての問題点に応えるものだったのだろうか?

私ども医療問題弁護団の検討班は、ご遺族の協力を得て、刑事事件の訴訟記録を精査し、併せて医学文献の検討と専門医からの参考意見の聴取を行った。

その結果、大野病院事件には、少なくとも、刑事事件の無罪判決で解消されているとは思われない多くの疑問点ないし問題点が、再発防止には必ずしも活かされないまま、なお未解明のままに残されていることを知った。

判決当時、社団法人日本産婦人科医会は、寺尾俊彦会長名で、「このように診療行為に伴って患者さんが死亡されたことを深く受け止め、再発防止に努めなければなりません。そのためには、専門家集団による透明性のある事故調査が必要です。」とのコメントを発表した(日本産婦人科医会HP)。
また、当時、昭和大学産婦人科の岡井崇教授も、「非常に悲しい事件で、遺族の思いは察するに余りある。 しかし、実地の医療の難しさを理解できない警察、検察がこの問題を調べたことは問題だった。亡くならずに済む方法はなかったのかという遺族の疑問は、専門家中心の第三者機関でなければ晴らすことはできない。」とのコメントを発表している(2008年8月21日毎日新聞)。

しかし、大野病院事件について、その後、「専門家集団による透明性のある事故調査」が遂げられ、あるいは「専門家中心の第三者機関」が設置されて、その成果が広く国民に対して開示されるということは、今日に至るまでなかったように思われる。

私どもは、本報告書において、主として刑事事件記録の検討を通じて私どもが抱いた未解決の疑問点ないし問題点を、「調査・検討すべき論点」として敢えて提示し(本報告書119頁「総括」において掲載する)、広く議論に供したいと考える。

願わくば、本報告書を契機に、我が国の医学界、とりわけ産科医療の「専門家集団」が、自律的かつ自発的に改めてこの事件を検討し、「透明性のある事故調査」を遂げられんことを、そして、その結果得られるであろう再発防止のための貴重な教訓が広く国民に開示されんことを、強く望みたい。

兵庫医療問題研究会の声明(加古川市民病院事件に関するインターネット・ブログの言論について)

兵庫医療問題研究会は、2009年4月24日、神戸地方裁判所2007(平成19)年4月10日判決(加古川市民病院事件)に関するインターネットブログ上の言論について、同判決及び医療の安全につき公正な議論がなされることを求める声明を発表しました。


目次: 兵庫医療問題研究会 声明(概要) / 声 明


兵庫医療問題研究会 声明(概要)

2009(平成21)年4月24日声明(概要)PDF版はこちら第1 声明の趣旨

兵庫医療問題研究会は、2007(平成19)年4月10日、神戸地方裁判所においてなされた加古川市民病院における医療過誤事件に関する判決について、複数のインターネットブログ上で、匿名の人々(医師を名乗る人々も含まれる)が、判決においては認定されていない事実、さらには訴訟において医療側が主張したこともない事実を、あたかも真実であるかのように記載して、それを前提に妥当とはいえない判決批判が繰り返されていることに鑑み、そのような手法で医療の安全について偏った議論がなされていることを明らかにすると共に、上記医療過誤事件判決及び医療の安全について、公正な議論がなされることを求めます。
第2 声明の理由(概要)

  1. 当研究会の所属弁護士担当事件
    加古川市民病院事件判決(神戸地裁平成19年4月10日判決、確定)は、当研究会に相談依頼があり、所属弁護士2名が遺族から依頼を受けて裁判を担当したものです。
  2. 事案発症後短時間で受診した急性心筋梗塞の64歳男性患者について、休日昼間の当直医の転送義務違反が争われたケースで、2003(平成15)年3月30日(日曜日)に発生した事例です。
    急性心筋梗塞に対する治療設備を持たない加古川市民病院で、当直医が患者の心電図、自覚症状から急性心筋梗塞発症を診断しながら、血管拡張剤の点滴をしたのみで、70分間放置し、70分後に転送要請を行いました。
    転送要請から25分後受け入れ先病院から、受け入れ可能の連絡をもらい、その15分後、転送の救急隊が到着した時点で、患者の容態が急変、そのまま死亡しました。
    当直医が、転送要請までに時間を要した理由は、血液検査の結果が出なければ周囲の病院が転送を受け入れてくれない慣行があるから、とのことでしたが、裁判所による調査嘱託の結果、周囲の病院はこれを否定しました。
  3. 判決神戸地裁6民は、当直医の転送義務違反をみとめ、患者の死因は心筋梗塞に起因する心室細動であり、早期に転送を行っていれば救命可能性があったとして、遺族らの請求全額を認容しました。被告は控訴せず確定しました。 本判決の詳しい内容及び経過は、声明の1頁から6頁に記載したとおりです。
  4. インターネット上での匿名言論問題はその後です。
    この判決については、直後に新聞報道がなされましたが、その直後から複数のインターネットブログ(医師と称する匿名者が作成)でこの判決に対する批判が相次ぎました。
    問題なのは、それらのブログにおいて、判決に認定されておらず、当直医も証言していない「事実」を勝手に加え、それに基づき批判をしている事です。
    ブログでは、「当直医は、70分間の間に5つの周辺病院に転送要請を行ったが次々に断られた。そこでもう一度2回目の転送要請をかけたところ、1件目に受け入れを了承してもらった。転送準備をしているところで急変した。」と、判決も認定せず、当直医も証言していない「事実」を確たる内部情報として記載し、「医師として全力を尽くしているのに、これで転送義務違反と認められるなら、救急などやっていられない。」というような批判を繰り返しています。
    また、「医師の搬送が遅れたら、患者や弁護士はおいしいと考える。なんら医学的な論争をせず、結果責任で裁判に勝てるのだから。これは、法律のすき間を縫った合法的な錬金術です。」などと、患者や患者側弁護士への不当な批判もなされています。
  5. 当研究会の考え現在、救急医療体制が大きな問題を抱えていること、それに携わる医師、とくに病院勤務医師の負担が過重になっていることは、私たちも認識しています。
    しかし、その問題は医療過誤訴訟で救急医療に携わる医師の責任が認められたから生じたわけではなく、行政の問題、医療側の問題、患者側の問題等が複雑に絡みあうなかで生じていることを冷静に見ていくべきものです。
    必要なとき、安心して受診できる救急医療、医師がやりがいをもち、かつ誠実に診療にあたることのできる環境下での救急医療の実現は、いつなんどき救急医療を必要とするようになるかもしれない市民にとっての強い願いです。
    それは医療事故被害者や、私たち代理人弁護士も例外ではありません。
    むしろ、医療事故被害者は、自らが医療事故に遭遇したからこそ、自らの経験を礎にしてでも、安全でよりよい医療が実現されることを真摯に願っています。
    医療事故被害者の声を聞き、医療事故に学び、よりよい医療を目指す方法が制度化されるべきであり、既にそれを実践してきた医療機関も決して少なくありません。
    その意味で、本当によりよい医療のためや、安全な医療を求めていくためには、過誤事案を真摯に検証することこそ、重要なことだと考えます。 医療事故被害者や、私たち代理人弁護士も、医療はそもそも危険な面を伴うものであることは理解しています。結果が悪ければ何でも責任を問うものではありません。医療記録を分析するなどして、医療側に落ち度のあった疑いが拭えない場合や、合理的な説明を受けられない場合など、ほとんどの場合最後の手段として裁判に真実究明の場を求めているのです。
    インターネット上の判決批判について、当研究会も法律家の団体としてインターネットにおける自由闊達な言論は民主主義社会の健全な発展のためにも尊重する必要があると考えています。
    しかし、それはあくまで真実に基づいたものでなければならないと考えます。判決も認定せず担当医も証言していない事実を、具体的な裏付けや情報の入手経路も明らかにしないまま、あたかも真実と主張し、それに基づいて非難中傷と言われても仕方のない表現態様で匿名の言論を不特定多数に向かって発信することは、言論の自由の範囲を逸脱して患者・家族等の名誉や人格権を侵害する可能性さえあり、大切な言論の自由の自殺になりかねません。
    成熟した言論の自由とは何か、今少し冷静に考える必要があるのではないでしょうか。 当研究会は、本件判決に対する不当な批判は、決して医療体制をよくすることにつながるものではなく、むしろ医療側と患者側の対立を激化させ、医療の安全に向けての発展的な議論を阻害するおそれがあるものと考え、あえて本声明を公にするものです。

以上↑ページトップへ


声 明

2009(平成21)年4月24日
兵庫医療問題研究会声明PDF版はこちら

第1 声明の趣旨

兵庫医療問題研究会は、2007(平成19)年4月10日、神戸地方裁判所においてなされた加古川市民病院における医療過誤事件に関する判決について、複数のインターネットブログ上で、匿名の人々(医師を名乗る人々も含まれる)が、判決においては認定されていない事実、さらには訴訟において医療側が主張したこともない事実を、あたかも真実であるかのように記載して、それを前提に、妥当とはいえない判決批判が繰り返されていることに鑑み、そのような手法で医療の安全について偏った議論がなされていることを明らかにすると共に、上記医療過誤事件判決及び医療の安全について、公正な議論がなされることを求めます。

第2 声明の理由

  1. はじめに
  2. 本件判決の要旨
  3. 本件判決に至る経緯
  4. 判決に対するブログ上での批判
  5. 私たちの考え方
  6. おわりに

以上

医療事故調シンポジウム 「医療版事故調を検証する ~ 広尾病院事件から10年」の報告

2009年3月1日、下記のとおり医療事故調シンポジウム「医療版事故調を検証する ~ 広尾病院事件から10年」を開催し、150名を超す来場者がありました。
また、多くのメディアの取材もありました。
同シンポでは、患者の視点で医療安全を考える連絡協議会が、公正な外部委員を加えて行う院内事故調査の充実と、中立公正な第三者組織である医療事故調査機関の早期設立を求める声明を発表しました。
シンポジウムの配付資料、スライド、声明文を公開します。


医療事故調シンポジウム
「医療版事故調を検証する ~ 広尾病院事件から10年」

【日時】 2009年3月1日(日)午後1時30分~4時30分
【場所】 明治大学駿河台校舎アカデミーコモン2階

1999年2月11日都立広尾病院で消毒液の注射による死亡事故が起きました。この事案について主治医(死体検案医)と院長が異状死届出義務違反の罪に問われ、略式命令と有罪判決をうけました。

この事件が大きなきっかけとなって、一方で院内医療安全管理が法律上義務づけられ、他方で医療界から中立的専門機関(医療版事故調)の創設が提言され、国レベルでの検討が始まりました。

広尾病院事件から10年、院内事故調査の現状や医療版事故調創設の動向はどのようなものでしょうか。今回のシンポジウムで検証します。総合司会 木下 正一郎

配付資料 PDF版はこちら


(シンポジスト)

[第1部] 医療問題弁護団からの報告
(1) 10年前広尾病院で何が起きたのか石川 順子PDF版
(2) その後の医療安全を巡る動向有泉 勲PDF版
(3) 院内事故調査の現状田井野 美穂PDF版
 報告1大森 夏織PDF版
 報告2堀 康司PDF版
 報告3細川 大輔PDF版
 
[第2部] 基調報告「医療事故調査制度の在り方」
  鈴木 利廣PDF版
 明治大学法科大学院 教授・医療問題弁護団 代表 
 
[第3部] 医療事故被害者によるパネルディスカッション
コーディネーター  
  永井 裕之PDF版
 患者の視点で医療安全を考える連絡協議会 代表
医療の良心を守る市民の会 代表
 
パネリスト  
  川田 綾子 氏PDF版
  小室 義幸 氏PDF版
  清水 紀子 氏PDF版
  豊田 郁子 氏PDF版
共 催患者の視点で医療安全を考える連絡協議会
(http://kan-iren.txt-nifty.com/top/)
医療問題弁護団
(http://www.iryo-bengo.com/)
明治大学法科大学院医事法センター

声明 PDF版はこちら

  • 広尾病院医療事故を契機として「医療安全」の取り組みが行われてきました。
  • しかし、医療事故調査における「原因究明」と、「再発防止」の取り組みは、まだまだ不十分です。
  • 事故が起こった時には、当該の医療機関が公正な外部委員を加えて行う院内事故調査の充実と、中立公正な第三者組織である医療事故調査機関の早期設立を求めます。

-患者の視点で医療安全を考える連絡協議会-

コンパートメント症候群・総腓骨神経麻痺

下肢の手術後,大腿部の腫脹,神経麻痺等を起こす。コンパートメント症候群の診断・治療の遅れ等が争われた。

一患者として思うこと

弁護士 長 尾 詩 子

2006年12月に出産をして、今、2歳の男の子のママです。

小柄のためそう見えないらしいのですが、そこいらの男性弁護士よりも体力があり、医療過誤事件を扱いながらも、出産するまでは全く医療機関とは縁のない健康優良児の私でした。

しかし、子ども(以下、「おちび」といいます)ができて、医療機関のありがたさを感じる生活に一変しました。

「お熱が出ました!」。仕事中に突然かかってくる保育園からの電話。すべての思考がとまり、頭の中が真っ白になる。とにかくスケジュールを調整して、あたふたとお迎えに行く。

真っ赤な顔の苦しそうなおちびを抱えて、「ごめんね。『どうして、今、熱を出すのよ!』なんて思ったママを許してね。」とつぶやきながら、小児科に飛び込む。

2歳の子は自分で自分の症状を訴えられない。だからこそ、じっくりと先生に診てもらいたい。聴診器をあてられるだけでこの世の終わりがきたかのように泣き叫ぶおちび。暴れるおちびをだっこしながら、はらはらする。そこに、ドクターに「大丈夫ですよ。」と言ってもらって、肩の荷が降りて、ほっとする。

最近でこそ、おちびにも私にも「免疫」がついてきて多少のことでは騒がなくなってきたけれど、小児科のドクターのありがたさを思っています。

そんな中でも、一患者として、もっと医療体制を充実してほしいと思うこともありました。

おちびが生後5か月のころ、私がベビーベッドの柵を上げ忘れてしまって、ベッドから落ちたことがありました。畳においたクッションの上に落ちたのだけれど、火がついたように泣き始め、全く泣きやまない。

初めてのことに動転してしまい、とにかく震える手で、区が指定する夜間診療機関の問い合わせ先に電話をかけて状況を説明し、どこの病院に連れて行ったらいいか聞く。なのに、「●●病院脳外科は手術中だから今行っても朝まで待ちます。●●病院は脳外科はないから・・・」と、結局、どこに行ったらいいか教えてくれない。こんなに大泣きして泣きやまないのに、この東京で病院に連れて行くことができないなんて・・・同じ経験のあるママ・パパであればみなさん同じだと思うのですが、「こんなことをしている間に取り返しのつかないことになったらどうしよう。」と、本当に怖く、また親として情けない気持ちになりました。

結局、近隣の大学病院の緊急外来におしかけて、別の近くの病院を探していただき、事なきを得たのですが、あの恐ろしい思いは忘れることができません。

一患者として安心して安全な医療が受けられるようにーその思いを大事にしながら、医療過誤事件に取り組んでいきたいと思います。

医療版事故調:緊急公開シンポの報告

2008年8月4日、下記のとおり「医療版事故調:緊急公開シンポ」を開催し、302名の来場者がありました(当日受付にて記名または名刺交換をされた方)。
同シンポの配付資料、シンポジストのスライド・レジュメを公開し、アンケート結果を報告します。


医療版事故調:緊急公開シンポ
~医療事故の再発防止、医療と患者の信頼関係の確立をめざして~

【日時】 2008年8月4日(月) 18時~20時30分
【場所】 明治大学アカデミーホール

医療事故対策のための議論がいよいよ国会(次期臨時国会)で始まりそうです。

厚労省は、昨年4月「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を設置し、本年6月20日「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を公表しました。

一方、民主党も本年6月「医療に係る情報の提供、相談支援及び紛争の適正な解決の促進並びに医療事故等の再発防止のための医療法等の一部を改正する法律(仮称)案骨子試案」(通称・患者支援法案)及び「医療事故等による死亡等(高度障害等を含む)の原因究明制度(案)」を発表しました。

現在の医療版事故調をめぐる議論の最大の論点は、医療過誤の法的責任とりわけ刑事責任のあり方をめぐる議論です。

8月下旬にも始まると予想される臨時国会に先がけて、医療版事故調について討論いたします。関心のある方は、どなたでもご参加下さい(参加費無料)。


配付資料 PDF版はこちら(シンポジスト)

厚労省医政局総務課医療安全推進室長
 佐原 康之 氏PDF版
自由民主党参議院議員古川 俊治 氏PDF版
大綱案・第三次試案と民主党案との相違点
 木下 正一郎PDF版
患者の視点で医療安全を考える連絡協議会準備会
 勝村 久司 氏PDF版
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座主任教授
 瀬尾 憲正 氏PDF版
明治大学法科大学院教授(刑事法学)清水  真 氏PDF版
共 催医療問題弁護団 http://www.iryo-bengo.com/
明治大学法科大学院医事法センター
協 賛京都医療過誤弁護団、長野県医療問題弁護団
医療事故研究会(東京)、神奈川医療問題弁護団
松戸医療事故フォーラム、札幌医療事故問題研究会
岡山医療問題研究会、九州・山口医療問題研究会
患者の権利オンブズマン東京、埼玉医療問題弁護団
連絡先すずかけ法律事務所 弁護士 鈴木利廣

アンケート結果

1回収数 43通    
2所属   
 医療事故被害者5司法修習生2
 医療従事者・医療関係者13研究者1
 医療従事者・オンブズマン1マスコミ1
 医療従事者・大学院1大学生・大学院生4
 明大学生・法科大学院3明大関係者ほか2
 日本医療機能評価機構1日本倫理学会、生命倫理学会1
 大学教授・教員2その他2
3シンポを何で知ったか 
 弁護団員8
 HP7
 案内はがき6
 メールで3
 知人から、チラシ各2
 院内での掲示、学会事務局、原告の会から、取材過程で、
新聞、明大ローの学生から、友人から
各1
4感想・意見
 多角的意見を聞けたことへの評価臨床、被害者、弁護士、議員、厚労省などの様々な立場の人間が参加し議論することで多角的な議論ができたと思う。有意義であり、自らより深く考えていく必要性を感じた。(医療従事者(複数)、医療事故被害者、大学院生、司法修習生ほか)民主党案を取り上げた点、医療界以外からもシンポジストを招聘している点、感情的な議論ではなく、しっかりした法の理解に基づいている点において7月28日の日本医学会主催のものより優れた高度な企画で見応えがあった(マスコミほか)どのような論点になっているのか不明の部分が整理できた医師の自己保身第1の姿勢は疑問。透明性を期待出来ない。医療者が刑事責任をおそれ、消極的態度をとっているのでは何も進まない。(医療事故事故被害者ほか)勝村氏の講演がよかった(医療従事者、医療事故被害者)タイムリー。続けていただき、経過を公開して欲しい会場の広さや立地、机や椅子も都合がよかった古川議員の「これは医療人のための制度」という発言が本質と感じる。それでは、医療事故被害者の人権が守られない。中立・公正なシステムになりますように。(医療事故被害者)麻酔学会・救急学会との乖離、不一致を感じた。大多数の外科医(一般、勤務医)は声なき声として、本大綱案の早期実現を望んでいると考える(医療従事者)医療行為の刑事訴追は明らかな犯罪行為に限るべきであり、異状死は医療界の中での自浄システムを構築して検討すべき(医療従事者)瀬尾先生が、法律家と医師にとって医療ミス、リスクなどの概念が違うとおっしゃるように、議論しようにも「ことば」「概念」が違っては議論のしようがない。民主党の人間がいなかったのが残念(医療従事者ほか)一部パネリストのパワポのコピーを配布していただけると有り難いもっと時間をかけて!(医療事故被害者)論点が散漫になった印象あり(医療従事者)新聞記事のシンポの案内では、医療事故とだけあったので何がメインテーマかはっきりしなかった。
5事故調への意見
 厚労省案では現状を変えられないと思う。医師法21条削除で、医師側が納得するのであれば、民主党案もよい(医療事故被害者)厚労省案は医療者側に甘い案。民主党案は詳しく分からない(医療事故被害者)民主党案は調査が第三者で行われることが担保されていない。ぜひ、現行の大綱案でいってほしい(医療事故被害者)もっと情報公開と国民による徹底した議論を(医療事故被害者)基本的考え方は厚労省案でよい。対象に後遺障害を加える(医療従事者)厚労省案で早期に一歩でも前に進むべき。早く実現を(医療従事者ほか)厚労省案は、事故調査と再発防止をごっちゃにしており運用によっては巨大な権力を持つが故に反対。とはいえ民主党案はあまりに不十分(医療従事者)(予算面を含めて)しっかりした議論の上進めてほしい(医療従事者(複数))両者は本質的に大きく異ならないと思われる(医療従事者)刑事訴追の線引きがあいまいで厚労省案には反対。医師の責任追及ばかりでなく医療者を育てていくインセンティブ制度(危険な職種に対してrewardを十分に行う)を政府(厚労省)は導入すべき(医療従事者)まだ十分に理解できていない(医療関係者)厚労省案:警察への通知、医師法21条の改正の方向が一番の問題。医師の自律的組織が再教育を中心とする行政処分を行うことを一方で目指すべき。制度が機能するための人材養成。予算を十分につけることを本気で考えて欲しい。 民主党案:そもそも目的が紛争解決で、遺族が申し出たものだけが対象なので同意出来ない。医師法21条本来の趣旨もあるので、民主党案は疑問(医療関係者)より第三者性を保つように医療版事故調を進めて欲しいどの案も一長一短刑事責任について、調査と刑事処分を切り離して調査を進めるのを原則とし、重過失や隠蔽などミスの程度が重い場合を問題とすべき21条の全廃には反対。全て免責というDrの反応は幼稚。まだ国民は充分にこの議論に加われていない。Drと法律家だけのクローズドな議論で拙速な法案化は望ましくない。今の案はDrの保身のような印象を受ける民主党案:科学的原因究明で医療安全支援センターの名があがっているが、現時点では設置は努力規定だったと思う。また再発防止を行う指定分析機関についてもそれらを対応できる機関について十分議論し、箱ものの設置だけにならないよう注意が必要と感じる(評価機構の関与の有無も含む)情報をオープンにすることと免責は不可分なのか、疑問が残る。解剖医を増やす手当が必要新制度にかかるコスト(人的・財政的)相応の効果がでるような改善ができるともっとよい
6その他
 大変意義のあるシンポであった法律に興味があり、参加した。とても興味深く、次からの臨床に役立てていきたい(医療従事者)今後の動向について強く関心を持っている。引き続き情報提供いただきたい。今後もシンポを開いて欲しい責任追及なくして再発防止はあり得ないと思う。患者が死亡した場合、医療行為の中身を検証すると、医学的なことが全く行われていないことがある。この場合、刑事責任を負うのはあたりまえである(医療事故被害者)「過失を問わず、有害事象の重大度」で報告義務を課し、消安法と同程度の罰則を設けることを提案する(医療事故被害者)21条の失効化が厚労省局長通達で可能なら、早期実施を(医療従事者)低医療政策の下、医療の現場は惨めな状況で医療者が安心安全に働けない状況で、患者の安全は守られない。根本的な改革は厚労省が医療の現場を改革することだと思う。義務教育で健康教育も必要(医療関係者)時間が少ないので、さまざまな問題点や対立点が整理できない患者・家族の痛みの軽減を事故調の目的の第一義として欲しい個人の責任を追及することと、再発防止策を効果的にとることをうまく両立させるにはどのようにしたらよいかということは非常に難しい。東京女子医大病院での患者側との協同的な医療事故調査委員会のような制度が可能であれば望ましいと考えているのであるが、難しいでしょうか?実効性あるよい制度を(マスコミ)法律がわかるだけ、医療がわかるだけの専門家ではだめなのだなと。本当に専門的に両方がわかる人が必要だと思う可能であれば、分科会(制度設計、被害事例、民刑手続きor他制度の関係etc)で議論を深めることができるとよいと思う医師の既得特権益を守らんとするのであれば問題

メラノーマ

手の親指の爪が黒くなり,痛みが出たため受診。生検後、経過観察をしていたところ,他院でメラノーマの疑いありと診断され、その病院に入院し、手術を受けたが,結局、転移性メラノーマにより死亡。
生検の方法や見落としの有無が争われた。

豊胸手術後死亡

豊胸手術中,けいれんを起こし心肺停止。蘇生後心肺再開するが蘇生後脳症により死亡。
死因及びけいれん・心肺停止に対する対策義務違反の有無が争われた。

右膝蓋骨下部骨折

右膝蓋骨骨折に対し,観血的整復固定術,抜釘・関節授動術を行ったところ,術中に右膝蓋下部の骨折を生じた。再度整復固定術を実施するも膝蓋腱短縮及び膝蓋骨低位を生じ歩行困難状態に陥った。手技ミスの有無が争われた。

分娩事故判例分析~裁判例に学ぶ事故原因と再発防止策~

分娩事故に関する裁判例の検討分析を行ない、「分娩事故判例分析~裁判例に学ぶ事故原因と再発防止策~」と題する報告書にまとめました。


はしがき医療問題弁護団 代表
弁護士 鈴木利廣

近年医療事故防止のための議論が活発化している。

1999年2月に起きた都立広尾病院での点滴ミス死亡事件をきっかけに、医療事故と異状死届出義務(医師法21条)の関係が問題となり、義務違反の罪に関する2004年4月の最高裁判決に至った。

医学界からは、2001年異状死届出義務に関する批判的声明が相次ぎ、2004年には、中立的専門機関の創設を求める声明が出された。

このような状況を踏まえて、2005年「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(事務局 日本内科学会)が始まり、2006年衆参両院の厚生労働委員会で医療事故調査に関する第三者機関についての決議が採択された。

そして2007年、一方で厚生労働省「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が、他方で、(財)日本医療機能評価機構「産科医療補償制度運営組織準備委員会」が発足した。

後者の委員会はいわゆる無過失補償に関する制度設計のためのものであるが、報告書(2008年1月23日)において、分娩脳性麻痺事案についての原因分析・再発防止のしくみが提言された。

この委員会の開催時期に合わせて、医療問題弁護団では分娩事故判例研究会を立ち上げ、分娩脳性麻痺事案の民事判例分析を行い、再発防止の教訓を引き出す作業を行った。

本報告書が、分娩事故の再発防止並びに今後の分娩事故分析のお役に立てれば幸いである。


はじめに弁護士 松井菜採

医療問題弁護団は、東京を中心とする200名余の弁護士を団員に擁し、医療事故被害者の救済、医療事故の再発防止のための諸活動等を行い、それを通じて、患者の権利を確立し、かつ安全で良質な医療を実現することを目的とする団体である。
本研究会は、医療問題弁護団の政策班および産科研究会の弁護士有志9名に、団外の弁護士・大学院生各1名を加えた合計11名のメンバーにより構成されている。

本報告書は、分娩事故に関する過去の裁判例を分析し、裁判例から学べる事故原因と再発防止策についてまとめたものである。

分析対象とした裁判例は、平成11年4月から平成19年6月までの判例時報・判例タイムズの掲載判例および裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/)の裁判例情報に平成19年6月30日時点で掲載されていた判例のうち、以下の(1)ないし(5)のすべての条件を満たす43件44判例に、参考判例1例(最高裁判決の差戻審)を加えた43件45判例である(別表の判例一覧表参照)。

  1. 判決日が平成10年1月1日以降であること
  2. 分娩時事故であること
  3. 分娩日が平成元年1月1日以降であること
  4. 胎児死亡、仮死で出生後に死亡、脳性麻痺(その後死亡も含む)の損害が生じていること
  5. 認容(一部認容を含む)判決であること

まず本研究会メンバー全員で43件45判例を分担して読み、各裁判例から読み取れる事故原因や背景事情等を抽出した。
その中から、複数の裁判例に比較的共通してみられた要素10点にテーマをしぼり、それぞれのテーマについてさらに裁判例の分析を深め、各報告としてまとめた。

報告要旨をお読みいただければ分かるとおり、裁判例から学べる事故原因と再発防止策に、特に目新しいものはない。
いずれも、医療界において分娩事故防止のために以前から指摘されていることである。
それをいまだに実行しない医療従事者がいる、または、個々の医療従事者において努力はしていても実現しにくい環境にあることにより、同種の分娩事故が発生しているものと思われる。
防止できる分娩事故が現在でも少なからずあることを、多くの方々に知っていただきたい。

なお、本報告書は、2007年2月から2008年2月にかけて10回の研究会を開催し、メンバーで議論した成果をまとめたものであるが、各報告の最終的な責任は、各執筆者にある。

また、本報告書完成前の段階で4名の産婦人科医に原稿をお読みいただき、貴重なご意見を賜った。心より厚く御礼を申し上げる。